【鹿児島県大崎町】ネガティブを希望に。コミュニティビジネスが拓く限界集落の新たな可能性。/ にたいどっこい
大崎町宮園集落では小さな限界集落を持続するために、障がい者や高齢者が参画者となり役割を果たしながら、協働で竹林整備を行い、竹資源を活用した商品開発、民泊といったコミュニティビジネス「にたいどっこい」を立ち上げています。その背景や現在の取り組みについてメンバーの一人である中野ひとみさんにお話を聞きました。

みんなが集まり、それぞれが役割を担える場所に
宮園集落(以下:集落)は現在、世帯数・39戸、人口・73人という典型的な限界集落となっています。
そんな集落で2022年には地域の高齢者や心身にハンデを持つ障がい者施設の利用者(※1)と一緒に「地域の厄介者になっている放置竹の炭化による竹林整備」「未収穫のタケノコ利用といった未利用資源の掘り起こし」をスタートさせるのです。
(※1)障がい福祉サービスの利用者のこと。


中心となったのはreal local 鹿児島でも紹介した田中力さん。
活動の呼びかけに最初は戸惑い気味だった地域住民や利用者も、協働して放置竹林の整備を行ううちにお互いの違いを受け入れ、同じ目線で目標達成に励むようになってきたといいます。次第に、集落の中で永らく途絶えていた「みんなが集まる」ということに両者とも感じ始めたのだとか。
しかし、限界集落を持続可能なものにするためには、単に人口が増えればいいわけではなかったといいます。集落周辺では外国人実習生も増え、今まで以上に多種多様な人たちを受け入れ、お互いに助け合う心理的安全性が担保され、それぞれに役割がある集落をつくっていく仕組みづくりが必要と感じたそうです。
そこで地域の元商店で数十年空き家だった中野商店を改修し、協働でコミュニティビジネスを立ち上げる決意をするのです。


にたいどっこい
中野商店は集落内で食料品や日用品を扱う個人商店で、夕飯前になると地域のお母さんたちが集まり、毎日のように井戸端会議が行われ、それが自然とお互いの現状報告や家族の安否確認、子どもの進路相談といったおしゃべり(対話)に繋がり、対面によるコミュニティが自然に発生したといいます。
しかし、大型スーパーやコンビニの進出、人口減少の波を受け、閉店。それまで当たり前のように集まっていた情報もコミュニティも自然となくなり、集落存続の危機を強く感じたことも、コミュニティビジネスを立ち上げようと決意した背景の一つなのだとか。


そして、2024年4月。多くの関係者のサポートを経て、中野商店の改修がほぼ終え「にたいどっこい」の屋号で地域交流拠点としてスタートすることになるのです。
「屋号の由来は“似たり寄ったり”と“どっこい”を合わせた造語です。活動をしていく中で、メンバーは高齢者や障がい者、外国人などさまざまですが、みんな優劣といった違いはないですし、ゆっくりしたペースで一緒に歩めたらという想いで一緒に過ごしています。そういった背景からこの2つの言葉は私たちにピッタリと感じたんです。」
改修中に「昔からあるものを活かす・のこす」視点は意識していたそうです。障子や扉、長持ち、数十年前のテレビなど、にたいどっこいの空間には、それらに新たな価値を吹き込んだものが散りばめられています。
「祖母がお嫁に来た時に持ってきた長持ちを活用し本棚にしたり、商店にあった障子や扉はコミュニティスペース内の壁につけたりして、懐かしさも感じてもらえるように改修しました。高齢者の皆さんからは“これ、昔あったのよ”と嬉しそうに思い出話をする声もあります。」


竹林がもたらす恵みを贈りものに
にたいどっこいでは商品開発にも取り組んでいます。そのうちの一つが鹿児島県内でも数少ない国産メンマの製造です。県外の先進地に集落のメンバーで研修に行き、その後、1年程試行錯誤を重ね「竹林からの贈りもの 味付メンマ」が販売されるようになりました。
他にも「竹林からの贈りもの かむかむメンマ」といったおやつ感覚でどの世代も楽しめる商品も。崩れやすいといわれる細くなったタケノコの先端をいかに活用するか。そこに焦点を当てて誕生したものだといいます。
「放置竹林はネガティブな印象を持たれがちですが、せっかく商品にしてお客様に手にとっていただくなら、贈りものとして届けたい。そう思い“竹林からの贈りもの”というネーミングにしました。」
「タケノコは幼竹になったらまた商品として出せますし、青竹なら竹灯篭や竹炭に、竹炭は土壌改良のために活用できるので、竹林は恵みをもたらすものだと感じています。それが結果として、コミュニティ形成や経済の循環、健康増進にも繋がるので捉え方次第ではポシティブに変えられるんです。」



2024年10月からは民泊事業もスタート。全部で2部屋、素泊まりで1泊5,000円(2025年5月時点)となっています。素泊まりにした背景として「大崎町内の飲食店を利用してもらうため」なのだとか(持ち込み飲食も可能)。
また、現在大崎町の暮らしを知ってもらうために、ごみの分別(※2)を体験する仕掛けも用意しているそうです。
(※2)大崎町はリサイクル率日本一を過去何度も達成しており、現在ごみの分別は28種類にもわたるという。


いつでもおいでという扉を拓く
コミュニティビジネスを始めて1年。予想をしなかったことも少しずつ起きているといいます。たとえば、放課後等デイサービス(※3)を利用する子どもたちが町内外から訪れ、長期休み中に竹を活用したモノづくりや遊びを体験する機会が増えてきたのだとか。
普段、子どもたちの遊ぶ声をほとんど耳にすることがなくなった集落にそのような光景が生まれたことに喜びを感じているそうです。
さらに、竹林整備をしている高齢者からは「もっと集落を綺麗にしたい」という声が上がったり、社会復帰を目指す利用者も積極的に役割を担うようになり、その場にいる一人ひとりが前向きな雰囲気になったのが大きな変化のように思えます。
(※3)就学児童(小学生から高校生)で支援を必要とする障がいのある子どもたちが、放課後や長期休暇に利用できる福祉サービスのこと。



最後に今後の展望について聞きました。
「誰かが体調が悪い時は違う誰かが代わりに作業をしたり、自分の体調に合った作業をすることで、それぞれが役割を感じれるので、それがにたいどっこいの良さなんです。しかし、気持ちが前向きになっても、体がついていかないこともあります。だから、無理をしないことは大事にしています。」
「いつでもおいでという扉を拓くように意識しています。特別なことはしなくてもいい、ただいるだけでもいいんです。それでまた来たいと思える場所にしたいですし、次第に役割を見出して、その人だからこそできることが生まれて、大崎町に可能性を感じる人が増えたら嬉しいですよね。」

屋号 | にたいどっこい |
---|---|
URL | |
住所 | 鹿児島県曽於郡大崎町永吉4214-2 |
備考 | 民泊のご予約や商品に関するお問い合わせは「にたいどっこい」公式インスタグラムまでお問い合わせください。 |