【愛知県・岡崎市】愛知県産の食材だけを使った 農家さんの顔が見えるジェラート屋さん 『オーカジェラート』
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愛知県岡崎市で50年以上続く食品卸会社『マルサ』が手掛けるジェラートのお店『オーカジェラート』。コンセプトは〝作り手の顔が見えるジェラート屋さん〟。
県内で生産される素材のおいしさと生産者さんたちのこだわり、そして農業にかける情熱までを多くの人に伝えたいと2023年の秋にオープンしました。
活気を取り戻した岡崎市の中心・康生エリアで
名鉄東岡崎駅から北へ歩いておよそ10分。『オーカジェラート』は、まちの中心を流れる乙川に架かる桜城橋を渡り、遊歩道として整備された中央緑道沿いにあります。
康生エリアと呼ばれるこの一帯は、かつて岡崎市の中心街として賑わいを誇っていましたが20年ほど前をピークに人の流れが減少。徐々に元気を失っていきました。しかしここ数年、再びまちの活性化を目指す取り組みが進み、新しいショップが次々にオープン。まちの中でさまざまなイベントが開催されるなど、市内外からも大勢の人が訪れる人気のエリアとして注目されるようになりました。
そんな康生エリアに誕生した『オーカジェラート』。このお店をプロデュースするのは食品卸業を営む株式会社マルサの代表、櫻井喜朗さん。15年ほど前に創業者である父の後を継ぎ、現在も食品卸業を続けながら毎週のように県内の農家さんのもとを訪れ、より良い素材を求めて日々奔走しています。

50年続く食品卸業者の二代目として
作り手たちのこだわりに触れて芽生えた思い
50種類近いレパートリーの中から、その時期にもっともおいしい素材を厳選し、有名ホテルで料理長を務めた経験を持つ専属シェフがオリジナルのレシピで仕上げる絶品ジェラートの数々。店頭のケースの中には、苺やチョコレートといった定番のフレーバーから、バナナ、きな粉、ほうじ茶など珍しいものも並び、それぞれのプレートには産地や農園の名前が記されています。
「扱う食材の産地は三河や知多をはじめとしたオール愛知。県内だけに絞ってもこんなにいろいろな素材が揃うんですよ」と櫻井さん。地元産の食材に精通しているのは50年以上続く食料品卸業としての実績があってのこと。とはいえ、櫻井さんが家業を継いだ当時、扱っていたのは和食用の野菜や既製品に限られていたそう。今のように農家さんと直接取引をすることはほとんどなく、市場や商社から仕入れたものを飲食店や旅館などに卸すだけだったと言います。

「自分が二代目として卸業を続けるにあたって、今までのやり方でいいのだろうかと考えたんです。何か特徴を持たせて事業の幅をもっと広げたい。そのために新しい工夫や展開を考えなくてはと思いました」
そんなとき、櫻井さんのもとにあるお客さんから蒲郡で生産されるみかんについての相談が舞い込みました。みかんの一大産地として知られる蒲郡では、糖度も高く味に問題はないにも関わらず、形が不揃いだったり傷があるなどの理由で膨大な数のみかんが規格外になっているといい、それを果汁にして加工用として活用してもらえる場所はないかというものでした。
これをきっかけに近隣の農家を回り始めた櫻井さん。すると、食材を卸していた取引先の飲食店の料理長さんたちから「〇〇さんが作る人参が手に入らないだろうか?」といったように、産地や農家を指名しての注文や相談を直接受けるようになったのです。
依頼があるとすぐに自らの足で農家さんや生産地に出向いて交渉。こうして農家さんとの繋がりはどんどん広がり、櫻井さんのもとには常に季節ごとの果物や野菜の情報が集まるようになりました。
「最初のきっかけを作ってくれた蒲郡みかんの果汁は、その後、何軒かの有名洋菓子メーカーさんに繋ぐことができました。廃棄されるしかなかったみかんが果汁という形に変わって販路が広がり、有名店が使ってくれることで蒲郡みかんのブランド価値も上がりました。もちろん、みかん果汁はうちのジェラートにも使わせてもらっていますよ!」

