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山形移住者インタビュー/パティシエ 鈴木絵望さん

インタビュー

2022.12.16

#山形移住者インタビュー のシリーズ。今回のゲストは鈴木絵望(えみ)さんです。岩手県大船渡市で生まれ、高校卒業後から約10年間盛岡で暮らしたのち、2021年2月に山形市へ移住。現在は山形市のカフェ「Slow Jam」に勤務し、パティシエとしてお菓子づくりを担当しています。

移住のきっかけは結婚だったといいますが、鈴木さんは結婚相手に依存せず自分の力で新しい仕事や人とのつながりを開拓し、暮らしの基盤をつくろうと模索してきました。移住者の中には家族の転勤や結婚など、外的要因から移住を決めた人もいると思います。そんなとき、いかに自分から道を切り開いていけるのか。大切な心持ちに気付かされたインタビューでした。

山形移住者インタビュー/パティシエ 鈴木絵望さん

仕事と出会い、移住を決意

盛岡では製菓の専門学校に通い、卒業後はケーキ屋、アパレル店などで働いたのち、コーヒーや食品を主に扱う大手小売店に就職しました。会社で受けたコーヒーのペアリングや食品にまつわる研修をきっかけに「自分でレシピを考えて商品をつくりたい」と思うようになり、地域のカフェに転職してお菓子をつくりながらコーヒーの提供をしていました。

夫とは盛岡で出会ってお付き合いをしていたのですが、夫が家業を継ぐために地元の山形市に戻ることになりました。当時から結婚の約束をしていたので、1年ほどは遠距離の状態で何度か山形に通いながら、私も移住するタイミングをうかがっていたんです。

まずは仕事が必要だと思い、職探しから始めました。山形でもカフェや飲食関係で働きたいなと求人サイトを見ていたのですが、どれもピンとこず、山形に知り合いもいないしどうしようかなぁと思っていたら、Instagramでコーヒーショップ「Day&Coffee」にたどり着いたんです。

Day&Coffeeの投稿には「移住相談」の文字があり、私にぴったりだ!と思い、お店に行って店主の北嶋(孝祐)さんに声をかけました。すると「リアルローカル山形」の移住にまつわる冊子などを見せていただきながらお話をしてくださり、その流れでSlow Jamのお仕事を紹介していただきました。

無事に仕事が決まったので、次は家探しです。結婚を見据えていたものの、夫に頼りきった姿勢ではうまくいかない。このまちで一人で根を張れるようにしないと結婚してからダメになってしまうと思い、最初の1年は職場の近くで一人暮らしをすることにしました。仕事と家を見つけたことで、ようやく移住に踏み切ることができました。

生産者とのつながり

山形に来てからはひたすら仕事に打ち込む日々を送ってきました。パティシエの身からすると、ここは素材大国です。山形は果物も野菜も品種が多様で、選択肢が多いなと感じます。

山形移住者インタビュー/パティシエ 鈴木絵望さん
「いままで食べたもののナンバーワンを山形で次々と更新しています」と話す鈴木さん。山形のワインや日本酒も大好きとのこと。

とはいえ、いいことばかりではなくて。当初は新しい環境で友達もいなくて不安な日々でした。だけど当時Slow Jamの同僚だった千田(若菜)さんからパン職人の飯澤(雅子)さんを紹介いただいたことをきっかけに、少しづつ新しいご縁がつながっていきました。

なかでも印象的だったのが、生産者さんとのつながりを持てたことです。上山市の「つきほし果樹」さんでぶどうの収穫をさせていただき、それが南陽市の「イエローマジックワイナリー」さんのもとでワインになるという貴重な経験をさせていただきました。

パティシエはフルーツや食材を仕入れて、それを加工するのが仕事です。これまでは生産者の現場をあまり知らないままお菓子づくりをしてきましたが、こうした体験によって「生産者さんと関わりを持ちながら、おいしい素材を生かすものづくりがしたい」と思うようになりました。このまちに来たからこそ、自分のビジョンが明確になったのだと改めて思います。

山形移住者インタビュー/パティシエ 鈴木絵望さん
つきほし果樹にて、イエローマジックワイナリーに納品する葡萄収穫のお手伝い。(画像提供:鈴木さん)
日常に寄り添うスイーツ

非日常的なレストランスイーツも素敵ですが、「なんか今日いい朝だな」と思えたり「一息ついてまたがんばろう」と思えたりする、日常のワンシーンに寄り添うようなお菓子をつくりたいと思っています。

