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「暮らしにドキュメンタリーを」 阿部啓一さん×髙橋卓也さん/わたしのスタイル2(後編)

前編では、はらっぱ保育園園長の阿部啓一さんと、山形国際ドキュメンタリー映画祭理事兼プロジェクト・マネージャーの髙橋卓也さんから、お二人が企画した映画の無料上映会「里山上映会」のこと、お二人にとって映画やドキュメンタリーがどんな風に日常と結びついているかなどのお話を伺いました。後編では、お二人がこれまで上映してきた作品のこと、映画とともにあるその時々のエピソードなど、お話しいただきました。映画を語ることは、自分自身を語ること。作品や上映会、仕事を通じて、人と触れ合い、人を科学する、お二人らしい対話です。ぜひご覧ください。

「暮らしにドキュメンタリーを」  阿部啓一さん×髙橋卓也さん/わたしのスタイル2(後編)
子どもたちと、はらっぱ保育園園長の阿部啓一さん(左)と、山形国際ドキュメンタリー映画祭理事兼プロジェクト・マネージャーの髙橋卓也さん(右)。

――里山上映会の会場のはらっぱ里山保育園ができたのは、映画「里山っ子たち」(原村政樹監督、2009年公開)の上映がきっかけだったとは驚きでした。

髙橋:阿部さんとは自主上映をぽつりぽつりやってきたんですけど、「里山っ子たち」の前に「よいお年を」(宮崎政記監督、1996年公開)という映画の上映会もやったんですよ。それは新庄出身で現在は監督になられている大宮浩一さんがプロデューサーを務めていました。ちょうど私もお袋を介護して亡くしたあとだったのと、阿部さんのところは高齢者の介護施設をやり始めた時期で。映画の舞台も、保育園と介護施設が一緒になっている民間の福祉施設なんですよ。そこで認知症の老人たちが子どもたちと交わることで自分を取り戻したり、自分の役割を自覚して人間らしい行動ができるようになったりして、逆に子どもたちの方にもいい影響があったりするようすが映し出されていて。そんな作品を上映してしばらくすると、阿部さんは介護施設の隣に保育園をつくっちゃってた(笑)映画を上映することで、きっと阿部さん自身も新しい展開をしてきているんだなあって。

阿部:そうですね。地域の方々の求めを受けて、介護施設から保育園へとだんだん広がっていったんですよね。

―—ところでお二人が最初に出会われたきっかけも、やはり映画なのですか?

髙橋:あまり記憶がないんですけど、映画だったと思うなあ。初めて一緒に上映会をやったのが、「センス・オブ・ワンダー レイチェル・カーソンの贈り物」(小泉修吉監督、2001年公開)ですかね。環境問題を訴えた海洋生物学者のレイチェル・カーソンは、子どもたちと自然をテーマにエッセイを書いているんですよ。それがめちゃくちゃいいんですね。私のバイブルみたいなもんです。それを日本で普及させた翻訳者の上遠恵子さんが案内役になって、ドキュメンタリー映画ができたときだったんですね。だから、中身を観るまえに「これはやりたい」って思ったんですよ。それでたしか阿部さんに持ちかけて。もう10年くらい前かなあ。

阿部:グループ現代のみなさんが制作したもので、レイチェル・カーソンを追うという内容でしたね。

髙橋:それ以前にも、阿部さんは山形市内の映画館、フォーラム山形によく来ていたし、いろんなところで会ってはいたんだね。そして時々会うと、絵の展示会をやっていたり、ネパールに行ってきたって言ったり、ちょっと変わっていてね。「あ、一緒に遊べる人がいたぞ」って気持ちでしたね(笑)

—―今年は山形国際ドキュメンタリー映画祭の開催年でしかも30周年ですね。

髙橋:そうですね。山形国際ドキュメンタリー映画祭が軌道に乗ってから意識したのは、ドキュメンタリー映画祭をやっている山形で、もうちょっとカジュアルな、別のスタイルで作品と出会う場所をつくりたい、ということでした。そのために、今回からは各地での上映会をプレイベントと位置付け、各地域の主催者を応援しながら、市民同士が近い距離でドキュメンタリー映画を観ましょうということを企画しているんです。例えば83日(土)には、舟形町で「縄文にハマる人々」(山岡信貴監督、2018年公開)を上映する予定です。映画祭は映画祭、地域のことは各地域で、ということではなくて、どこかでつながっていて、応援したり、映画祭の人間も地域に参加して交流すれば、映画祭の裾野もふつうにどんどん広がっていくんじゃないかと。だから私は事務局にはあんまりいないんですけど(笑)

