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再生可能エネルギーに取組む!/長瀬農園 秋葉慶次さん・後編

2020.02.27

山形で再生可能エネルギー事業に取り組む先駆者たちとの対談を通して、その活動の原点や原動力そして未来のビジョンを探るシリーズ【グリーンエネルギー・フロンティア!】

今回のゲストは、長瀬農園・さくらんぼ共同発電所の秋葉慶次さん。聞き手は、ローカルエネルギーの研究者であり、東北芸術工科大学教授であり、そしてやまがた自然エネルギーネットワーク代表を務める三浦秀一さんです。

(前編はこちら)

再生可能エネルギーに取組む!/長瀬農園 秋葉慶次さん・後編
2019年8月、長瀬農園の秋葉慶次さん(左)と、やまがた自然エネルギーネットワーク三浦秀一さん(右)。

 

チェルノブイリ原発事故から
考えつづけてきたこと

三浦:そもそも秋葉さんのソーラーシェアリングのきっかけはなんだったのでしょう?

秋葉:太陽光発電にはじめて関心を持ったのは30年以上前、私がまだ都会に暮らしていた頃です。1986年、チェルノブイリ原発事故が起き、反原発の市民運動が広がりました。原子力資料情報室の出前教室というのがあったり、市民科学者と言われた高木仁三郎さんも生きておられて原発の危険性を警告されていたりした時代です。

その頃の原発推進派の人たちは「今の原発は多重防護で安全だ」と言っていました。「チェルノブイリのものとは型が違う、日本の原発は安全なのだ」と。しかも「だいたい原発がなくなったら一体どうするんだ? どうやって電気をまかなうんだ?」と言うわけです。すでにその頃の日本には40基ほどの原子力発電所が建設され、さらに増えそうな勢いでした。

こちらとしては「安全はどうなんだ? とんでもないだろう?」という想いがあるけれども、「代替エネルギーはどうするんだ?」というその言葉が、もうずーっと自分の耳にこびりついていたわけです。まるで地下水のように自分のなかにずっと脈々と流れつづけていました。だからこそ、ソーラー発電ができたときには「ほら、どうだ!」という想いがしましたね。

ちなみに私自身の太陽光への取り組みの最初は、自宅の屋根です。次は農機庫の屋根。で、2015年に田んぼの上に、2017年にワラビ畑の上にソーラーを付けて…という感じでこれまでやってきたわけです。

再生可能エネルギーに取組む!/長瀬農園 秋葉慶次さん・後編

まあでも、そもそもが変わり者ですよね。ソーラーシェアリングやるのはだいたいがよそ者、変わり者、馬鹿者と相場が決まっています。根っからのネイティブでずっとここで農業をやってきた人はまずやらないでしょう。それはお金の問題というより、マインドとして、という気がします。

三浦:反原発運動の時代からずっと再生可能エネルギーへの興味や知識を蓄積されてきたわけですか?

秋葉:いや、そんなことはないです。継続的というより、断続的なものです。ときどき、再生可能エネルギーの見学に行ったり、太陽光発電を考える市民グループ「PV-Net」の仲間たちと交流したり、ということをしてきました。

三浦:3.11が起きてどう思われましたか?

秋葉:「やっぱり起こってしまったか。本当にひどいことが起こってしまったな」という気持ちです。原発に限らず人類は核とは共存できませんよね。廃棄物処理から考えてみたって何万年とかのスパンの話ですよ、無理ですよ、人間が扱える代物じゃないです。

三浦:ソーラーだけじゃなく、秋葉さんは他にもいろいろ再エネを試されていますね。

秋葉:そうですね。自宅でペレットストーブも使っているし、太陽光発電も、ソーラー温水器も、電気自動車も太陽光による電気で走らせますし。再生可能エネルギーをひと通り全部やってますね。まあいろいろやりたがる性分なんですね。あと実はこの家、水道ひっぱってないです。湧き水だけで生活しています。

三浦:すごい、オフグリッドですね。

秋葉:さすがに電気は、夜間と冬場がダメなのでオフグリッドではないですけどね。私なんかまだまだです。

世の中にはチェルノブイリ以降ずっと再生可能エネルギーのことをいろいろ考えて実践されてきた人がいて、その方はすでにかなりオフグリッドな暮らしをされています。私の場合は、FITの買取制度ができたおかげで、お金の面ですごくプラスになるとわかって、それで一気にスパークした、という感じですね。

