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【能登】その“先”を見つめ続けて。/奥能登ドキュメンタリー映画『先に棲む 〜こちら高屋〜 』

地域情報
2025.12.25

今年もスーパーにお餅やおせちの食材が並ぶ季節になりました。それらを目にする度に思い起こすのは「手付かずのままになったお節の行方」。能登半島地震が起きたのは2024年の元日の16時10分。間もなく親族が集い、賑やかに囲むはずだったおせちが「食べずじまいで終わった」という話を能登の方からよく耳にするからです。

おせちの準備なんて大仕事だから、悔しかっただろうなぁ…能登なら集う親族も多いだろうし料理もかなりの量だったのでは…などと。あまりにも甚大な被害ゆえに“現実感”が薄れてしまう時、こういったエピソードのディティールが、自身の感覚に引き寄せる手がかりになることも。間もなく発災から丸2年。今回は、今改めて観ておきたいドキュメンタリー映画をご紹介します。

【能登】その“先”を見つめ続けて。/奥能登ドキュメンタリー映画『先に棲む 〜こちら高屋〜 』
『先に棲む』公式ホームページ。金沢市の認定NPO法人「趣都金澤」が設けた能登文化復興基金の活動の一環として製作。/© sakinisumu

能登の“先っぽ”、日本の“行く先”

金沢市在住の映画監督・森義隆監督による『先に棲む 〜こちら高屋〜 Season1』。“ Season1”とあるのは、5年ほどをかけてシリーズ続編を定点観測的に出していくからだそう。

ドキュメンタリーの舞台となるのは、能登半島の先端である珠洲市にある高屋町。
あえて被写体となる地域を高屋町に絞った理由は「“能登”と一口に言っても半島は広大で、地域によって文化も実に多様です。だからこそ“全体を語る”というよりは、どこか一つの集落に腰を据えて撮ることで見えてくるものがあるのではないかと考えました」と森監督。

【能登】その“先”を見つめ続けて。/奥能登ドキュメンタリー映画『先に棲む 〜こちら高屋〜 』
森義隆(よしたか)監督/1979年埼玉県出身。08年「ひゃくはち」で映画監督デビュー。同作が新藤兼人賞銀賞、ヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞。「宇宙兄弟」でプチョン国際ファンタスティック映画祭グランプリ、観客賞をダブル受賞。16年「聖の青春」では高崎映画祭最優秀監督賞ほか国内外の映画賞を多数受賞。

高屋町の地震後の居住者は約50人で(2025年2月時点)、その8割が65歳以上の高齢者だといいます。

「“先に棲む”というタイトルには、能登半島の“先っぽ”という意味と、日本の“行く先”という意味も重ねています。地震前から能登には過疎化が大きな問題としてあり、それが地震によって“10年早まった”ともいわれている。けれどそれは、この後日本各地で次々起こってくる事態でもあるわけです。“能登でこの先、何が起きるのか”ということは個人的にもずっと気になっていたテーマでした」と語る森監督。

【能登】その“先”を見つめ続けて。/奥能登ドキュメンタリー映画『先に棲む 〜こちら高屋〜 』
お寺を会場とした芸術祭「oterart金澤2025」のイベントとして、金沢市寺町の「長久寺」で開催された上映会の様子。

「能登をどう捉えるのか」、言葉を持っておくこと

映像業界の第一線で活躍している森監督ですが、2016年に家族で金沢に移住。今回の映画は金沢市の認定NPO法人「趣都金澤」が設けた<能登文化復興基金>の活動の一環として製作されました。

「同じ県に住む“隣人”として、能登との対話を忘れてはいけないと思っています」と語る森監督。

「地震が起こる以前は、金沢と能登をどこか“別々”に捉えている感覚があったんです。けれど地震が起きて『金沢から能登をどう捉えるのか』という考えや言葉を持っておくことは、金沢のアイデンティティを考える上でもとても重要なことだと、改めて思うようになりました。(森監督)」

【能登】その“先”を見つめ続けて。/奥能登ドキュメンタリー映画『先に棲む 〜こちら高屋〜 』
© sakinisumu

ただ“生きようとする姿”を見守る

映画は、「はなちゃん」の愛称で親しまれている、町最年少の華子さんの日々に同行する形で展開していきます。華子さんは5年前に高屋町に移住し、地震後も高屋での生活を続けています。

