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山形の巨樹・古木に会いに行く vol.4

連載

2023.11.16

過去最高に暑かった2023年の夏のある日。まだ見ぬ巨樹・古木を探しに山形市野草園へと向かった。約26haの広大な公園は、いまから30年前、平成5年4月に開園した。
標高530~570メートル。低山くらいの環境下、街であまり見かけない木や草花に、ここで出会える。園を訪れるたび私は季節の移ろい・変化を実感する。毎月、いや毎週でも来たい場所。300円の入場料も日々の管理を思えば安いものだ。1,200種以上の野草や樹木に触れて一日楽しく過ごせる市民みんなの憩いの庭、“a garden for the citizens”。 その中にある私の「推しの樹」を紹介しよう。

【No.9野草園のシンボルツリー(1)オオヤマザクラ】

山形の巨樹・古木に会いに行く vol.4
山形市野草園入口正面にあるオオヤマザクラ。

園に入ってすぐ、1本のサクラの木が「ようこそ!」と枝葉を広げて私たちを歓迎してくれる。シンボルツリーのひとつ、オオヤマザクラだ。春には濃い紅色の花を咲かせ、秋には紅く染まった葉を身にまとうその姿は、季節ごとに着物を着こなす上品な麗人のよう。

オオヤマザクラは、東北北部や北海道に自生する“野生種”。話を聞いてみると、園内には開園前からこの場所に自生している古参のサクラが何本かあり、管理者の手によって保護されている。

ソメイヨシノやエドヒガンなど、園内にあるサクラの種類は20種類を超えるという。他にも珍しい種や、世界唯一のサクラ「ミヤマカスミザクラ」もある。園にただ1本のみ自生している木を見つけ、違いを観察してみるのも面白いだろう。
(※山形市野草園公式HP「ミヤマカスミザクラ」 https://www.yasouen.jp/sakura/)

山形にサクラの名所は多々あれど、ここ野草園ほど様々な種のサクラが見られる場所はない。春浅い4月から5月中まで、”開花リレー”が楽しめそうだ。

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野草園に咲く桜を紹介する案内板。この他にも数種類のサクラが園内で見られる。
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サクラの紅葉。葉の色が緑から黄色、赤へと移り変わる木々の景色もこの季節ならでは。
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オオヤマザクラの樹皮。若い木は艶感があるが、老木になると岩のようにごつごつとした木肌へと変化する。
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植樹されてまもない若いサクラ

サクラの樹齢は種類により異なる。ヒガンザクラのように千年を超えて生きる種もあれば、ソメイヨシノは樹齢は60年から120年くらいと人間の寿命に近い。老木が枯れてしまう前に、若い木々を育て世代交代させることで、将来この公園を訪れる人々も花見を楽しめるだろう。雨上がり、淡い香りを放つサクラの葉を踏みしめながら、未来の風景を思い浮かべた。

【No.10野草園のシンボルツリー(2)ブナ】

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黄葉したブナ。秋の日差しに照らされ黄金色に輝く。

天然ブナ林面積日本一は、実は山形県。新潟との県境・小国町や月山山麓に広がるブナの原生林は有名だ。園のもう一つのシンボルツリーであるブナの木は、開園時に岩手県から移植された木という。実際に目にすれば、その大きさ、美しい灰白色の樹皮に魅了される。

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上へ上へと伸びていく、生命力あふれるブナの幹。
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小さなブナの実。ソバに似た実はトゲのある殻に包まれている。大きなクマがこのように小さな実を好んで食べるのは、ナッツのような美味しさにあるのでは。

燃料としての炭や食卓で用いる器など、人々の暮らしに身近であったブナ。いまは需要が減り、国産のブナ製品を目にする機会は限られている。これから私たちは地元の大切なブナを、どのように活用し、守り育てていけるのか。
今年は野生のクマが例年以上に人里や市街に数多く出没しているが、彼らの食糧であるブナの実は凶作続きであると聞く。生態系全体を考えた時、ブナを含む広葉樹の森をバランスよく育て、人の手で管理していく必要があるのでは。そんなことをふと考えてしまった。

