【鹿児島県大崎町】一緒に考え、受け止める。共に育む「もう一つのおうち」/ もちっこもりのおうち 柳原路子さん
大崎町・持留地区にある「もちっこもりのおうち」は、子どもたちが放課後を過ごす居場所です。労働者協同組合を母体に運営しており、柳原路子さんを中心に、地域や仲間とともにその場を育んでいます。子育てや地域との関わりを通して育まれた思いが、この場所には息づいています。その歩みを辿りました。

一緒に考え、答えを導く
路子さんは高校卒業まで奄美大島で育ちました。
休日になると、お父さんに連れられて自然観察や昆虫採集へ出かけたり、泥染めや黒糖づくりなど島の文化に触れたり。地域の大人たちも、子どもにも分かるように自然や暮らしについて丁寧に教えてくれたといいます。
「そうした日々が、知ることへの興味や好奇心を育んでいきました。さらに中学生になる頃には、学校の先生に憧れを抱くようになりました。先生たちは、自分の子どもじゃないのに、本当に熱心に向き合ってくれたことがずっと心の中に残っています」

高校卒業後は、故郷を離れ、鹿児島本土の大学へ進学し、教職課程も履修しました。
学生時代は、アルバイトで家庭教師をしたり、科学館で子どもたちと関わる仕事を経験したりと、学外でも子どもたちと接する機会を重ねます。
「子どもたちが”分かった!”って表情をする瞬間が好きだったんです。ただ答えを教えるんじゃなくて、一緒に考えながら、その子なりの答えにたどり着く。その時間がすごく楽しかったです」
もう一つ、大きな経験になったのが大学の自治寮での暮らしでした。
「学生自身が運営する寮では、規則を見直したり、新しい取り組みを話し合ったり、生活に必要なことを学生同士で決めていきました。まずはみんなの話を聞いて、その声を受け止めながら一緒に考えていく。そんな時間は今の私につながっていると思います」

誰かに受け止めてもらえる場所があること
大学卒業後は金融機関へ就職。しかし、自分の進みたい道との間で迷いが生まれ、半年ほどで退職します。
結婚を機に大崎町へ移り住むと、学童や保育園で子どもたちと関わる仕事に就きました。
その中で、一人ひとりの子どもと向き合うことについて考える機会が増えていきます。
「集団で生活する場には、それぞれ大切にしている方針があります。一方で、”この子は本当はどうしたいんだろう?”と、一人ひとりの気持ちに目を向けることも増えていきました」
「そんな頃、自身も子育ての真っ最中でした。長男は幼い頃から、自分が興味を持ったことには夢中になる子どもでした。その姿を見ながら、周囲と同じようにできるかではなく、一人ひとり違う育ち方があることを実感していきました。この子には、この子の良さがある。みんなと同じようにできることよりも、その子が何に興味を持ち、心を動かされるのか。その一つひとつを大切にしたい。そんな思いが、少しずつ大きくなっていきました」

一方で、知り合いもいない土地での子育ては、不安の連続だったといいます。
そこで何度も足を運んだのが、町が運営する子育て支援センターだったそうです。
「ただ話を聞いてもらえるだけで、気持ちがすっと軽くなったんです。誰かに受け止めてもらえる場所があること。その安心感は、今でも私の中に残り続けています」

お互いに助け合う文化から生まれたもの
結婚を機に大崎町へ移り住んだ路子さん。子育てに追われる毎日で、地域との関わりはほとんどありませんでした。
転機になったのは、地域の班長を任されたことでした。
回覧板を届けようにも、誰がどこに住んでいるのか分からない。一軒一軒近所の人に尋ねながら地域を回る毎日だったといいます。
「”こんなことも分からんとね?”って言われることもありました。でも、最後までちゃんと教えてくれるんです。地域の行事や暮らしの習わしも、一つずつ教わりながら覚えていきました」

班長の役目を通して少しずつ地域の人たちと顔を合わせ、言葉を交わすようになると、子どもたちにも自然と声を掛けてもらえるようになりました。
野菜やおかずを分けてもらったり、子どもたちを孫のようにかわいがってもらったり。そんな日々を重ねる中で、地域の人たちとの距離も少しずつ縮まっていったそうです。
「奄美には”結(ゆい)”という、お互いに助け合う文化があります。地域の皆さんと交流するうちに、その空気にどこか通じるものを感じるようになりました。親だけじゃなくて、地域のみんなで子どもを育てる。そんな感覚が、私たち家族が住んでいたい地域にもあったんです」
「地域の人たちとの関わりを重ねる中で、子育ては一人で抱え込むものではないと思うようになりました。そして、持留にも放課後を安心して過ごせる居場所があったら。そんな思いが芽生え、”もちっこもりのおうち”の立ち上げにつながっていきます」

