【名古屋市中区】地域イノベーションを目指す 創造の新拠点『南大須ビル』
名古屋でもっとも活気ある商店街「大須」。若者や観光客らで賑わうこの商店街のすぐ南に、通称「仏壇通り」と呼ばれるエリアがあります。その名の通り、仏壇や仏具を扱う専門店が軒を連ね、地元・名古屋では江戸時代から続く歴史ある仏壇店街として知られています。そんな仏壇通りに新たなランドマークとなる「南大須ビル」が誕生しました。

6階建てのビルを大胆にリノベーションし、1階と2階には、いま名古屋で話題の飲食店「Shibuya」、「三軒茶屋」などを運営する株式会社5TAPのプロデュースによるコーヒーベーカリー「GORAPIN‘(エゴラピン)」が入店。
3階-5階は、アートやデザインなどクリエイティブな分野で活躍する人たちのためのシェアオフィスとシェアアトリエのフロアになっています。
このビルのリノベーションを手がけたのは、名古屋市北区に本社を構えるナグラ産業株式会社。代表取締役の名倉昌孝さんにお話をうかがいました。







古い味わいと新しさが融合した
新しい交流の場
――エントランスから内装までとても洗練された雰囲気ですね。
これでもビル自体は築50年ほど経っているんですよ。もとは仏壇屋さんだったそうですが、その後、あるお寺の方が買われたそうです。そのまま使われずに何年か放置されていたものを買い取ってリノベーションしました。
――古いビルならではの味わいを生かしつつ斬新さもあって、そのバランスが絶妙です。
1階と2階の施工はテナントとしてカフェをやってくれている(株)5TAPにすべて任せています。彼らはすごくセンスが良いので、ビルの顔になる部分をかっこよく仕上げてくれました。

3階から上のフロアは私たちの会社が担当しましたが、僕がこだわったのは1階をセットバックし、エントランスの天井部分を吹き抜けにすることぐらい。ビル全体のテイストを統一するため設計とデザインは専門の設計士さんに頼んでいます。


会社の将来を見据え転向した新事業
現場で感じた問題意識
――こうしたリノベーション物件を他にもたくさん手がけてこられたのですか。
実は不動産事業としてはまだそんなに実績はありません。というのも、うちの会社は創業者である父がペンキ屋からスタートして、僕の代になってからビルやマンションの大規模修繕事業に転向しました。不動産を扱うようになったのはその後ですから、手がけた物件はまだあまり多くないんですよ。
――事業転向や不動産業への参入など、事業の幅を広げてこられたのにはどんなきっかけがあったのでしょうか?
自分が社長になって改めて会社の将来を見据えてみた時に、仕事の方向性を変えた方が良いと感じたのが理由でした。そこでビルの大規模修繕の需要に対応できる仕事をやろうと思ったんですが、いざやってみるといろんな課題や問題点にぶつかってしまって…。
――やってみてわかった課題というのは?
一番の問題点は、大規模修繕工事をやる目的をお客様自身が正しく理解できていないということです。修繕工事のもっとも大きな目的は「コンクリートの長寿命化」ですが、それを知っているお客様はほとんどいません。一般的にコンクリートの法定耐用年数は47年と言われていますが、定期的に修繕工事を行うことによってそれをさらに長く持つようにするわけです。ところが、本来の目的を理解せず、工事費の安さを基準に形だけの入札で業者さんを決めてしまうケースがあまりにも多いんです。
――分譲マンションなどの場合、理事長さんも住民も専門知識がないのでそれも仕方のないことかと思います。
そのとおりです。しかし現場の仕事って本当に大変で、我々がどんなに誠実に対応しても、お客様との間でお互いの目的が一致していないと現場では徒労感ばかりが募ってしまうんですよね。現場の監督として、これでいのだろうかという疑問を常に感じていました。

大規模修繕の現場で培った技術と実績を生かし
リノベーション事業に着手
――その後、不動産業へと事業展開されるまでにはどんな経緯が?
そもそも大規模修繕事業を始めたのも単にお金儲けがしたかったわけではありませんし、そうした課題に直面すると、お客様に本当に喜んでいただける仕事や社会に必要とされる仕事がしたいという思いがますます強くなっていきました。いろいろと模索する中で行き着いたのがリノベーション、つまり、しっかりとした技術で施工して、建物としての寿命を延ばし、古い不動産に新たな命を吹き込むということだったんです。
――古い物件の再生には大規模修繕事業で培った実績や知識が生かせそうです。
ええ。そこでまず手始めに戸建て物件を購入して、リノベ後に販売してみました。それを機に宅建の免許も取得し、宅建業協会に加盟して業界のみなさんとも繋がりを広げることができましたので、次は区分マンションを5部屋まとめて買って、カッコよくブランディングして販売しようと考えました。しかし僕らには肝心のデザイン力がない。そこはセンスの良い設計士さんと組むしかないと思い、誰かいないかなと思っていた時、東京でたまたま立ち寄ったお店のカウンターで偶然隣り合わせた人が世界的に活躍されている設計士さんだと知って。名刺を頼りに名古屋に戻って改めて検索してみると、素晴らしい建築をいくつも手がけている有名な方でした。
――すごい出会いですね!
お礼のメールを差し上げ、設計をお願いしてみたら「いいですよ」って快く返事をくださって、その方に2部屋を依頼しました。残り3部屋のうち2つは名古屋でインテリアの仕事をされている知り合いの方に、あとの1つはグッドデザイン賞の受賞経験のある知人の設計士さんに頼んで、全5部屋のリノベーションマンションが完成。それぞれテーマや個性は違いますが、全体的に統一感を持たせるために「ライフスタイルリノベーション」というブランドを作り、コンセプトからしっかり立てていきました。それがメディアの目に留まり、雑誌や新聞、テレビなどに取り上げてもらったことで知名度も上がっていったんです。
――古い建物を綺麗に整えるだけでなく、丁寧なブランディングが重要なんですね。
そこが本当に大事ですね。ただ部屋はすべてモデルルームで、そこから注文を請負う形でやっていたので受注に繋げるのがなかなか難しかったんですよ。販売の方法を再度考え直し、戸建ての販売に変更して社員に任せようと思ったんですが、僕は人を育てるのがあまり得意ではないし、結局は自分でやるしかないなと。自分でやるからには意義を感じられることがしたい。そんな思いはますます強くなっていきました。

