real local 鹿児島【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん

インタビュー
2025.09.20

薩摩川内市高江地区にて農福連携を軸に利用者(障がい福祉サービス)の就労支援を行っている「合同会社情熱家」(以下:情熱家)。そのほかにも古民家カフェ「ちょこっと」の運営や竹福商連携で焼酎づくりなどにも力を入れています。同社・代表の本村修さんと田原千穂子さんに今までの変遷をたどりながら、情熱家の今後の可能性について話を聞きました。

【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
古民家カフェ「ちょこっと」看板

情熱をもち、やりたいことを楽しくできる場所へ

まずは二人の出会いから。

田原さんは高齢者福祉の世界に30年程従事し、8年前に知人からの誘いがきっかけで障がい福祉の世界へ。そのタイミングで本村さんと出会い、そこから一緒に働くようになったといいます。

本村さんは10年前まで家電量販店の社員として従事し、取引先が障がい福祉事業を立ち上げるタイミングで退職。その後、いくつかの障がい福祉事業を経験していく中で、田原さんと知り合い、それが情熱家の立ち上げの一歩となるのです。

高齢者福祉から障害福祉の世界へ飛び込んだ私にとって、最初の1年は大変な日々でした。それが利用者さんにも伝わっていたのか、楽しい雰囲気で一緒に仕事ができていないと感じました。それなら、スタッフも利用者さんも、そして、私たち二人も楽しく、やりたいことができる事業所をつくろう。そう決意し、本村さんと新しい事業を立ち上げることにしました。」(田原さん)

【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
合同会社情熱家 田原千穂子さん(写真左) 本村修さん(写真右)

その後、薩摩川内市内で拠点を探していると、廃校の旧高江中学校を活用し、テナント募集をしている情報をキャッチ。そのままその一部を拠点とし、2020年に障がい福祉サービス利用者に対する就労支援を軸とした「合同会社情熱家」を設立したのです。

情熱家という名前の由来は何なのか。その背景を聞きました。

「性別や年齢、特性の有無など関係なく、情熱は強い意志さえあれば誰でもいつでも持てるものだと思っています。情熱さえあればなんでもできる。そこにいろんな人が集まれる家のような場所があれば…。そんな想いを込めて会社名を“情熱家”にしました。」(本村さん)

【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
情熱家が拠点を構える高江未来学校 外観
【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
高江未来学校内 室内作業所入り口
【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
情熱家で管理している畑の一部

一人ひとりの強みを「ちょこっと」出し合うことで

最初は芋類を中心とした農作業からのスタートし、梱包したものを商品として薩摩川内市内の道の駅や物産館などに納品していたといいます。しかし、室外作業をする畑は拠点から少し離れた場所にあり、室内作業は高江未来学校内にて行っていたことから地域と接点をなかなか持てなかったのだとか。

そんなある時、近隣の地域住民より荒地の整備と活用について相談があり、そこから二人が予想もしていなかった展開が待っていたのです。

「荒地を畑に整備し、そこでできた野菜を地域の方が販売できるように無人販売所を設置しました。それをきっかけに地域の皆さんと交流が生まれ、近くにあるコミュニティ協議会からも声がかかるようになったんです。その中で無人販売にやってきた高齢者の方にポイントを付与する仕組みを提案してもらい、そこからさらに情熱家の認知度が広がっていきました。」(本村さん)

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畑にて苗植えをする利用者 一本一本丁寧に植えていく
【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
本村さんとともにビニールハウスにて野菜を収穫する利用者
【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
取材日に収穫された野菜の一つ この後梱包され、物産館や道の駅へ納品されるという

さらに県外へ引っ越す地域のある高齢者からある相談も。

“家を手放すから、活用してもらえないか?熱心に働いている君たちなら安心して委ねられる。”

その想いに魅かれ、そのまま建物を購入し、活用することに。ただ、どう活用するかは決めておらず、しばらくは室内作業や利用者の作品を展示する場所として使用していたそうです。その後、古民家カフェの運営が話にあがり、2023年9月に「古民家カフェちょこっと」がオープンすることになります。

田原さんも本村さんも含め、全員がカフェの運営は初めての経験。だからこそ、全員の能力に応じた役割を担い、総力戦で臨んでいるとのだとか。

「元々私はスタッフ含めた全員に提供する昼食をつくっていましたし、その中で利用者さんに野菜を切ってもらうなどの基本的な作業をお願いしていたので、その延長線上でそれぞれの役割をつくれると思いました。室内作業のメンバーを中心にカフェに従事してもらっています。」(田原さん)

