real local 山形このまちに暮らす若い人たちと喜びを共にしたい / シルビア美容室 吉澤市子さん - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

このまちに暮らす若い人たちと喜びを共にしたい / シルビア美容室 吉澤市子さん

インタビュー

2020.12.14

東北芸術工科大学キャンパスから歩いて15分ほど下ったところにある山形市東青田。ここに緑色の屋根が目印の美容室「シルビア」があります。今回お話を伺ったのはここで働く美容師、吉澤市子さんです。

大石田町から山形市に嫁いだ彼女は「自分自身を通して誰かを幸せにすること」が生きていく目的と話します。親元を離れ、一人暮らしをする学生のことを、まるで第二の家族のようにあたたかく見守る彼女の物語です。

このまちに暮らす若い人たちと喜びを共にしたい  / シルビア美容室 吉澤市子さん

 

山形市はちょうどいい場所
私は人口の少ない町で育ったの。山形市に移り住んだのは45年くらい前で、ここにお店を開いて40年になるよ。

この土地に長く暮らして、山形市がいちばん好きな場所になった。大都会のようなところには慣れていないのよね。山が見えないとなんだか落ち着かない。ここが一番ちょうどいい、生活しやすい場所。

美容師として長く勤めているけれど、学生時代からの夢だったわけではないの。昔は親の勧めで進路が決まったもの。両親は「手に職を付けなさい」という考えでね。手職といっても色々ある。看護師のように血を見る仕事や男性相手の床屋は自分に向いていない。選択肢を削っていって、残ったのが美容師だった。

その頃は自分が何を目指したいのか全然わからなかったよ。当時は中学校を卒業すると専門学校に通う子が多かった。みんな急いで進路を決めるの。高校に進学できる人なんて本当に少なかった。

お店に遊びにくる学生たちに、よく伝えることがあるの。「私は中学校しか卒業していない。それでもお金を稼いで生きていくことができている」って。今の時代とでは、学歴の見え方に違いもあると思う。それでも学校に通えないからといって、なにか目標を諦める必要は無いと思うの。自力で社会勉強をすることがいちばん大事。

このまちに暮らす若い人たちと喜びを共にしたい  / シルビア美容室 吉澤市子さん
これまで出会った若者との交流の記録を懐かしそうに眺める市子さん。

挨拶の特訓からうまれた繋がり
山に囲まれた環境で育ったから、人に慣れていなくて。働き始めは接客が苦手でね。お客さんと会話を続けることさえ難しかった。でもそうは言っていられない。美容師にとって接客は大事な仕事でしょ。まずは挨拶から特訓したの。登校中の小中学生に「おはよう」って声を掛ける。そうすると挨拶を返してくれる子がいるのよね。その子達にパワーをもらって、段々自信もついて。次は大学生にも話しかけて。

お店に遊びに来てくれる若い子たちの中には、一回きりの子ももちろんいるけれど卒業するまで頻繁に顔を出してくれる子も沢山いる。

このまちに暮らす若い人たちと喜びを共にしたい  / シルビア美容室 吉澤市子さん
「たくさんの大学生がお店に来てくれた」と見せてくれたアルバムの数々

私が学生さんと繋がりを持つようになった始まりは、2007年だったかな。学生食堂でのこと。掲示板を見ていた女の子に「美容室のお客さんからたくさんのお洋服をいただいたんだけど、もしよかったらもらってくれない?」って声をかけて。「友達何人でも連れてきていいから、お店まで見においで」って誘ったの。

それから仲良くなって、その年にはクリスマスパーティーもしたんだけど、パーティーの3日前に足を捻挫して。「学生達がたくさん来るから治さなきゃ」と思って必死だったね。なんとか治して、唐揚げとかポテトサラダとか、ちらし寿司にデザートまでたくさんご馳走を作ったよ。若い子に「美味しい、美味しい」って食べてもらえることが何より嬉しい。

このまちに暮らす若い人たちと喜びを共にしたい  / シルビア美容室 吉澤市子さん
2007年第一回クリスマスパーティーの様子。

若い子たちに、たくさんの体験を与えたい
「地元の友達が、山形に遊びに来ているんです。市子さんのところに連れていってもいいですか?」って電話をくれる子もいて、芋煮でおもてなしをしたこともあったね。あとは、中国の留学生たちと合流パーティーを開いたり。デイサービスにボランティアへ連れて行った子もいるよ。

私は世間知らずで、社会に出てから恥ずかしい思いをたくさんしてきたの。だから若い子にはいろんな体験をしてほしいし、そうすることで私も逆に面白い体験をさせてもらっているの。学生の作った映画に出演したりね。

若い子と話をするとパワーがもらえる。年配の人たちとばかり付き合っていると、気持ちが歳をとってしまうでしょ。会話もいつも同じ話ばかりになっちゃう。だって他に話題がないんだもの、しょうがないよね。でもその点、学生たちはいろいろなところから来ているし、興味もばらばら。だからいつも刺激をもらえるの。同世代の人とも「若い子が友達にいるっていいよね」って話をするんだけど、「なんて話しかけたらいいかわからない」っていう人が多い。それも訓練だよね。

私も最初から会話が続いたわけではない。毎日自分から挨拶して、やっと喋れるようになったんだから。そうして自分から話しかけるようにしたら、喜んで答えてくれる若い子たちがいたわけで。中には、「地元の人から声をかけてもらえて嬉しい」って言ってくれる子もいる。もちろん2020年はコロナでこんな状況だから、お店に人を呼べない状況で、全然繋がりを作れていないけれど。またたくさん呼べるようになるといいね。

このまちに暮らす若い人たちと喜びを共にしたい  / シルビア美容室 吉澤市子さん
これまで遊びに来た学生が書き留めていった自己紹介ノート。

「生きる目的」を見つける
ここに来てくれる学生さん達と話をしていると、「まだ、やりたいことがわからない」って悩んでいる子が多いかな。私はその子たちに「今までたくさんの子を見てきたけど、みんなそれぞれ卒業するまでに何かを見つけていったから大丈夫。ゆっくりじっくり考えてみてもいいんじゃない?」って伝えるの。そんな大事なことをすぐには決められないよね。

私がそうだったもの。「夢」じゃなくて「生きる目的」があればいいんじゃないかな。生きている間に誰かを喜ばせる、誰かを幸せにする、それが今の私の生きる目的。自分を通して誰かが幸せになったらすごく嬉しい。そのためにも、まずは自分が元気で楽しく生きていくこと。笑顔も伝染するっていうから、まずは自分が笑顔でいることよね。

このまちに暮らす若い人たちと喜びを共にしたい  / シルビア美容室 吉澤市子さん
いつも優しく応えてくれた市子さん 画:荒井優希

 

2020.12.11
取材・記事制作/
東北芸術工科大学デザイン工学部
グラフィックデザイン学科
荒井優希
(real local Yamagata インターン中)