real local 金沢 » 「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん【この人】

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん

数年前から金沢の横安江町商店街で、農家さんが直接野菜を販売する、小さなマルシェが毎週水曜日に開催されるようになった。

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん
横安江町商店街の一角に明かりがともる。現在は直接農家さんと商店街で運営している「よこっちょ・ファーマーズマーケット」

そこでは農家さんと直接話ができて、ときには野菜をちょっと味見させてくれたりもする(私が味見したカブは、甘いだけじゃない“いろんな味”がしたし、購入した焼き芋は“イモの香り”に驚いた)。購入するだけでない、様々な野菜の楽しみをここでは提供してくれている。

そのマルシェを企画したのは「アグリファイブ」という石川のNPO法人で、昨年には「香土(カグツチ)」という八百屋兼コミュニティースペースも同商店街内に開き、今年は市内の定期野菜宅配サービスもスタートさせた。

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん
「香土」ホームページ
「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん
「香土」の店内。暖簾の奥はコミュニティスペースとなっていて、ママたちの集いなども開催されている。

代表は洲崎邦郎さん。洲崎さんという人は、アグリファイブ以外にも様々な“農”にまつわる活動をされていて、以前から度々名前は耳にしていた。石川の農業のキーパーソンの1人であることに間違いないが、聞けば前職はホテルマンだという。

畑違いの業界から、なぜ農業の世界を選んだのか。なぜ自社だけでなく他の農家のサポートもするのか、など、素朴な疑問をうかがってきた。

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん
洲崎邦郎さん。金沢市出身。金沢大学を卒業後、ホテル業界へ就職。営業マンとして活躍しながらホテルを渡り歩く。2010年にホテルを辞め、農家へ転身。「ラコルト能登島」の立ち上げメンバーであり、「A-five(アグリファイブ)」理事長。「香土」オーナー、『能登島オリーブの会』代表と、様々な農業関連事業を展開する。

理論整然と、よどみなく話す姿は営業マン、けれどおべっかや愛想笑いをしない表情の精悍さには土を耕す人特有の実直さがうかがえる。

農業の視点から、サービス業を見てみたい

––なぜホテルの営業マンから農業の道に?

「大学を卒業してから、基本的にはずっとホテル業界で働いてきまして、2010年に最後に勤めた兼六園そばのホテルを辞めました。

ホテルというのは宴会需要もあるので、営業だった私はその都度料理長とプランを打ち合わせするわけです。でも、石川で調達できない野菜があって、それが全国どこからでも手に入る状況に、あるときふと疑問を持って」

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん

「地元の農家さんにしてみれば、“この時期につくれない野菜”というのは当然ある。けれど、サービス業から農業を見ている限りは、単純に“欲しいものを提供してくれ”という話になる。『では、農業の方からサービス業を見たら、もっと違う見え方があるのでは』と思ったのが、農業に向かったきっかけですね」

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん

––ホテル業界から、いきなりの転身ですね。

「農家にほとんど人脈がなかったから、手探りでした。まずは県が主催している『耕稼塾』に応募して、週に一回農業の勉強をしに行き始めて。同じ頃に『ホテルやめてブラブラしてるなら来んか』と能登島の農業関連の仕事に声がかかったんです。

能登島は観光と農業・漁業が隣り合わせにある土地だから、私が思っている『農業からサービス業を見る』ということができるかもしれないと直感的に思ったんですね。そうして2010年9月に能登島に行ったのが農業の本格的な入り口です」

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん
能登島から見える海。

同じ10年なら、“農業の出口”を考える年月

––能登島には住まれていたのですか?

