real local 山形10ヶ月間の移住体験を、山形国際ドキュメンタリー映画祭とともに /藤あかねさん - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

10ヶ月間の移住体験を、山形国際ドキュメンタリー映画祭とともに /藤あかねさん

2019.10.24

10ヶ月間の移住体験を、山形国際ドキュメンタリー映画祭とともに /藤あかねさん

ゲストハウス&映画祭
Wワークでの山形移住体験

仕事を辞め、部屋を解約し、荷物も処分し、10年間の東京暮らしに区切りをつけてトランクひとつで山形に降り立ったのは2019年2月のことです。それから今日まで、ゲストハウス ミンタロハットに滞在しています。「フリーアコモデーション」という、ヘルパーとして宿のお手伝いをすることで宿泊の場所と食事を提供してもらうシステムを利用させてもらっています。

7月に入ってからは、開催に向けて本格的に動き出した山形国際ドキュメンタリー映画祭の事務局スタッフとして働きだしました。午前中はゲストハウスの手伝いをし、午後はドキュメンタリー映画祭の事務局の仕事をする、というワークスタイルで日々を過ごしています。

この山形での生活は、私にとっては大きなチャレンジです。自分としては「移住体験」だと捉えています。ドキュメンタリー映画祭が終了するまでという期間限定の山形暮らしです。

10ヶ月間の移住体験を、山形国際ドキュメンタリー映画祭とともに /藤あかねさん

山形で見た自由な働き方が
今の自分の手本になっている

ゲストハウス ミンタロハットは、以前から何度かゲストとして利用していました。その度に、ヘルパーをしながら満足するまで滞在している人や、季節ごとに全国の農場や加工場へと旅をするように移動しながら働く人の姿をたくさん見てきました。「そういう生活の仕方もあるんだな」「暮らしや仕事ってわりと自由にカスタマイズできるものなんだな」と学ばせてもらいました。

特に刺激を受けたのが、あるIT企業に所属するプログラマーの方でした。家を持たずに国内外のゲストハウスや宿機能付きのシェアオフィスを転々としつつ仕事されているその方は自分のことを「在宅勤務のホームレス」と呼んでいました。金銭的な合理性もあるし縛られない楽しさもある、というユニークな考え方をされていて、「そんな生き方や働き方があるのか」ととても驚きました。まさか自分がそれに近いことをやる日が来るとは思いもしませんでしたけど。

10ヶ月間の移住体験を、山形国際ドキュメンタリー映画祭とともに /藤あかねさん

東京での厳しい仕事環境と
プレッシャーに押し潰されて

私は大学以来10年間、東京で暮らしてきました。テレビ局の仕事に就いたものの、夜勤つづきで身体的にも精神的にも無理をして、やがて自律神経をこわしてしまい、パニック障害を発症しました。出勤途中の電車内で過呼吸やめまいを起こすこともありましたが、生活も厳しいのでなんとか出社して、それでまた悪化する、という悪循環に陥りました。すぐ「宮崎の実家に帰ろう」という判断ができればよかったんでしょうけど、「映像芸術を学んできて、業界の最前線の場に身を置いてキャリアを積むんだ! 」みたいな呪縛を自分にかけていた私にはそれができませんでした。自分にプレッシャーをかけ過ぎて潰れてしまったんです。

そんなことになってしまってから、ミンタロハットで出会った人たちのことを思い出しました。仕事をちゃんとしつつも、プライベートも充実していて、ライフワークバランスも良くて、自分の生き方を心から楽しんでいる。もしかしたら自分にも「東京か、地元に帰るか」という二者択一ではない別の選択肢があるのかもしれない。自分のこれからのキャリア形成も含め、ここで環境を変える必要があるかもしれない、と思い、山形に滞在しながら自分の暮らしを立て直してみたいと考えました。

ドキュメンタリーに惹かれ
映画祭のたびに訪れる場所

地元は宮崎です。映画を学びたくて東京の大学に入り、劇映画とか報道とかいろんなジャンルの映画づくりを学びました。その中で、障害者プロレス団体に所属するひとりのレスラーを追ったドキュメンタリー作品の制作が自分にとっては大きなエポックになりました。以来、ドキュメンタリー映画にのめり込みました。

山形との関わりも映画祭がきっかけです。2011年10月、初めて山形を訪れてみて「こんなのどかな場所に世界のドキュメンタリー映画が集まっているのか!」と驚きました。映画祭では、どの映画を見るか上映スケジュールが書かれたチラシに赤ペンで印をつけて1日の鑑賞スケジュールを決め、市内に複数ある会場をぐるぐる回ります。難しい作品もあればクスッと笑えるものもあるし、世界で起きているアクチュアルな問題に向き合った作品もあるし、国から身を追われながら「何としてもこのフィルムを世に出さねばならない」と命をかけて撮影された作品もありました。ドキュメンタリーを撮る人たちの強い倫理観や、弱い立場に置かれた人の声を拾う姿勢やまなざし、そしてその圧倒的な熱意といったものに惹かれました。

以来、映画祭には毎回来ています。心を突き動かされる作品がいっぱいで、まるで自分もサバイバル状態になるくらい、見るのはすごく疲れます。それでも、自分にとっては、人はどう生きているのか、自分はどう生きていくのかっていうのを、映画を通して見て考えることができる、世界に開けた窓みたいな場所なんです。

10ヶ月間の移住体験を、山形国際ドキュメンタリー映画祭とともに /藤あかねさん

ゼロから、ゆっくりと、余裕を持って、
つながりを作っていきたい

今の山形での日々は充実しています。もちろん全部うまくいっているわけではなくて、パニックを起こすことも普通にあります。自分にすごいプレッシャーをかけちゃったり、突然起こる出来事にいっぱいいっぱいになってしまったり、条件が重なるとダメですね。でも、ミンタロハットのオーナー夫妻はそんな私を見ても「ちょっと休んでて」と寛容にしてくださるので、休んで復活したらまた手伝って、という感じで、自分のペースでやらせてもらっています。

山形を去るのは11月の予定です。山形映画祭で働くという長年の夢を叶えるため、最後まで走りきれた自分を誇らしく思います。そしてそれは、ミンタロハットのご夫妻や仲間たち、映画祭のスタッフ、地域の皆さんが私を受け入れ、応援してくれたからだと、心から感謝しています。

そして今度は宮崎に帰りたいと思います。たとえ一緒でなくても、いつでもすぐに家族に会えるような場所に住みたいと思っています。今後は地域の方向けの英会話の勉強会や、映画の上映会など、山形で体験した素晴らしい取り組みをいつか私の地元でも実現したいです。

やっと「キャリアを作らねばならぬ」「こうあらねばならぬ」みたいな呪縛が解けて来たと感じています。だから、実家に帰っても「仕事がない」とか悲観せずに、こうして山形に来ることができたように、またゼロから始められます。ちょっとずつつながりを作って、ゆっくり、余裕を忘れず、自分のやりたいなにかに挑戦してみようという気持ちにようやくなれた気がしています。

photo & text : 那須ミノル

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