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【山形・最上町】再生可能エネルギーに取り組む!/丸徳ふるせ・菅徳嘉さん(前編)

インタビュー

2022.01.25

面積の80%以上を森林が占める山形県最上郡最上町は、バイオマス産業都市の認定を受け、さらに2050年までにCO2排出実質ゼロをめざす「ゼロカーボンシティ」の実現に向かうと宣言したまち。先進的な取り組みを進めるこのまちには、創業以来100年以上にも渡って、地域に生きる人たちの暮らしを支えてきた企業があります。それが、丸徳ふるせです。

生活雑貨や必需品の行商が原点であるという丸徳ふるせは、時代とともに変化するひとびとの暮らしに寄り添いながら、ガソリンスタンド、ホームセンター、産直施設など事業領域を広げてきました。そして2011年の東日本震災以降は、木質バイオマスを利用したストーブや燃料の普及にも取り組み、さらに現在では、地域熱供給システムの運営管理事業にも携わっています。

現在に至るまで止まることのないこうした再生可能エネルギーの取り組みについて、株式会社丸徳ふるせ代表取締役・菅徳嘉さんにお話を伺いました。聞き手は、やまがた自然エネルギーネットワーク代表で東北芸術工科大学教授の三浦秀一さんです。

【山形・最上町】再生可能エネルギーに取り組む!/丸徳ふるせ・菅徳嘉さん(前編)
株式会社丸徳ふるせ代表取締役・菅徳嘉さん(右)と、やまがた自然エネルギーネットワーク代表・三浦秀一さん。若者定住環境モデルタウンの地域熱供給施設にて。

確かなライフラインとして地域を支えられる
化石燃料とは別のエネルギーを求めて

三浦:丸徳ふるせが木質バイオマスの事業に取り組まれた経緯について教えてください。

菅:わたしたちの会社は、地域のために生活必需品を供給するという、ライフラインに関わる仕事です。しかし、東日本大震災のときには、石油がまったく入荷できず、多くのお客様にご迷惑をおかけしてしまいました。化石燃料というものは、海外からタンカーで運ばれ、商社を経て、ようやくわたしたち小売店に届くわけですが、ほしくても全く手に入らず、どうする術もなかったというあのときの経験によって、化石燃料の限界を感じずにはいられませんでした。もう二度とこういうことが起きないとも限らないなかで、これからも地域の暮らしを支える側にいる者として、もはや化石燃料だけに頼るというわけにはいかないだろう、と悶々としました。

そこで震災後、まずは災害時や非常時にも対応可能な態勢を整えようと、石油の地下貯蔵タンクを増設し、停電などが起こったとしても燃料を汲み上げて供給できるようにしました。そして、そのうえで、次のエネルギーを探し始めたわけです。

まず、世界の潮流と最先端を知る必要があると思い、2014年、オーストリアに視察に行ってきました。日本と同じく、化石燃料は輸入に頼らなければならないけれど、森林資源なら豊かにあるという国です。そこで見たのは、木質バイオマスエネルギーを暮らしに生かす文化や歴史が積み重ねられ根付いている光景でした。たとえ「日本には技術がある」などと語ってみたところで、それだけではたとえ30年かかっても追いつきようもない、とさえ感じてしまうような風土を感じました。

木であれば、わたしたちのまちにも、すぐ近くに、しかも豊富にあります。木が燃料になるのなら、外国から買う必要もなく、運ぶ必要もありません。切ってもまた植えれば育ちますし、地域に生きるわたしたち自身の手でつくりだせるエネルギーです。化石燃料とは違い、エネルギーの地産地消が可能であることも、よくわかりました。

それで、「わたしたちが次に投資すべきところはこれだ!」という想いでオーストリアから帰国し、その年の6月にはペレットストーブの販売や設置、燃料ペレットの販売を行う「ペレットマン最上店」をスタートさせました。続いて、地域の森林の木を素材とした木質ペレット燃料の製造にも乗り出したのです。

【山形・最上町】再生可能エネルギーに取り組む!/丸徳ふるせ・菅徳嘉さん(前編)
オーストリアから帰国してまもなくスタートさせた「ペレットマン最上店」。最上町でホームセンター的機能を担う「住まいる館マルトク」のなかにある。
【山形・最上町】再生可能エネルギーに取り組む!/丸徳ふるせ・菅徳嘉さん(前編)
丸徳ふるせが製造する薪。見た目にはふつうの薪だが、薪ストーブユーザーに安心して使ってもらえるよう、含水率アベレージ18%以下の高品質なレベルに仕上げているのが特徴だ。

