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山形・山寺(立石寺)の英語ガイド。インバウンド向けの仕組みをつくる/後藤麻衣さん

ローカル気になる人

2021.05.28

山形県東部に位置する「宝珠山立石寺(ほうじゅさん・りっしゃくじ)」、通称・「山寺」の英語ガイドを推進する女性、後藤さんにスポットをあてたインタビュー。

山寺のお土産物店「ふもとや」4代目の若女将であり、山寺観光協会インバウンド部を担当する後藤麻衣さん。かねてから要望があった山寺の英語ガイドを立ち上げ、組織化に取り組んでいます。

海外暮らしの経験を経て地元山寺に戻り、日々お店に立ちながら、山寺観光の仕組みづくりに挑む後藤さん。山寺でインバウンドに向けた活動をする経緯や英語ガイドに込める思いをうかがいました。

山形・山寺(立石寺)の英語ガイド。インバウンド向けの仕組みをつくる/後藤麻衣さん
後藤麻衣さん(画像提供:後藤さん)

海外暮らしで発見した山寺の魅力

生まれも育ちも山寺です。曽祖父の代から家業でお土産屋を営んできました。学生時代は「ここは田舎で何もない。はやく山寺から出たい」と思っていたので、高校卒業後に留学でオーストラリアのケアンズに行きました。

とはいえ、ケアンズも山寺と同じくのどかで自然豊かな場所。次は大都市へ行こうとロンドンに渡り、半年ほど滞在しました。その後もしばらくは海外で暮らそうかと考えたのですが、やはり帰国して地元に戻ることにしました。

山形・山寺(立石寺)の英語ガイド。インバウンド向けの仕組みをつくる/後藤麻衣さん
山寺を流れる紅葉川。夏には大自然のプールとなり、子供たちが水遊びする姿が。

山寺に戻る決意をしたのは、ロンドンでの心境の変化があったからです。ロンドンで都市生活をするなかで、山寺ののどかな風景がふと頭に浮かぶ瞬間がありました。

今までは否定的に思っていたけど、美しい山や川、豊かな食文化もあって、実はとても恵まれた環境なのではないか?と気づいたんです。海外に出て初めて地元山寺の良さを発見できたというか。まさに目から鱗でした。

帰国して2年間ほどは県内で英会話教室の講師をして、結婚後に子育てをしながら実家のお店を手伝い始め、少しづつ山形や山寺の魅力を広めたいという思いが芽生えてきました。3人の子どもの子育てを経て、2019年からはインバウンド受け入れの取り組みに力を入れています。

山形・山寺(立石寺)の英語ガイド。インバウンド向けの仕組みをつくる/後藤麻衣さん
ふもとや本店。お土産のほか、食堂ではお蕎麦や定食、甘味などが楽しめる。登山口にもお土産、喫茶をメインとする分店がある(画像提供:後藤さん)

インバウンドの観光客が急増

2019年頃は、徐々に増えていたインバウンドの観光客数がピークを迎えていました。今までの山寺は冬はオフシーズンでほとんどの店は閉まっていましたが、2017年頃からは「雪の山寺を見たい」と海外から多くの人が訪れるようになり、お店を閉めておけない事態に。2019年の冬は観光客の9割が海外からのお客様で、食堂ではいろんな言語が飛び交っていました。

コロナ前は年間約70万人の観光客が山寺に来ていました。そのうち海外の方は13万人ほどで、その7~8割が台湾の方です。台湾から山形空港へ飛行機のチャーター便ができたことや、県や市によるプロモーションの効果が大きいと思います。山寺はJR仙山線が通っているので電車でのアクセスが良く、仙台経由でタイからの観光客も多いです。欧米やオーストラリアからのお客様も年々目に見えて増えていました。

山形・山寺(立石寺)の英語ガイド。インバウンド向けの仕組みをつくる/後藤麻衣さん
台湾やアジアからのツアーのほか、オーストラリアや欧米からはバックパッカーの観光客も。

インバウンド観光客の受け入れ体制を

その一方、山寺ではインバウンドの観光客を受け入れる体制が整っていませんでした。山寺では英語対応の窓口がないため、お客様が困ったときや緊急時の対応などでは、私を訪ねてきたり電話がかかってくる状態。自分だけで対応できる範囲を超えてしまい、海外からのお客様に山寺全体で対応できるようにしなければと思い始めました。

