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山形県天童市・移住者インタビュー/「洋なし屋 iGUSL」寺岡 祐さん

移住者の声

2021.10.06

#山形移住者インタビュー のシリーズ。今回のゲストは、山形県天童市の西洋梨農家・寺岡 祐さんです。都市部での会社員から、Uターンして農家に転身。「洋なし屋 iGUSL(イグスル)」の屋号のもと、洋梨の可能性を模索しながら、今後は農業をきっかけにしたボランティアや場づくりにも挑戦していきたいといいます。

Uターンから就農までの道のりや、農業を切り口とした新たな取り組みまでをうかがったインタビュー。そこには、軽やかにしなやかに新たな挑戦を続ける姿勢と、人と人との繋がり、そこから生まれる可能性を信じる熱い思いがありました。そんな寺岡さんのメッセージを、緑豊かな天童の梨畑からお届けします。

山形県天童市・移住者インタビュー/「洋なし屋 iGUSL」寺岡 祐さん
白Tシャツとデニム姿で畑に現れた寺岡祐さん。いわゆる作業服ではなく、いつもこのような格好で作業しているのだとか。新しい農家像だ。

農家を目指して、営業スキルを磨く

生まれも育ちも天童です。大学進学で名古屋に行き、社会人では大阪の製薬会社の営業職に就いて、最初の配属先が札幌でした。3年目になってルーティンワークに慣れてきた頃から余裕がでてきて、農業をやってみたいという思いが芽生えてきました。

調べていくと、農業はつくることの大変さはもちろん、売ることが難しいことがわかりました。最近ではネット販売などお客さんと直で取引する農家さんのほうが利益をあげていて、個人経営の場合、JAに卸していくだけでは生活していくのが難しいかもしれない。当時24歳の自分では営業スキルも不十分だし、売り先の確保に苦戦するだろうなという思いがありました。

まだ農業に踏み切れないでいるとき、外資系生命保険会社の営業職に転職することになりました。外資系の中でも特に厳しい実力主義の会社で、基本給はゼロですべて歩合制。激務の中で自分で稼ぐ力をイチから身につけ、ようやく農業に一歩踏み出すことができました。

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そもそもなぜ農業かというと、まずは祖父母が農家だったので慣れ親しんでいたこと。あとは、農業ボランティアに関心があったからです。

大学時代には「NPO法人グッド」という団体にお世話になっていました。全国からボランティアをしたい大学生と受け入れたい団体や企業をマッチングする団体で、僕自身も学生時代から海外に行き、井戸を掘ったりセメントをこねたり、国内では農作業や牧場の手伝いもやりました。

こうした経験から、次はボランティアを受け入る側になりたいと思うようになりました。NPO法人グッドではボランティアをすることが目的でなく、ボランティアを通じて自分を見つめ直したり、他者と関わることを大切にしています。僕の場合は農業を通じて、新しい挑戦や人と人との繋がりをつくっていけたらと思っています。

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秋の収穫に向けて日々育っていくラ・フランス。

洋梨専門農家への挑戦

こうして農業をきっかけにUターンを決めました。27歳のときです。祖父母が果樹園をやっていたので、地元に農地はあったのですが、祖父母は何年も前に引退しているので、技術は寒河江市の園芸農業研究所で1年間研修を受けることにしました。

さくらんぼ、桃、ぶどう、梨など果樹を一通り学んだうえで、洋梨を選びました。僕の場合は家族経営ではなく、自分一人でやっていくので、着色管理が要らず工数が少なめの洋梨が自分に一番合っていると思ったんです。

なぜ「洋梨専門」かというと、自分が買う側になったとき、洋梨専門のほうが希少でおいしそうなイメージがあるし、買ってみたいという気になると思ったから。天童はすでにラ・フランス生産量日本一というブランドを確立しているので、売りやすさもあるだろうと思いました。

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ラフランスよりも大玉の品種、マルゲリットマリーラ。水分量が多くてやわらかな食感が特徴。

1年間研修を受けて、今年は就農2年目。現在は約2ヘクタールの農地を運営しています。初年度は苦戦しました。教科書通りに技術を学んだものの、いざ自分の畑で実践するとうまくいきません。味のバランスをみながら量を確保するのに苦労しました。

販売については僕は恵まれていて、天童の山口地区で農家をしている叔父から「一緒に出荷しないか」と誘っていただき、まとめて販売することができました。インスタグラムで直接注文を受けて販売もしています。

まずは収穫量をあげるところから。さらにはもっと質を上げて、贈答用の割合も増やしていきたいです。食べていくにはまだまだで、就農5年目までは県からの補助があるのでギリギリやれている状態。もっともっと頑張っていかなければいけません。