「最初は住もうと思っていたんですが、“自分ができる農業”って何かなと考えて。

今後、農業のプロと一緒に働かせてもらって、すごく美味しい野菜がつくれるようになる10年もあるかもしれない。けれど、自分も51歳だったし、そういう10年と、農作物の販路をうまく作って、生産者と消費者をつなげる10年を考えたとき、自分には後者の方が合っていて、今後必要とされるテーマだと思った。であれば、自分は作物を上手くつくれる人たちと組んで、“農業の出口”を考えたいと思ったんです。今でいう“農業プロデューサー”みたいなことがしたいと、おぼろげながら考えていたのでしょうね。

そういう意味では、能登島にどっぷりいると、消費地である金沢などへの販路に関われなくなると考え、現在も金沢に住みながら能登島に通っています」 

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん
能登半島本土から能登島に向かう「能登島大橋」

じいさん達を責めるのではなく
孫の世代が“農業をしたい”と言える環境をつくる

「そうこうしているうちに、2011年に、能登島で一番田んぼを持っていた方が体調を崩されて、『もう田んぼができなくなるから代わりに任せたい』というお話をいただいたんです。本当のとことを言えば、私は能登島でオリーブ事業をしたかったのですが、農家の高齢化や、耕作放棄地の増加など、当時から“農業の明日”を案じていたので『わかりました』と返事をして、2011年5月に『ラコルト能登島』という団体を立ち上げました。お米だけでなく、畑もしたかったので変わった西洋野菜の栽培も始めたりして」

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん
田んぼ仕事に汗を流す洲崎さん。

「実は、その田んぼを譲ってくださった方と相当に口論したんですよ。『後継者ができてよかった』と喜んでいらしたので『なぜあなたの息子さんは田んぼを継がないのですか?』と尋ねたら『農業じゃ飯は食えんから』と。こっちは今から農業で飯を食おうとしとるがに何言うとれんて!って(笑)。親がそんな姿勢やから農業が衰退するんやと。けれど、あるときこれは詮無い喧嘩やなと。じいさんらを責めるより、その孫が『農業したい!』と言える環境をつくることの方がよっぽど大事やなと思ったんです」

まずは自分達から、“顔の見える農業”の実践

「米を農協にだして儲かったのはもう20年も昔の話。米価も年々下がっているし、それでは赤字になる。であれば、直接消費者とつながって、顔の見える農業をした方がいい。

まずは自分の農業法人で実践してみようと、Facebookで毎日何をしているかアップするようにして、お米も直接届けに行って。ありがたいことに3年前くらいから、農協には一切お米を出さずに、顧客とお米屋さんとの取引で成り立つようになってきました」

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ラコルト能登島で販売する「能登島 向田ほたる米」

––オリーブもしたいという願望はどこから?

「これは農業の道に入る前から、個人的にやってみたいと思っていたことで。よく、耕作放棄地にコスモスやヒマワリを植えたりしていますが、その活用方法は一過性で、枯れたらまた草刈りして…と手間がかかる。であれば、ずっとそこにあって、さらには“人が動く”ものがいいなと思った。オリーブは女性が喜ぶし、温暖化もあって能登島でも栽培できないこともなかった。そこで2012年に『能登島オリーブの会』という任意団体を立ち上げました。そこから毎年オリーブを植え続け、今では300本になり、実も取れるようにもなってきました。オリーブを介して能登島に人が行き来するようになって、島のことを知ってもらえるようになったのも嬉しいですね」

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん
オリーブの植樹をイベント化したり、クラウドファンディングにも挑戦したりと、外の人を巻き込むことを大切にしている。

農家同士がネットワークし合うメリット

––アグリファイブを立ち上げた経緯は。

「自分で農業をやるうちに、他の農家さんのことも気になるようになってきて。自分だけが上手くいっていてもダメだと。石川にもたくさんの農家さんがいるわけで、彼らとネットワークしていければ、消費者側にとってもメリットが高いんじゃないかと。例えばお客さんに『あんた白菜あるんか』と言われた時に、私はお米と西洋野菜しかないけど、他の農家さんとつながっていれば提供することができる。そういうネットワーク化を目指してつくったNPO法人が『アグリファイブ 』です」

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん
アグリファイブ のホームページ

「フードコーディネーターや料理家、旅行代理店の社長、コンサル、マルシェの達人、、10人くらいで立ち上げました。NPO法人というかたちを選んだのは、その方がみんなに関わってもらえたりすると考えたからです」

