山形の、好きなとこ #01「KOUBのクリームパン」
仙台で暮らす私は、時間を見つけては頻繁に山形へ足を運びます。遮るものがほとんどない空も、広い田畑や果樹園の景色も、月山や鳥海山のシルエットも、市街地に近付くにつれてぴょこんと見えてくる背の高い霞城セントラルの姿も、なんだか好き。なんだか、いい。なんだか、自分にフィットする気がするのです。
もしかすると、太平洋を見て生まれ育った私が山々に囲まれた盆地の風景に憧れているからかもしれません。理由はさておき、とにかく私は山形が大好きです。
それほど大好きな山形の中でも、特に私を強く惹きつけて止まないものがあります。それは、KOUBのクリームパン。このクリームパンを食べたいがために、これまで何度も山形まで車を走らせてきました。

私が初めてKOUBに足を運んだのは、2014年に開店して間もなくのこと。かわいらしい赤の三角屋根。登るにつれてワクワクが増す階段のアプローチ。シンプルな木製の扉。その扉を開けると目に飛び込んでくる洗練された内装。ケースの中に並ぶおいしそうなパン。ケーキ店のようにパンを選んで購入するスタイル。そして、KOUBを象徴する「BREAD IS LIFE!」のコピー。
パンのおいしさはもちろんのこと、KOUBを作り上げているこうした要素に触れることでいつも私の心は高まります。そして気持ちがしゃんとする。私にとってKOUBはそんな場所です。

KOUBで初めて購入したパンのひとつが、クリームパンでした。他のパン屋では見たことのないころんとした丸みのあるフォルムと、手のひらに乗るほどの小ぶりなサイズにひと目惚れ。
ひと口頬張ると、今までに感じたことのない弾力との出合いがありました。ふっくらとしていて柔らかく、みずみずしい。包み込んでくれるようなふくよかさもある。生地が唇を押し返してくるような食感に心地よさすら感じ、「…!?」となったことを今でもよく覚えています。
豊かな風味が伝わるミルクの味わいと、すっときれいに消えていく程よい甘みを持つ繊細な口溶けのカスタードクリームにも感動。
「見た目も味わいも、このお店にしかないパンがあるんだな」
そんな満足感とともに、強烈なインパクトを残してくれたのがこのクリームパンでした。


クリームパンの特徴のひとつが、その独特な形。フランスやオーストリア、ドイツなどで親しまれている伝統菓子・クグロフの型に入れて焼き上げることで、小さくかわいい山のような見た目になっています。
どうしてこの形になったんだろう。そして、どうしてこんなにおいしいんだろう。
大好きだからこそもっとクリームパンのことを深掘りしたくなり、店主の峯田浩信さんにお話をうかがいました。
「ベーシックなものをよりおいしく、そしてより喜んでもらいたいと思った時に、クグロフ型で焼いてみようと思ったんです」と教えてくれた峯田さん。このオリジナルのかたちは開店当初からずっと変わっておらず、山辺町にある後藤牧場が生産するやまべ牛乳を使ったカスタードクリームも味わいを変えていないといいます。
「お菓子やシュークリームと合わせるとしたら、もう少し甘いほうがおいしいかもしれません。だけど、パン生地と合わせるならこれがベスト。生地にも甘さがあるので、クリームは甘すぎないほうがいいんです。ベストな味わいだからこそ、開店から10年経っても一度も変えていません」

一方で、これまで何度かブラッシュアップを重ねているのが生地。その理由を峯田さんは「やっぱり、パンの生地を主役にしたいんですよね。生地そのものをおいしいと思ってほしいんです」と語ります。
「買ってすぐに召し上がる人にも、翌朝や2、3日後に召し上がる人にも、いつ食べてもおいしいパンだと思ってほしい。“今まで以上においしい生地にしたい”という思いを第一に、今年、おいしさがより長持ちするブリオッシュ生地に変更しました」
ブリオッシュ生地に使用しているのが、北海道産小麦とディラム小麦ルヴァン。ルヴァンを使用することでミルクの風味が高まり、甘くてしっとりとした食感も引き出されるのだそうです。ブリオッシュ生地はブリオッシュを始め、あんぱんやメロンパンにも使用されています。

そのおいしさに、ずっと心が満たされ続けてきたKOUBのクリームパン。食べると、幸せで、温かくて、栄養やパワーがチャージされていくような気持ちになります。その裏側で、更なるおいしさのためにバージョンアップが重ねられていたなんて。峯田さんのパン作りに対する真摯な姿勢も込められていると知り、クリームパンも、そしてKOUBも、今まで以上に大好きな存在になったのは言うまでもありません。
KOUBのクリームパンがある。だから山形が好き。
そんな気持ちに改めて痛感したとともに、クリームパンへの愛を突き詰めて、自分がどれだけこのご褒美のような存在に救われてきたかを感じます。
明日にでもまた、KOUBに向けて車を走らせている私になりそうです。
KOUB
住所 /山形市成沢西2-8-11
電話番号/023-665-1188
営業時間/10:00〜17:00(パンがなくなり次第終了)
定休日 /月・火曜(このほか臨時休業あり)
Photo : 布施果歩(Strobelight)














