real local 鹿児島【鹿児島県薩摩川内市】「知る」ことから増える地域の選択肢。子どもの居場所を起点に、地域のつながりを考える一日 | reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

【鹿児島県薩摩川内市】「知る」ことから増える地域の選択肢。子どもの居場所を起点に、地域のつながりを考える一日

インタビュー
2026.08.07

子どもの居場所を考えるとき、「安心できる場所」だけでなく、「役割を持てる場所」という視点もあるのではないでしょうか。2026年7月22日に薩摩川内市で開催された「子どもの居場所を起点とした地域づくり研修会」では、視察先として合同会社情熱家(以下:情熱家)が運営する障がい者就労継続支援事業所「ちょこっと」を訪問。障がい福祉と農業、地域とのつながりから生まれる実践を体感しながら、それぞれの地域でできる居場所づくりについて考えました。

【鹿児島県薩摩川内市】「知る」ことから増える地域の選択肢。子どもの居場所を起点に、地域のつながりを考える一日
視察先である情熱家をフィールドワークする様子

子どもの居場所は、一つではない

集まったのは、学校関係者、福祉事業所、子ども食堂の運営者、社会福祉協議会、行政職員など、普段はそれぞれ異なる分野で子どもや地域に関わっている人たちです。

開会にあたり、薩摩川内市社会福祉協議会の上屋和夫会長が挨拶しました。

「子どもの居場所」といっても、その対象やカタチは一つではありません。

障害や発達上の特性がある子ども、不登校や引きこもりなどの困難を抱えている子ども。子ども食堂や自然体験、絵や音楽、スポーツを楽しめる場など、必要とされる場所もさまざまです。

上屋会長は、どのようなカタチであっても大切なのは、子どもが安心して過ごし、笑顔になり、自分を認めてもらえることだと話しました。

そこで自信を持ち、「これからもっと頑張りたい」「こんな自分になりたい」と思えること。子ども自身が夢や目標を見つけられる場所であることが大切だといいます。

薩摩川内市社会福祉協議会では、2024年度から子ども食堂の設置や運営を支援してきました。当初は3か所ほどだった市内の子ども食堂は、2年間で31か所まで広がったそうです。

子ども食堂を、子どものためだけの場所ではなく、多世代が集う「地域食堂」として育てていくことで、新しい地域のつながりが生まれていると上屋会長は話しました。

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薩摩川内市社会福祉協議会 会長 上屋和夫さん

教育、福祉、居場所を横につなぐ

続いて、鹿児島県こども福祉課の中尾礼二さんが、今回の研修の背景を説明しました。

教育関係者の研修は教育関係者を対象に、福祉分野の研修は福祉関係者を対象に行われることが多く、学校、福祉、子どもの居場所など、異なる立場の人が一緒に学ぶ機会は、これまであまり多くなかったといいます。

県内で実態調査や協議を重ねる中で見えてきたのは、地域にどのような居場所や相談窓口があるのかという「情報提供」と、学校や福祉、居場所の「横の連携」に関する課題でした。

それぞれの現場に情報や経験があっても、分野が異なれば互いの活動を知る機会は限られます。

まずは同じ場所に集まり、それぞれの立場から子どもの居場所について考える。今回の研修は、分野を越えたつながりをつくるための機会でもありました。

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鹿児島県こども福祉課 中尾礼二さん

畑から生まれる、資源と人の循環

開会後、参加者は情熱家の本村修さんの案内で、情熱家が管理する農園や作業所、カフェ「ちょこっと」を巡りました。

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合同会社情熱家 本村修さん

カフェの周囲には、ミニトマトやピーマン、スイカ、ジャガイモ、カボチャなどを育てる畑が広がっています。収穫した野菜は、カフェの料理や利用者の食事、無人販売所などで活用されています。

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利用者手づくりのバス停のりば
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参加者には情熱家特製のかき氷が振舞われた

調理の過程で出る野菜くずなどの食品残渣は、米ぬかとともに専用の機械へ入れられ、再び畑で使える肥料へ。周辺の竹林で集めた枯れ竹も竹炭にし、土壌改良材として畑へ戻します。