社会に求められるビルの再生へ
――仕事をする上で、名倉さんはどんなところにやり甲斐や意義を感じますか。
それまでずっと大規模修繕工事の監督をやってきて、コンクリートの長寿命化に力を入れてきたという自負がありますので、その価値をさらに高めたいという気持ちは今でも持ち続けています。そういう意味でもやはり僕のやるべきことは住居よりもビルだと思ったわけですが、ちょうどその頃、リノベーションの世界で〝コンバージョン〟つまり建物の用途を変えて再生するという考え方が注目され始めていました。例えば中古ビルを介護施設にするとか、社宅を分譲マンションにするとか。そこにニーズがありそうだと直感したんです。
――新しい建物を作ること以上に、社会事情の変化や時代のニーズに合わせて、まだ生かせるビルをしっかりと再生、再利用するという考え方を大事にしたいと。
そう。でも最初の頃はコンバージョンできそうなビルを探してもなかなか出会えませんでした。3つ目の物件でようやくテナントの入っていない空のビルを紹介してもらい、仕様も旧耐震だったのでうちでやる意味もあると思い、購入しました。僕が知識を持っていない部分は専門家の力を借りながら、それまで勉強してきたことを生かしてやれるだけのことをやってみようと。どんな使い道がいいかよく考えて、当時まだ名古屋では前例が少なかったシェアオフィスを作りました。

――ビルを購入し、再生するにあたって周辺の環境やどんなニーズがあるかなど、地域のこともリサーチされるのですか。
もちろんエリアマーケティングはしっかりやりますよ。主に自分の足で歩いて、聞き込み調査をするという地道なやり方ですが(笑)。例えばそのビルは江戸時代から続く商店街の中にありますが、周辺には今でも1階で商売をしながら2階より上を住居にしている人が多いんです。しかし高齢化や後継者問題などで家業の継承が難しく、近年は商売を畳んで土地を売って郊外に出て行ってしまうケースが増えています。そうした課題を抱えるまちに新たな交流の場を作ることができたらいいなという思いでコンセプトや使い道を考えました。昔ながらの住民と外から入ってきた若い世代とが交流する場がないので、このビルをハブにして地域コミュニティの仕組みを作っていけたらと思い、1階をカフェにしました。


魅力あるビルとの出会いは縁
覚悟が決まればあとはやるだけ
――リノベーションのための物件を購入するにあたって、特に何を重視しますか。
まずはハコそのものが魅力的かどうかです。そこに魅力を感じたら思い切って買っちゃうことが多いですね。僕の経験上、買ってしまったらあとはやるしかない。買えば覚悟が決まるので、あとはなんとかなると思っています。
――買ったからにはやるしかないと。
そうそう(笑)。泉のビルとほぼ同時期に、栄(住吉)にある築100年という物件と出会い、飲食のテナントビルとして再生しましたが、壊した方が早いんじゃないかと思うような建物でした。障害が多くて再生が難しい物件でしたが、難しいものほど燃えるんですよ。困難を乗り越えることに面白味を感じるんでしょうね。
――このビル(南大須ビル)に出会った時はどんな魅力を感じましたか。
最初に見にきたのは2023年の3月ごろでしたが、ご覧のとおり間口が狭くて奥に長いまさに〝鰻の寝床〟で、使いづらそうだなという印象でした。けれども建物そのものは悪くないし、いつかルーフトップバーをやるのが夢なので屋上もいい感じだなと思いました。そこで栄(住吉)のビルに入ってくれている飲食専門の彼らに1階でカフェをやってもらおうと思ったんですが、最初はなかなか承諾してもらえなかったんです。大須からここまで数十メートル、たったこれだけの距離が飲食店にとっては難しいというのが理由でした。それでも諦めずにお願いして、ようやく了解をもらうことができました。
地域が誇る歴史や文化を守りながら
まちに新しい息吹を
――仏壇通りの中でひときわ異彩を放っていますが、このエリアにこうしたビルを作ったのにはどういう狙いが?
地域にイノベーションを起こすためですね。といっても僕自身、このまちに特に思い入れがあったわけではありません。でも出会ったからにはこの縁を意味のあるものにしたいんです。でなければこのビルもこのままいつか壊されてしまいますからね。しかし、まちの中に新しいものを生み出そうとすると必ず困難にぶつかります。そこで簡単に諦めないことで、僕と同じような思いで取り組んでいる人たちの希望になりたいとも思っています。「南大須ビル」を新しい交流拠点に、この世界観を共有できる人たちと一緒にまちに新しい文化を生み出して発信していくこと、そして伝統工芸としての仏壇づくりの技を生かしながら、新しいクリエーションとともに次なる展開を生み出せたらいいなと思っています。




| 名称 | 南大須ビル |
|---|---|
| URL | |
| 住所 | 名古屋市中区門前町3番26号−2(大須仏壇通り沿い) |
| 備考 | -フロア詳細 3F・4F:クリエイター向けシェアオフィス ☆5F アーティスト向けシェアアトリエ入居者募集中! |














