real local 鹿児島【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん

インタビュー
2025.12.15

出水市高尾野町の江内エリアを拠点に50年以上にもわたり、林業を通じて山守(※)を営む『株式会社WOODLIFE』3代目の中尾雄基さん。既存の林業スタイルではなく、今の森を未来へ繋いでいく林業に取り組む「小規模持続型の林業スタイル」を目指しています。そんな中尾さん今の動きに至った背景を中心に話を聞きました。

(※)山林所有者から委託を受け、山の管理や保護を行う専門家のこと。

【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん

地域とのつながりがあって、守られるもの

出水市高尾野地区で生まれ、祖父が50年程前に創業した林業会社を営む家庭で育ってきた中尾さん。高校を卒業した数ヶ月後からは祖父が50年ほど前に創業した林業に合流し、2代目だったお父さんの手伝いをしながら、林業の基本的な知識や技術を身につけてきたといいます。3年程経ち、仕事にも慣れてくる中で見えてきたのは“地域とのつながり”だったそうです。

「高尾野の中でも会社がある江内は人口が少ないエリアです。そんなエリアで仕事をしていると、父が地域住民や事業者の皆さんと信頼関係が濃く、つながりが強いと感じることが多かったです。初代の祖父も同じだと思いますが、父の背中から手の届く世界をちゃんと大事にしてきたのが伝わってきて、僕が初めて地域のつながりを意識した原点だったと思います。」

【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん

その後、29歳のタイミングで事業承継し、中尾さんが3代目として事業承継。自身が思い描く林業に向かい、走り続ける日々が始まったのです。今まで手をつけていなかった経営や営業などを通し、それまで見えなかったお父さんの苦労が身をもって体感したのだとか。そして、そこでも会社として積み上げてきたものを感じたと語ります。

「地域に挨拶回りに行くと“基弘さんのお孫さんね?”高喜さんにはとてもお世話になったんだよ!“といった言葉が出てきて、話がスムーズに進むことも多く、地域とのつながりがあって初めて事業が成り立っていたと感じました。さらにいうと、そこから森林整備などスタートできることも多く、お互いの信頼があって初めて、森を守ることにつながるのを知ったのも事業承継してからになります。」

【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
自社で管理している森では椎茸の栽培も行っている

暮らしの中で、木に関わる機会を増やすこと

中尾さんの代になってから取り組み始めた事業の一つとして、森林整備があります。江内エリアを中心に、地域住民とコミュニケーションを重ねながら、山の所有者の代わりに森林整備を行っているといいます。しかし、事業のスタート当初は思うようにいかず、なかなか着手できなかったのだそう。それでも、地道にコミュニケーションを続けた結果、少しずつ依頼が増えてきていると力強く語ります。

「話を聞いていると“山のことはずっと気になっているけど自分ではできない”“どうにかしたいけど、どうすればわからない”という声が多いことを知りました。一つひとつ着手することで、口コミなどで評判が広がり、相談や視察にくるケースも増えてきました。」

【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
写真提供:株式会社WOODLIFE ある自宅の裏山の整備を依頼された際の様子
【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
写真提供:株式会社WOODLIFE 鹿児島市で開催されたイベントに薪を発送する際の様子

そして、33歳となった2019年5月に法人化させ『株式会社WOODLIFE』として新しいスタートを切ることになります。どうして、法人化させたのか。WOODLIFEという名前にしたのか。その背景を教えてくれました。

「これからの時代、林業の世界も生き残るのに厳しい時代になってきます。だからこそ、一緒に働いてくれる社員が気持ちよく働きやすい環境を整備するには法人化がいいと思ったのが大きな理由です。」

「そもそもの前提として、祖父や、父が木を切って生活をし、僕を育ててくれたこと。その中で見出したこととして、暮らしの中で多くの人に木に関わる機会をつくる事業を展開していきたい想いが芽生えたこと。その2つが僕の中に強くあって、WOODLIFEという名前にしました。」

