【岐阜県・中津川市】里山でDo it ourselves!みんなで描く加子母の未来図
滋賀県栗東市出身の山本明斗さんは、大学時代、「加子母木匠塾」への参加を機に加子母(かしも)の魅力にはまり、アメリカ留学を経た後に岐阜県中津川市加子母地区に移住。現在は地域おこし協力隊として暮らしながら、地元の人と外から訪れる人とが一緒にものづくりを行う〝DIO〟という活動を実践しています。
その一つが、みんなで空き家を解体し、出た古材を次の暮らしへつなぐ「解体祭」。人と人との交流を通じて里山の循環を生み出すことを目指すというもので、そこには単に効率だけでは測れない大きな価値があると言います。
山本さんが描く里山・加子母の未来像について聞きました。


「おかえり」と言われたような加子母との出会い
大学に入学してすぐ「加子母木匠塾」に参加し、山本さんはそこで初めて加子母を訪れました。自身の実家がある滋賀県栗東市も自然豊かな里山。育った環境と似ていることもあり、最初から加子母の魅力に惹かれたと言います。
「初めて来たのに〝おかえり〟と言われたような、なんとも言えない懐かしさを感じたんです。加子母で過ごした時間が本当に楽しくて、すっかりはまってしまいました」
山と緑に囲まれた加子母はまた、古くから地歌舞伎の村としても知られています。明治時代に作られた本格的な芝居小屋「かしも明治座」はこの村一番の観光名所。地元の人たちによる保存会が中心となり、何十年にもわたって公演が続けられています。
そうした伝統文化が、長くみんなの手で守り続けられていることにも深く感銘を受けたという山本さん。大学卒業後は建築を学ぶため1年間アメリカに留学。しかし、その間も加子母で歌舞伎をやってみたいという思いは募るばかり。帰国後ついに加子母に移住しました。
「加子母に来て師匠のもとで歌舞伎を学びはじめ、かしも明治座での公演では役者として出演しています。僕の役は女形。所作を学ぶために日本舞踊も習っています。山に囲まれた小さな村の日常の中に歌舞伎がある。そんな加子母の人たちのライフスタイルがすごく好き。めちゃくちゃ豊かだなと思います」

加子母に根付く「DIO」の精神
そんな山本さんが現在、加子母で実践している主な活動が「DIO」。DIOとはDo It Ourselvesの頭文字で、その名の通り「みんなでやる」をコンセプトに、地域の中にある日常のさまざまなことにみんなで取り組むというもの。
「みんなでやるという概念は、もともとこの地にずっとあった考え方で、昔ながらの加子母の生活そのものがDIOなんです。明治時代に芝居小屋ができたのも、当時の村の人たちが、村での日常に楽しみが欲しいと思ったことがきっかけでした。
財力のある人はお金を、山を持っている人は木を、それが無理なら労働力を提供する、というように、それぞれができることを持ち寄って芝居小屋をつくり、自分たちで地歌舞伎を演じる。みんなでやるという精神は、加子母に限らず田舎では昔から当たり前に根付いていて、僕らはそこに〝DIO〟という名前をつけただけなんです」
さまざまな人が関わり、ともにものづくりをするという「木匠塾」での経験。さらに留学先のアメリカでは、デザインビルド(設計から施工まですべて自分たちの手で行う建築)の概念に出会い、教育プログラムの一環として自分たちで家を設計し施工する実習に参加。それらの経験で得た学びと、加子母に昔からある暮らしや文化のあり方が自然に山本さんの中で重なり、DIO活動の実践につながっていったのだと言います。
古い家の解体作業を
みんなで楽しむ〝お祭り〟に
活動の一環として最初に手がけたのが「解体祭」。きっかけは加子母に暮らす伊藤さんという家主さんの娘さんからの相談でした。
「離れとして使っていた古い木造の建物を、お父さんが一人で壊そうとしているから手伝ってほしいと相談されました。とりあえず、僕と娘さんとお父さんとで解体を始めたんですが、実際に作業をしてみると、床を剥がすといった単純な作業は専門的な技術がなくてもできるということがわかったんです。ただ、誰にでもできるけど、とにかく手間と時間がかかる。こういう作業こそみんなでやるワークショップに向いているんじゃないかと思いました」

以前、広島で参加したある建築スクールで、建物を解体して出た材料を捨てずにアップサイクルする取り組みを学んだことをヒントに、さっそく仲間を集めて解体そのものをワークショップにしようと計画。木匠塾の学生やOBらに声をかけ、県内外から20名ほどが参加。一方、家主の伊藤さんご夫妻を中心にBBQの準備をして迎え、みんなで一緒に食事をする時間までをイベントにして楽しむという狙いでした。

