【鹿児島県鹿児島市】みんなでつくる、その先に。地域文化と空間をデザインし、景色をのこす / 株式会社ナインズ代表・筒井敏郎さん
鹿児島・宮崎を中心に、商業空間やオフィスのデザイン・設計、施工、住宅リノベーションなどを手掛ける株式会社ナインズ。代表の筒井敏郎さんは、空間デザインに加え、「cocoNotsu(ここのつ)」の運営や美山ビエンナーレの開催など、地域に新たな場を生み出してきました。その原点と、現在へとつながる歩みをたどります。

「ものをつくる」から「景色をのこす仕事」へ
「昔から、ものをつくることが好きだったんです。」
そう振り返る筒井さんの原点は、幼少期までさかのぼります。
家業は鉄工所。実家の敷地内に工場がある環境で育ち、工具や材料が身近にある中、友達と秘密基地をつくったり、廃材で工作をしたり。ものをつくることは、遊びであり、日常でもありました。
高校、そして大学へ進む頃になっても、その「つくること」への興味は変わりません。
音楽が好きで、高校時代からはバンド活動にも打ち込んでいました。
ライブのチラシやチケットのデザインを考えたり、自分たちをどう見せるかを考えたりする時間にも面白さを感じていたといいます。
大学では、グラフィック、クラフト、インテリアという三つの分野から進路を選ぶことになります。
そんな中、決め手になったのが、「景色をのこす仕事がしたい」という想いでした。
「インテリアや建築に関わる仕事なら、街の景色として残っていく。その場所の記録にも、人の記憶にも残る仕事ができるんじゃないかと思ったんです」
「ものをつくる」ことが好きだった筒井さんは、この頃、「景色をのこす仕事」という新しい目標に出会います。
しかし、当時はバブル崩壊直後。建築業界全体が厳しい時代でもありました。
就職活動を続ける中で、自分が本当に惹かれているものが少しずつ見えてきます。
それは、「人が集まる場所」をつくることでした。
「住宅というより、お店をつくりたいと思ったんです。同じ店舗は一つとしてありません。それぞれのお店に、それぞれの想いや個性がある。しかも、いろんな人が訪れる場所でもある。その方が自分には魅力的に感じました」
街の景色をつくること。
そして、その景色の中に、人が集まり、時間が流れていくこと。
後に「cocoNotsu(ここのつ)」や美山ビエンナーレへとつながる筒井さんの原点は、この頃すでに芽生えていました。

人と向き合うことで学んだ「バランス」
店舗デザイン会社へ入社した筒井氏は、現場で職人やクライアント、施工会社など、多くの人たちと関わりながら、一つの空間をつくり上げていきます。
「若い頃は、周りがみんな年上ばかりでした。一番年下の自分が、職人さんたちにお願いしたり、時には必要なことをきちんと伝えたりしないといけない。そこが一番難しかったです」
必要なことはきちんと伝える。
一方で、相手への敬意や感謝も忘れない。
そのバランスを意識しながら、一つひとつ現場で経験を重ねていきました。
振り返ると、その経験こそが、今も大切にしている「バランス」という考え方につながっているといいます。
「何をやるにしても、その”いい塩梅”を見極めることが大事なんです」
空間や人、時間、費用など、一つだけを優先するのではなく、それぞれを調和させながら、その場所にとって最善の形を探していくこと。
それが、筒井さんの考えるものづくりでした。
また、若い頃から自ら現場で手を動かしながら仕事に向き合ってきたといいます。
「お願いする立場だからこそ、自分でもやってみないと分からないことがあると思っていたんです。小さな作業でも、実際にやってみると想像以上に大変だったりする。その苦労を知らずにお願いすることはできないと思っていました」
自分で経験したからこそ、相手の立場を理解できる。
その積み重ねが、現場で働く人たちとの信頼関係を築いていきました。
そんな日々の中で、忘れられない出来事もあります。
若手の頃には、現場で判断を誤り、大きなミスをしてしまったこともありました。
正直に謝罪へ向かうと、クライアントから返ってきたのは責める言葉ではなく、「これまで一生懸命頑張ってきた姿を見ているから」という一言でした。
その出来事を振り返り、筒井さんはこう話します。
「がむしゃらに頑張っていれば、誰かが見てくれている」
目の前の仕事に誠実に向き合い、一つひとつ積み重ねていくこと。
その姿勢は、今も筒井氏のものづくりの根底に流れています。

一人でつくるのではなく、みんなでつくる
2010年、筒井さんは個人事業主として独立。その後、ナインズを立ち上げます。
会社名を考える中で選んだのが、「ナインズ」という名前でした。
数字の「9(ナイン)」には、筒井さんのものづくりに対する考え方が込められています。
「10点満点ではなく、9点だと思うからこそ、次はもっと良くできると思えるんです」
完成したと思った瞬間に、成長は止まってしまう。
だからこそ、少しだけ余白を残し、常に次の一歩を目指していきたい。
そんな姿勢が、「9(ナイン)」という数字に込められています。
もう一つ、この名前には、「チーム」という意味もあるのだとか。
野球で「ナイン」と呼ばれるように、一人ではなく、それぞれの役割を持った仲間とともにものづくりをしていく。
会社のサブタイトルには、「Design Collective(デザインコレクティブ)」という言葉も添えられています。
「デザイン集団という意味で、一人でつくるのではなく、みんなでつくっていく会社にしたかったんです」
空間は、一人では完成しません。
関わる一人ひとりが、それぞれの役割を果たしながら力を重ね合うことで、初めて形になっていきます。
ナインズという名前には、そんな筒井さんのものづくりに対する姿勢が込められていました。

