real local 山形居心地の良さとは、かろやかに生まれていくもの/hoku archidesign・大類真光さん - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

居心地の良さとは、かろやかに生まれていくもの/hoku archidesign・大類真光さん

インタビュー

2023.10.29

住まいや暮らしの変化は、人生の節目とともに訪れます。そのなかで家とは、私たちにとってどんな存在なのでしょう。家づくりや空間づくりのこと、あらためて考えてみませんか。今回は、山形市で建築設計事務所を主宰する、大類真光さんにお話をうかがいました。

居心地の良さとは、かろやかに生まれていくもの/hoku archidesign・大類真光さん

身近なきっかけから始まった建築人生

「ちゃんと建築と向き合えるようになったのって、実は就職してからなんですよ。建築の専門学校に進もうと思ったのは、僕が高校3年生ぐらいの頃にやっていた『協奏曲』というテレビドラマがきっかけなんです。配役は、田村正和さんが巨匠建築家で、その弟子が木村拓哉さん。で、宮沢りえさんは元々キムタクの彼女だったんだけど……、みたいな感じの内容で(笑)。

あるときそのドラマに『東京キリストの教会』っていう建物が出てきたんです。それを見た瞬間これはすごいと思って。教会なのに、今まで見たことのないようなガラス張りのモダンな建物で、すごく引き込まれたんですよね。世界的に有名な建築家の槇文彦さんが設計されていて、実際に今も渋谷にあるんです。

専門学校は東京だったんですけど、当時は遊んでばっかりでした。いろんな建築にふれられる環境にいたのにもったいなかったなあと思う反面、余計なことや無駄だと思うこと、こんなことやってていいのかなって思うようなことほど、後々生かされてくるような気もしていて。

そのときは自分のなかでピンときていなくても、あるとき興味が湧いてきたり、後になってこれがこう繋がるんだな、みたいなことが起こったりするんです。だから本当に何が起こるかわかんないですよね、人生って」

居心地の良さとは、かろやかに生まれていくもの/hoku archidesign・大類真光さん
屋号の「hoku」には「ことほぐ(寿ぐ・言祝ぐ)」と、「h=happiness」、「o=open」、「k=kindness」、「u=unique」の意味があり、archidesignは、architecture(建築)とdesign(設計)を組み合わせた造語。

東京と山形。工務店と設計事務所。
さまざまな立場を経て、見えてきたこと

大類真光(おおるい・まさひこ)さんは、山形県尾花沢市出身。高校3年間は電車で1時間ほどかけて山形市まで通い、部活動はサッカーに打ち込んでいました。高校卒業後は、建築の専門学校へ入学するために上京。もともと山形に戻るつもりだったこともあり、卒業してすぐに地元の工務店に就職し、その後は建築設計事務所に長く勤めていました。そこからずっと、仕事と生活の拠点は山形。

「初めに就職した工務店では主に現場監督をしていました。たいへんな仕事でしたけど、そこでの経験は大きかったです。職人さんと一緒に現場で汗を流したこともありました。ただ、間に入って色んな段取りを組む仕事がメインだったので、もっと自分の手を動かしたいっていうか、生み出す仕事をやってみたくなって設計事務所に転職したんです。そこでも職人さんとの距離感は近かったですね。建築の現場では10時と3時に短い休憩があるんですけど、そこで一緒にお茶飲んだりして。いつも仕事と全然関係ない話をしてることが多かったですけど(笑)」

山形市内に建築設計事務所を構えたのは10年前のこと。月に数回は仕事で東京に行くこともあるそうで、山形と東京を行き来していると、建築を見たり考えたりするときの視野が広がるのだといいます。

「情報量と刺激が多いのは圧倒的に東京です。山形と違って土地が狭く密集しているからなのか、街の景観を守ろうとか緑化しようという意識が見えやすいというか、その使い方に工夫や配慮を感じられるものが多い気がします。ただ大きな単位で見てしまうと、やりたい放題好き勝手にやってる感じはありますよね。再開発って何回やるんだろう?いったい誰のために?みたいな。だからそこは景観に馴染ませるっていうよりも、勝手に馴染んでいくと思うしかない。きっとその繰り返しなんでしょうけど、住む人にとって街に残っていてほしい風景ってありますよね」