農家が直接消費者とつながる“売りの場”をつくる

「まずとりかかったのはマルシェ、農家と消費者が直接つながる“売りの場”をつくること。それは今日も続いていますが、もっと常設的に直接農家の野菜が買える場所を設けたいと思い2018年に『香土』をオープンさせました。店舗を借りるリスクもあるけれど、1年間マルシェをやってきた感触として“できる”という確信はあった」

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん
2018年8月に横安江町商店街にオープンした「香土」

「さらに、八百屋一辺倒じゃなくて、ここを“場”にしたいと思ったんです。例えば、野菜好きの人たちがあつまる場。だから、毎週月曜に『農活』として、野菜のことや農家のこと、広くは食のことを知ってもらうイベントを開催していて、これまで毎週ずっと続けて開催しています」

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん
トークイベントや料理教室など、様々な『農活』も開催されている。

買って買って、農家を応援する覚悟

––アグリファイブ の収入源は?

「イベント出店の収益や、普段の野菜販売を積み立てて支払いに当てたりはしていますが、農家さんからは一切いただいてません。なので、現状はまだ自分達の持ち出しもあります。

当初、農家さんから入会金を取ってみたこともあったのですが、そんなことより、もっと大事なことがあるんじゃないかと思ったんです」

––では「香土」で置いている野菜はマージン制ですか?

「ここの野菜は全部私が買い上げてます。『ごめん、売れんかったから持って帰って』なんてできない。自分で“農家さんの売りの場つくりたい”とか言ってるくせに、私がそれをしてしまったら何をしとるかわからないし、“農家を守る”なんてとても言えない。であれば、僕が一生懸命に買って買って、『洲崎さんに野菜渡せばなんとかなるし、もうちょっと頑張ってつくろうかな』と農家さんに思ってもらえた方がよっぽどいいわけですよ」

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん
「香土」に並ぶ野菜。こだわりを持って生産している農家から直接買いつける。

“農地を守る” “農業を継ぐ”という現場から

––取引する農家さんは洲崎さんご自身で声かけを?

「農家さんには自分から声をかけることが多いですが、紹介していただいた方がいれば直接会いに行きます。基本的に畑を見たことがない農家さんの野菜はここにはないです。

取引しているのは、オーガニックだったり無農薬でつくっている農家さんが大半ですが、だからといって固執しているわけではないんです。もちろん、若いお母さんや子ども達に食べて欲しいから無農薬に越したことはない。けれど一方で、農地を守るとか、農業を継ぐという話になったときに、また違う視点がある。これは自分自身、農業をやってきてわかったことです」

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん

無農薬か否か、という論点だけで切ってはいけない

「私の田んぼも減農薬でこだわって栽培していますが、完全無農薬なわけではない。自分がそうだからってわけじゃなくて、じゃぁ農薬を使っている農家は悪人なのかという話ですよ。彼らだって、雨だろうが風だろうが、日も出ないうちに起きて、野菜を育てて生計を立ててる。現に農業と日本の国土を守っている、次につなげようとしているんです。

そんな人たちを、“無農薬か否か”という単純な論点で切ったらだめやと思うんです。それは買う側の選択肢なわけあって。だから香土ではお客さんに積極的に野菜の説明をするようにしています。

こういう話をすると、引いてく人もいらっしゃいます。けど、農業の明日とか、食の豊かさという面では、大事なことはそこではないかと思っています。だからこそ香土ではみなさんに農業のことをつまびらかに知ってもらう場にしたいとも思っているんです」

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん

––最後に、今後の展望は。

野菜だけでなく「豊かな暮らし」というものを考えてみたいと思っています。食卓が豊かになり、さらに暮らしが豊かになるというところに広げていけたら。ただ、私は根っこが農業なので、若い人たちがこれから農業をやっていくには、ということを考え続けていきたいですね。

「農業の出口を考える」人/洲崎邦郎さん
お店におかれたオリーブ。生活雑貨なども「香土」の一角で販売。
URL

アグリファイブ:http://agri-five.com/

ラコルト能登島:http://raccolto-ishikawa.com/

香土:https://www.kagutsuchi-ishikawa.com/

住所

「香土(カグツチ)」金沢市安江町15-44

備考

「香土」営業時間:

営業時間  / 11 : 00 17 : 00

定休日  / 月・火・水曜日

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