【岐阜県各務原市】ファンに愛される〝ハーブサウナの聖地〟 日本温浴研究所『恵みの湯』

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ハーブの香りに包まれて、サウナやお風呂で心身ともにリラックス…。
至福の時を楽しむハーブ系入浴剤はたくさん出回っていますが、生きたままのフレッシュなハーブを使ったサウナを味わったことはありますか?
漫画『サ道』のヒットなどが火付け役となり、空前の盛り上がりとなったサウナブーム。
一時的な流行を超え、いまや日常的な習慣として私たちの生活に根付きました。
サウナでの過ごし方やお風呂を楽しむ空間に求められる価値がますます多様化するなかで、岐阜県各務原市にある「恵みの湯」がいま、多くのサウナファンの間で注目されています。
日本ではここだけという、自家農園で栽培される生のハーブを贅沢に使ったサウナとお風呂が大人気の「恵みの湯」。運営する株式会社日本温浴研究所の代表取締役、星山道弘さんにその魅力を教えていただきました。

スーパー銭湯ブームに先駆けて
30年前に開業
今から30年前、地元の人たちに愛される庶民的なお風呂屋さんとしてオープンした「恵みの湯」。当時、スーパー銭湯ブームの先駆けとして話題になったものの、時代はバブル経済崩壊の直後。
さらに戦争の影響で原油価格の高騰が続くなど、新しい事業のスタートとしては厳しい船出でした。
社会全体が鬱屈した空気に包まれるなか、「恵みの湯」の経営も間もなくひっ迫。そのころ名古屋で会社勤めをしていた星山さんが、創業者である父の後を継ぐ形で、急遽、経営を担うことになりました。
「時代が悪かったこともあり、経営は厳しかったですね。どうしたら良いかと悩んで僕なりにいろいろリサーチし、コストをかけずにエネルギーを節約することが大事だと気づいたんです。
ただ情報をキャッチしてそれをそのまま取り入れているだけではだめだと思い、まず、前提条件となる部分を見直すことにしました。
自分たちの頭で考えて自分たちの手で作るというところから物事を捉え直し、新しい商品を生み出すなら、他にないものを作るべきだと考えました」
あふれるほどの情報や移りゆく流行に惑わされず、そもそもの前提や先入観を見直し、時に常識を疑ってみることで見えてくる本質。
星山さんが大切にしたこの視点をもとに、他にはない自分たちならではのサービスを模索する日々が続きました。
薬草やハーブの産地として古くから知られてきた岐阜県
岐阜県、とりわけ伊吹山周辺の地域は古来、薬草の産地として知られ、奈良時代には天皇に献上されていたという記録が残るほど長い歴史があるのだとか。
この伊吹山周辺で採れるハーブとの出会いをきっかけに、サウナやお風呂といった癒しの空間にハーブを使うアイデアが生まれました。
「この地域で採れるハーブは上質で、薬草湯にするととにかく香りが素晴らしい。最初は乾燥したものをサウナに使っていましたが、生のものと比較すると同じ種類でも感じ方がまったく違うんですよ。香りそのものは良くても乾燥ハーブは長く続かないんです」

自家農園でのハーブ栽培に挑戦しついにハウスとファクトリーを新設
できることなら本物の生のハーブをサウナに取り入れたい。しかし、年間通してコンスタントに手に入れることはなかなか難しく、そこからさらに数年にわたる試行錯誤が続きました。
「まずテスト的に農業をやってみましたが、路地でハーブを育てるのは想像以上に大変でした。夏の猛暑と冬の寒さに加え、ちょっと目を離すと雑草は生える。
ものすごく手間がかかるんです。たとえ機械化したとしても、農業で収益を上げるのは難しいということがよくわかりました」
そうした経験を踏まえ、改めて仕組みを考え直した星山さん。路地栽培からハウス栽培に切り替え、入浴施設の隣に「湯癒草々GARDEN&FACTORY」を新設。
完全スマート農業を導入したハウスでは、温度、水、栄養、光など、ハーブ栽培に必要な要素をすべて自動で管理。季節によって種類や数に違いはありますが、一年を通し安定した栽培が可能になりました。