「暮らしにドキュメンタリーを」  阿部啓一さん×髙橋卓也さん/わたしのスタイル2(後編)
photo 工藤豊

阿部:2011年に山形国際ドキュメンタリー映画祭でも上映された「よみがえりのレシピ」(渡辺智史監督、2012年公開)は、イタリアから招待されて上映しに行ったんですが、そのとき私も製作委員会のメンバーだったので、渡辺監督の鞄持ちで髙橋さんと一緒にイタリアへ行ったんです。ユネスコの創造都市ネットワークに加盟する都市がイタリアにはたくさんあり、私たちはボローニャに行きました。そこは子どもの絵本のコンクールやブックフェアが開催されていて、毎年バイヤーが世界中から集まり、非常に盛り上がるところなんですね。しかしボローニャの市民からすると、それらの作品に触れる機会がぜんぜんないので、各地域や学校に各国から集まった絵本を共有し、みんなで楽しむ機会をつくるという取組みをやっていたのね。それは山形における映画も同じで、山形国際ドキュメンタリー映画祭と同時に、草の根的にいろんなところで映画を楽しむ機会があって、それが観る人の生活を後押ししてくれたり、そんなふうになっていったらいいなあと思いましたね。

髙橋:「よみがえりのレシピ」は、私もプロデューサーとしてかかわって、たくさんの人たちと一緒に映画をつくれたことが、とても大きい経験だったんですよね。やっぱり映画と親しくなると、観るだけじゃなくてつくってみたいとか、自分たちの地域のことを映像化できたらいいなあということが、どこか頭に浮かぶわけですね。それを初めから諦めるんじゃなく、やる気を出してみんなで試行錯誤しながらやればできるんだとわかったことは、すごく大きな手応えでした。巨大な資本がなくても、自分たちが本当に必要とする「やりたいこと」を小さい単位で積み重ねていけば、人に伝わるものをつくることができるんだと。しかも達成感もあり、つくり方の自由度も増すわけですね。

身体性みたいなものが、今は失われがちなのかなとよく思うんですが、身体性って何かというと、体だけじゃなくて、アイデアや心も伴うものなんですよね。それらが動きやすい仕事をしていたほうが、生き生きとする。だから、自分の『生きてて楽しいな』っていう実感が強い方法をとっていけば、映画づくりも楽しい実験みたいになるんじゃないかなあと。そんな思いでここ数年やってきたような気がします。

阿部:「よみがえりのレシピ」の上映活動では、『スローフードな人生』のご著書がある島村菜津さんを招いてスローフードの話を聴いたりしましたね。一番おもしろかったのは、在来野菜を使ったお料理教室を全県縦断でやったこと。まさか私、人生のなかでお料理教室で司会することになるとは夢にも思わなかったです(笑)

「暮らしにドキュメンタリーを」  阿部啓一さん×髙橋卓也さん/わたしのスタイル2(後編)

髙橋:映画にも登場するアル・ケッチャーノのシェフの奥田政行さんや、山形大学農学部の江頭宏昌先生も講演に駆けつけてくれたりしてね。

阿部:その意味では、映画でお金を集めるぞというより、純粋に楽しんでいる人たちがいっぱい生まれたということが、あの映画の幸せなところでしたね。それは、同じく地域の人たちと一緒につくった「無音の叫び声」(原村政樹監督、2016年公開)にも言えることで、各地で詩の朗読会が生まれたり、幸せの輪がいっぱい広がったというか。

髙橋:ほんとですね。

――今後、一緒にやりたいなあと考えていることなどはありますか?

阿部:髙橋さんが、次は紅花だって言っていましたよ。

「暮らしにドキュメンタリーを」  阿部啓一さん×髙橋卓也さん/わたしのスタイル2(後編)
photo 佐藤広一
「暮らしにドキュメンタリーを」  阿部啓一さん×髙橋卓也さん/わたしのスタイル2(後編)
photo 工藤豊

髙橋:昨年、紅花農家さんの畑にお邪魔して、佐藤広一監督と一緒に紅花の栽培についての映像を撮ったんです。なので今年は紅花染めのようすをおさめたいなあと思っていて。東北芸術工科大学などで紅花に関するシンポジウムが時々開催されていますが、紅花のこととなると、京都の一流の職人さんなどがみんな夢中で話し出すわけですね。それってなぜなんだろう、と。そういう人たちを夢中にさせる紅の力というのが、自分にはあまりにわからなさすぎて気になってしまって。紅って、漢方とか食とか衣服とか、用途がいろいろありますよね。それであるとき、知合いの染物屋さんが集めた古い衣服を見せてもらったら、男の子が生まれたときにつくったという肌着の内側が、全部紅染めで。それはなぜかというと、魔除けなんですね。昔の人たちの、色に対する思想があるわけです。つまり紅というのは、愛する者を守るための色だったのではないかなと。そういうことに、いま気付き始めていて。なんらかのかたちで映像として表現し、ゆくゆくは上映していけたらいいなあなんて思っています。

阿部:髙橋さんを見ているとね、黒澤明監督の脚本でつくられた「雨あがる」(山本周五郎原作、小泉堯史監督、2000年公開)に出てくる浪人、伊兵衛のようだなあって、いつも思うんですよね。

髙橋:なにも、そんないいもんじゃありませんよ(笑)