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緑から黄色へと美しいグラデーションを見せるブナの葉。

園のブナも11月には葉が枯れはじめ、徐々に冬の寒々しい姿に変わりゆく。春の芽吹きの季節まで、深雪の中を冬芽で過ごすこととなる。

【No.11 メタセコイアの巨樹】

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園内の道を奥まで進むと、友好姉妹都市ゾーンに着く。「ボルダーの庭」には、大きな樹々がそびえ立つ。メタセコイアだ。ヒマラヤスギなどは山形の市街地でも目にするが、この木はあまり見かけない。以前は市内の大学キャンパスにあったというが、大きく育ちすぎるうえ秋に落葉するため切り倒されてしまったそうだ。それが野草園の中で伸び伸びと勢いよく生育しているのは、とても気持ちがよいものだ。

※ボルダー(アメリカ合衆国コロラド州)は山形市の友好姉妹都市のひとつ。

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大地にしっかりと根を張るメタセコイア。

メタセコイアは「生きた化石」と呼ばれる。1941年に植物遺体(化石の一種)として発見し、常緑樹のセコイアとは異なるこの木に名前を付けたのは、三木茂氏。絶滅したと思われていたこの木だが、その後まもなく中国で発見された種がメタセコイアであると判明した。ヒノキ科の針葉樹で、25~30メートルほどの高さまで成長する。英名dawn redwood、別名「曙杉(あけぼのすぎ)」。花言葉は「平和」、「楽しい思い出」。

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仰ぎ見れば、登りたくなる衝動に駆られるような枝が広がる。

世界で一番大きな木はアメリカ・カリフォルニア州にあるセコイアの仲間だそうだ。“威風堂々”とした大木を見上げると、その姿に圧倒されて息を呑む。これからこの木は、どこまで伸びていくのか。成長しきった木を、私は生きている間に確認できない。けれど、未来を生きる子どもたちが、この樹々の下で遊びまわる平和な時間を想像するのは私にとって幸福なのだ。

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10月下旬、メタセコイアの花(雄花)。咲く期間が限られる花をタイミングよく見られた。
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メタセコイアの球果(きゅうか)。

メタセコイアは、その木の大きさに比べ想像以上に小さな実をつける。2cmほどの果柄(かへい)がつき、まるでサクランボみたい。枝先にプラプラぶら下がる緑色の実は、秋が深まると褐色へと変化し、コロコロと木の根元周辺に転がり落ちる。これを拾い集めて、クリスマスリースに飾り付けてみようか。紅葉が進むと葉がレンガ色になり、やがて落葉する。

■参考 山形市野草園公式HP 「みどころ情報」より

【野草園の歩き方】

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受付時にもらえる園内地図。おすすめお散歩コース・見どころが詳しく紹介されている。

静かな平日に一人のんびりも、週末家族でワイワイも。自分のペースで自然に触れられる、それが野草園の魅力だ。サクラの落ち葉をカサカサと踏みしめる音、カツラの枯れ葉から立ちのぼるカラメルみたいな甘い香り。思いきって芝生の上に寝転んでみて、スーっと深呼吸すれば、身体と自然との境目がなくなり、空と大地に溶け込んでいく不思議な感覚になる。
日々の忙しさに疲れたとき、野草園の大きな木に会いに行く。樹々や草花と戯れ、広い空の下で自然に身を任せていたらグダグダ悩んでいたこともどこかに吹き飛んでしまった。
ボタニカルアートにバードウォッチング、薬草ガイドツアーへの参加…。これから挑戦してみたいこと・好きなものを、ここで見つけられてよかった。

山形の巨樹・古木に会いに行く vol.4

【山形市野草園】
公式ホームページ https://www.yasouen.jp/ 
山形市神尾832番地の3
(開園時間) 9:30~16:30(入園は16:00まで) ※冬期間休園 12月~3月
(休園日) 毎週月曜日 ただし月曜日が祝日の場合は、その翌平日
※4月第3月曜日から6月第2月曜日まで無休
(アクセス) 車:山形駅から約25分 バス:山形交通「野草園」