【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
自社のロゴマーク

仕組みを理解し、コミュニケーションを丁寧に

法人化したのも束の間、2020年から新型コロナウイルスが蔓延し、地域住民や関係事業者とのコミュニケーションが難しくなってしまい、会社として窮地に陥ってしまいます。そこで、鹿児島県へ森林整備事業に関する相談に出向いたといいます。聞き慣れない制度や専門用語に悪戦苦闘しながら、小さな事業から少しずつ連携して取り組んでいったのだとか。その中で感じたのは“地域とのつながり”と似たような感覚だったそうです。

「地域や集落と同じように、行政にも仕組みがあります。わからない部分は素直にわからないと伝え、しっかり理解できるまで勉強して、物事を進める必要があると感じました。そして、その上で何よりも大事なのがコミュニケーションです。丁寧にとることで“この人は頑張っている、応援したい!”と思ってもらえることが行政とも地域とも何かを進める上で必要だと学びました。」

【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
写真提供:株式会社WOODLIFE 江内小学校にて森に関する出張授業を毎年行っているという
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写真提供:株式会社WOODLIFE 出張授業では竹とうろうづくりを児童と行っている
【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
写真提供:株式会社WOODLIFE 江内地区にて開催した「竹あかり」の様子 今年で4回目の開催となった
【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
写真提供:株式会社WOODLIFE 今年の「竹あかり」では江内地区の住民と焚き火を囲みながら交流を深めたという

行政とのやりとりのみならず、たとえば、地域行事のボランティアスタッフを積極的に担ったり、子どもたちに対する森林教育を行うことで信頼がカタチになってきていると感じてきたといいます。そんな中でもあるエピソードを教えてくれました。

「ある方が定年退職するにあたって手紙を送ってくださったんです。手紙には“中尾さんが頑張っている姿は、みんな知っています。だから頑張ってください”と書いてありました。その手紙を読んで、苦しい中でも頑張ってきてよかった、もっと踏ん張れると思えました。」

【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
江内小学校の遠足受け入れを自社で管理する森で行っている コンテンツの一つとして木育インストラクターが紙芝居を開催
【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
お昼休みは森の中でランチを
【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
木をノコギリを使って切る体験も
【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
森のブランコで遊ぶ児童も ブランコはこの日のために中尾さんらが設置

自分にないスキルを持つ仲間に委ね、新しい道を拓く

現在、業務委託も含め、WOODLIFEに関わっているメンバーは7名。元公務員、元ゴルフ場キャディ、キャリアコンサルタント、元まちづくりコンサル、編集者など、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが中尾さんを支えています。法人化当初は中尾さん含めて3名でスタートしましたが、その時にこう感じたといいます。

“自分たちの力だけでは未来を拓けない…。新しいことに挑戦できない…。”

安全上、どうしても木を伐採する現場には2~3人は必要なため、視察や打ち合わせなど、現場を離れるのが難しい現状だったそうです。かつ、今までより一歩二歩踏み出した事業を展開したい想いもあり、自身にないスキルを持ったメンバーを集めることを意識したというのです。

「社員に現場を任せて、僕は情報収集や仲間探しに出られるようになりましたし、外部からキャリアコンサルティングの仲間もできたことで社員のケアやサポートもできるようになりました。僕自身もコーチングを学び、関わってくれる人や社員と対話する大切さを学んだので、定期的にそのような場を設けています。」

【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
外部からキャリアコンサルタントとして関わっている西ノ原史哉さん 明るい性格でチームを盛り上げてくれる

今年の4月からは長年ゴルフ場でキャディとして従事していた牛浜さんが合流し、今まで以上に自社で取り組めなかったことに着手できるようになったといいます。たとえば、地域の人たちのマメなコミュニケーションや所有者との森林整備契約拡大、地域の情報収集、薪といった商品の販路開拓などにつながっているのだそう。

「僕たちが実現したい森林整備は単に専門的な訓練を受けて技術を持てればできるわけではありません。きちんと所有者と信頼関係を構築しながら許可をいただき、想いを掬い上げていくことが大事なんです。」

