real local 山形Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(前編) - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(前編)

インタビュー

2024.03.30

2023年9月、やまがたクリエイティブシティセンターQ1はオープン1周年を記念し、グランマルシェを開催。そのコンテンツのひとつ「第13回クリエイティブ会議」では、日本のクリエイティブシティの先駆的存在である金沢市で新しいまちの風景をつくりだしている建築家・小津誠一さんと、株式会社Q1の代表である馬場正尊さんの対談が行われました。すこしはみ出しがちなふたりの建築家の対談テーマは、まちの未来とクリエイティブについて。キーワードは…「妄想」です。

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(前編)
(馬場正尊さん(左)と小津誠一さん(右)。やまがたクリエイティブシティセンターQ1にて。2023.9.2)

馬場:せっかくユネスコ創造都市となったのだから、山形市はそのネットワークを活かして世界中の様々なクリエイティブシティと交流して、これからのまちづくりや都市政策に反映できたら…という想いがあります。ということで、今回は金沢という日本でいち早く創造都市と認められたまちからゲストをお招きし、まちづくりを学ぼうと考えました。

今日おいでいただいた小津さんは、ぼくのちょっとだけ先輩で、いつもほんのすこし先を行ってくれている方です。お互い建築の設計デザインが中心ではあるけど、小津さんはそこから外れた飲食とか宿泊とかイベントとかいろんな領域を切り拓いている開拓者で、水先案内人。「あ、なら、ぼくもやっていいかな」と感じさせてくれる、安心材料でもある存在です。

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(前編)

馬場:今回の対談のタイトルついて「テーマは創造なんですけど」って小津さんに伝えたら「創造というよりぼくの場合は妄想だけど…」っておっしゃるので、「じゃあ、それで」ということで、『創造は妄想から始まる』となりました。どんな妄想によってどんな創造がありえるのか、みたいなお話をしてもらいながら、これからのまちづくりのヒントをもらいたいと思います。よろしくお願いします。

小津:はじめまして、石川県金沢市から来ました小津です。

株式会社ENN(エン)というぼくの会社には、まず「空間を創る」という設計の仕事があります。ふたつめは「空間を見つける・発信する」仕事で、「金沢R不動産」「real local 金沢」というWebサイトを運営しています。みっつめは「空間を実践する」仕事。つまり、つくったお店を実際にじぶんたちで運営して使いこなす、ということです。ぼくら建築家は「空間」をつくるわけですが、そこに人がいなければ空っぽの箱、「冷たい空間」にすぎません。そこになにかを仕掛けをして、人が集まってはじめて生きられた空間という「場」になる。そういう「場づくり」をぼくはやってるのかなって思います。

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(前編)

小津:金沢生まれですが、古いものばかりの金沢が大嫌いで、高校卒業後すぐ上京し、美大の建築科に進みました。日本はバブル真っ只中で、大学3年頃に天安門事件があり、ベルリンの壁が壊れ、翌年に東西ドイツがひとつになり、さらに翌年ソ連が崩壊してロシアに変わるという大きな変化の時期でした。後に「バブルが崩壊した」と言われるタイミングで社会に出て、広告代理店とか設計事務所を渡り歩きます。で、気づけば仕事がなくなっていくので、なんかおかしいなと感じてるけどなにが起きてるかはわかってない。

仕事がないので会社を辞め、ご縁があって京都へ移住し、大学の非常勤講師をやるのが1995年、阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件の年です。で、いよいよ証券会社が倒産し、銀行が破綻するのが97年で、そんなときに京都で設計事務所をひらきます。それからしばらく後、2002年初頭にまた東京に戻ります。のちに21世紀美術館という現代美術館が金沢にできるのが2004年ですけど、かつて逃げるように出てきたあの古いまちに現代美術館ができる…?もしかしたら金沢、なんか起きるのか?と思って、2003年から金沢と東京の二重生活をはじめます。金沢ではリノベーションきっかけで飲食店をはじめて、東京では設計事務所やって…みたいな感じで。

そして10年ほど前、2012年に金沢に完全移住しました。

こうして振り返ると、バブル崩壊とか大地震とか大きな出来事があるたび、華々しかったはずの建築家の働く領域がどんどん狭まっていると気づきます。建築家がじぶんの職能を生かして活躍できる場所って実はあまりない。なら、かっこいいハードをつくるだけの建築家じゃなく、もっと社会に認められる活動をする存在にならなきゃ、と考えるようになります。

金沢での設計の仕事は、新築住宅もビルもやりますが、多いのはリノベーションです。戦争で爆弾が落ちなかったまちなので、いわゆる「金澤町家」と呼ばれるような古い建物の改修が非常に多いんです。

金沢R不動産は2006年から。今では全国に広がっている地方版R不動産の第1号です。2003年に馬場さんたちが立ち上げた「東京R不動産」の目からウロコだったのは、物件を広さや金額といった定量的な数字ではなく、「個性」で選べるようにしたこと。それに驚いて、金沢でもやりたい、とスタートしました。で、不動産屋をやると今度は、副産物的に、あそこの八百屋さんがいいよとか、まちの情報がいっぱい集まるので、そういう情報がなにかサービスになるかもってはじめたのが「real local」というローカル情報発信サイト。金沢の仕事や人、イベント、拠点、お店などを紹介しています。