地域の人たちの暮らしを支えるために
安心のライフラインを整えていく

三浦:3.11の経験から、石油だけではないもうひとつの選択肢を探されて、木質バイオマスの事業を始められた、というわけですね。
さらに震災から10年が経ったいまでは「脱炭素」が世の中のキーワードになりました。もう石油は使えない、石油はやめましょう、という流れです。石油の大手の会社が風力発電会社を買収するような動きも出ています。そうしたなか、地域で石油を小売してきた会社も、では次はなにをやるのか、悩まなければならなくなりました。丸徳ふるせのように、地域でバイオマスをやればいい、とわたしは思うのですが、そういう発想にはなかなか至らないようです。

菅:既存のマーケットでもまだ十分に事業が成り立っているとか、しっかりとした内部留保があって経営的にはまだまだ大丈夫、という会社であれば、事業転換を急ぐ必要はそもそもないのでしょう。とはいえ、このごろは石油小売の事業者もだいぶ変わってきているように感じます。他地域で石油販売をやられている事業者さんがわざわざ最上町のわたしたちのところまでおいでになって、木質バイオマス事業の視察や相談をされていくようなことが増えてきています。

わたしたちの場合は、内部留保にゆとりのある会社などとは全く違って、日々「どうしよう」という強い危機感のなかで商売をしています。外部環境の変化にいちはやく対応していかなければ次の時代に生き残ることはできません。

そんなようなわたしたちの会社であっても、わたしがオーストリアに視察に行くと言ったときには、いままで何十年もお客様に提供してきた石油の事業やサービスをやめてしまうのかと、社員はずいぶん心配したようです。「そうじゃないんだよ、わたしたちは地元のお客様に対して、不安のないしっかりとしたインフラを提供できるようにしていかなければならないから、だから木質バイオマスもやるんだよ」っていうことを伝えましたが、それを理解してもらうには数年かかりましたね。

【山形・最上町】再生可能エネルギーに取り組む!/丸徳ふるせ・菅徳嘉さん(前編)
「住まいる館マルトク」は、日用品や食料品や灯油などを含め、様々な暮らしのモノを販売するホームセンター機能を持ちつつ、100円ショップ機能もあり、産直施設の機能も持ち、そしてさらに木質バイオマスのストーブやペレットの販売も行うという、まさに地域の毎日を支えるための店舗となっている。

地域の生活を支える企業として
社会的な役割を全うしていく

三浦:地域が人口減少していくなか、地域をどう守っていくのかという議論はいろんなところでなされています。地域には行政だけがあってもだめで、社会的役割を担う企業の存在を欠かすことはできません。まさに丸徳ふるせさんは最上町においてそういう存在になっていますね。

菅:いま過疎の進む地域では、ガソリンスタンドが撤退したり一軒もないという状況になったりしています。そうなってしまうと地域の人たちは非常に困るわけですね。灯油を買うためにだけに30分以上の時間をかけて隣町までわざわざ買いにいかなければならなくなってしまったり。おなじように、地元からスーパーマーケットがひとつなくなるだけで、日々の買い物さえ大変なことになってしまったり。地元の魚屋さんだって、店を閉めてしまったら困る人はたくさんでてくるわけです。

でも、そうなってしまっているのは、なくなってしまうかもしれないという想像もできず、万一なくなってしまったらという危機感も感じることもできないひとたちがいるから、というのも事実でしょう。ちょっとでも単価が安い大手チェーンへとまちのみんなが行ってしまったら、地域の店が存続するのはますます難しくなってしまいます。なくなってしまってから「困った困った」と大騒ぎするまえに、地域の店を支えるという視点も大事にしてもらえたら、と思いますね。

本来、SDGsという言葉や考えのなかには、その地域の持続可能性のためにはそういう店も大事なんだよということも含まれているはずです。わたしたちは創業以来、とにかくこの地域でどうやって地域の役に立っていくかを考え実践しながら商売を続けてきたわけですが、これからもなんとかバランスをとりながら、事業を継続していくことが大切だと思っています。

三浦:そういう企業の地域社会での役割の大きさというものを、もうすこし可視化して、アピールできたらいいでしょうね。

菅:この資本経済のなかでは「おまえ、なに言ってんの」とか、金融や経済のプロからは「そんなコストはムダ」とか言われてしまいそうですが、多少コストがかかっても地域のためにやらなければならないことがある、と思うのです。たとえば、この最上町は人口約8000人、世帯数2800のまちで、人口は少しずつ減っているのですが、その一方で、世帯数はほとんど変わっていません。つまり、お年寄りを中心に一人暮らしが増えているわけです。そうしたところにわたしたちは喜んで配達もしていますし、そこから生まれるコミュニケーションというものが地域にとってとても大切なことだと考えているんです。

(後編につづく)

丸徳ふるせWebサイトhttps://furuse.co.jp/

reallocal「再生可能エネルギーに取組む!(グリーンエネルギーフロンティア)」シリーズ

冊子「やまがたの自然からエネルギーを作るやまがたのひと」(PDF版)

text : 那須ミノル
photo : 根岸功