【岐阜】『都市と循環2026』のその先へ。岐阜の素材メーカーを巡る旅(後半)
岐阜県各務原市にある「エスウッド」を舞台に、森の生態系から未利用資源の利活用までを五感で学ぶワークショップと工場見学が開催されました。
今回のレポートでは、参加した私たちが体感した「循環」の物語を、3つの視点に絞って深く掘り下げてご紹介します。普段私たちが何気なく目にしている木材の背景には、山に住む生き物たち、製材所のこだわり、そして「もったいない」を価値に変える驚くべき技術がありました。
森は動物・植物とのシェアハウス
ワークショップの始まりは、「循環とは何か、どこから始まり、どこへ還るのか」を考える時間でした。企画・アレンジを手がけたのは、岐阜県立森林文化アカデミーで林業や木造建築を学び、卒業後に森の活動に取り組んでいる『チーム ヤマサンド』の後藤さんと中村さんです。
参加者はスマートフォンを使い、「循環」から連想する言葉(水、風、エネルギー、社会など)をリアルタイムで挙げながら、議論をスタートしました。


日本、そして岐阜県の森林を紐解くと、大きな課題が見えてきます。
実は岐阜県の森林の約6割(全国では約4割)は、戦後などに人が苗木を植えて作った「人工林」です。しかし、その多くが十分な手入れをされずに放置されています。人工林は、間伐(木を間引くこと)をしなければ、木々が密集して日光が遮られ、地面の土がむき出しになるほど暗く荒れた「生き物が住めない山」になってしまいます。
木を伐採する方法は大きく二つあります。
木をすべて切り出す「皆伐(かいばつ)」、木々の間から光が入ることを考え切り出す「間伐」。
林業において、「皆伐」は非常に効率が良く、一時的に光を入れ猛禽類などの狩り場を作る利点もありますが、環境を大きくリセットします。一方、「間伐」は、手間もコストもかかり林業者にとって利益は薄いものの、豊かな生態系や環境を維持したまま光を入れることができます。

ワークショップでは、参加者が「クマの気持ち」「アユの気持ち」「人の気持ち」になって、それぞれが理想とする森の姿を考えました。

「クマ」の視点
私たちは「クマ=ドングリを食べる」と思いがちですが、実際は秋のドングリだけでなく、春や夏には山桜(ヤマザクラ)の実や山ブドウ、人工林の枯れ木に住む虫(アリなど)を食べて生きています。クマは1日に最大70kmもの長距離を移動する能力を持っており、各地で様々な木の実を食べ、糞をすることで種を運びます。この移動と排泄によって多様な樹種が山に増え、結果として山の多様な生態系が作られているのです。
「アユ」の視点
アユが暮らす美しい川には、水温の上昇を防ぐ「木陰」が必要です。また、川の周囲に生い茂る木々の葉を食べる虫が川へ落ち、それをアユが食べることで豊かな川の生態系が保たれます。
「人」の視点
人工林を健全に保ち、生き物たちが住める豊かな山を守るためには、木を切り、適切に使い、森を整備するお金を循環させることが不可欠です。
「木を考えることは森を考えること。森を考えることは、そこに住む生き物を考えること。」
森はヒトのための場所ではなく、様々な生き物とのシェアハウス。自然資源を享受するには、森全体のことを考えることが必要なことを改めて感じた時間でした。
木材加工場で感じた木の個性
続いて訪れたのは、木材工業団地内にある交告製材(こうけつせいざい)株式会社。



ここでは、丸太から機械で綺麗に皮を剥く(リングバーカーと呼ばれる機械を使用)工程から、柱や板を切り出すダイナミックな製材の現場を見学しました。
製材の過程で剥ぎ落とされる木の皮(バーク)も、かつては処理に困る「ゴミ」でしたが、今では粉砕してバイオマス燃料や家畜の敷木として100%有効活用される循環システムが確立しています。ここでも「無駄なものは一切出さない」という、日本の木材産業に根付く伝統的な知恵と最新の循環を見ることができました。
見学の中で特に印象的だったのは、市場には出回らない「自然の中で生きてきた木の歴史(個性)」が刻まれたコレクションでした。
いくつか代表的なものをご紹介します。



「もったいない」を価値(物語)に変える。
エスウッドの挑戦は、2000年当時、木材自給率がわずか18%まで落ち込み、日本の豊かな森が顧みられず海外からの木材(外材)に依存していた社会課題から始まりました。
先代の社長が「身近な地域に放置されている伐採材をなんとか活かしたい」と奮起し、50代後半にしてこの事業を立ち上げました。柱などの建築材としては使えない細い木、曲がった木、枝葉などをチップ化し、高付加価値なボードへと生まれ変わらせる技術は、今も大切に引き継がれています。
そして現在、エスウッドが取り組んでいるのが、単なる木材のリサイクルに留まらない、他産業の廃材と手を取り合った「街の循環(思いと資源の循環)」です。

最近では、各務原市内に今年オープンしたクラフトビール店から出る、ビールのしぼりカス。
エスウッドはこの残渣を混ぜ込んだボードを共同開発し、店舗の内装材として還元しました。お店を訪れたお客さんがこのボードを見て「これは何?」と興味を持ち、そこからまた新たな仕事や人の繋がりが生まれるという、素晴らしい地域の循環が生まれているそうです。
そして、いよいよメインイベントのオリジナルストランドボードづくり。
エスウッドの代表長田さんから材料のお話を聞き、自分の好きな材料を選んでいきます。


私が選んだのは突板の端材。突板は、150〜200年かけて育った銘木を0.2ミリほどの極薄シート状にスライスし、家具に貼りつけて使用します。しかし、節が少し抜けた、亀裂が入ったというだけで、そのほとんどが不良品として破棄されていました。エスウッドさんはこの貴重な「もったいない」端材を細かくくり抜き、ボードの原料として活用しています。




五感で体感した、思いを紡ぐ「循環」の未来
今回のワークショップと工場見学は、ただ木について学ぶだけでなく、山、川、生き物、製材所、そして都市で暮らす私たちが、見えない「思いと資源」の糸で結ばれていることを実感する旅でした。
エスウッドさんが挑戦しているのは、単に捨てられるはずのものを製品にするだけではなく、そのものに宿る「ストーリー」だと感じています。
そして、物があふれる今だからこそ、そのものしか持つことができない「ストーリー」に価値があるのだとも思います。
【前編:エクシィズ編はこちら】