地域で厄介者とされることもある竹や、これまで捨てられていた食品残渣が、次の活動を支える資源へと生まれ変わっていました。

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食品残渣を肥料にしたもの
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肥料から異臭がせず、それに驚く参加者 スタッフからその説明を聞く様子

この循環を支えているのが、利用者一人ひとりの仕事です。

農業機械を使う人、草を刈る人、種をまく人、ジャガイモを選別する人、野菜を洗う人、料理をつくる人など、それぞれが異なる役割を担っています。

本村さんは、情熱家に通い続け、現在は運転免許を取得して車で通いながら、通信制高校で学び、トラクターも操作する利用者を紹介しました。

また、脳梗塞による半身麻痺があり、片手でも取り組めるジャガイモの選別や、大きな種をまく作業を担う利用者もいます。

できないことではなく、身体の状態や得意なことに合わせて、できる役割を探していく。利用者は、福祉サービスを受けるだけの存在ではなく、地域の仕事や暮らしを支える担い手でもあります。

こうした日々の姿を地域の人が目にすることで、「うちの畑も使ってほしい」と声をかけられることも増えていきました。

畑や食べ物を介して、資源だけでなく、人と人との関係も少しずつ循環していました。

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ビニールハウスで栽培しているというシャインマスカット
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地域の放置竹林の竹を活用した竹炭

一膳の中に、一人ひとりの役割がある

視察後、参加者はカフェ「ちょこっと」で昼食をいただきました。

テーブルに並んだのは、チキンカツを主菜に、ナスとピーマンの煮浸し、ポテトサラダ、カボチャの煮物、サラダ、スイカ、具だくさんの味噌汁。肉や魚、調味料などを除き、使われている野菜の多くは、見学した農園で育てられたものだといいます。

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参加者全員で食卓を囲み、ちょこっとのランチをいただく
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初めましての参加者同士で会話に花を咲かせながら、時間はあっという間に過ぎていった
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利用者が描いたという一膳の説明書き

カフェを担当する共同代表の田原さんは、「ちょこっと」という名前について、一人ですべてを担うのではなく、それぞれが「ちょこっとずつ」役割を持ち、その力を合わせることから名づけたと説明しました。

野菜を育てる人。収穫する人。洗う人。皮をむく人。切る人。味をつける人。配膳する人など、一人ひとりがそれぞれの役割を担っています。

「みんなが力を合わせて出来上がったのが、この一膳になります」

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合同会社情熱家 田原千恵子さん

食事を支えているのは、現在の作業だけではありません。その人がこれまで積み重ねてきた経験も、役割につながっています。

カフェ内のポップを描く利用者は、以前、小売店でポップ制作やレジ業務を担当していました。心身の調子を崩して仕事を離れていましたが、田原さんが「やってみる?」と声をかけたことで、再びその力を発揮するようになりました。

カボチャの煮物を担当する男性は、かつて長年、調理人として働いていました。その後、4度の脳梗塞を経験し、半身に麻痺が残りましたが、現在は培ってきた技術を生かし、カフェの味を支えています。