もちっこもりのおうち
当時、持留には放課後を過ごせる子どもの居場所がありませんでした。
多くの家庭が大崎町の中心地まで子どもを送迎しており、共働き世帯にとっては大きな負担になっていました。
「それが理由で、持留から引っ越してしまう家庭もあったんです。このままでは子どもたちが少なくなってしまうんじゃないかと思いました。そんな思いを抱えていた頃、『ふむふむ』を運営する藤田香澄さんとの出会いをきっかけに、労働者協同組合という働き方を知りました」
労働者協同組合は、働く人一人ひとりが出資し、それぞれの得意なことを生かしながら、対等な立場で話し合い、事業を運営していく組織です。誰か一人が担うのではなく、みんなで考え、みんなで決め、みんなで実践していくことを大切にしています。
「私は率先して引っ張っていくタイプではありません。でも、みんなで同じ立場で考えながらつくっていく組織なら、自分にもできるかもしれないと思いました。こんな私でも、地域のためにできることがあるかもしれない。そう思えたことが、一歩踏み出すきっかけになりました」

そして2024年10月、『もちっこもりのおうち』がオープンしました。
活動の拠点を探していたところ、ご縁があって近隣地域の人が所有する空き家と出会います。
その場所は、かつて地域の人たちが集い、親しまれてきた建物でした。
子どもたちの笑い声が響くようになった今、地域の人たちも再び足を運ぶ場所になりつつあります。
「道路から少し坂を上ると、木々に囲まれた静かな空間が広がります。まるで、ジブリの世界みたいなんです。”もちっこ”とは地域の子どもたちを親しみを込めて呼ぶ言葉です。”もり”には自然の中でのびのび育ってほしいという願い、”おうち”には、子どもだけでなく地域の人たちにとっても、もう一つの家のように”ただいま”と帰ってこられる場所でありたいという思いを込めました」

子どもも大人も、共に育つ
『もちっこもりのおうち』で路子さんが大切にしているのは、「共育」という考え方です。
子どもを一人の人として尊重し、その子が何に興味を持ち、何を感じているのかを丁寧に見つめる。そして、大人がすぐに答えを出すのではなく、子どもたち自身が考え、対話しながら答えを見つけていく時間を大切にしています。
不定期で開かれる「もちっこ会議」では、「こんなことをやってみたい」「もっとこうしたら面白そう」といった子どもたちの声を聞きながら、活動を一緒につくっています。

印象に残っている出来事を尋ねると、こんなエピソードを話してくれました。
「普段はみんなで遊ぶことにあまり参加しない子が、パワーショベルの見学に行った時だけ目を輝かせていたことがあったんです。”この子はこんなことに興味があるんだ”って、新しい一面を知ることができました。」
その子が何に心を動かされるのか。
何に夢中になるのか。
子どもたちの可能性は、大人が決めるものではありません。
だからこそ、一人ひとりをよく見て、その子らしさを大切にしたいと路子さんは話します。



活動が始まってから約2年。
口コミで利用する子どもたちが少しずつ増え、持留だけでなく、ほかの校区から通う子どもたちの姿も見られるようになりました。
子どもたちの変化に合わせるように、地域にも少しずつ変化が生まれています。
”草刈りを手伝おうか?”
”何かできることはない?”
そんな声を掛けてくれる地域の人やボランティアとして関わる人も少しずつ増えてきたのだとか。

最後に、この場所が10年後、どんな風景になっていたらうれしいですかと尋ねました。
「子どもたちが安心して過ごせる場所であり続けることはもちろんですが、大人も”こんなことをやってみたい”と思った時に、自然と集まれる場所になったらうれしいです」
少し間を置いて、こんな言葉も続けました。
「子どもたちも地域の大人も、お互いに育ち合える場所でありたいです。一人ではできないことも、誰かと一緒なら形にできる。そんな風景が、この地域の日常になっていったらいいなと思っています」

| 屋号 | もちっこもりのおうち |
|---|---|
| URL | |
| 住所 | 鹿児島県曽於郡大崎町持留354 |
| 備考 | 運営:労働者協同組合こだち |














