長屋のポテンシャルを引き出し続ける大家業
あべのハルカスなどたくさんの商業施設やてんしばで賑わいのある天王寺駅から大阪環状線で1駅隣の寺田町駅、打って変わってノスタルジーな下町感あふれる住宅街に昔の雰囲気を残しつつ改装された長屋が並ぶ通りがあります。
その「須栄広長屋」のオーナーを務める須谷さんにお話を伺いました。

粗大ゴミならぬ”巨大ゴミ”をどうするか
―大家業をする事になった時の長屋の状態は?
この長屋は昭和8年に私の祖父が建てました。
そして4軒長屋が一頭まるっと空家の状態で、祖父の次の代である父から継ぎましたが、継いだものの、大家業の右も左も理解していなくて、管理の仕方も分からない。さらに10年ぐらい空家で状態もボロボロ、床も今にも抜けそうだし、ガラスも割れていてそこから猫やネズミも出入りしていて…と近隣からどうにかしてほしいと苦情もあるような状態で、粗大ゴミを超えて”巨大ゴミ”状態でした。
ボロ屋敷としてロケ地で使ってくれないか(笑)と検索もしてみたりしましたが、
結局は解体して駐車場にする方向で地元の不動産屋さんに見積を取り、スケジュールを決めて “よし、契約書に押印すれば解体着工!” というところまで話を進めていました。
―そんなところまで駐車場計画が進んでいたんですね!でもそこから大改装するに至るまでは大きく舵を切りましたね。
そうなんです。そのタイミングでちょうど大阪市立大学(現:大阪公立大学)の長屋を研究している居住空間設計学研究室の方から「オープンナガヤ」の第1回目が開催されるので来ませんか?とお誘いを受けまして。
それまでは長屋のイメージって暗くてカビ臭くて、若い人なんて住まなくて…と正直あまり明るい印象が無かったのですが、豊崎長屋を見学した時に“長屋がこんなに明るくなるなんて!!”と感動したのを覚えています。
その際に研究室の小池先生とは出会いました。「実は私も長屋を所有していて…でもこんな豊崎長屋みたいなポテンシャルはないただのボロ長屋なんですけど…」とボソッと相談したところ、「ぜひ見せてください!」という流れから、その翌週には実際に見ていただく事になり、あれよあれよと話が進んでいきました。
いざ見ていただくと「戦前って木材は丈夫なものを使われているし、大工さんも仕事がすごく丁寧だから大丈夫。きれいになりますよ。」と小池先生よりお墨付きをいただいたので、駐車場化計画は大変申し訳無いのですがお断りして大学のお力を借りて改修することにしたんです。
―ご家族は反対しませんでしたか?
親戚からはとても反対されました。
お金もかかるし、大学の実験材料にされてポイっとされるんじゃないかと。騙されてるんじゃないかって。(笑)
でも私は豊崎長屋が生まれ変わったのをこの目で見たので自信もあったし、小池先生が竣工までのスケジュールを立ててくださったのでエイヤー!の気持ちで進めました。正直、当時は大家業のことなんか全然分かってなかったのもあって怖いもの知らずで進めていたのもありますね。
学びの多い大家業
―思い切って進めた長屋の改修、いざ始まってみて大変だったことは何ですか?
工事だけだったら半年で竣工するところ、授業のカリキュラムに合わせて進めていくので1年ぐらい大工さんを抱えないといけないことですかね。計画が進んでいって、実際に見積書を見た時に「あ、私がこれを払うんだった。。。」とやっと気づいて。(笑)お金の不安がそこで現実的になりました。
でもその不安なんかよりも学生の目がキラキラさせながら授業を聞いているのが見ていて本当に楽しくて。
それに授業は私も同席していたんですけど、職人からのレクチャーが毎回「ほー!!」と感動するものばかりで。土壁を塗るのも一見簡単そうに見えるんですが実際学生が塗るところを見てるとコテ板を持つだけでも大変そうでした。そういった”学び”が楽しかったです。
なのでお金の不安もありましたが楽しいの方が勝っていました。
―職人から直々にレクチャーしていただけるなんてめったにないですもんね。しかも学生1人に対して1棟任されていたと聞きましたが?
そうそう。みんな一生懸命課題に取り組んでいて、「ここの吹き抜けに消防署にあるような登り棒を付けたいんです!!!」とか、そういった斬新すぎるアイデアをものすごいエネルギーでプレゼンされたのでそれを受け入れるべきかどうか…と悩んだのも”苦労したこと”になりますかね(笑)

長屋を通じて生まれるコミュニティー
―せっかくのアイデアですもんね(笑)でも葛藤される気持ちとても分かります。そこから入居募集となった時はどうやって募集したんですか?
1期の入居者は設計担当した学生が社会人になって友達やきょうだいでシェアして住んでいました。
「雪」棟にはコミュニティースペースとしても使える土間空間があるんですが、そこでみんなで忘年会したりして楽しそうでした。
そこで住まい手から長屋の魅力が伝わったようで、入居者の友達からも「私も住みたい!」と言ってくれて。空室に悩むどころか足りなくなって急遽他の長屋も改装する事になったんです。
「花」・「月」・「雪」・「星」棟はシェア住居として借りてもらえる間取りのため、学生のつながりだけで募集できたんですけど、「鳥」棟は職住一体の暮らしができるような間取りなのでなかなか難しいかな〜と思い、募集は大阪R不動産さんにお願いしました。現在はジーンズを制作されている方が住居兼事務所として使っていただいています。他にも「燈」棟には雑貨屋さんが入居されています。そういった職住一体の方にももっと使っていただきたいですね。

―小商されている方が増えるともっと街が活発になりそうですもんね。改装した前と後では建物の雰囲気も明るくなったと思いますがその影響で何か変わった事はありますか?
入居される前は、これまでずっと住んでいるご高齢の方と若い人が共存できるか不安だったんですがそんな事は杞憂でした。
2018年にあった大型台風の時には若い人たちが飛んでいったゴミ箱を拾ってきてくれたり、雨樋を支えてくれたりして有り難かったと聞いています。そして若い人たちも嫌な事があってトボトボ帰ってきた時に「おかえり」と何気なく言ってくれた事に心がジーンとして泣きそうになったと言っていて、近くに人が住んでいる事に温かみを感じる良い距離感が生まれたなと思っています。
須栄広長屋の今後は??
―孤立しやすい今ではなかなか近所の人と話すのって難しいですよね。昔ながらの近所付き合いが良い距離感で存続したんですね。今後は長屋をどうしていきたいとかは考えていらっしゃいますか?
まずは3軒空家になったので次はそこを改装する予定です。
それと、壊したら100年ものの建物はなかなか作れない=築100年の建物を作るには今から100年かかります。
なので”粗大ゴミ以上の巨大ゴミ”だった建物も実はポテンシャルがあるよ!と、空家を相続して頭を抱えている方々に活用方法を伝えていく活動をしていくつもりです。
そのためにも大阪市から「地域魅力創出建築物認定」をいただきました。
全国どこにでもある平凡な長屋でも価値は眠っていることをこの認定をいただいた事によって伝えていければと考えています。
須栄広長屋を通して”道を歩いていただけではわからない長屋の魅力”をたくさんの人に知ってもらいたいです。

建物を生き返らせただけでなく、街のコミュニティーも温かいものに変えた須栄広長屋、お話を伺っているとそれはオーナーである須谷さんの人柄の良さも相まって人情味溢れる”残していくべき長屋”になったような気がしました。
貴重なお話をありがとうございました!
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