採取した植物の加工、検査、梱包、出荷に至るまで、すべての工程を一貫して行うファクトリーは、ハーブの研究所としての機能も備えています。
ハーブを使った入浴剤にはさまざまな効能や癒し効果があるそうですが、商品として扱うためには薬事法など厳しい品質検査をクリアする必要があり、定期的な検査に対応するための本格的な設備も整えました。
「ファクトリーはガラス張りにして作業工程をみなさんに見ていただけるようにしました。お客様を集めてイベントができるスペースもつくり、実際にハーブを収穫する体験会や入浴剤を作るワークショップ、ゲストを招いてのトークイベントなども行っています」




こうした施設がお風呂屋さんのすぐ隣にあることで、体験の価値がよりダイレクトに伝わるのだと星山さんは確信。また、行政とともに社会課題の解決に繋げる形で栽培作業の負担を軽減する工夫もしました。
「ハウスでは地域の高齢者のみなさんにボランティアでハーブのお世話をしていただいていて、作業後は無料でお風呂に入ってもらっています。ハーブの香りを吸ってみんなお元気ですよ!」

自分たちだからこそできること。
一途なこだわりがファンの心を掴むまで
開業直後、時代の波に翻弄され経営難に陥った「恵みの湯」。厳しい局面で原点に立ち返り、地域資源の価値に気づいた星山さん。
その価値を丁寧に伝える努力を重ね、いまでは他にない、ここだけの魅力で広く愛される存在に。
遠く関東や関西からわざわざ訪れるファンが増えるなど反響は大きく、独自のサービスに注力したことでさまざまな変化があったそうです。
「香りだけでなく、落ち着きのある照明にするなど、よりリラックスできる工夫をしています。以前に比べて若い世代のお客様、なかでも女性の方が増えました。
それによってお客様全体のマナーが良くなって、空間をより満足していただけるようになりました。
そしてもう一つ、うちで働きたいといってくれる人が増えたんです。これは思っていた以上の反響でした。
各務原に限らず今はどの業種でも働き手不足に悩んでいると思いますが、うちはおかげさまで従業員さんの募集に経費をかけずに済んでいます」


館内では生のハーブならではの香りを体験
誇りをもって
最高の癒しを提供する喜び
流行を追って次々に新しいものを取り入れたり、設備を豪華にするだけではお客様に満足していただくことはできない。そんな自身の信念を貫き、多くのサウナファンの心を掴んだ「恵みの湯」。
父が始めた事業を思いがけないタイミングで引き継ぐことになった30年前。厳しい経営状況を乗り越え、ここまで続けてこられた理由を改めてお聞きすると、星山さんから明快な答えが返ってきました。
「お風呂屋さんはたくさんの人に喜んでもらえる仕事なんですよ。目の前のお客さんに『気持ちよかった』とか『ありがとう』って直接言っていただくことが嬉しくて、ここまでやってこられたと思います。
スタッフのために毎日のようにお菓子を差し入れてくださったり、時には感謝の気持ちでお小遣いをくださるお客様もいます(笑)。
みなさんに最高の癒しを提供できることで、世の中を少しでも良くすることができている。その実感が一番のやりがい。この思いは自家製のハーブを提供するようになってより高まりました」

健康な生活を叶えるサウナをもっと身近に
星山さんが目指すもの
お風呂屋さんやサウナは昔から人を人とを繋ぐハブのような場所。地域のコミュニティが生まれる場としても機能してきました。
心身ともに疲弊している人が増えている現代、そういう価値があたらめて見直されていることも、ブームの背景にあるのではと星山さん。
そんな星山さんがいま手掛けているプロジェクトが、岐阜県飛騨市古川町に2026年4月に開校する「Co-InovationUniversity」横に新設される入浴施設のプロデュース。
(入浴施設は2028年に開業予定)
種類豊富な質の良い薬草が自生することから薬草に関する取り組みが盛んな飛騨市で、地域の資源を活用した新しい癒しの空間の誕生に期待が集まっています。
最後に星山さんが目指すサウナのこれからについて聞きました。
「健康な生活を叶えるためにサウナは今後ますます身近なものになっていくでしょう。私自身は、年々本業以外の仕事が忙しくなってしまっていますが、『恵みの湯』では、いまある温浴施設をより充実させるための取り組みも模索しています。
それと同時に、これまで培ったものを生かして都心や企業内などサウナのある環境を社会に広く整えていきたいですね」

















