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馬場正尊 talk about 山形 01/「七日町、クリエイティブでエッジが立つ面白さ」

2016.12.19

さて、今日のテーマは「七日町」ですね。じゃあ、ざっと、時系列でいきましょうか。

僕、九州出身だし東北地方ってほとんど行ったことなかったんですけど、10年ほどまえに突然、地縁もなくポーンと、すごいよそ者としてすごく客観的な目をもって山形に来ました。
しかも、まさかの、大学の先生として(※1)。

※1 : 2008年 山形市にある東北芸術工科大学建築学科に准教授として着任。2016年より同大学教授。

 
馬場正尊 talk about 山形 01/「七日町、クリエイティブでエッジが立つ面白さ」
すでに僕はリノベーションをやっていましたけど、面白いことに学生たちもけっこうリノベーションをやりたがる。たぶん彼らも「自分たちの時代は新しい建物がボンボン建つような時代じゃない、古い建物の再生をやっていかないことには新築だけではそんなに仕事がない」って本能的に知っている感じで、すでにある建築物とか都市との付き合い方とかをおのずと考えたりしていました。

僕が学生の頃は「新築の美術館つくりてえ~」なんていうのが夢だったわけだけど、今の学生たちは「行政ってあんまりお金ないからでっかい美術館なんてそうそう建てねえよなあ」って感じ。彼らを見て「そうか、そういう世界観なんだなー」って思ったりしながら、学生たちと一緒に「山形におけるリノベーション」をいろいろトライアルしてきたんですね。

そうした活動のひとつが〈山形R不動産〉。机上の図面描きだけじゃなくて、山形R不動産というWebサイトをつくり、実際にリノベーションするチームもつくり、そして実際に図面を描いて現場でつくるという、社会人のような仕事を学生にさせてみよう、と。

ちっちゃなアパートとか一軒家とか、いろいろやってきました。そのうちのひとつが七日町にある〈ミサワクラス〉っていう、古い旅館を学生たちのシェアハウスにリノベーションしたものだったわけです(※2)。

馬場正尊 talk about 山形 01/「七日町、クリエイティブでエッジが立つ面白さ」
※2 : 2009年、山形R不動産の「空き物件再生プロジェクト」第1弾として、山形市七日町の旧三沢旅館をリノベーションしシェアハウスとして再生させた。2016年現在も社会人や学生等が暮らしている。

最初はそんな感じで建物単体を見ていたんですけど、ミサワクラスのある七日町が山形の街の中心である(※3)ということでシンボリックなエリアだなという認識もあって、おのずと七日町をターゲットエリアに設定していったのかもしれません。

そして、2011年の震災。街がエリアごと流されてしまうような出来事が起きたときに「エリアをなんとかしなきゃ、街自体について考えなきゃ」っていう思いを東北はすごく感じたのではないかなと思います。

学生たちは建物単体だけというよりも「自分たちの〈街〉を」ということについて否応なく考えさせられた。大きな時代の流れもあったけど、震災がさらにその傾向を強めるきっかけになったのでは、という気がします。

それで僕らは七日町をフィールドにして、空き物件だらけの地方都市の現実と向き合いながら「大学がどう街に関わるか」とか「学生がどう具体的なかたちで街に関われるか」ということを模索してきたわけです。

馬場正尊 talk about 山形 01/「七日町、クリエイティブでエッジが立つ面白さ」

※3 : 山形市の七日町(なのかまち、正確には「なぬかまち」)は地元の百貨店や飲食店が並ぶ、山形市の繁華街。空き物件も多く、ミサワクラスやとんがりビルなど、馬場さんが関わってきた山形のリノベーション・プロジェクトも数多く実施されている。

今、いろんな意味において山形は面白い。ポイントをあげるすると、ひとつは人口25万人くらいの都市(※4)って日本中にすごくたくさんあるんですよね。しかもみんな同じような状況にある。

それぞれに都市の事情はあるけれども、その規模の都市の諸問題とくに中心市街地の諸問題に対して、どういう具体的な方策や具体的なデザインがインストールできるか、というトライアルをするにはすごくいいと思っているんですよね。それはある種ニュートラルな、一般解として。

※4 : 山形市の人口は2015年現在で約25.3万人。

もうひとつ、特殊解としては、ここに東北芸術工科大学があるということ。けっこう面白いタレントがいますよね。大学の卒業生もたくさんいるし、宮本さん(※5)みたいな人もいるから外からやってくるアーティストもいるし、小板橋さん(※6)だってそうだし、なにかが起こしやすい環境にあるのはまちがいない。

しかも、アートやデザインというクリエイションでエッジを立てながら、町とクリエイティブの掛け合わせみたいなことが実験できる。山形の場合、エッジが立てられるのはそこだとはっきりわかる。

例えば nitaki(※7)なんかはそのクリエイティブなところに「食」というテーマが入ってきたり。そういうのが面白いな、山形ならではだな、と。ここにすごい可能性を感じているんですよね。

※5 : 宮本武典 キュレーター。「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」プログラムディレクター。東北芸術工科大学准教授。

※6 : 小板橋基希 東北芸術工科大学卒、アートディレクター・デザイナー。akaoni 代表。

※7 : とんがりビル1Fにある食堂。リノベーションした空間で山形の食材にフォーカスした創作料理を提供。

さらに山形市は、最近市長さんが変わったり(※8)、若くてやんちゃな公務員さんが登場して来たり、それこそ〈reallocal〉も始まるし、水面下で動いているいくつかのプロジェクトも面白くなりそうだし。

シネマ通り(※9)は妙に広くてクルマ通りも少なくて歩道がめちゃくちゃ広いから、道路というパブリックスペースを使った「通りそのもの」をブランディングすることができるんじゃないか、とか。

もう、実験のフィールドとしてはおいしいものが一杯眠っているぞ、という感じ。そこにキャストも揃ってきて、今、山形市は、大きな変化を迎える入口にあるんじゃないか、そういうタイミングが来たんじゃないか、と僕は本能的に感じています。

そういう意味では、ターゲットエリアとしてというよりは、ワクワクする場として「七日町」は本当に面白いのかもしれないですね。
(2016.12.7)

 

馬場正尊 talk about 山形 01/「七日町、クリエイティブでエッジが立つ面白さ」

※8 : 2016年9月、第18代山形市長に佐藤孝弘氏(41才)就任。空き家対策やまちなか居住の推進も政策に掲げている。

※9 : 山形市七日町シネマ通りには、その名の通り、かつて映画館が立ち並んだ。現在ではただの1軒の映画館もないが、古くから商売を続けているお店や、リノベーションによって生まれ変わった珈琲店やビルなど、また新たな活気を見せつつある。

馬場正尊
Open A代表/東北芸術工科大学教授/建築家
1968年佐賀生まれ。1994年早稲田大学大学院建築学科修了。博報堂、 早稲田大学博士課程、雑誌『A』編集長を経て、2002年Open A を設立。 都市の空地を発見するサイト「東京R不動産」を運営。東京のイーストサイド、日本橋や神田の空きビルを時限的にギャラリーにするイベント、CET(Central East Tokyo)のディレクターなども務め、建築設計を基軸にしながら、メディアや不動産などを横断しながら活動している。

聞き書きと注釈:那須ミノル

【馬場正尊talk about 山形】アーカイブ

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