【鹿児島県鹿児島市】社会の適材適所を図り、誰もが力を発揮できる環境づくりを / 株式会社スタジオグッドフラット 市村良平さん
鹿児島県内で地域づくり、社会課題解決をサポートする事業を展開する『株式会社スタジオグッドフラット』の市村良平さん。そんな市村さんから現在の事業を通し、どんな社会を目指しているのか、今までの背景を辿りながら聞きました。

社会との関係性の中で何かを生み出す
島根県で生まれ、実家は製材所を営み、大工といった「モノをつくる」職人が身近にいる環境で育ってきた市村さん。いつしか「モノをつくる=建築」の仕事に興味を持つようになり、高校卒業後は鹿児島大学建築学科へ進学します。
大学では設計の課題に没頭。コンセプトや仕組みをつくっていくのが好きだったのだとか。しかし、だんだん研究や勉学が思うように進まず、挫折を味わってしまうのです。悔しい気持ちを抱えながら、さらに学びを深めようと大学院へ進学。そんな時、一冊の本との出会いが、市村さんの心を大きく揺さぶります。それは日本のサブカルチャーに現れた表現や思想の変化を読み解く評論書。
「特に“社会との関係性のなかで何かをつくる”という視点に感銘を受けました。それ以降、研究や設計もその視点から捉えるようになりました。」
大学院時代には、コミュニティデザイナー・山崎亮氏(※1)との出会いが市村さんの進路に大きな影響を与えます。
「山崎さんは“つくる”ではなく、その先の“つかう”という視点で地域や空間、そこに関わる人々の未来を描いていました。その考え方が、私の心に深く刺さったんです。」
“建築をつくる”という視点だけでなく、“空間がどう使われ、どんな関係性が生まれるか”という視点にシフトしたことで、市村さんの進路も変化。設計職ではなく、場の運営や人と人のつながりを生む仕事に魅力を感じ、2011年、鹿児島市の商業施設「マルヤガーデンズ」に就職する道を選びます。
「どうすれば人がこの空間を楽しめるか。企業と社会(=お客様)はどう関係性を築き、共に何を生み出せるか。その問いに挑戦してみたいと思いました。」
(※1)まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、建築屋ランドスケープデザインなどに関するプロジェクトに従事するコミュニティデザイナー。「studio-L」代表。

マルヤガーデンズでは販売促進部に所属しながらコミュニティスペース「ガーデン」のコーディネーターとして従事。施設の広報や販売促進にも携わりながら、さまざまなコミュニティや業種の方々のイベントを受け入れ、多いときは年間350以上の企画が行われたこともあったのだとか。
「僕の役割は商業施設の“内”と“外”を繋げるものだと思っていました。なので、企業と社会との接点だったり、利用するコミュニティと店舗やお客さんとの接点をいかにつくっていくか。そこを意識していたと思います。」
「企業側のルールを守りながら、企画に携わっている人たちの想いも汲みつつ、いかにお客様に楽しんでいただけるように演出するか。そこを常に整えながら動いていたと思います。」
3年程勤務し、2015年に独立。そこから、個人事業「市村整材」として一歩踏み出すことになるのです。




社会にある適材適所を図る
独立する際につけた屋号「市村整材」の由来は何なのか。まず自身のルーツを辿ったといいます。
「僕は仕事として、社会のヒト・モノ・コトを整える、という仕事をしている感覚があって、そのヒト・モノ・コトには適材適所を考えたいと思ったんです。その考えと実家が製材所をやっていたこととかけて市村整材と屋号を名付けました。」
独立後は県内の自治体や事業者、住民とともにワークショップを中心にした事業を展開していくことになります。特に、鹿屋市には6年以上関わり、地域の中に入りながら、地域の現状を分析し、その上で事業計画をつくり、実際に事業を動かしていったのだとか。
自治体・企業・地域といったそれぞれの立場、公共性、経済性…etc
企業に所属していた時と異なり、様々な観点を考慮しながら社会に還元できるようにいかに落とし込んでいくか。その経験は行政事業に関わる今の仕事にも活きているそうです。


2019年。鹿児島県の「男性の家事・育児参画促進事業」に携わったことも一つの転機だったといいます。「育児の日フォーラム かごしま家族会議2019」を開催。意識したのは参加者に「今の社会に合った考え方を提供する場をつくる」ことだったそうです。
イベント後、参加者から「やりたいと思っていたことにアクションを起こせた」「生活スタイルを変えてみた」といった声が多く寄せられたのだとか。それまで企業や地域という単位で社会を見ていたからこそ、新しい気づきを得ることができたと話します。
「一人でも心を動かし、その人の生活や人生に少しでも影響を与える場をつくれたことに喜びを強く感じました。企業や地域に対するアプローチではない方法でも、個人に対して何か影響を与えることができるかもしれない。そんな手応えを感じた事業でもありました。」
その後は同事業や鹿児島県男女共同参画センター主催の女性のキャリアデザインと起業を考える場「ワタシらしい“はたらく”を描くセミナー」を企画するなど、事業の幅が広がってきています。
「男性の家事育児や男女共同参画などは地域の中で見えづらい社会課題でもありますし、その一つ一つの背景や課題はさまざまです。僕の持つリソースを割いて提案していくことで、少しでも社会がより良くなるのであれば、それが結果として社会の“適材適所”にも繋がってくるのではないかと考えています。」