居心地の良さとは、かろやかに生まれていくもの/hoku archidesign・大類真光さん
〈hoku archidesign〉は、山形市を拠点とする建築設計事務所。住宅のほか、店舗やオフィス、クリニックなどの新築や増築、リノベーションの設計・監理を行う。

家とは究極の「道具」である

家づくりをするときに大切にしているのは、「ともに考え、ともにつくる」という関係性。関わる人たちの熱量や温度感が重要だといいます。住む人が主役なので、一方的な意見だけを押し通すことはしません。

「設計士のタイプはさまざまで、自分のスタイルで作りたいものを作るっていう人もいると思うんですが、自分はそういうのが苦手なんです。建築って住む人や使われ方によって一つひとつ違うものだと思っているから、毎回違うものを形にしていくほうが自分には合っている気がするし、そういうほうが楽しいんですよね。考えるのが好きなんだと思います。以前、打ち合わせしているときにお客さんから『大類さんなんか楽しそうですね』っていわれたことがあるんですけど、それがすごく嬉しかったですね」

理想の住まいのイメージは、ぼんやりとでも多くの人が持っているにもかかわらず、語られる場が少ないのが現実。そして「あんな家に住んでみたい」とマイホームの妄想はいくらでもできるものの、実際に家を建てるとなると、さまざまなハードルに直面することになります。

そこでhoku archidesignでは、家づくりの無料相談を随時実施。リノベーションなども含め、家づくりや空間づくりの選択肢を広げられたらということで、だれでも気軽に相談することができる機会を設けています。

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納得するまで話し合って決めるのは、施主とはもちろん社内のスタッフや職人さんも同様。コミュニケーションを密に取りながら「みんなでつくる」ことを大切にしている。

「家って、究極の道具ですよね。建築って美術品じゃないし、使われないと意味がないから、ちゃんとお客さんのニーズや生活するうえでの使いやすさを兼ね備えていなければいけません。僕らが提案したいのはトータルデザイン。家を設計するときの根底にあるのは生活をデザインするということ。今って住む人が家に合わせて生活するのが基本の考え方になっている状態ですけど、住む人の生活に合わせて家を作るという選択肢がもっとあってもいいんじゃないかなと思ってるんです」

居心地の良さとは、かろやかに生まれていくもの/hoku archidesign・大類真光さん
住宅をメインとしながら、店舗や複合施設なども手がけている。左上_山形市内にある美容室〈hair craft ulula〉。右上_平屋のリノベーション例。右下_バーラウンジスペースのあるセカンドハウス。左下_診療所、カフェ、メディカルフィットネスジムが集まった福井の複合施設〈つながるベース〉。(写真提供:hoku archidesign)

「小さい家」は雪国ならではのメリット

山形という土地柄、設計をするうえで避けて通ることができないのが「雪」。大類さんの故郷である尾花沢市は山形市よりも雪深い地域で、屋根から落ちた雪で1階の窓がほとんど埋まってしまうぐらい積もるため、冬になると雪囲いが欠かせなかったそうです。

「雪の重さで窓ガラスが割れるのを防ぐため、板を貼り付けたりしている家も多かったんですけど、そのせいで冬は家の中がずっと暗くて、幼い頃はそれが嫌だったんですよね。だからなのか、今の仕事では雪囲いをしても明るい家を考えたり、屋根の雪の落とし方を工夫したりといったように、当時の記憶と原体験が生かされているような気がします」

雪国ならではの建築に対する考え方は、ほかにもこんなことが。

「吹き抜けがあると寒いっていうイメージを持っている方、多いですよね。それこそ昔の家は広いし、部屋ごとに暖房がないと暮らせないような感じだったと思うんですけど、今の家は全体の断熱材を厚くすればエアコン1台で温度を均一に保てるようになっていたりします。小さい家だと暖房効率も良いし、吹き抜けがあると空気が対流するので、1階に熱源があれば空気を上手く循環させることもできるんですよ」

コンパクトな空間は掃除も楽で、お年寄りの方にとっては負担が少ないというメリットも。家が小さいということが、利点になる場合もあるのです。

居心地の良さとは、かろやかに生まれていくもの/hoku archidesign・大類真光さん
大類さんの自宅。経年変化を味わいとして楽しめるよう、杉板を張り合わせた外壁の上に、天然成分の木材防護保持剤を塗布している。施工は山形市の工務店〈古民家ライフ〉。