会社名だけでなく、cocoNotsuのロゴにも、その考え方が込められています。
九角形のロゴは、あと一つ加わることで円になります。
尖りすぎず、丸すぎず。
「N」の文字は美山の山並みを、「9」はスプーンもイメージしています。
一つの形に、さまざまな意味を重ねたロゴ。
そこにも、ナインズが大切にするものづくりの考え方が表れていました。

空間には人をつなぐ力がある
独立当初、ナインズは鹿児島市内のマンションの一室からスタートしました。
一つひとつの仕事に向き合いながら、少しずつ実績を積み重ねていきます。
その一方で、「自分たちは何をしている会社なのか」を一から説明しなければならない場面も少なくありませんでした。
そんな中、自社の事務所を構えたことは、一つの転機になったと筒井さんは振り返ります。
「事務所をつくってから、人とのつながり方が大きく変わっていきました。地域や事業者の皆さんとの接点が少しずつ生まれ、自分たちの居場所ができた。その経験は、”空間には人をつなぐ力がある”という実感へとつながっていきました」





その後、美山との出会いをきっかけに、この土地で新たな挑戦が始まります。
2022年10月、誕生したのが「cocoNotsu(ここのつ)」です。
カフェやギャラリーという枠にとどまらず、人が集い、語り合い、新しい挑戦が生まれる場所。
地域の人も、外から訪れる人も自然と交わりながら、「場」として少しずつ育っていきました。




そして2025年5月、その営みの延長線上に生まれたのが、美山ビエンナーレです。
美山の各所を会場に、地域全体を舞台として開催されるアートイベント。
会場を貸してくれる方やボランティアスタッフ、地域の皆さん、アーティストなど、多くの人の協力によって初めて成り立つイベントです。
開催を通して、「地域と一緒につくる」という想いは、より強くなりました。
それまで店舗デザインの現場では、クライアントや職人、施工会社など、それぞれの立場や想いを汲み取りながら、一つの空間をつくってきました。
地域での活動も同じです。
地域の歴史や文化を大切にしながら、地域の皆さんや関わる人たちと対話を重ね、一緒に考え、一緒につくっていく。
店舗という一つの空間から、地域という大きな舞台へ。
関わる相手は広がっても、「相手を理解し、ともにつくる」という姿勢は変わりませんでした。
その積み重ねの先に生まれたのが、「地域文化と空間をデザインする」という、現在のナインズの考え方です。




未来の景色を想像し、地域文化と空間をデザインする
ナインズの事業や「cocoNotsu(ここのつ)」の運営、美山ビエンナーレの開催など、一見すると異なる活動に見えます。
しかし、その根底には、一つの変わらない考え方があります。
それは、愛着を持つ人がいて初めて空間は生きるということです。
仕事の依頼を受けると、筒井さんは、まずクライアントの話を丁寧に聞くことから始めます。
どんな暮らしをしているのか。
どんな仕事をしているのか。
どんな想いで、この場所をつくろうとしているのか。
その人自身や背景を理解した上で、一人ひとりに合った空間を考えていきます。
「ただ外見を整えるだけでは意味がないと思うんです。その人に愛着を持ってもらえて、自然と心地よく過ごせる場所になってほしいんです」
その考え方は、美山ビエンナーレにも通じています。
その場所に人が集い、それぞれの時間を過ごし、新しいつながりや景色が生まれていくことを大切にしています。
実際に空間が完成し、人が集い、日常の中でその場所が少しずつ育っていく様子を見ると、「空間に命が吹き込まれた」と感じるといいます。
だから設計をする時も、「ここのつ」を運営する時も、いつも思い描いているのは、その場所で人が過ごす景色でした。
そこにどんな時間が流れるのか。
どんなつながりが生まれるのか。
どんな思い出が積み重なっていくのか。
その景色を想像することが、筒井さんにとっての空間づくりです。
「ここのつ」を始めたことで、ナインズにも新しいご縁が生まれたといいます。
実際、「ここのつ」の空間を気に入り、ナインズへ空間デザインの相談に訪れる人もいるそうです。
「ここのつ」という場を通して生まれた新しいご縁は、ナインズにとっても大切な財産になっています。
取材の最後、これから思い描く未来について尋ねると、筒井さんはこう話してくれました。
「今でも、ものをつくることは好きなんです。単純にお店が集まるような場所ではなく、文化の匂いを感じるような、その土地に合った文化性の高いことにチャレンジしていきたいです」
「ものをつくる」という想いから始まった筒井氏の歩みは、人が集い、つながりが生まれ、その土地ならではの地域文化を育むことへと広がってきました。
これからも、人が集い、新しい営みが生まれ、その積み重ねが地域文化として育っていく。
そんな未来を、一つひとつ形にしていこうとしています。

| 屋号 | 株式会社ナインズ |
|---|---|
| URL | |
| 住所 | 鹿児島県鹿児島市城山町16-18 |
| 備考 | Mail Instagram |















