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【福島県・郡山市】「おいしい幸せ届けます」有機農家ハッピーファームがキャッチコピーに込めた想いと農について伝え続ける理由

インタビュー

2024.03.27

農薬や化学肥料を使わずに育てられた有機野菜。体にいいイメージはあるけど、そのほかの野菜より値段が高いものも多く、あえて手に取ることはあまりないという方も多いのでは。

しかし、筆者が働く料理店で野菜を使わせていただいているハッピーファームの安田潤一さんが語る、“有機農業を営む理由”に耳をかたむけると、野菜を選ぶときの基準が少し変わるかもしれません。

ビールの原料でなめこを栽培!? 意外と知らないきのこの育て方

【福島県・郡山市】「おいしい幸せ届けます」有機農家ハッピーファームがキャッチコピーに込めた想いと農について伝え続ける理由

―― 安田さん、いつも美味しい野菜をありがとうございます。ハッピーファームでは1年を通して様々な野菜を栽培してますよね。

安田さん:そうですね。メインはなめこやキクラゲなどのきのこ類、そのほかに人参やお米も育ててます。ではまず、きのこの栽培舎(菌舎)を見てみますか。

―― 森の中できのこが生えているのを見たことはありますが、農家さんがどのようにきのこを育てているのか気になります。

【福島県・郡山市】「おいしい幸せ届けます」有機農家ハッピーファームがキャッチコピーに込めた想いと農について伝え続ける理由

安田さん:きのこの栽培方法は主に2種類あります。一つはきのこの菌を丸太に植え付けて栽培する原木栽培。もう一つは菌床と呼ばれるおが粉や米ぬかなどを混ぜたものをビンなどに詰め、蒸気で殺菌した後にきのこの菌を植え付ける菌床栽培です。

―― ハッピーファームではどちらの方法でなめこを栽培しているんですか?

安田さん:菌床栽培で育てています。菌床に使う素材は農家仲間と実験したり、きのこに聞いてみたりと試行錯誤して選んできました。農家さんによって菌床の中身は変わります。珍しいものでいうと、うちではこの粉を入れてます。何かわかりますか? 見た目じゃわからないかもしれないから、もしよかったら舐めてみてください。

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―― ビールの風味を感じますね。ビールに入っている何かですか?

安田さん:これは乾燥ビール酵母です。ビール酵母にはきのこの成長を促してくれるビタミンやミネラルのほか、アミノ酸などが豊富に含まれています。きのこ栽培用の栄養剤も流通しているのですが、うちでは体への安全性を大切にしているので余計なものは使わないようにしています。

―― 菌床にきのこの菌を植え付けて、どれくらいの期間で収穫できるんですか?

安田さん:80日間くらいです。きのこの菌の成長具合を診ながら、室温・湿度・光量を調整して季節を再現した各部屋に菌床を移動させて育てます。秋を再現した部屋に移動させ、収穫できる大きさになったら一つひとつハサミで摘んでいきます。

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―― ハッピーファームでは創業当時からなめこの栽培をしているんですか?

安田さん:うちは1965年に父が設立したんだけど、その当時はなめこ栽培ではなく冬場の収入源を確保するために始めたえのき栽培をメインでやってました。なめこ栽培をはじめたのは今から約30年くらい前からですね。今でこそ安定してなめこ栽培をできているけど、うまくいかなかった時期もあってね……

―― そうだったんですか?

安田さん:菌床がダニにやられてほとんど栽培できなかったこともあります。科学農薬で消毒すればすぐに栽培を再開できたけど、そういったものには頼らずに自力で掃除したり、ダニの繁殖しづらい乾燥した環境づくりをしたりして対応しました。元通りなめこを栽培できるようになるまで約1年かかりました。

―― 1年もですか。

安田さん:きのこの栽培は失敗するリスクも高いし、価格競争もかなり激しいのでシビアなんです。昔、きのこ農家の仲間と集まったときに冗談半分で「えのきにえ(い)じめられ、なめこでなめられ、しめじに締められ、椎茸でしいたげられ、舞茸でまいったまいった」って俺が言ったら「洒落になんねぇジョークだ」って仲間に言われたこともあります(笑)

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数々の実験と工夫を積み重ねることで美味しい野菜が育つ

【福島県・郡山市】「おいしい幸せ届けます」有機農家ハッピーファームがキャッチコピーに込めた想いと農について伝え続ける理由

安田さん:次はハウスの中を見に行きましょうか。このハウスでは原木栽培の椎茸などきのこ類のほか、今の時期はほうれん草などの葉物野菜を栽培してます。

―― ハッピーファームでは育てたことのない野菜の栽培にもどんどんチャレンジしてますよね。

安田さん:「今度は何を実験してんだ」って農家仲間からはよく面白がられてるよ(笑)育てたことのない野菜の栽培だけじゃなくて、外の畑では土を耕さずに野菜を育てる不耕起栽培も実験的にやっています。好奇心に従っていろいろ試してるんだけど、もちろん失敗することも多いです。でも、失敗は成功のもとって言うでしょ。失敗しないと人間は育たないし、 成功して学ぶことよりも失敗から学ぶことの方が多いと俺は思うね。

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―― 除草剤などの農薬や科学肥料を使わずに野菜を育てるのは手間もかかるし、やはり大変ですか?