「居心地」と「居場所」をかんがえる

山形市内にある自宅は築4年。自然素材を多く使いたかったことから、無垢材の床に塗り壁、杉板を張り合わせた外壁など、さまざまなアイデアや創意工夫が随所に散りばめられています。日焼けしたり雨にさらされたりしながら経年変化を楽しめるようにしたという外壁は、傷んだ部分だけ張り替えればメンテナンスも可能。室内の空間は温かみのある木材をベースにしながらも、異なるエッジの効いた素材を組み合わせることで、美しいバランスが保たれています。

「リビングの床材は杉です。針葉樹の特徴で、柔らかいぶん傷は付きやすいんですけど、あったかい感じがするんです。たまに『床暖房ですか?』って聞かれることもあるぐらい。逆に広葉樹の場合は少しひんやりしていて硬いんです」

居心地の良さとは、かろやかに生まれていくもの/hoku archidesign・大類真光さん
家具は山形の作り手によるものが多い。〈土澤木工〉の椅子と、テーブルは〈TIMBER COURT〉。杉材のフローリングは冬でも暖かく感じるそう。
居心地の良さとは、かろやかに生まれていくもの/hoku archidesign・大類真光さん
真光さんの妻・幸(さち)さんも尾花沢市出身。事務所では経理と事務を担当している。自宅キッチンは、幸さんの要望やこだわりが詰まった空間だ。

「当然ながら、家ってそれぞれに形は違うんですけど、考えるときに共通しているのは『居場所』と『居心地』ですね。安心感や心地良さが宿る居場所は人によってさまざまですが、たとえば家だったら家族にとっての居場所であること、それがお店になると居心地という話になってきます。

でも居心地が良い状態って、一言で表すのが難しいですよね。自然の光や風って多くの人が心地良いと感じるものだけど、気持ちが追い付いていかないときだってあると思うし。そういうのって気分にもよるじゃないですか。だからこそ、家の中での居場所も一つじゃなくて、いくつかあったほうがいいと思うんですよね。たとえばリビングのソファ以外にも一息つけるような場所を作るとか」

居心地の良さとは、かろやかに生まれていくもの/hoku archidesign・大類真光さん
2年前に大類家にやってきた白猫の「ほく」。〈hoku archidesign〉では重要な相談役を担っているそう(専用の名刺まである)。
居心地の良さとは、かろやかに生まれていくもの/hoku archidesign・大類真光さん
2階にリビングがあるので、窓は借景を楽しめるように設置。この場所ありきで設えているとあって、家にいながらにして千歳山を眺めることができる。

住まいの選択肢をもっと柔軟に。
家はライフスタイルとともにあるべき

「僕らの家づくりは、『ずっと住みつづけたくなる家』がコンセプトではあるんですけど、住まいの在り方や選択肢そのものは、もっと柔軟に、かろやかに考えて良いものだと思っているんです。

たとえば小さいお子さんのいるご家族の場合、今必要な家と将来必要な家って違うと思うんです。子どもが大きくなって家を離れたあとに、子ども部屋が物置になったり、夫婦二人で暮らすには広すぎたりすることってよくありますよね。使っていない部屋があるのって、もったいないと思いませんか?

一方で、家族が増えてもう少し広いところに住みたいけどなかなか、みたいに躊躇している人もいるはず。そんなときに、住む人たちが自分たちの状況に合わせてリノベーションしたり、住み替えたりっていうことのハードルを下げて、現実的に考えてもらいやすくするにはどうしたらいいかとか、空き家を活用して循環させるみたいな仕組みってできないのかなあとか、なんて考えることがあります。

生活を続けていると、家族の人数が変わることだってあるし、時代が変わればライフスタイルも働き方も変化していくかもしれません。多くの人にとって、家ってこういうもの、こうあるべきっていう考え方が染み付いているかもしれないですけど、まずはどんな生活をしたいかが大切です。あくまでも、家の主役は住む人たちなので」

居心地の良さとは、かろやかに生まれていくもの/hoku archidesign・大類真光さん
街中に住みながら自然を身近に感じられるのが、山形市のいいところ。春になると美しい桜並木が楽しめるという道で、爽やかな緑とともに。

 

DATA
hoku archidesign
山形市寿町10-35 寿町コーポラス203
023-600-0459
https://oorui-ma.com/

写真:渡辺然(STROBELIGHT
文:井上春香