そのためには英語が話せる人材が必要。そこで立ち上げたのが、英語ガイドです。長く継続していくためには仕事にしていくこと、そしてガイド料の一部は地域に還元される仕組みをつくることが大切だと考えています。そこでガイドの育成と組織化に向けて準備を始めました。

山形・山寺(立石寺)の英語ガイド。インバウンド向けの仕組みをつくる/後藤麻衣さん

実は私の英語ガイドの原体験となっているのが、母校である山寺中学校の活動です。中学2年生のときに英語ガイドの活動がスタートし、私は一期生として参加しました。

ほかにも、山寺小中学校では授業で山寺の歴史を学んだり、山寺の成り立ちを「山寺ものがたり」として演劇で発表するなどさまざまな活動をしています。そんな子どもたちが将来ここに戻って働ける仕事があれば活躍できるのではないか。そんな思いも込めています。

山形・山寺(立石寺)の英語ガイド。インバウンド向けの仕組みをつくる/後藤麻衣さん
山寺中学校による観光ガイド。2017年の山形ドキュメンタリー映画祭にて。生徒のみなさんが自分たちで英語の台本をつくり、海外から訪れた映画監督たちに地元山寺の観光PRを行った。

インバウンド観光客の目線に立った山寺ガイド

英語ガイドでは現在10名のメンバーが登録し、研修を行っています。さまざまな経歴やバックグランドの方が集まってくださり、中には山形大学の学生さんもいます。スペイン語や中国語が話せる方もいてとても心強いです。

ガイドの台本は、日本人向けのものを翻訳するのではなく、オリジナルで作成しました。日本人と外国の方では、背景にある知識が違います。例えば「江戸時代に~」と言っても、「江戸っていつ?」となるわけです。そこで山形在住の翻訳家、リサ・ソマーズさんと一緒に、膨大な山寺の情報の中でなにをどう説明するかを考えていきました。日本文化をベースに山寺の歴史を伝えながら一緒に山寺を登るというかたちです。

これまで国内在住の外国人の方を対象に、トライアルツアーを3回行ってきました。今年も準備期間として引き続きトライアルを重ねていけたらと思っています。

山形・山寺(立石寺)の英語ガイド。インバウンド向けの仕組みをつくる/後藤麻衣さん
英語の山寺ガイドマップもある(画像提供:後藤さん)

この英語ガイドの組織化では、たくさんの人の支えや協力があってここまで来ました。行政のサポートもいただき、リサさんやガイドのみなさんも含め、思いを共有する仲間が一人づつ増えていき、大きなチームになっていきました。

コロナが落ち着くまでにガイド組織をしっかり機能させて、お客様に満足していただけるような体制をつくっていきたいと思います。

山形全体の観光のハブに

英語ガイドでは、山寺のガイドだけでなく、お店とお客様とを繋ぎ、観光のサポートをして、山寺の地域全体をつなぐハブになることを目標にしています。

さらには山寺だけで完結せず、山形全体で観光を考えていきたいと思っています。山寺を訪れる方には、日本のリピーターが多くいらっしゃいます。日本のゴールデンルートと呼ばれる、東京、京都、大阪などは行き尽くし、もっとディープなローカルの体験をしたい方たちです。

英語ガイドのみなさんと山形の情報を共有しながら、お客様におもしろいスポットや食べ物、お店などをお勧めすることで、県全体の他地域にも観光客が回遊していくといいなと思います。

山形・山寺(立石寺)の英語ガイド。インバウンド向けの仕組みをつくる/後藤麻衣さん

私自身、観光客としての体験を山寺に活かせればと、コロナ前までは海外の観光地を家族と一緒に巡ってきました。自分の旅を振り返ると、思い出に強く残るのは「どこに行った」よりも「誰と出会ったか」なのです。やはり大切なのは「人」なのだと思います。

目指すのは山寺専属のガイドではなく、山形のコンシェルジュ。「山形に行って良かった」と思ってもらえるよう、一人ひとりとのコミュニケーションを大切にするガイド組織をつくっていけたらと思っています。

取材・文/中島彩