【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
高江未来学校内にて作業を行う利用者 こちらは米粒の選別を行い、綺麗なものとそうではないものを丁寧に分けていた
【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
ランチに使用する野菜を切り、皿に盛り付けていた
【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
他のメンバーの手が回らない内職作業をする様子

現在、カフェの中でも人気なのが手づくりコロッケ。室外作業でつくったジャガイモを使用し、それを室内作業メンバーが一つひとつ丁寧に仕上げていきます。全員がそれぞれの役割を担い、カフェに何度も足を運ぶ人が増えてきたからこその変化について教えてくれました。

「実は、以前は室内作業の利用者さんは仕事に誇りを持てていないように感じていたんです。“自分たちは室外作業しているメンバーに比べたら、大したことできていない”って。でも、カフェを始めてから自信や誇りを持つ利用者さんが増えました。」(田原さん)

「カフェの名前の“ちょこっと”には、それぞれの強みを“ちょこっと”ずつ出し合って協力してカタチにしていこうという私たちの想いを込めました。できないことがあったり、失敗しても休めばいいし、違うことにチャレンジすればいい。そう思っています。“ねばならない”ではなく、やりたいこと・できないことをやれるように。できることを伸ばし、増やしていけるように。そこを大事にしています。」(田原さん)

【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
スタッフも含め、利用者とともにコロッケをつくっていく
【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
コロッケ一つつくるのにも集中力がいるが、一つひとつ丁寧に仕上げていった
【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
揚げる前のコロッケ

カフェの入り口で受付の役割を担う利用者Aさんは高齢で体を動かすのも難しく、最初はカフェでの役割を見い出すことができなかったのだとか。そんな中でも、ある状況を見て、自分なりにできることを見出したと力強く語ります。

「ランチで混む時間帯はカフェに従事するメンバーはバタバタで、満席で外で待機するお客様の対応をする人がいないことがわかったんです。そこで、入り口でお客様に名前を人数を書いていただき、席が空いたらお声かけするようになりました。そこから席への案内もスムーズになりましたし、カフェに従事するメンバーも安心して自分の仕事に専念できるようになったと自負しています。」

「元々、私は人と積極的に話せるタイプではありませんでした。でも、受付の役割を担うようになってからお客様とお話するのが楽しくなりましたし、地域の方に挨拶もできるようになりました。あ、私ここにいていいんだ。ここのメンバーの一人なんだ。そんなふうに誇りを持てるようになったと思います。」

【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
配膳を主な役割として担っている利用者 最近は仕事に慣れ、指示がなくとも自分で考えて動くようになったことが自身の成長だと話す
【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
人気の日替わり定食 「ちょこっと」には地域の常連客が多く足を運ぶという

胸を張れるモノをつくり、自分に誇りを

情熱家では2023年より新しい取り組みにもチャレンジしています。その背景として、2022年にイベントで出会った竹福商連携(※)を実践している大崎町の有志との出会いがあったからだといいます。取り組みについて聞き、本村さんはすぐさま大崎町へ視察に。それがきっかけとして、情熱家スタイルの竹福商連携に向けて動き出したのです。

「実は、情熱家周辺では地域の方々が竹を整備し、その際に切った竹が結構余っていた現状があったんです。それを竹炭にして、土壌改良した畑でさつまいもができるのではないか。地域の方々も私たちもハッピーになる取り組みだなと思いました。」(本村さん)

(※)鹿児島県大崎町で展開されている、地域住民、障害者就労支援施設、事業者が連携して、放置竹林の整備と竹の資源化を進める取り組みのこと。大崎町では竹炭を買い取った社会福祉法人が畑に散布し、土壌改良を行った畑でさつまいもを栽培。そのさつまいもを大崎町内の民間事業者が加工し、干し芋にする仕組みとなっている。

【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
写真提供:合同会社情熱家 焼酎づくりに使用する芋の収穫
【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
写真提供:合同会社情熱家 焼酎づくりに使用する芋の収穫

大崎町はさつまいもを干し芋にしていますが、情熱家ではさつまいもを酒造と連携し焼酎づくりに取り組んでいます。どうして、焼酎なのか。その理由を聞きました。

「以前からさつまいもを使って焼酎をつくりたいと思っていたんです。あと、昔から阿久根市の大石酒造さんと交流があり、それならこれをきっかけに焼酎づくりができるかもしれない。そう思い、すぐさま大石酒造さんに相談しました。」(本村さん)