また、当初は農作業をしていたものの、マルシェで楽しそうに接客する姿をきっかけに、カフェの配膳へ役割を変えた利用者もいます。

最初に決めた仕事へ人を当てはめるのではなく、表情や言葉、日々の姿を見ながら、その人に合う場所を一緒に探していく。

田原さんは、障害がある人もない人も、本質的には変わらないと話します。

「障害があろうとなかろうと、みんな同じです。それぞれが役割を持って仕事をしています」

一膳の食事には、それぞれの得意なことや、これまでの人生、誰かに喜んでもらいたいという思いが重なっていました。

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カフェの配膳を生き生きと楽しむ利用者

農業を通して、人が集まる地域をつくる

午後は、本村さんがあらためて、情熱家の成り立ちや活動に込めた思いを紹介しました。

情熱家が農業を始めた理由の一つは、多様な仕事をつくれることでした。

農業には、種をまく、ポットへ移す、水をやる、支柱を立てる、収穫する、袋へ詰める、値札やポップをつける、販売するなど、さまざまな作業があります。

一連の仕事を細かく分けて考えると、障害や得意不得意が異なる人にも、それぞれできることがあります。

「どれか、できる作業があるんですよ」

本村さんはそう話します。

【鹿児島県薩摩川内市】「知る」ことから増える地域の選択肢。子どもの居場所を起点に、地域のつながりを考える一日

しかし、目指しているのは、農業を行うことだけではありません。

耕作放棄地を畑へ変え、そこで採れた野菜をカフェで提供する。地域の人が野菜を買いに来て、食事をし、会話をする。

子ども食堂やコミュニティ農園、農福マルシェなど、地域の人と一緒に行う活動も少しずつ増えていきました。

農園では、作業をする人だけでなく、見ている人がいてもいい。そこに来て、誰かと話し、何かに少し参加する。それだけでも、人と知り合うきっかけになります。

その隣にカフェがあり、同じ食卓を囲む。

地域の人、子ども、障害のある人、引きこもっている人などが、外へ出るきっかけになる場所をつくりたいと本村さんは話しました。

「生きづらさを抱えている人も、それぞれ自分らしく生きてもらいたい」

そして、利用者には普段から、こんな言葉を伝えているといいます。

「君たちは野菜をつくれるから、どんな災害があっても生きていける。食べるものをつくれることは、すごいことなんだよ」

農業は単なる作業ではなく、自分の力を知り、生きていく自信を持つことにもつながっていました。

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情熱家の取り組みをスライドで

「いていい」から、「いてほしい」場所へ

続いて、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科研究員の田中力さんが、「支援する・されるを超えて、地域とともに生きる居場所づくり」をテーマに講演しました。

田中さんは、自身にも聴覚障害があることに触れながら、

「障害のある人とない人の違いとは何だろう」

と参加者へ問いかけました。

障害は個人だけにあるのではなく、社会の環境や仕組みによって生じるものでもあります。一人ひとりが必要とする配慮を知り、環境の側を調整することは、障害のある人だけでなく、高齢者や子どもを含めた誰もが生きやすい社会につながると田中さんは話します。

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慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科研究員 田中力さん
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参加者に問いかけながら、一緒に考えながら講演を進めていった

誰かに迷惑をかけないように一人ですべてを担うのではなく、互いにできないことを補い合う。そうした関係が、本当の意味での自立につながるのではないかといいます。

その上で、これまで情熱家と関わる中で見えてきた特徴を、「二つの反転」として紹介しました。

一つは、耕作放棄地や放置竹林など、地域で厄介者とされていたものが、野菜や竹炭、焼酎を生み出す資源へ変わったこと。

もう一つは、福祉サービスを受ける人と見られていた利用者が、地域から「いてほしい」「いないと困る」と思われる存在へ変わっていることです。

利用者が育てた野菜を楽しみに買いに来る人がいる。カフェの食事を楽しみに通う人がいる。マルシェでは、利用者自身が商品の魅力を伝えています。

「居場所とは、いていい場所ではなく、いてほしい場所、待たれている場所ではないか」

誰かに必要とされること。役割を持つこと。自分がしたことに「ありがとう」が返ってくること。

田中さんは、そうした経験は障害のある人だけでなく、子どもの居場所を考える上でも大切なのではないかと、参加者へ問いかけました。

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田中さんが参加者へ伝えたかったことの一つ

それぞれの立場から、できることを「ちょこっとずつ」

講演後は、さまざまな立場の参加者がグループに分かれ、子どもの居場所について意見を交わしました。

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地域や立場を超えてグループワークで盛り上がる様子
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和やかな雰囲気の中で自分の意見を積極的に発言できたのは参加者の声で多かったことの一つ
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どのグループも終始参加者の発言が絶えなかった

