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『ローカルエコノミーのつくり方』序章公開します

2020.05.02

今から1年前の2019年6月に、有志メンバーと一緒に考えをまとめてつくった本、『ローカルエコノミーのつくり方 ミッドサイズの都市から変わる仕事と経済のしくみ』( 神戸から顔の見える経済をつくる会 著 学芸出版社)。その序章を全文公開します。

『ローカルエコノミーのつくり方』序章公開します
書籍『ローカルエコノミーのつくり方』(学芸出版社)。*序文公開の承諾をいただいています。

Introduction
人口減少時代における「顔の見える経済」

豊かさの定義が変わった瞬間

 リーマンショックや東日本大震災をきっかけに地方都市への移住の動きが始まったが、そこには世の中の価値観の変化があった。

 より高い刺激を求めるためにより高い所得を求める、という価値観から、自分らしく・家族と楽しく暮らせて・社会の役に立てているという感覚を持った生活がしたい、という思考に変化した人が多かったように感じる。

 豊かさに対する定義が変わった。効率型経済が良いとされ、お金=豊かさだった時代から、お金をかけずに・顔の見える豊かさの時代へ。過度の効率主義と一極集中から脱し、ほどよい居心地を大事にする時代へ。仕事一辺倒から仕事とプライベートの一体化へ。豊かさの定義が変わった瞬間、全国で多くの人が大都市から小都市へ田舎へと移動し活動を開始した。そして国も「地方創生」という形でそれを推し進めていった。

 その一方で、東日本大震災から8年経った今、現実的に地方が創生されたかと言うと、正直まだまだという印象の人が多いだろう。

 人が新しい場所で活動を始める、しかも若い時にそれをしようと思ったら、「仕事」をどうすればいいのかということがポイントになる。つまり移住先の地方に魅力的な勤め先があるかどうか。あるいは自営業なら、それまでしてきた仕事を移せる環境であるか。また、新規の仕事を受けられたり創り出せる場所かという、その点が重要だ。フリーランスの人の中には、仕事を上手に移し、たくさんの面白い活動を行えている人も少なくない。国は地域おこし協力隊など様々な仕組みもつくった。

 しかし、まだまだ我々が想像していたほど、ローカルにシフトしているという実態にはなっていない。結局、東京に若者は流れる。地域に若い人がやりたい仕事や面白いと感じる仕事が圧倒的に少ないという根本的な問題は解消されていない。それは、経済のあり方に原因があるからではないだろうか。

人口減少時代の始まりと新しい経済へのシフト

 そうこうするうちに日本全体で人口減少が始まった。仕事の有無という点から見て弱い地域はより弱くなり、衰退していく。並行して、駅から遠い場所にある密集市街地や農地を切り開いてつくられたニュータウンの人口減少・高齢化、商店街の空き店舗増加などが全国で加速している。我々の住む神戸でも見かける風景だ。

 これからの50年を通じて日本の人口は現在の7割になると言われているが、つまり3割ぐらいは使われないエリアができるということなのか。拡大路線で来た都市を縮めるにはどうしたら良いのか。国も市町村も我々生活者もまだ明確なアイデアは持っていないだろう。しかし、“美しく縮小”することが求められるだろう。言い換えれば、現在の局面を打開するような仕事の仕方を模索しなくてはならない。

 いつの時代も、局面を打開するために「創造的な仕事」は求められるのではないだろうか。経済成長が大前提だった時代には、モノの売上を増やすことがイコール新しい局面を生むことだった。こうした経済の中では、リスクテイカーである事業者が労働者を雇用するという形態で経営と労働の分離が進んだ。「新しく作り変える」「スクラップ&ビルド型」「工場方式で効率的につくること」が正しいと考えられていたマス経済の時代であった。

 しかし人口減少時代を迎えた今、局面を打開するための創造的な仕事のあり方が新たに模索されていると感じている。「お金をかけない」「顔の見える豊かさ」「協力して暮らせる」「ストック型」などがキーワードの循環型の経済とでも言おうか。そこでの仕事の仕方は、現場に入って、人任せにせず自分の手を動かすことが大前提だ。それを伴ってこそ局面が打開される。そうした仕事の仕方をする人が近年、神戸で同時多発的に生まれている。本書の目的はそうした動きを紹介し、人口減少時代の新しい経済の仕組みへのシフトについて、またローカルに面白い仕事を生み出すヒントについて考察していくことだ。

「顔の見える経済」

 この本で紹介するのは、神戸で生まれた、新しいかたちでの創造的な仕事を行っている人たちの事例だ。彼らの働き方を俯瞰してみると、いくつかの共通点が見えてきた。

 まず経済活動の根本概念が違うということだ。材料の仕入れ(原価)という点においては、自分でつくったり採ったりして調達する、もしくは知っている人や近い人から買っていることが多い。次に、組織運営という点においては、お互いの個性を尊重し、協力し合って、それぞれが独立した個人(事業主)として生きる中で互いの目的達成のために協力し合う、コーポラティブな組織で成り立っている。