「はなちゃんを主として映像を撮っていこうと決めたのは、彼女が『面白いからここに居る』と話していたから。『この地域を守りたい』とかではなく、ただ高屋での“暮らし”や、そこにおける“体の使い方”が彼女には合っているということ。それって理想的だなと。地域の人達も彼女が“生きよう”とする姿をただ見守っている感じがするんですよね(森監督)」。

【能登】その“先”を見つめ続けて。/奥能登ドキュメンタリー映画『先に棲む 〜こちら高屋〜 』
高屋町最年少の華子さん(右)/© sakinisumu

“大きな文法”から溢れ落ちる、機微のある言葉を集めて

映像をとる上で森監督が意識したというのは「“大きな文法”で撮らないこと」。

「“テレビの文法”や“報道の文法”では見落とされてしまうものを撮らないといけないと思っていました。僕自身同じ県内に住んでいるのに、地震後の実態というか“肌触り”のようなものがテレビを観ていてもわからなかった。綺麗なナレーションではまとまらない、“機微のある言葉”をちゃんと集めようと」

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© sakinisumu

「食べる」ことが、生きていくことの大半

華子さんが行く先々で出会う地元の人々との会話の多くが、“食物”にまつわるもの。

フキノトウが出始めでいい値段で売れる、ワラビのよく生える場所、海苔が取りやすいゴム手袋、カブラ寿司の浸かり具合、次に畑に植える予定の作物ー‥「天気がよければ、仮設住宅でも海苔の話ばかりしている」とも。

映像の中で、ある女性は「考えなくても自然と体が動く、一年の動き方がもう体に染み付いている」と話していました。意味や効率ばかりを求めてしまう時代に、「食べる」ということが、本来「生きる」ことの大半であるという当たり前のことを、会話に占めるパーセンテージが思い出させてくれます。

【能登】その“先”を見つめ続けて。/奥能登ドキュメンタリー映画『先に棲む 〜こちら高屋〜 』
地元の“大先輩”達から、自然と共に生きていく知恵を学ぶ
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海苔は岩場から採り自分で干してつくる。「最初は下手で“硬くて噛みちぎれない”と言われた」そう。/© sakinisumu

「僕にとってのインフラは、話し相手がおるってこと」

撮影の道中、森監督たちが出会った高屋地区のあるお寺の住職の言葉も印象的でした。

「僕にとってのインフラは、話し相手がおるってこと。それから土を耕して作物が作れるということ。特に“土を触る”っていうのは、人間形成のためにすごく大切。そういうのが揃って“インフラ”やと思う。電気や水・トイレというのは、インフラのほんの一部なんだと思う」

インフラを“生きていくための基盤”と捉えるならば、それは「生きるとは何か」を問い直す言葉でもあります。そして「この生活を続けたいのであれば、自給自足を覚悟しなくてはならない時がこの半島でくると思っている」と、住職は続けて呟きました。

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© sakinisumu

「住む」ではなく「棲む」

タイトルである「先に棲む」には、住居などの「住む」ではなく、動物が巣を作りすみかとする際などに用いられる「棲む」の字が当てられています。

「高屋には自然と共に生きてきた素朴な生活があって、ここにすむ人たちも本当に動物的で生命力に溢れている。けれど、その生活が今失われようとしています。

映画のテーマを煎じつめれば、“ここに住めますか?”という問いになると思う。映画の最後の方で『希望はないよ』とある住人の方がおっしゃるんですが、“本当に希望はないのだろうか?”、それをこの先も見つめ続けていきたい」と語る森監督。

【能登】その“先”を見つめ続けて。/奥能登ドキュメンタリー映画『先に棲む 〜こちら高屋〜 』

現在、『先に棲む 〜こちら高屋〜』の“Season 2”を制作中。約5年ほどをかけてゆっくりと記録されていくその映像が、私たちの視線を“その先”へと、静かに促し続けていきます。

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取材:2025年9月
文:柳田和佳奈

URL

▼「先に棲む」公式サイト
  https://sakinisumu.jp/

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