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新たに畑を借りて、少しづつ耕作面積を増やしている道半ばだといいます。

山形のアクセスはちょうどいい

Uターンして4年目になります。山形を出て初めて名古屋に住んだときは、雪が降らなくてショックでした。冬という感じがしなかったんですよね。その反対に北海道は一年の中で圧倒的に冬が長い。山形は夏は暑くて冬は雪が降るし、四季がはっきりしていて、暮らしに変化があるのがいいなと思います。これは山形から出てみて初めて気がついたことです。

札幌にいた27歳くらいの頃、就農にあたって北海道に残るか山形に戻るか迷っていたのですが、これから先の人生を考えたとき、自分が大切にしたいのは、「会いたいときに会いたい人と会える環境」でした。

北海道は住みやすかったのですが、どこへ行くにも距離的に遠く感じました。山形はアクセスが良くて、たまに都会に行くのであれば、仙台は近いし、東京までは新幹線で一本で行けるし、仙台空港まで行ってしまえば、日本全国各地への直行便があります。漠然とですが、子育ての面でも山形がいいなとも思っていました。

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いまはコロナ禍でリモートワークに移行している企業が多いと思います。在宅ワークがメインの職種であれば、山形に住むほうが金銭面でもおすすめできます。日常で圧倒的にお金を使わずに済むので、その分で事業をしたり投資に回したり、余力がつくりやすいはず。

お金を使わないといっても生活レベルが下がるわけではなくて、無駄遣いがなくなった感じです。都会にいると情報と人に溢れていて、キリがないし、いろんな欲に負けてしまいますが、山形では人もお店も選択肢が限られていて、あるものでも十分に楽しめるなと感じています。家電量販店やホームセンターの品揃えなど、買い物の面で少し物足りなさを感じることがありますが、いまはネットがあるし大きな問題ではありません。

山や川と近くて、キャンプやバーベキューも気軽にできるので、アウトドアが好きな人にもすごくいいと思いますよ。

新規就農者が既存の果樹園を引き継ぐ

果樹は野菜よりも新規参入しにくいと言われています。果物は苗木を植えて実をつけるまでに5年はかかり、安定した収穫までに約10年かかるからです。ところが、最近では高齢化で辞めていく農家さんが増えていて、立派な果樹園が空いてきています。僕自身も祖父母の畑の木を譲り受けて始めました。多少のブランクがあって荒れていても、修繕すればすぐに収穫ができる場所もあります。

山形県天童市・移住者インタビュー/「洋なし屋 iGUSL」寺岡 祐さん
屋号の「洋なし屋 iGUSL(イグスル)」は、東北弁で「良くする」が訛ったもの。

僕としては、農業をやりたい人に移住してきてもらい、仲間ができたらすごく嬉しいですね。首都圏に住んでいる人でも、週末だけ手伝いに来て人の繋がりをつくり、空いた畑が出たら紹介してもらう、という手段もあるはず。就農について相談事があれば、僕の経験の範囲でいつでもお答えしていきたいと思っています。

農業をベースに新しい挑戦を

これからはNPO法人グッドの仕組みと連動して、農業ボランティア受け入れの準備を進めていく予定です。山形には生涯を地元で暮らす人が多くいると思いますが、地元の学生たちが山形にいながら首都圏や他県の学生と繋がれる場があるといいなと思ったんですよね。山形の大学だけでなく、東北大学や東北福祉大学など東北と首都圏との接点がつくれたら、面白い場になるんじゃないかと。

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さらには、地域の企業とも連動していきたいと思っています。例えば、春先に新社会人の新人研修の受け入れをして、新入社員の方と学生ボランティアが集まり、一緒に作業してコミュニケーションをしていく。農作業は単純作業が多いので、会話がしやすく、同じ作業をすることでコミュニケーションがとりやすいんですよね。

新入社員からすると、社員同士を知るきっかけとなり、学生にとっては、社会人生活や就活についてなど、リアルな話を聞ける貴重な機会になると思います。地元企業からすると、学生と早めに接点を持つことで、人材採用のひとつの切り口にもなるかもしれないし、僕としても春は繁忙期なので人手が増えるのはすごく助かるし、みんなにとっていい場をつくっていきたいです。

そのためにはまず本業を軌道にのせることから。作業小屋や保管用の冷蔵室などハード面の設備投資も必要ですし、これから自分の家を建てたいので、ボランティアの受け入れを見越して宿舎にもなる家にしたいと思っています。これからも、やりたいことに向けて少しづつ実践を積み上げていくのみです。

洋なし屋 iGUSL HP
洋なし屋 iGUSL インスタグラム

取材・文:中島彩
写真:伊藤美香子