 お金も人も自分たちの近くで流通させようという試みである。顔の見える人との付き合いを中心に、ビジネスを回す。「顔の見える経済」がそこにある。

 一方、従来型の組織では、経営者と被雇用者という関係で完全に分離され、経営者は材料も労働者も単にコストとして考える。大量に取り扱い、効率化して、コスト削減を追求し、安く提供することが大前提となっている。大量生産消費経済は「顔の見えない経済」とも言える。ノウハウもお金も中央(大都市)に集中し、ローカルは単に製造/下請けの拠点となる経済とも言いかえられる。

 経済概念を変化させることにより、ローカル(自分たちが住み、働くエリア)主体の経済を作っていくことができると考えている。僕らはそうした流れを志向している(図1)。

『ローカルエコノミーのつくり方』序章公開します
図1顔の見える経済の流れ(左)と従来経済の流れ(右)。

手を動かしてつくり、近隣と交易をする

 拡大経済の時は従来の資本主義が機能した。しかし経済が縮小する時代に、これまでの経済活動の構造のまま進んで良いのだろうか。経済活動の概念のパラダイムシフトが求められているのではないだろうか。

 そのためには他人任せにせず、自分で手を動かさねばならない。金やモノのデザインによってではなく、人が人を集めることによって新たな経済が動き出す。予算がなくて止めるのではなく工夫をすること。売上が上がる仕事だけでなく、非営利的な活動もきちんとやること。大切なことは信念だ。この本で登場する人たちは、そうした点で共通する。経済のパラダイムシフトの実践者たちであり、リアルに動いて将来を切り開こうとしている。 

 「ローカル」という言葉がさまざまなメディアや活動の中で使われ、多くの人々が「ローカル経済」という概念に関心を寄せている。けれども、「ローカル経済」とは何だろうか?

 20世紀後半のアメリカ人ジャーナリスト、ジェイン・ジェイコブズの著書『発展する地域衰退する地域:地域が自立するための経済学』では以下のように綴られている。

 「多くの人が気づき始めている。それぞれの地域が持つ財を利用し、そこに住む人のアイデアを生かした活動をするべきだ。必要なものは自分たちの手でつくり、近隣地域と共生的な交易を行えば、技術は高まり、雇用も生まれ、地域は自然に活性化する。」

ローカルにノウハウやお金が残る仕組みに

 こうした動きは小さな世界での動きと思われるかもしれないが、大企業や大組織においてもこの発想はこれからとても大事なはずだ。たとえば神戸市では創造産業(クリエイティブ産業)の仕事が年間約3000億円分域外流失しているというデータがある(出典/2011年神戸市産業連関表、2016年度神戸市統計報告)。神戸市内の大企業、大組織の仕事が、東京や大阪の大手広告代理店、印刷会社、デザイン会社、設計事務所などに流れ、東京や大阪から営業や担当者が神戸に出向いてきて仕事をしているものと想像する。こうした仕事では、元請けが大都市の大企業となり、その下請けが大都市のフリーランスか、場合によってローカルのフリーランスに振られるというケースが多いのではないだろうか。

 大企業の担当者の言い分からすると「地元に頼める企業がいない」ということかもしれない。けれども企業の担当者は、地元企業に依頼し、多少リスクがあっても、ローカルの企業を育てるという視点が必要だろう。これまでの発注構造では、東京の元請け企業だけにノウハウが蓄積される結果となり、ローカルにノウハウもお金も残らない結果となるからだ。多少の不便はあるかもしれないが発注の流れを変えて、ローカルにノウハウやお金が残るような仕組みにできないだろうか(図2)。

『ローカルエコノミーのつくり方』序章公開します
図2ローカル経済育成型(左)ではローカルにノウハウが集まり、中央集権経済型(左)ではノウハウが大都市に集まる。

 このところアメリカ・ポートランドの街で活動する人たちと定期的にコミュニケーションをとりヒントをもらうことが多いのだが、ポートランド市の経済産業局の人たちの言葉が耳に残っている。「我々は1万人を雇用する大企業も大切だと思うが、2人程度の小さな会社が10人規模の会社になることが一番大事だと思っている。なぜなら、10人を雇用する会社が1000社集まれば1万人の雇用を生むし、その方が急場づくりでない、堅い経済だと言える。これからの時代はニッチビジネスの時代。ニッチビジネスは大きな雇用は生まない。けれどもニッチビジネスがたくさん生まれる可能性はある」と。

 1人で活動する小さなビジネスの動きは神戸にはたくさんあるし、他都市から移住してきて1〜2人で活動をリスタートする人もいる。そうしたビジネスが10人を雇用できるようになれば大きく状況が変化するのではないか。1人や2人で活動しているスモールビジネスが何人か雇用できるようになれば、そこで修業した若者はおそらくその街で起業するだろう(図3)。私たちはそのようなイメージを持ちながら、スモールビジネスを支援し、「顔の見える経済」を加速させることが大切だと感じ、この本を制作した。

『ローカルエコノミーのつくり方』序章公開します
図3ローカルのスモールビジネスが小さな雇用を出来るようになることの意義。

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