【岐阜】『都市と循環2026』のその先へ。岐阜の素材メーカーを巡る旅(前半)
2026年5月に開催された「都市と循環2026」。そこで異彩を放っていたのが、岐阜から出展した2つの素材メーカー、美濃焼タイルの「エクシィズ」と、ストランドボードの「エスウッド」です。捨てられるはずのものを美しい建材へと転換する彼らのサンプルとストーリーは、多くの来場者の目を引きつけました。
「展示会場だけでは感じきれない、実際の生産現場や素材の熱量に触れてほしい――」
そんな想いから、翌6月に2社合同の特別な工場ツアーが開催されました。
1日目は、伝統と最先端の建築ニーズが交差する多治見のエクシィズへ。
2日目は、「ゴミなんて存在しない」と断言する各務原のエスウッドへ。
素材も、アプローチも、語り口もまったく異なる2社ですが、共通して流れているのは、「足元の資源を使い切る」という強固な意志でした。
ツアーで目撃した「循環の現場」を前後編でレポートします。
伝統と新しい挑戦が交差する、多治見の「実験場」
愛知・三重・岐阜には焼き物の産地が集中しています。これは、かつて約650万年前に存在した「東海湖」の湖底に、きめ細かく良質な粘土がたっぷりと堆積したことが大きく影響しています。これが、現在の東海地方を代表する陶磁器産業のルーツとなりました。
しかし現在、この粘土の枯渇が進んでおり、産地は厳しい状況に直面しています。実際、今回訪れた株式会社エクシィズのある多治見市でも、かつて42箇所あった粘土鉱山が、現在はわずか2箇所にまで激減しているそうです。
このような背景のなかで、タイルの価値を新しく定義し直そうとしているのが、株式会社エクシィズです。
同社は、ただタイルを販売するだけでなく、自社で研究を重ねてオリジナルのタイルを開発する「産地の実験場」のような役割を果たしています。


廃棄されるものをタイルへ
同社が長年取り組んできた環境配慮型のタイルです。ここ数十年の流行りのエコとしてではなく、「ecorevo(エコレボ)」は30年前から「資源の枯渇」という現実に向き合ってきた歴史から生まれています。
■ ごみから作られたタイル
多治見市のごみ処理施設から出る「溶融スラグ」を50%以上使用したタイルを開発。有害物質を取り除いた安全な素材として、道路の舗装といった見えない場所だけでなく、建物の主役となる壁などの意匠に生まれ変わらせています。

■ 電話ボックスのガラスをリサイクル
NTTの使われなくなった電話ボックスのガラスを再利用して、新しいタイルを再生。それを再びNTTの施設に納品するという、きれいなリサイクルの循環を作っています。

■ 二酸化炭素を55%削減する、低い温度で焼けるタイル
断熱材などに使われるグラスウールを主原料とすることで、通常は1,250℃で焼くところを、950℃という低い温度で焼成できるタイルを開発しました。温度を300℃下げることで、製造時のCO2排出量を55%も削減しています。

これらは、ただ環境に優しいという数字だけでなく、その背景にある「物語」ごと建物に組み込むことができる建材です。
タイルの弱点だった「重さ」を解消する技術
説明のあと、今度は実際の製造現場へ。ここで驚いたのが、タイルの最大の弱点である「重さ」と「施工の大変さ」を解決するアイデアでした。
■ 発泡スチロール(EPS)を芯材に使うアイデア
大型のベンチやシンク、複雑なカーブを持つ家具などの土台に、同社は発泡スチロール(EPS)を採用しています。


発泡スチロールは上からの重さには強いですが、一点に集中する衝撃には弱い性質があります。そこをカバーするため、ガラス繊維で補強したり、内部に金属プレートを埋め込んだりして強度を高めています。
「ちょっとこれ、持ち上げてみてください」と言われ、30cm角の大きなタイルの塊を手に取ると、驚くほど軽いのです。指先でひょいと持ち上がります。この軽量化のおかげで、重機を使わずに現場へ搬入でき、職人さんの負担も減るとのこと。さらに、設置したあとの移動も簡単になるそうです。
独自の役割。作り手と設計者を繋ぐ「タイル・ディレクター」
エクシィズの強みは、産地全体の技術をまとめ、設計者のこだわりを形にする「ディレクター」としての役割にあります。
最新のサンプルが並ぶギャラリーとラボ(研究室)には沢山のタイルが並んでいました。

■ 失敗のリスクを減らす、丁寧な研究開発
多治見の多くの製造メーカーは、それぞれの工程に特化したプロ集団ですが、新しい試みにはリスクが伴います。そこでエクシィズは、自社のラボで形・釉薬・温度のレシピを徹底的にテストし、うまくいく確証を得てからメーカーへ製造を発注しています。この丁寧な仕組みがあるからこそ、建築家たちのこだわりを持ったオーダーにも応えることができます。



■ 「乾式(かんしき)」と「湿式(しっしき)」の使い分け
同社は、大量生産に適した平らなタイル(乾式)だけでなく、立体的な表現ができる製法(湿式)にも精通しており、両方の機械が存在します。湿式は、水分を多く含んだ粘土を押し出して作るため、焼き上げる際に10%以上も縮むという扱い難さがありますが、その分、豊かな風合いと立体感を生み出します。それぞれの特性を理解し、プロジェクトに合わせた最適な製法を提案しています。
既存のカタログから「選ぶ」だけでなく、産地の技術を使って「新しく創る」。この柔軟性が、建築家たちに自由な表現の可能性を提供しています。

これからの建築表現を広げるタイル
見学の最後には、同社がこれまで制作したタイルの中から、お気に入りのタイルを購入できる「Tile Kiosk」に立ち寄りました。参加者の皆さんは、「あれも可愛い」「これ傘立てになりそう」と楽しそうにサンプルを選んでいました。

建築のプロたちが求めているのは、どこにでもある既製品ではなく、自分たちの課題(軽さ、環境、デザイン)に寄り添ってくれる「解決策」なのだと感じます。
エクシィズが提供しているのは、多治見が世界に誇る焼き物の伝統を大切にしながら、現代の課題をクリアしていくクリエイティビティです。
・廃棄物を資源へと変えることで紡ぐ、社会との接点づくり
・重さや環境への負荷を克服する技術力
・産地全体で協力する体制を築き、そこに息づく技術やノウハウを残していく仕組みづくり
タイルはもはや、ただ壁に貼るだけの仕上げ材ではありません。空間を魅力的にし、環境に配慮するだけでなく、企業の姿勢やストーリーも世の中に伝える手段となっています。

【後編:エスウッド編へ続く(現在、記事作成中です)】