さまざまな領域の継ぎ目となり、誰もが力を発揮でき、評価されるように
市村さんは2021年より「gallery HINGE」を運営しています。その背景の一つが独立後に仕事で関わった多くのアーティストたちだったといいます。
「出会ったアーティストの皆さんはモノをつくる姿勢もですが、何よりも社会に対して鋭い眼差しを向けている人が多く、それがとても印象的だったんです。」
誰もが表現できる場を残していきたい。
もっとアーティストと社会の接点を増やしたい。
その中で今までの仕事や活動の中で得た繋がりを活かしたい。
そんな想いが市村さんの中で芽生え、仕事仲間に声をかけ、ギャラリー兼事務所としてオープンすることになったのです。
「HINGEは部材と部材との継ぎ目を指す言葉です。このギャラリーを通して、さまざまな領域の継ぎ目となる表現の場を目指しているところです。」


「Open Collection 2021」という企画名で個人が所有する作品の展示や、そこから派生した展示会など、市村さんの繋がりだからこそ表現できる場がつくられてきています。
ギャラリーの運営を通して今後目指していきたいことは何なのか。そこについても教えてくれました。
「アーティストとして社会や地域と接点を持つ機会が少ない方に利用してもらえたら嬉しいです。展示をして初めて感触を掴めることも多いですし、繋がりができたからこそ生まれることだってあると思っています。」
「ギャラリーを始めた背景や事業へのスタンスとして、想いや力がある人たちが活躍できて、評価される社会であってほしいことが根底にあるんです。」



身近な人の明日を想うことで、まちの解像度を高める
2023年からは飲食事業として「明日のための惣菜店 笹貫キッチン」をオープンさせています。ここ数年で自身が結婚や子育て、共働きを経験する中で栄養を考えた食事をバランスよく摂ることの大変さを知ったことが背景にあるといいます。
そのタイミングで近所に空き店舗があることを知り、自分たちで健康的な惣菜を提供できるお店を始めようと決意したのだとか。
「地域の人たちに気軽にふらっと買ってもらえる惣菜店を目指し、レシピ開発や雰囲気づくりを行っています。家庭でつくると手間がかかるもの、たとえば、ポテトサラダやチキン南蛮、きんぴらごぼうなどをメニューとして提供しています。」
次第に地域の人から提供メニューのリクエストが出てくるようになったのだそう。その中で実際にメニュー化されたものもあり、地域との信頼関係を少しずつ構築できている手応えを感じているといいます。
スタッフにとっても働きやすい職場になってほしいという想いから、家庭の事情などを考慮して、スタッフが入りやすい時間帯や曜日でシフトを組むように心がけているそうです。


笹貫キッチンがオープンして約1年半。信頼関係だけでなく、まちに対する解像度も変わってきたと力強く語ります。
常連客が増え、スタッフと顔を合わせる中で「あのお客様、今日は元気なかったね」「今日は笑顔で話してくれたよ」といった一人ひとりとの繋がりの濃さが深まってきたといいます。
「お客様が明日も頑張ろうと思ってもらえるように食から目の前の人たちを支えていきたい。そんな想いで“明日のための惣菜店”としました。」
「うちにシェフはいませんが、スタッフ全員でそれを体現できるようなコミュニケーションと商品を提供しましょう。そのために安心感を感じてもらえる優しい味つけや気分が上がる彩りのある盛りつけといった、みんなにシェアしたくなる工夫をしましょう。とスタッフに伝えています。」


全体と細部を行き来しながら、今の環境を変える環境づくりを
2025年6月1日で、独立してから10周年を迎えた市村さん。2022年からは個人事業と法人(株式会社サルッガラボ)を統合し「株式会社スタジオグッドフラット」として現在に至るまで走り続けています。
企業や自治体、個人、地域など関係性を育みながら領域を超えて事業を広げてきたから市村さんだからこそ見据える今後の展望について聞きました。
「元々決められた枠を超えて提案していかないと変わらないと感じています。行政と民間、また民間の中でも職種や規模が違ったりするので、その間を行き来しながら社会課題に向き合いながら事業を展開できたらと思っています。」
「ここ数年でギャラリーや惣菜店を始めたことで、地域の細部を見れる機会も増えましたし、そこを行き来できるのは僕だからこそできることだと思っています。」
「その中で見出したものを自治体や民間にも提案できるようにすることがこれから10年の宿題だと感じています。そのためには今の環境を変える動きにシフトしていった方がいいのではないかと考えています。これからもさまざまな領域の人や地域の人たちの声を聴き、全体と細部の流れを捉えながら、納得して進めるプロセスを共につくっていくことに精進したいです。」
屋号 | 株式会社スタジオグッドフラット |
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住所 | 鹿児島県鹿児島市加治屋町1-7 山崎ビル207 |
備考 | ●株式会社スタジオグッドフラット 業務内容 https://studiogoodflat.jp/menu ●株式会社スタジオグッドフラット お問い合わせ先 https://studiogoodflat.jp/contact ●gallery HINGE SNS https://www.instagram.com/gallery.hinge/ ●笹貫キッチン SNS |