「大石酒造さんは非常にこだわりがあり、酒造として“美味しい!”と思ったものしか世に出さないスタンスで焼酎づくりに励んできたからこそ120年以上愛され続けていると思っています。私たちも同様に自分たちが“美味しい!”と思うものをお客様に口にしていただきたい気持ちは一緒です。だからこそ大石酒造さんしかないと思ったんです。」(本村さん)

【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
写真提供:田中力 大石酒造にて焼酎づくりに使用する芋
【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
写真提供:合同会社情熱家 大石酒造にて焼酎づくりに使用する芋を一つひとつ丁寧にカットする様子
【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
写真提供:合同会社情熱家 大石酒造の皆さんと

冬場に竹炭をつくり、春に畑へ散布し、そのままさつまいもの苗を植え付け、秋に収穫。それを大石酒造へ持ち込み、一つひとつカットし、焼酎タンクへ。そして、春には焼酎に。その流れが、情熱家スタイルの竹福商連携になります。

そこで誕生したのが「情熱家の焼酎」。栓を開けるとフルーティな香りがし、焼酎ならではの臭みが少ないといいます。オンライン販売はせず、「ちょこっと」店頭にて販売しているのだとか。オススメの飲み方は原酒をロックで。これに尽きるそう。

「情熱家の焼酎は他の焼酎に負けないくらい美味しいと胸を張って言えます。それだけ自信があるんです。そんな焼酎をたくさん売るというより、お客様との顔がわかる関わり合いの中で時間をかけて販売していくスタイルにしています。」(本村さん)

「自分たちがつくったさつまいもが焼酎になることで利用者さんが誇りを持つようになりました。たとえば、イベント出店すると、お客様に堂々と嬉しそうに焼酎の説明をするんです。それを自分の言葉で伝えることは利用者さんにとって大きな成長だと思います。」(本村さん)

【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん
情熱家の焼酎 店頭販売が基本であるが、イベント出店でも販売しているとのこと

誰一人欠けることなく、ともに前へ

情熱家の今までの変遷を辿りながら、利用者や地域のモノ・コト・ヒトを向き合い、それを「みんなで」「時間をかけて」「丁寧に」カタチにしていくスタンスが田原さんにも本村さんにも共通して感じられました。

最後に今後の展望について聞きました。

「情熱家で働くみんなが楽しくあってほしい。できることを無理なく。それはずっと変わらないことだと思います。楽しい場所と思ってもらえているからこそ、地域の方々も継続的に顔を出してくださると思うんです。その上で、一人ひとりの役割を大事に。そして、誰一人欠けることなく、お互いの力で助け合って前へ進んでいく。そこも大事にしていきたいです。」(田原さん)

「情熱家にはいろんな力を持つ利用者さんが集まっています。割合として高齢の方が多いですが、年齢なんて関係ありません。バリバリ元気でチェーンソーを使える人もいれば、体はそんなに動かなくても竹を燃やす番をしてくれたりなど、何かしら役割はあります。できることがあって、それを誇りに思えるから楽しいと感じれるんです。そんな環境であり続けられるように地道にコミュニケーションをとりながら、利用者さんがどう感じ、何ができるのか。それを一緒にカタチにしていくのが私たちの役割だと思います。」(本村さん)

【鹿児島県薩摩川内市】「できる」を役割に。情熱と楽しさが生み出す「誇り」あふれる空間。/ 合同会社情熱家 田原千穂子さん・本村修さん

屋号

合同会社情熱家

URL

https://www.jonetsuya.net/

住所

鹿児島県薩摩川内市高江町654-1(高江未来学校内)

備考

●古民家カフェ「ちょこっと」公式インスタグラム

https://www.instagram.com/chocot0501/

●施設外就労支援の詳細

営業日:月曜日から金曜日(お盆・正月を除く)

営業時間:午前8時から午後5時

サービス提供時間:午前9時から午後4時

実施地域:薩摩川内市・阿久根市・出水市・さつま町

※送迎・食事提供あります。

●「情熱家の焼酎」の販売について

店頭(古民家カフェ「ちょこっと」にて)とイベントのみの販売。通信販売はございません。

●高江未来学校について

公式HP

https://www.takae-future-school.com/

公式インスタグラム

https://www.instagram.com/takaemirai/

real local インタビュー記事(高江未来学校・代表 東峯生さん)

https://www.reallocal.jp/96307

●大石酒造株式会社について

公式HP

https://www.oishishuzo.co.jp/

 real local インタビュー記事(大石酒造株式会社・大石恭介さん)

https://www.reallocal.jp/109101