私自身、職業柄、毎日スイーツを食べるので、自分が食べても罪悪感のない健康的なものをお客様にも提供したいという思いがあります。できるだけ白砂糖ではなく、てんさい糖やメープルシロップ、はちみつなどを使うようにしたり、小麦粉は国産や県産のものを使い、全粒粉の配合を多くしたり。最近は卵や牛乳、バターなど動物性のものを使用しないヴィーガンスイーツにも力を入れています。

山形にはおいしい素材があるので、素材の良さを生かすように。フルーツの甘さを引き立てたいので砂糖は控えめに、アクセントとして生地に塩味を加えてみたり。コーヒーとの相性も意識してつくっています。

山形移住者インタビュー/パティシエ 鈴木絵望さん
ヴィーガンクッキー缶 秋冬バージョン(画像提供:鈴木さん)

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ヴィーガンカヌレとかぼちゃのマフィン(画像提供:鈴木さん)

月に一度はメニューを変えて、季節の素材に合わせた商品を提供しています。オーナーが信頼して任せてくださり、新しいチャレンジがしやすい職場です。レシピを考えて試作して、完成したらメニュー化して商品を撮影して、紹介するテキストを考えてSNSにアップするという一連の作業をすべて自分でやります。コーヒーとの相性にもこだわりたかったので、お店にエスプレッソマシーンを導入していただきました。やりがいのあるお仕事と、働きやすい職場に感謝しています。

このまちで、自分の基盤をつくる

実は、山形に移住したばかりの時は一人暮らしが嫌だったのですが、振り返るといい決断だったなと思います。「ここでなんとかやっていくんだ」と覚悟を決めて、仕事にフルコミットしながら自分と向き合うことができました。

仕事以外でもいろんな人と知り合う機会がありました。北嶋さんはコーヒーショップをやっていて、人とのつながりをたくさん持っていらっしゃるので、「友達がほしいので、ワイン会を開いてもらえませんか」とお願いしてみたところ、快く開いていただき、少しづつ仕事以外の人とのつながりも生まれていきました。素敵な人のまわりには素敵な人がいますよね。

山形移住者インタビュー/パティシエ 鈴木絵望さん
「移住先では自分の好きなお店に通ったり、イベントに参加したりして、自分に合うコミュニティを見つけるのがポイントかもしれませんね」と鈴木さん。

出会う人には東北芸術工科大学の出身者が多くて、ものづくりをして自分で発信している人が多いからか、話していると自分と相性がいいような心地良さがあります。いままでは「こだわりすぎじゃない?」と言われることがあったのですが、山形では新しいことをすると褒めてくれたり、共感してくれたり、フィードバックをくれたりして、物事がトントン進んでいく感覚があります。がんばりすぎず、でも高い位置でモチベーションをキープできている気がします。

こうして自分のコミュニティをつくったり、仕事の環境を確立できたのも、夫や義両親のおかげです。夫がマメで、こまめに連絡をくれたり気にかけて見守ってくれたり、義両親も親身になってアドバイスをくれたからこそ、一人で安心して自由に動き回ることができました。

2022年10月には入籍して、12月から一緒に暮らし始めています。新生活もすごく楽しいですよ。私自身で仕事や生活の基盤が築けているからこそ、いまの楽しさがあるのかもしれません。

山形移住者インタビュー/パティシエ 鈴木絵望さん

人とつながる場をつくりたい

これからもっと生産者さんとのつながりを深く持ちながら、日常を豊かにするお菓子をつくっていきたいです。

いつかお菓子づくりの教室も開きたいなと思っています。Q1にシェアキッチンがあってお手頃な価格でレンタルできるので、教室をやるのにはぴったりなんですよね。お菓子に使っている粉やフルーツなどを通じて、山形の豊かな食材を紹介できたらいいなと思います。

人とつながれる場所やみんなで楽しめる場所をつくりたいことも、教室をやりたい理由です。私自身が移住直後で不安だった頃、千田さんや北嶋さん、飯澤さんをはじめたくさんの人に助けていただきました。私もこれからは山形暮らしをスタートさせる人の助けになったり、あたたかいコミュニティをつくれたらいいなと。

このまちには自分の思いを実現できる場所があって、共感してくれる人たちがいます。お菓子づくりを通じて、周りの人や山形のまちにも少しづつ恩返ししていけたらいいなと思っています。

取材・文:中島彩
撮影:伊藤美香子