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食彩やまがた12カ月 睦月「紅花」

連載

2021.01.31

 このコーナーでは今が旬のやまがたの食材にフォーカス。その天の恵みを育んだ風土や歴史、ひとの営みにも手をのばしていきたいと思います。

食彩やまがた12カ月 睦月「紅花」
天童市貫津地区で育つ「Brewlab.108」加藤さん夫妻が友人などの力を借りながら栽培した最上紅花(写真/Brewlab.108」提供)

 21世紀を迎えてからの食のシーンに「クラフト」が欠かせないキーワードになっています。当店の酒棚もフランスやドイツ、スペイン産のクラフトジンにオーストラリア産クラフトアブサン、それにメキシコの伝統的蒸留酒メスカルのクラフトものが並んでいます。

 こうしたクラフトものの先鞭を切り、いち早く市民権を獲得したのがクラフトビール。山形でもここ数年、クラフトビールの醸造所がひらかれ、あらたな特産品として注目をあつめています。天童市の「Brewlab.108(ブリューラボ・トウハチ)」も、そのひとつ。
 
「Brewlab.108」の特徴は県産品をつかったテイストでラインナップを増やしつづけていること。県産のリンゴやラ・フランスに桃、清酒酵母に麹….、そして今回このコーナーでフォーカスするのが、紅花クラフトビールです。

 あらためて「クラフト」について説明すると、個人や少数グループがそれぞれのセンスや技術を注入する、造り手の顔がみえるようなお酒などを意味します。大量生産型の標準化された造りかたや味わいとは一線を引く、個性と多様性がそこにはあります。

「Brewlab.108」の代表、加藤克明さん(50歳)は東根市にある外資系企業に勤めており、休日の土日だけビールの醸造と販売に専念するウィークエンド醸造家。こうした生きかたのスタイルもクラフトだからこそと言えるかもしれません。

「大学では工学部に学び、卒業以来ずっと技術畑に身を置いてます。山形には2016年に移住、そのまえはサウジアラビアでしばらく働いていましたが、そこは厳格なイスラム社会。日本から赴任した転勤族の身にも飲酒は厳禁だったんです。でも、お酒が大好きなぼくには酷でした。日本へ帰る日がきたら、あれが飲みたい、これも…の妄想の日々のなかで、自分が造り手になるという願望も芽生えてきました」
 
 山形へ移り住み、晴れてお酒のある生活を取り戻した加藤さん。サウジアラビアで抱いた酒造りの夢も、県内の醸造所で研修をはじめることで一歩踏み出します。そしてある日、廃業を考えているという天童のビール醸造所を訪ね、施設を引き継ぎたいと申し出ます。
 
 またおなじころ、紅花の染色や文化の普及に長年努めている天童市の大山るり子さんとの出会いがありました。天童市紅花まつり実行委員会が運営する紅花の栽培ボランティア「紅花メイト」の参加を誘われ、天童市貫津(ぬくづ)にある紅花畑の一角を受けもつことになりました。

食彩やまがた12カ月 睦月「紅花」
「Brewlab.108」加藤さんが種まきから栽培ボランティアにたずさわった畑。ここから収穫した花弁500グラムを副原料とし、およそ400リットルの「#001 Mogami Benibana~Ruriko my Love~」を醸した(写真/Brewlab.108」提供)

 交渉の末、天童の醸造所を引き継いだ加藤さんの「Brewlab.108」は2019年12月に開所、そのころには紅花をつかったクラフトビールのラインアップ化はすでに頭にあったそうです。

「ぼくがサウジアラビアで暮らしていたのは、紅海(ここにも「紅」が!)に面した海辺の地域で対岸はエジプト。そこは紅花の原産地のひとつとされていて、ピラミッドに眠るミイラに巻きつけてあった赤い布は紅花で染められたものと聞いたことがあります。移り住んだ山形の歴史や文化に紅花が果たした役割を知り、また自分自身が紅花の成長を畑で見守る立場にもなり、つくづく縁があるんだなぁと」

 しかし、いざ紅花をビールの副原料としてつかってみると、いくつかの困難がありました。「さんざん聞いてましたけど、あのトゲの痛さは強烈でしたね」という収穫にはじまり、醸造過程では色出しと香りのコントロールに腐心したそうです。

 紅花のうつくしい色を出すには、まず水溶性の黄色成分を徹底的に出したのち、アルカリ性成分に触れさせることでようやく紅の色が抽出されます。それが染色や顔料であったら、灰をまぶした梅をつかうという古来からの技術を踏襲すれば済みます。しかしビールという食品に灰をつかうことを、加藤さんは衛生上の観点から良しとしませんでした。