再生可能エネルギーに取組む!/長瀬農園 秋葉慶次さん・後編

ソーラーシェアリングに限らず
再生可能エネルギーを普及させたい

三浦:ソーラーシェアリングで農業経営は変わりましたか。

秋葉:農業とソーラーというのはまったく別の事業だと考えています。ソーラー事業に関していえば、当初の買取価格から計算すればやれば儲かることはわかってました。

三浦:買取制度があるから営業の必要もない。だから、あとはもう増やすか増やさないかの判断くらいしかないわけですね。

秋葉:そうです。もっと儲けたいなら増やすだけ。味をしめてあちこち土地を探し回ってる人も会社もたくさんいますよ。

三浦:でも、秋葉さんご自身は自分の事業拡大の方向には進んでいませんね。むしろ私たちの普及活動であるとか、新たにソーラーシェアリングに取り組まれようとしている方にご協力くださっているような感じがします。

秋葉:私ひとり頑張って小金持ちになるというのは決して面白い話じゃないし、それよりも私の根っこにある願いは、再生可能エネルギーが社会に広がってほしいということですから。

再生可能エネルギーに取組む!/長瀬農園 秋葉慶次さん・後編

三浦:例えば農家がアパート経営する場合と比べてみると、アパート経営には確実に入居者が入るかは未知数というリスクがあるわけですが、ソーラーの場合は電気を確実に買ってもらえるし、古くなったからといって発電量がガクンと落ちるものでもないですから、いいのではないでしょうか。

秋葉:数字が読めるし保険もある。アパート経営よりずっといいです。

三浦:ソーラーシェアリングの数は全国で2000あるとも言われます。一方で、秋葉さんのように農家が直接営農している「ちゃんとした事例」というのはとても少ない気がします。

秋葉:ソーラーシェアリングというのは上にある太陽光発電と下の農作物栽培との両方を成立させるわけですが、稼ぎは上の方が圧倒的に多い。そうなると、上さえあれば下はどうでもいいという考えになる事業者がいるわけです。

三浦:その意味ではソーラーシェアリングをどう位置付けるのか、悩ましいところがありますよね。

秋葉:経営形態もいろいろだし、ソーラーの下に植える作物もいろいろですからね。
山形県のデータを見ると、30箇所ほどソーラーシェアリングが行われているということになっているようですが、どうも現実はあやしい。

三浦:私もそう思います。

それに、秋葉さんのソーラーシェアリングだけにフォーカスして見ても、作物のひとつはお米で、もうひとつはワラビ。ひとつは田んぼで、もうひとつは耕作放棄地。これはパターンとしてはまったく別ものだと捉えることもできます。

今、全国的に耕作放棄地が広がっていますから、その有効利用のためにはソーラーシェアリングがいいだろうと農水省は言っています。しかし実際のところ、耕作放棄地というのはもともと条件が良くないからこそ放棄地になっているという部分もありますから、そこにソーラーを乗っけたところで果たしてその下で一生懸命作物を育てるかというと難しいわけです。

秋葉:そうですね、大変です。

三浦:理想としては耕作放棄地でやりたい。けど実際はそこに行きもしない。それに対して、田んぼは日々管理しているからそこでソーラーをやるのは都合がいい。田んぼと耕作放棄地とでは全然違うわけです。

秋葉:そうですね。確かに田んぼはわかりやすい。

ですが最近では、田んぼを集めて大きくしようというのが国の政策です。田んぼの規模が大きくなれば、機械化して効率的にやるほうがいい。そこに支柱を立ててソーラーやるなんて非常に面倒だし、ソーラーよりも農機購入などに資金を投入しようと考えるでしょう。

三浦:農地利用の大規模化の流れのなかでは、ソーラーシェアリングはハマりにくいかもしれませんね。

再生可能エネルギーに取組む!/長瀬農園 秋葉慶次さん・後編

秋葉:他方、家族経営のような小規模農業をやっている農家には非常にいいと思います。何と言っても、ソーラーシェアリングによって収入の道が新たにできるのが非常にいいですよね。実際、三浦先生はよくご存知ですが、ヨーロッパの畜産農家などは牛乳などの農産物のメインの収入のほかにソーラーや風力などのエネルギーをつくることで収入の道を複数確保しています。

三浦:まさにそうですね。

改めてこうして振り返ってみると、ソーラーシェアリングといっても経営形態とか考え方など実にさまざまで、玉石混交で、一言では説明することが不可能な現状ですね。まだまだ全体像が定まっていないものなのでしょう。

秋葉:その地域で、その人が、どういうものと位置付けて使うか。ツールのひとつにすぎないのかもしれませんね。

ただ、大事なのは、新しい技術が生まれたり制度自体が変わったりさまざま変動している状況のなかで、思い切ってチャレンジしてみようとか、チャレンジを面白がったりするマインドとか、リスクがあるのは当たり前だと思えるかだと思います。そしてまさにそのタイミングでしかできないチャレンジに飛び込めるか、ということではないでしょうか。
(2019.8)

 

text : Minoru Nasu  
photo: Isao Negishi

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