「単に解体作業をボランティアで手伝ってもらうのではなく、参加した人たちにこの地の良さを知ってもらいたいと思いました。そこで、食事から宿泊までをみんなで楽しむ〝お祭り〟にしてしまおうと。普段は都会で暮らしている人が多いので、自然の中で自由にのびのび過ごせること自体が新鮮なのかもしれません。合宿しているような楽しさもありますしね」
作業の後に一緒に食卓を囲むことで
加子母をもっと好きになる
山本さんが解体祭でもっとも大事にしているのが、現場で一緒に作業をし、終わった後にみんなで同じご飯を食べる時間。そのため、家主さんも必ず作業に参加し、みんなに食事を振る舞ってもらいます。
「地元の人におもてなしをしてもらうことで、外から来た人と地域の人が直接交流し、生活している人たちの声を聞くことができる。そうすることでみんなにとって次から加子母が〝帰ってくる場所〟になる。そこがとても大事だと思っています」

「空き家=負債」から「空き家=地域の資源」に変える
地域への愛着といった精神的なものだけでなく、DIOの活動には現実的なメリットもあります。と山本さん。例えば、空き家の解体を専門業者に委託すれば、ゴミの処理費など大きな費用がかかりますが、自分たちの手で行えばそれを大幅に抑えることができ、解体で出た木材や古い家具を捨てずに譲り受け、別の用途に再利用することも可能に。
「解体で出た木材や家具がそのまま捨てられてしまうのを見て、何かに使わせてもらえたらいいなとずっと感じていました。将来的には、そうした古材や家具を集めて小道具店のような場所を作り、捨てられるはずだったものを再利用して利益を生み出す仕組みができたらいいですよね」
〝ものづくりの循環〟を生み出し
古材に宿る「記憶」を次の世代へ
とはいえ、古材の再利用には効率の面などさまざまな課題も。古い建物の解体で出る古材は昔の大工さんが手で切り出してつくったもので、そのまま現代の建材として使うのは簡単なことではありません。
「現代の新建材と比べて強度や規格の面で不安定で、同じものを安定して供給することも難しい。建材として流通させるには非効率ですが、もっと小さなスケールのものに作り直せたらいいと思っています。例えば梁や柱を別の建物にそのまま使うだけでなく、家具や建具など、次に使う人が使いやすい形に再生できれば、建物の記憶とともに長く使い続けることができますよね」
身近に古材を使った家具があることで、そこに宿る記憶や思いまでを次の人へ繋いでいける。その発想の原点には、山本さん自身のルーツや育った環境が大きく影響しているのだと言います。
「僕の父方の祖父は林業家、母方の祖父が大工で、幼い頃から木を使ってものを作る姿を見て育ってきました。同じように加子母にも山があり、木が豊富にあって、林業の人や大工さんがいる。昔から地域の中でものづくりの循環ができていたんですよね。使われなくなった建物を重機で一気に壊して、まだ使える木材までゴミとして捨ててしまう、そんな様子を見るのはつらいので何とかもう一度使えたら。その思いが僕にとって大きなモチベーションになっています」

加子母の魅力を丸ごと体験できる場所を
過疎が進む山間の地域、とはいえ、やみくもに観光地化を進めたり移住者を増やすだけが正しい答えではない。村に愛着を持ち、人との出会いによってつながり続ける人を増やすことが、村にとって真に健全な未来につながるはず。DIOの取り組みの大きな意義はそこにあると、山本さんは考えます。
そこでいま、DIOでは「壊す」だけでなく「つくる」活動も始まっています。現在、村の方が所有する建物をリノベーションし、みんなで使えるコミュニティの拠点を作成中。解体で出た材はそこでも再利用しているそう。

「解体もリノベーションも、僕らだけで完結するのではなく地域の職人さんや大工さんにも仕事としてお願いし、地域の中に仕事を生み出していくことも目指しています。専門的な作業や力仕事以外にも、チラシをつくったり情報を発信したり。やりたいことはいろいろあるので、一緒に活動してくれる仲間が増えてくれたら嬉しいですね。移住でもいいし、数日間だけ滞在する形でも。そのために宿泊できる場所も作りたいですね」

空き家を活用した宿泊施設やみんなが集まれるカフェなど、外から訪れた人がゆっくり滞在できる施設を歩いて回れる範囲の中に整備し、里山の世界観を丸ごと味わえるような場所をつくるのが目標。理想的な加子母の未来、そして自分自身のこれからに向けて夢は無限に広がります。
加子母の一番の魅力は、人の温かさ
山本さんをここまで惹きつける加子母。最後にその魅力を一言で答えてもらいました。
「やっぱり人ですね。どこへ行ってもみなさんが温かく受け入れてくれる。それは一方的に助けてもらえるということではなくて、困ったときはお互いに手を差し伸べ合える関係がちゃんとあります。僕も誰かの力になりたいと思っているし、向こうもそう思ってくれている。そういうお互い様の安心感が、加子母にはあります。僕が加子母に惹かれ、この地で活動を続けている理由は結局そこなのだろうなと思います」
人が集まり、ものが受け継がれ、森と暮らしが循環する。加子母に根付く「みんなでつくる」という文化を守るために踏み出した小さな一歩が、理想的な里山の未来をつくっていくのかもしれません。















