real local 山形わたしの山形日記/薬師祭植木市 - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【地域情報】

わたしの山形日記/薬師祭植木市

連載

2022.06.22

やまがたにUターンして暮らす筆者が、なにげない日々のなかで見つけたこの街の魅力について綴る連載日記です。

 5月初旬、山形市では3年ぶりに植木市がひらかれました。植木市とは、毎年5月8、9、10日に国分寺薬師堂の祭礼にあわせて行われるお祭りのこと。薬師堂を中心に一帯が歩行者天国となり、県内外から集まった植木の露店や屋台がひしめき合う、山形人にとって初市と並ぶ特別なお祭りです。

 植木市の歴史は400年と古く、一説によるとその起源は、山形城主最上義光が大火により緑が失われた町を復興させるため、植木市を開かせたと伝えられています。※

 コロナウィルスの影響のため中止が続きましたが、今年は規模をぐっと縮小しての開催となりました。

わたしの山形日記/薬師祭植木市
今年の植木市。例年より露店の数も人の数もずいぶん少ない印象です。
わたしの山形日記/薬師祭植木市
なんといっても盆栽や植木を並べている露店があるというのが植木市の特徴です。熱心に見ている人も結構います。

 調べてみると、山形市の植木市は日本三大植木市の一つに数えられているのだとか。山形の人にとってはあたりまえの風景すぎて、この祭りが全国的に見てもスペシャルなものであることに気づいている人はとても少ないのではないか、という気がします。

 山形は庭のある家も多く、市民農園や家庭菜園も盛んです。5月初旬はちょうど野菜や花を植えたり、植樹するのにいい季節。植木や鉢花を目当てに足を運ぶ人も多いのだろうと思います。

 私の知っているおばあちゃんも、今年スミレの苗を購入したそう。御年86歳。もともと自宅の庭仕事が趣味で、植木市にも毎年行っていたのだとか。ですが施設に入所されて、大好きな土いじりから離れてしまったとのこと。今年、施設の職員さんと久しぶりに植木市へ足を運んだところ、なんだかまたやる気が出てきたのだそう。「最近全然すねっけ(しなかった)んだけど、久しぶりに植木市行ったら欲しくなってよ~」ととっても嬉しそうに話してくれました。

 かつての庭の様子や今年買ったスミレの話などニコニコと説明してくれる姿は、まぶしいくらいいきいきとしていて。土いじりが大好きなおばあちゃんにとって、毎年の植木市がどんなに大切なイベントだったか伝わってきます。購入した花の苗はたった数株かもしれませんが、その一つひとつが、おばあちゃんの生きる日々をより豊かなものにしているのだと思います。

 お祭りというと「非日常感」のようなイメージが強いですが、植木市はそれだけでなく、私たちの日常生活に根ざした、人生に寄り添ってくれるお祭りなのだなと感じました。

わたしの山形日記/薬師祭植木市
満開のツツジ
わたしの山形日記/薬師祭植木市
かわいいミニ盆栽も売っています

 植木市の魅力は植木だけではありません。食べ物やゲーム、時には食器や衣料品の露店もあります。残念ながら今年は出会えませんでしたが、今時の縁日ではめずらしい「お化け屋敷」の姿も。幼い頃に見た、おどろおどろしくライトアップされた外観と、真っ暗な中お化け役の人がバンバン壁をたたいて迫ってくるあの恐怖は何年経っても忘れられません。

わたしの山形日記/薬師祭植木市

わたしの山形日記/薬師祭植木市
見てるだけで楽しい露店の数々

 さて、平日昼間の植木市は人出も落ち着いていました。ゆっくりとお薬師さまへ参拝し、露店をぶらぶら。すると、すばらしい屋台グルメに遭遇!その名も「餡餅(シャーピン)」。肉餡を生地で包んで鉄板で焼いたもので、これが美味しい!カリカリもちもちの皮の中にジューシーな肉餡がたっぷりで、「カリッ、もちっ、ジュワー」の三段階で口の中が幸せいっぱいになります。オススメです。

わたしの山形日記/薬師祭植木市
初めての「餡餅(シャーピン)」。意外と大きい!

 忘れてはならないのが、山形のソウルフード「どんどん焼き」。山形版お好み焼きとでも言いましょうか、小麦粉を使った生地と、紅ショウガ、魚肉ソーセージ、青のり、焼きのりなどを一緒に薄く焼き、割り箸にくるくると巻きつけ、仕上げにソースをかけたものです。作り手の熟練技は必見。特に最後、焼き上がった生地をテンポよく次々と巻きつけていく様は、思わず目で追ってしまいます。
 
 片手でも食べやすく、お祭りにはもってこいのスタイル。私が小さかった頃はソース味くらいしかありませんでしたが、今はチーズ入りやピザ風など新しい味もたくさん楽しめるそう。今回は母へのお土産ということもあり定番の味・ソースを購入。…が、残念ながら、ソースはソースでもちょっとオリジナル感が強く、よく言えば個性的、悪く言えば何とも言い表しがたいビミョーなお味…。意外とこんな風にお店によっても味が違っていて、どこで買おうか選ぶ楽しさも醍醐味の一つです。

わたしの山形日記/薬師祭植木市

 久しぶりに植木市に行ったせいか、友人や知人との間で植木市の話題になることが増えました。みなさん、何かしらエピソードを持っています。そういう話を聞くと、やっぱり山形の人にとってこのお祭りはすごく身近なものなんだなと思います。

 いろんな人の人生があの植木市という場所で交差していて、しかもそれが400年続いているってすごいですよね。でもいつ行っても「ナニコレ?」という新鮮さと、「コレコレ!」という懐かしさにも似た安心感があるんです。これらがうまく融合して、年代問わず楽しめる植木市の奥行きや懐の深さになっているのかなと。だからこそ何歳になっても行きたくなるし、しばらく行かない期間があっても久しぶりに行ってみるか~という気になるし。それが時代を超えて愛され続けている地元のお祭りたる所以なのかなと思います。

※参考
武田光吉著『やまがたふるさと物語』(昭和52年 pp.158-160)
長井政太郞著『山形県の市の研究』(昭和57年復刻 pp.80-82)
武田正著『山形・村山地方の伝説』(平成12年 pp47-48)

山形市観光協会公式ウェブサイト
山形県ホームページ 山形の旬だより「薬師祭植木市」        
レファレンス共同データベース