「牛浜さんはキャディの経験もあり、いろんな人とのコミュニケーションが自然にとれるので、その役割がとても合っていると感じました。何より、初めてお会いした時に人と向き合うのが好きなタイプだと思ったんです。実際に、お客様だろうとなかろうと、楽しく地域の人とコミュニケーションをとっている姿を見ると嬉しい気持ちになります。」

【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
今年4月から入社した牛浜彩さん 積極的に地域に溶け込み、所有者の声や想いを掬い上げる大事な役割を担っている

森から始まる環境や社会の循環を目指して

鹿児島では木がある土地を「山」と呼ぶ人が多い印象ですが、中尾さんは「森」と表現し続けながら、自社の取り組みを発信しています。なぜ「森」と表現しているのか。その背景を聞きました。

「たとえば、杉を植えたとして、林業の場合だと、ある程度成長すれば伐採するのが主な仕事になっています。でも、僕はそうではなく、木から始まり、そこに多様な植物や動物、虫がいて、その環境を人が楽しめる、賑やかな状態であってほしいと思っています。木があり続けるからこそ山ではなく“森”なのではないか。森があるからこそ、世界の循環は成り立っているのではないか。そんな想いから“森”と表現し続けているんです。」

【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん
若手従業員とコミュニケーションをとりながら、成長を見守っている

自社の企業理念は「200年先の森づくり」。その理念が生まれたきっかけは10年前に岡山県西粟倉村にて林業を軸にした地域内循環ビジネスを展開する企業に視察へ行ったことがきっかけだったのだそう。林業から雇用やお金、人とのつながりも生まれ、さらに森林を守ることにもつながる。そのビジネスモデルが中尾さんの心を大きく突き動かしたといいます。

「どのような事業を展開するにしても、どう森であり続けられるかを強く意識しています。森の生態系が少しでも崩れると、それが元どおりになるまでかなりの時間がかかってしまいます。だからこそ、僕ら世代も、僕らがいなくなった後の世代も、森であり続け、それがその土地に生きる人たちにとって良い循環になったら。そんな気持ちで日々臨んでいます。」

【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん

手の届く世界と向き合いながら、200年先もあり続ける森へ

「200年先」と耳にすると壮大なスケールと感じる人も多いかもしれません。でも、これまでの変遷をたどると、中尾さんは事業に関わる関係者や地域、そして、その人たちが大切にしている森という手の届く世界と向き合いながら、事業を展開しているように感じました。

そんな中尾さんから最後に今後の展望について聞きました。

「森を守る仲間たちがやりがいを持って、楽しみながら一緒に事業を展開していくためにどうすればいいか。それが今の課題です。実際に森がきれいになっていくには時間がかかるので、結果をすぐ目にすることはできません。そんな状況でも、関わってくれる仲間たち一人ひとりとモチベーション高く仕事に臨めるようにしっかり向き合い続けていきたいです。最近は県外へ一緒に研修に出向き、違うフィールドでの学びの機会を共有しつつ、離れたエリアで森づくりに励む仲間もできてきました。」

「地域との関わり方、森づくりのアプローチはこの先ずっと変わらないと思います。でも、僕たちだけではできることに限界があるのも確かです。今後は、林業だけではなく、違うフィールドやエリアの皆さんの力も必要となってくると思います。一緒に組む皆さんの力を借りながら、僕たちも新しい世界に飛び込んで”先祖から受け継いだ森を丁寧に手入れして、未来へつなぎ200年先もあり続ける森づくりを続けていきたいです。」

【鹿児島県出水市】手の届く世界の循環を守り、200年先もあり続ける森へ / 株式会社WOODLIFE 中尾雄基さん

株式会社WOODLIFEでは、週2~3日程度の勤務で働いてくださる方を探しています。

内容は、薪割りや、森の食材収穫に関する業務になります。パートや副業でもどちらでもOKです。

お問い合わせは公式インスタグラムか、メール(kagoshima.woodlife@gmail.com)までお願いします。

屋号

株式会社WOODLIFE

URL

https://woodlifekoj.base.shop/

住所

鹿児島県出水市高尾野町江内3242

備考

●公式インスタグラム

https://www.instagram.com/kagoshima.woodlife/

●公式フェイスブック

https://www.facebook.com/woodlife.corp/