食彩やまがた12カ月 睦月「紅花」
水溶性の黄色成分を出し切ったあとの最上紅花。もうひとつの副原料、県産完熟梅をつかい主発酵の仕込み水に色出しを行った(写真/Brewlab.108」提供)

 そこで使ってみたのが県産の完熟梅。食べておいしいこの梅は色出しと風味づけに効果をあらわし、そうして完成した「#001 Mogami Benibana~Ruriko my Love~」は飴色にピンクゴールドの艶が乗る、奥ゆかしい酸があと味を引く、世界で唯一の紅花テイストのビールとなりました。

 紅花栽培で一時代を築いたかつての山形で、ながく風習として伝えられたことがありました。生まれてきた赤ん坊に紅花で染色した絹織物を産着にしたそうです。それは皮膚病や風邪の予防を願ってのこと。また「薬を服用する」という言葉は、魔除けや疫病退散を求めて実際に身につけることにはじまり、まとって効果があるのならばいっそのこと体のなかにとりこんでしまえと活用法が変化、「服」の字にその名残りをとどめているのです。

 さらにエジプトのミイラの紅花で染めた巻物には防虫、腐敗効果を期待するとともに、古代エジプトではこの色に復活や永遠への願いを託したといわれています。

 山形では雛祭りのころ、往事の紅花交易がもたらしたさまざまな文化遺産の展示や催事が開かれます。ただその一方で、当地での紅花栽培は第二次世界大戦の戦火が激しくなるにつれ、完全についえたという歴史もあります。そのことを惜しむ人々の尽力で、戦後まもなく山形市漆山で代々紅花を栽培してきた農家の囲炉裏のうえの棚に種を発見、栽培が復興したという道のりがあります。
 
 染め物や頬紅、あるいは加藤さんが醸したクラフトビールをはじめとした紅花食品に接するひと時。この紅の色にはなんどでも立ち上がる希望と勇気にこころを灯す力があるのかもしれません。

 本中に紹介した「Brewlab.108」の購入や取り扱い店情報、そして醸造家・加藤克明さんの活動の詳細は以下のリンクから。また「#001 Mogami Benibana~Ruriko my Love~」をつかった当店のレシピを別掲します。なお昨年2月から月イチで連載してきたこのコーナーは、今号で毎月の暦を一巡することになります。今後は不定期掲載として、山形の旬をつづっていきたいと思います。

Facebook「Brewlab.108」

* 参考文献『ものと人間の文化史121 紅花』(竹内淳子著、法政大学出版刊)

今月の旬菜メモ
紅花

 キク科ベニバナ属の越年草。和名では久礼奈為、呉藍、末摘花などと記されたことがある。『古事記』の仁徳天皇から推古天皇の記述にみられるのが国内最古の文献。古代から染料や顔料に用いられてきているが、葉や茎は薬用、種は食用油と捨てるところのない植物としてさまざまに活用されてきた。
 山形での栽培種は最上紅花。栽培や染色に携わる人々は「花」とだけ称し、「花流し」「花蒸し」など加工工程でも花の一字が並ぶ。天保11年(1840)の諸国特産物をランキングしたものでは、陸奥国の松前昆布につづく東国産物第2位に出羽の最上紅花が挙げられている。往事の物流経済、染色顔料などの商品開発、人の往来がもたらした文化交流など、県内各地でさまざまな展示や催事でみることができる。

食彩やまがた12カ月 睦月「紅花」

ワインビストロのレシピ

Brewlab.108「#001 Mogami Benibana~Ruriko my Love~」をつかった庄内浜寒ダラのフリット
ボディはピルスナー。主原料を醸造する際、みずから種まきをした天童産最上紅花と県産完熟梅で色出しと香りづけした水を使用。発泡酒(麦芽使用率80%以上)、330ml
① 寒ダラの水気をキッチンペーパーなどでよくふき、ひと口大に切りわけ、塩コショウと小麦粉を軽くまぶす。
② 小麦粉、片栗粉、少量のオリーブオイルをビールで溶く(発泡水でも可)。フリットにビールをつかうのは洋食の定番レシピ。カラリとした揚げあがりになる。
③ 170℃の油で3分ほど揚げ、いちどバットなどで油をきったのち、おなじ温度で30秒ほどの二度揚げにする。
これに揚げたジャガイモを添えると、ビアパブ定番のフィッシュアンドチップスになる。