「地域には、まだ知らない資源がたくさんある」

「福祉だけで抱え込むのではなく、もっと地域とつながれそう」

「まずは自分たちにできることから始めたい」

それぞれのグループでは、現場で感じたことや、自分たちの地域へ持ち帰りたいことが次々と共有されていきます。

参加者同士が互いの立場や実践を知ることで、新たなつながりが生まれていたことも、この研修の大きな成果の一つでした。

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グループで話した内容を全体のシェアする時間も設けられた

最後に田中さんは、「今日学んだことを、一度に大きく変えようとしなくていい」と参加者へ語りかけます。

「できることを、ちょこっとずつ」

その言葉は、情熱家が日頃から大切にしている考え方とも重なります。

一人で抱え込むのではなく、それぞれができることを少しずつ持ち寄る。その積み重ねが、地域の居場所づくりにつながっていくことを、参加者は改めて実感したようでした。

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「知っている」が、地域の選択肢を増やしていく

研修を終えた後、情熱家のお二人に改めて伝えたかったことを尋ねると、共通していたのは「まずは知ってほしい」という思いでした。

本村さんは、「障害のある人も地域の人と一緒に生き生きと働ける場所があることを、多くの人に知ってほしい」と話します。地域にはさまざまな人や場所があり、その存在を知ることが、新たなつながりや支え合いにつながっていくと考えています。

田原さんも、「地域の大人が、こういう場所があることを知っていれば、『この子にはこんな選択肢もあるよ』と伝えられる」と話しました。子どもの居場所づくりは、新しい場所をつくることだけではなく、地域にある多様な資源や実践を知り、必要な人へつないでいくことも大切なのだと、お二人は改めて感じていました。

また、「私たちがやっていることは特別なことではありません。いいと思ったところは真似してもらい、それぞれの地域で育ててもらえたらうれしい」と田原さん。今回の研修が、それぞれの地域で新たな実践を始めるきっかけとなることを願っていました。

【鹿児島県薩摩川内市】「知る」ことから増える地域の選択肢。子どもの居場所を起点に、地域のつながりを考える一日

「知らないことを知る」ことから始まる

研修終了後、上屋会長に一日を振り返ってもらいました。

情熱家「ちょこっと」を会場に選んだ理由について、利用者が安心して過ごすだけでなく、一人ひとりが役割を持ち、その経験を通して成長していく姿が見える場所だからだと話します。

「人は、安心して自分を認めてもらえると元気が出ます。そして、もっと求められたい、もっといい自分になりたいと思うようになる。ちょこっとには、その過程がしっかりあります」

今回の研修で印象に残ったのは、参加者から出た、

「知らないことを知ることができた」

という言葉と、

「自分たちも、できることをちょこっとずつ実践していこう」

という言葉でした。

異なる分野の人が同じ場所を歩き、食事を囲み、互いの活動を知る。それだけでも、それぞれの間にあった壁は少し低くなります。

今後について、安心できるだけでなく、そこで認められ、「もっといい自分になりたい」と思える居場所を地域に増やしていきたいと話しました。

【鹿児島県薩摩川内市】「知る」ことから増える地域の選択肢。子どもの居場所を起点に、地域のつながりを考える一日

最後に、社会福祉協議会として大切にしたいことを尋ねると、

「察する」

という言葉が返ってきました。

「支えるためには、まず相手に寄り添い、その人の思いを察することが大事です。どのような支えを、どのくらい必要としているのか。それを感じ取ることが、支え合いのもとになると思います」

誰かのことを知ろうとし、その人の思いに耳を傾ける。一方的に支援するのではなく、その人が持つ力や役割にも目を向ける。

この日につながった関係が、すぐに大きな仕組みへ変わるわけではないかもしれません。

それでも、知らなかった場所や活動を知ること。異なる立場の人と言葉を交わすこと。自分にできることを、ちょこっと試してみること。

その小さな積み重ねが、子どもが「いていい」だけではなく、「いてほしい」と思われる居場所を、地域の中に少しずつ育てていくのだと思います。

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今回の研修で会場となった情熱家や、講演を行った田中力さんについては、real local鹿児島でもこれまで取材しています。今回の記事とあわせて読むことで、情熱家の歩みや活動の背景、今回の研修で語られた実践について、より深く知ることができます。

「竹の資源化」モデルの構築と実践 ~生きづらさから生まれた“共にある”空間~

https://www.reallocal.jp/119799

「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん

https://www.reallocal.jp/123561

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