安田さん:有機栽培は決して楽ではないけど、工夫次第でなんとかなるんです。例えば、害虫の天敵が好む植物であるバンカープランツや、病害虫の発生を抑えられたり、野菜の成長を促進できたりするコンパニオンプランツを畑に植えることで害虫対策はできます。いかに科学の力に頼らず美味しい野菜を育てられるか。有機農業は奥が深いのでまだまだ勉強中です。

―― 以前の僕の“野菜を購入するときの判断基準”は、“いかに安いか”だけでした。でも、ハッピーファームをはじめとする有機農家さんが“てまひま”かけて育てた野菜の美味しさを知ってからは栽培方法も気にするようになりました。

安田さん:それは有機農家の一人としても嬉しいね。

―― 有機野菜は慣行栽培(農薬や化学肥料を使用した栽培方法)された野菜よりも値段が高いから買いづらいという消費者の意見もありますが、一度食べればその美味しさが購入の理由になると思うんです。

安田さん:よかったら改めてうちの野菜、食べてみるかい?

―― ぜひ!

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―― 野菜って生で食べるとエグみがあるのにこれは全然エグみがないですね。スーパーでいつも買っているものより香りも甘味もしっかりしてます。ハッピーファームの野菜は野菜特有のエグみが少ないですが、何が影響しているんですか?

安田さん:化学肥料を使わず、使い終えた菌床の堆肥のみを畑に撒いているからだね。

―― もう少し具体的に教えていただけますか?

安田さん:慣行栽培は短期間により多くの野菜を栽培するために化学肥料を与えているんだけど、ともすると野菜たちが栄養過多になって人間でいうとメタボぎみに育ってしまうんだよ。栄養がたくさんあることは野菜にとっていいことだと思ってしまうけど、余分な栄養はエグみのもとになるんです。

有機農法への切り替えを決断したきっかけは子供の頃に見た不自然な光景とトラウマ

―― ハッピーファームは創業時から有機農法を取り入れていたんですか?

安田さん:創業からしばらくは慣行農法でやっていて、有機農法をはじめたのは1982年に俺がハッピーファームで働き始めた後、父から田んぼを任されるようになった2000年頃からかな。

―― なぜ有機農法に切り替えたんですか?

安田さん:一番大きな理由は子供の頃に田んぼに農薬を撒くのを手伝わされた後に、気持ちが悪くなって吐き気を感じたことがトラウマになってたからかな。

―― 農薬が人体に及ぼす影響を子供ながらに感じていたんですね。

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安田さん:あともう一つ、有機農法に切り替えようと思うきっかけになった出来事があります。俺が子供の頃、「雑魚(ざっこ)すくい」っていって田んぼの脇の用水路にいる魚を捕まえて遊んでたんだけど、あるとき捕まえた魚がほとんど奇形だったの。体が曲がってたり、背びれがなかったりね。

―― 奇形の魚たちと農薬とはどのような関係があるんですか?

安田さん:当時は魚たちの体と農薬の関係は意識してませんでした。でも、大人になってからも奇形の魚を見たときの光景が頭から離れなかったんです。それから奇形の魚が生まれてくる理由を知りたいと思い、自分で調べはじめました。その結果、奇形の魚が生まれるのは親の魚の体内に、農薬等の余計なものが入ってしまうことが一つの要因だとわかったんです。

―― 子供の頃に感じた農薬や化学肥料への不信感からそれらについて学び、自分が農業を始めたら有機農法に切り替えようと決断したんですね。

安田さん:日本の食べ物は安全、多くの方がそう思っているんじゃないでしょうか? でも、今の日本は他国で使用禁止になり始めている農薬の使用が逆に拡大していたりと、他国に比べて農薬や化学肥料の使用に対して規制がゆるいのが現状です。
現在、日本で育った野菜の輸出が盛んになってきていますが、同時に農薬の規制基準を厳しくし始めている国が増えています。その結果、日本で採れた野菜の輸出が難しくなってきているんです。農薬や化学肥料を使用することで手間が省けたり、大量生産ができたりすることは農家にとってメリットといえます。一方で、それらの科学的なものが人体に悪影響を及ぼすという研究結果がいくつも出ているんです。

―― そういったことってあまりメディアでは報道されないですよね。自分で知る努力をしなければ、知らないことばかりだなと本当に思います。

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安田さん:ADHDなど発達障がいのある子の増加数は、農薬を撒く量と比例しているという研究結果もあるんです。もしそれが本当だとしたら、障がい者の方たちは農薬や化学肥料を使った従来の農業の被害者かもしれないですよね。そういったことを知ってから、農業に携わってきた者として何かできることはないかと考えてました。

―― そうだったんですね。現在、ハッピーファームでは障がい者の方への支援は何か行っているんですか?