空間の実践としての最初は、廃墟ビルをリノベーションしたことをきっかけにはじめた飲食店です。学生時代からずっと建築の道をまっすぐ突っ走るというよりは、イベントやったりと寄り道してきたので、じぶんの会社組織をつくったときに「これでじぶんのやりたいことがやれる」って解放されたのかもしれません。そのあと、仏壇屋さんだったビルをホテルにリノベーションするプロジェクトに関わったので、その1階でも飲食店をやったり。※1

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(前編)
(写真提供:株式会社ENN)

小津:また、金沢には茶屋街が3つあるんですが、重要伝統的建造物群保存地域という国が認める歴史的な街並み保存地域にある町家にご縁があって借りられることになったので、そこでも飲食店やったり。あるいはまたその近所で、「大きな町家を息子に相続させたいけど、潰してから渡した方がいいのか」って不動産の相談をされて「潰すなんてとんでもない、ぼくらがなんとかするので預けてください」って言って、支援者を見つけて、テナントを小口化して、個性派のお店6軒くらいに集まってもらって百貨店みたいなことをはじめたり、とか。※2

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(前編)
(写真提供:株式会社ENN)

小津:最近では、同じくそういう古い町家で、宿をはじめることになりました。縁側のすぐ向こうに浅野川というとても金沢らしい川が流れていて、檜風呂があって…、みたいな宿※3です。

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(前編)
(写真提供:株式会社ENN)

小津:…というようなことをやったりと活動を広げております。

馬場:小津さんから「金沢に戻る」って聞いたときは突然で「えっ?!」て思ったけど、こうして振り返ると、あのタイミングでのあれは英断だったんですね…。
とはいえ、設計やってて「よし飲食店やるぞ」とはふつうならない気がしますが、そのスイッチの入り方ってどうなっているんですか。

小津:いろいろと経緯があってのことなので。特別な縁もゆかりもない京都でひとり独立して設計事務所はじめたとき、大きな仕事が来るわけもないので、できることといったらまちに飲みに行くことしかないんですけど、そうすると小さな飲食店とかカフェとかの仕事がポツポツ入りはじめて、クライアントも必然的に同世代だから、お店づくり一緒に考えようよ、となるんです。で、クライアントと同じ目線で計画しているうちに「じぶんだったらこうしたいな」「じぶんでやりたいな」というのがだんだん溜まってくるんですよね。

馬場:そういう蓄積があって、タイミングが自然にやってくるってことか。

小津:本当は東京でやろうという計画があったんです。けど、金沢から話が突然舞い込んで。それに、かつて大嫌いだったはずの金沢のまちが、京都経由で見たとき、すこし変わって見えたんですよね。京都って古いまちなのに、ノーベル賞を一番とってる京都大学があり、千二百年の老舗があり、ベンチャー企業もあり。アーティストも政治家も芸術家も多く、千二百年間ほぼ廃れることなく現在進行形でいられる、という世界的にも珍しいまちなわけですけど、その姿を目の当たりにして「もしかして金沢もそっちじゃない?」ってそれこそ妄想しちゃったような気がします。

馬場:ぼくも東京で設計事務所をやりつつ東北芸術工科大学の先生として山形に通うようになってつくづく感じるのは、山形のほうがずっと自由だってこと。チャレンジしやすいし、小さな町なのでそのチャレンジが目立つからみんなが注目してくれるし、そうすると共感する人が集まってくれて、というサイクルができやすい。それが東京だと、なにやっても大きなプールの中にコンタクトレンズを落とすぐらい、なにも見えない感覚で、手応えが薄い。

小津:ぼくの仕事の領域が広がってる理由の一つは、やっぱり活動の中心が金沢になったからだと思います。東京だと「建築やります」「住宅から高層ビルまでなんでもござれ」って言っても仕事は絶対来ない。「あなたはマンションの外装だけのプロフェッショナルになってください」とか仕事が細分化されるから。同じひとつの建物にいろんなステークホルダーやデザイナーがいて、その一部分しか担当できない。でも地方だと全く逆で、マルチにできてはじめて仕事が来るというか。

馬場:ほんと東京は細分化されすぎて、もはや健全な妄想もできないし、限られた檻のなかだけでモノを考えなきゃいけない。でも、山形とか金沢ならブワッと広いところで考えて、設計も、他のことも、やってもいいし、やるしかないし、やったらなんとかなるっていう…ね。

後編につづく…

※1 HATCHi kanazawa 
※2 八百萬本舗  
※3 風知空知 


profile/小津誠一(こづ・せいいち)
株式会社ENN 代表
1966年金沢市生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業後、建築設計事務所や大学講師などを経て、1998年京都にて設計事務所「studio KOZ.」を設立。2001年活動拠点を東京へ移転。2003年金沢にて「有限会社E.N.N.」を設立。金沢にて廃墟ビルのリノベーション設計を機に飲食店「a.k.a.」を開業し、東京と金沢の二拠点活動開始。2006年「金沢R不動産」を開業。2012年活動本拠地を金沢へ移転。建築を中心に、不動産、店舗運営など領域横断的に活動展開。
ENN. co.,ltd. 
金沢R不動産 
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