それぞれにこだわりを持って農業に勤しむ県内各地の生産者さんや農家さんとの繋がりが広がる中で、やがて櫻井さんの思いにも変化が。
「僕自身、愛知県の中だけでも素晴らしい生産者さんがこんなにたくさんいるということを改めて知り、そんな農家さんたちのこだわりや情熱に触れるうちに、もっともっと多くの人にその存在を知ってもらいたいと思うようになりました。農家さんの方でも、せっかく丁寧に作物を育てても出口を広げることができなければ結局は廃棄するしかないという課題を抱えています。消費者と生産者との間で、僕らのような卸業者だからこそできることがあるのではないかと気づいたんです」
食料品卸業ならではの強みを生かしたお店で
まちの活性化にも貢献
農協や市場を通さず小規模で生産を行う農家さんがたくさんいること。そして無農薬や減農薬といった特別なやり方で作物を育てている農家さんほどこだわりや思いも強いということを知り、卸業者としてできることを考えるようになった櫻井さん。生産者さんに対し、常に敬意を持って向き合う真摯な姿と地道な仕事ぶりは、多くの農家さんたちとの間に確かな信頼関係を築いていきました。
同時に、地元の岡崎にも貢献できればと、まちの活性化を目指して市が行う「事業版リノベーションスクール」にも参加。そこで発表した事業アイデアをもとに、県内産の果物や野菜などを素材に使ったジェラート店のオープンを実現させました。
「アイデアがあっても僕一人の力ではできなかったと思います。実はたまたま食品卸の取引で仲良くなったシェフが、職場を辞めて僕のところで働きたいと言ってくれたんです。最初は配達でいろんな農家さんを回ったり、知り合いの農家さんを紹介してくれたりしていたのですが、有名ホテルで料理長まで務めた腕前を見込んで、シェフにジェラートのレシピを任せてみようと。そんなご縁もあってこのお店のアイデアが形になっていきました」
農家さんとお客さんとを繋ぐ
こだわりを凝縮した自慢のジェラート
使う素材のすべてを県内産のものに限定すること。それが『オーカジェラート』の一番のこだわり。季節ごとに変わるジェラートのバリエーションが幅広く、いつ訪れても楽しいと評判に。
「愛知県の中だけでもありとあらゆるものが作られています。珍しいものだとチョコレート。豊田市にカカオ豆の状態からチョコレートバーになるまで一貫して作る方がいらっしゃって、ジェラートに使わせてもらうために取引をさせてもらうことになったんですが、もともとこのイーストエンダースさんにはファンがたくさんいらして、今ではその方たちがわざわざうちのジェラートを食べに来てくださるようにもなりました。逆にうちで彼らのことを知って豊田まで足を運んでくれたりもして。ジェラートがお互いを繋いでくれているんです(笑)」

まるでジェラートが互いをPR するメディアの役目を果たしているかのような展開。これぞまさに「作り手の顔が見えるジェラート屋さん」のコンセプトそのもの。
しかし、「だからこそ大きな責任も感じています」と櫻井さん。
「ジェラートは、氷の結晶が舌の上で溶ける瞬間に、素材をそのまま齧る以上にそのものの味わいをより強く感じるんです。つまり、うちのジェラートが美味しくなければ農家さんの思いや果実そのものの価値を下げてしまいかねないということ。そこは特にレシピを担当してくれているシェフが一番大切にしているところかもしれません」

『オーカジェラート』のこれから
最近では、果物や野菜の取引だけでなく、時にはスタッフとともに農園での収穫のお手伝いをすることもあるのだそう。
「実際に収穫を体験してみることでより理解が深まります。こんなふうに育つんだ、とか、どういうものが美味しいのかなど、手で触れて学ぶことの中に大事なことがたくさんあります。それに農家さんも人手不足で困っていたりするので、少しでも助けになればいいかなって(笑)」
規模の大きさに関係なく、真面目に農業に取り組む農家さんたちがまだまだ県内にたくさんいる。櫻井さんは今後もそうした農家さんとの繋がりを広げながら『オーカジェラート』として新たなチャレンジにも挑みます。
「ジェラートの移動販売ができるようにキッチンカーを作っています。イベントなどの会場で店頭と同じようなスタイルで提供するジェラートのキッチンカーって、ほとんどないと思うんですよ。大きな電力が必要で、温度管理が非常に難しいのが大きな理由だと思います。素材の変色などの問題もありますしね。うちでは褪色を止める薬剤などは使わないようにしているのでより大変なんですが、ちゃんと理解してくださるお客様も多いので、そこにはこだわっていきたいですね」
さらにオンラインショップや地元のレストランなどで利用してもらえるよう、小容量のパッケージでの販売も始まっているとのこと。そして、店頭にはまもなく新しいフレーバー「知多半島産のレモン」が登場予定。秋になればオープン以来大人気のフレーバー「梨」も。なんと梨は栽培される時期ごとに違う品種が順に並ぶそう。キッチンカーが完成して、各地のイベントでフレッシュなジェラートを味わえるのも今から楽しみです。
どこまでも農家さんの思いと素材の魅力を第一に、桜の名所・岡崎で、豊かな愛知の恵みを存分に謳歌してほしい。『オーカジェラート』という店名には櫻井さんのそんな気持ちが込められていました。