安田さん:地元の有機農家と、障がい者とともに農業に取り組む福祉施設が立ち上げた「あさかのCSA」というチームがあるのですが、メンバーである一般社団法人 空(くう)の代表とお会いしたご縁をきっかけに、約2年前から同法人が運営する土水空ファームのお手伝いをさせていただいています。

持続可能な農業を後世に残すために俺ができるのは伝え続けること

【福島県・郡山市】「おいしい幸せ届けます」有機農家ハッピーファームがキャッチコピーに込めた想いと農について伝え続ける理由

―― 安田さんは18歳のときに就農したとお聞きしました。子供の頃から農業をやりたいと思っていたんですか?

安田さん:子供の頃からいつかはハッピーファームを継ぐとは思ってたけど、18歳で農業を始めるとは思ってなかったね。きのこの菌の勉強をするために大学に行きたかったけど、丁度そのときに親父が腰を痛めてしまったんです。そんな状況で親に甘えるわけにもいかなかったので、就農を決意しました。

―― 農家として歩んできた42年を振り返るとどう感じますか?

安田さん:いろいろ大変なこともあったけど、よくやってきたと思うよ。福島の原発事故の時は風評被害でなめこの売上が例年の三分の一になって、このままいったら倒産という状況でした。だからといって、自らやると決めた農業をここで辞めたら自分が自分でなくなってしまう……。あのときは追い詰められてたね。

―― 大変なことがありながらも続けてこれた原動力は何だったのでしょう?

安田さん:うちの野菜やお米を買ってくださる消費者の方々からの応援の声だね。栽培方法にこだわるのはやっぱり消費者の方々の健康や幸せを願っているからです。

―― そういった想いはハッピーファームの「おいしい幸せ届けます」というキャッチコピーにも込められているんですか?

【福島県・郡山市】「おいしい幸せ届けます」有機農家ハッピーファームがキャッチコピーに込めた想いと農について伝え続ける理由

安田さん:そうだね。応援してくださる方々の食卓の笑顔を想像しながら、美味しいだけじゃなくて、食べることによって健康に、そしてハッピーになるような野菜を育てていきたいと思ってます。

―― 安田さんにとって農業はどんな存在ですか?

安田さん:人生の半分以上やってるけど何だろうな……。趣味のようでもあるけど、俺にとってはもう生業(なりわい)だよね。農業を続けていくのが俺の使命です。

―― 使命ですか。

安田さん:ただ続けていくだけじゃなくて、農薬や化学肥料を使うことによって起こる弊害や、有機農法を取り入れる意義も世の中にしっかり伝えていきたいです。慣行栽培を否定はしないけど、従来の農業を続けていては生き物の体だけじゃなく、環境にも悪影響があります。自分たちの代で農業を終えるわけにはいかないでしょ。

―― 農業は僕たち人間が生きていくためのライフラインの一つですもんね。

【福島県・郡山市】「おいしい幸せ届けます」有機農家ハッピーファームがキャッチコピーに込めた想いと農について伝え続ける理由

安田さん:後世に持続可能な農業を残すために“伝えて繋げる”っていうのが自分のなかの一番大きなテーマかな。

―― 農家さんと消費者って近いようで遠い存在だと思うので、消費者の方に伝えていくのは難しい部分もありそうですね。

安田さん:子どもたちや保護者向けに農業体験を開催したり、依頼を受けて講演をしたりしてるけど、まだまだ消費者の方々に食の安全性や有機農業の魅力は伝わってないと感じるね。だから伝え方はまだ模索中です。子どもたちの未来はやっぱり明るくないとね。もう60歳だからあと何年農業をできるかわからないけど、自分なりの信念をもって楽しく続けていきたいです。

―― 今日はお話を聞かせていただきありがとうございました。きっと安田さんの声は多くの消費者の方に届いていくと思います。これからもがんばってください!

【福島県・郡山市】「おいしい幸せ届けます」有機農家ハッピーファームがキャッチコピーに込めた想いと農について伝え続ける理由

撮影:小川俊介

名称

有限会社 ハッピーファーム

住所

〒963-0201 福島県郡山市大槻町字南原209番地

URL

WEBサイト

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