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【山形市銅町】変わらない味があるということ。九十九鶏本舗の「九十九鶏弁当」

ショップ情報

2022.06.15

山形の人に長く愛されている九十九(つくも)鶏弁当。手がけるのは、山形市銅町に本店を構える創業50数年の「九十九鶏本舗」です。大人から子どもまで地域の人に親しまれ、ちょっと特別感のあるこのお弁当の魅力とは?個人的な視点から、その理由を探ってみました。

【山形市銅町】変わらない味があるということ。九十九鶏本舗の「九十九鶏弁当」

“勝っても負けても、
今日は九十九鶏弁当が食べられる”

当時中学生だった私は、剣道の大会の開会式でのんきにそんなことを考えていた。何回戦で敗退したのか、どんな相手と戦ったのかはまったく覚えていないものの、あのとき食べたお弁当の味は何十年か経った今でも時々思い出す。ものすごく個人的なエピソードだけれど、このお弁当は私にとってそんな思い出の味であり、山形でしか味わうことのできない味のひとつでもある。

スポーツの大会では、お昼ごはんをそれぞれ持参する場合とお弁当が出る場合とがあるが、山形市総合スポーツセンターで開催される剣道の錬成大会では、ありがたいことに決まってこのお弁当が配られるのだった。この大会は、部活の先輩も後輩も顧問の先生もみんな大好きな“九十九鶏弁当の大会”という共通認識があったと思う。振り返ってみれば、とても恵まれていた。剣道連盟の方や先生方にも、同じようにこのお弁当を好きな人がいたのだろうか。あるいは、部活動に励む子どもたちへの粋な計らいだったのだろうか。

山形の駅弁というと牛肉の弁当がよく知られている印象だが、九十九鶏弁当も山形を代表するお弁当である。ただし売っている場所が限られているため、県内のどこでもお目にかかれるというわけではない。ちなみに私の地元である置賜エリアには残念ながら販売店はなく、山形市内の銅町にある本店「九十九鶏本舗」と十日町の「食品館256」、山形駅ビル2Fの「清川屋」の3か所のみ。だからこそ、出会えたときの喜びもひとしおだ。

【山形市銅町】変わらない味があるということ。九十九鶏本舗の「九十九鶏弁当」
こちらは定番の「九十九鶏弁当 一番人気(880円)」にチキンロールをプラスした「九十九鶏弁当 鶏肉の巻き物入り(1,000円)」。巻き物入りは目印にひよこのシールが付いている。

創業50数年の九十九鶏本舗。もともと鶏肉店として始まったのだそうで、その昔、養鶏も営んでいたという。お店のホームページはあるものの、そこでは多くのことを語っていない。本店は数年前に市内の城北町から現在の銅町に移転したそうで、建物全体の大きさに対し店舗のスペースは小ぢんまりとしている。奥がお弁当を作るための厨房になっているようだった。

メニューは3種類で、一番人気の定番「九十九鶏弁当」のほかに「鶏肉の巻き物入り」や「極上」といったものがあることを知る。中学時代の記憶をアップデートするとともに、20年もの時を経てワンランク上の「鶏肉の巻き物入り」を注文。私も随分と大人になったなあ、と何だか妙に感慨深い。本店ではお弁当の注文を受けてから詰めてくれるので、できたての温かい状態で受け取ることができるのも良い。
店内の壁には市内の小学生からのメッセージが何通か掲示してあり、地域とともに歩み愛されてきたのであろうことがうかがえる。将来この子たちの中にもきっと、私と同じような食いしんぼうの大人が現れるのだろうな、と勝手に想像する。

【山形市銅町】変わらない味があるということ。九十九鶏本舗の「九十九鶏弁当」
蓋を開けると香ばしくほのかに甘いタレの香りが食欲をそそる。お弁当の主役である鶏と副菜とのバランスが素晴らしい。さあ、何から食べようか。

味はもちろん、そのビジュアルにも心つかまれていた。蓋を開けると、ごはんの上には鶏そぼろが美しく敷き詰められ、鶏の照り焼きが2枚。脇を固めるのは絶妙なサイズ感のピリ辛のこんにゃくと安定の漬物勢。パイナップルが2枚。そしてやはり目をひくのがさくらんぼ。シロップ漬けのような見た目だが、喫茶店のパフェやクリームソーダにちょこんと乗っているものとは明らかに異なる味だ。漬物ともまた違い、不思議とこのお弁当にぴったり合う。

そぼろごはんと照り焼きを交互に、鶏肉の味を噛み締める。味付けのタレはそれぞれ異なるものを使っているとのこと。甘さと塩気のバランスがあとを引くおいしさで、鶏の巻き物はしっとりとした食感だ。ひとつのお弁当のなかに3つの鶏肉の味わいが閉じ込められているなんて贅沢。

合間にピリ辛こんにゃくもはさみつつ、そう、そう。これこれ。と、箸が止まらない。ああ、そうだった。あのときもこんな味だった。初めて食べたときは、強豪チームの試合を2階席から眺めながら食べていたっけ。今思えばお弁当のことで頭がいっぱいで、剣道の試合どころではなかったのだ。結果が芳しくなかったのだとしたら、尚のことそう思いたい。

【山形市銅町】変わらない味があるということ。九十九鶏本舗の「九十九鶏弁当」
米どころ山形とあって、ごはんもとにかくおいしい。ふっくら、ふんわり。使用しているのは山形県産のササニシキ。鶏との相性も抜群だ。

変わらないものの先に何があるのかと訊かれたら、感動がある。それはいつ、どのようにしてやってくるかはわからないけれど、日々コツコツと積み重ねているものが誰かの感動につながっていく場合があるのだということを、このお弁当は教えてくれた。試合の勝ち負けにかかわらず、九十九鶏弁当はいつだっておいしいのだ、ということも。

誰もがきっと、記憶に残っている“あの味”というものが頭の片隅にあるはずで、しかしながらその味は、いつまでもあるとは限らない。あり続けるということ、変わらないということが当たり前ではないからこそ、あのときのままの姿と味に再会できたことが、私はとてもうれしかった。近くまた、どこかで会えますように。いや、また会いに行きます。

SHOP DATA
九十九鶏本舗 本店
住所 山形県山形市銅町2-24-8
電話番号 023-665-5716
営業時間 9:00〜18:00
https://tsukumodori.com/

文:井上春香

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