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絵描きであり大工でもあり

行田ユタカ「きれいなところ」への旅

ある日、近くの川辺を散歩しているとき、工場排水で淀む汚れた川に浮かぶカモの群れを見つけた。行田はハッと気が付いた、この水鳥たちは自分だと。羽があるのに、ここより「きれいなところ」に飛んで行けるのに、この川に群れる鳥たちとここにいる自分が重なった。

すぐに勤めていた設計事務所を辞めて実家を出てキャンプをしながら「きれいなところ」を探す旅に出た。

絵描きであり大工でもあり
壁画を描く行田ユタカ  

行田ユタカは、絵描きであり大工でもある。丁寧な仕事と段取りの良さに定評がある大工。
一方で、いつも期待を裏切り続けている絵描きだ。

八ヶ岳南麓に住まいを構えた行田がここで最初に描いた題材は自ら収穫した野菜だった。いびつな形や大きさで出荷ができなかったマイノリティな野菜たちを油絵の具で描いた。この作品群は輪郭が際立ち力強く存在感に溢れている。「頑張って生きてきた様子を描きたかった」と行田は言う。作品は銀座にある画廊で発表した。

絵描きであり大工でもあり
左:野菜シリーズ「大根」・右: 野菜シリーズ「青いカボチャ」

移住当初、行田は津金という地域でお寺の古い家を借りて敷地内で自然農による野菜の栽培を行いながら絵を描いていた。しかし収穫した野菜の販売と絵だけでは充分な収入が得られない。そのため行田は大工となった。絵描きと大工、ものづくりという枠組みでは近しい印象だが、「まるで違う」と行田は言う。作業中はもうひとつの仕事は考えない。「点と点の間が大工、点が絵描きなんだ」と。

絵描きであり大工でもあり
大工仕事中の行田

しかし、「間」の仕事から絵描きとしての活動に繋がることも少なくない。ある施主から小淵沢にある無料の展覧会場の話しを聞きすぐに予約し個展の準備を始めた。作品はその施主の現場でいつも視界の片隅にあった「野草」。あちこちに群生していながら普段目にとまらないマイノリティな存在だ。それを水彩で何枚も描いた。力強い「野菜」に対して「野草」は繊細で透明感があり見えない風を捉えた作品となった。同じ人間が描いたとはすぐには信じられない。

絵描きであり大工でもあり
野草シリーズ 水仙
絵描きであり大工でもあり
野草シリーズ 花畑-ポピー-

学生の時は地下鉄の車窓から見えたコンクリートの壁を描いた。「野菜」、「野草」、春の展覧会に向けて描いた時期が冬だったから、と色のない世界をパステルで水墨画のように表現した「モノクロシーズ」。それぞれまったく異なる画風だ。

行田自身も自分らしい表現を突き詰めたい気持ちはあると言う。しかし永遠に見つからなさそうだとも感じている。なぜなら、何枚も描いていくと完成度が上がってくる。そうすると少しずつつまらなく思えてくる、最初に描いたまだ未熟で粗の目立つ完成度の低い絵は面白いと思ってしまうから。

絵描きであり大工でもあり
モノクロシリーズ ひつじ
絵描きであり大工でもあり
モノクロシリーズ 森

昨年発表した「Flower」は、アクリル絵具によるヴィヴィドな色使いと、独特の構図で切り取られた花の絵だ。これまでと違ったのは、描く対象を決めずに紙に見えてくる色と形を思いつくままに描いていったこと。

絵描きであり大工でもあり
Flowerシリーズ  左:Flower23 中: Flower17 右: Flower19
絵描きであり大工でもあり
Flowerシリーズ アネモネ

個展の度に画風が変わる行田に以前の作品を期待しても裏切られる。一方で興味深い点は、行田の描く対象は植物や動物が多い。壁の亀裂ですら行田はそれを「木」や「人」に見立てて描いた。行田には日頃目立たないところで頑張っている存在を気付かせたい、という思いがある。「マイノリティに惹かれる、自分もそうだからかな」と言う。

絵描きであり大工でもあり
過去の作品 左:95-01木 右:95-02 屋根の人

今年、行田はある試みを始めた。大工であるから描ける作品づくりだ。針葉樹合板に樹を描く。木を木に描く試みだ。

自らが大工として施工した棟まで立ち上がる壁に描いた「樹」は、現場の庭に立つまっすぐに伸びる広葉樹だ。野草と同様に作業中いつも視線の片隅にあった。それを壁に投影することで、見る人の意識を外の自然に向けたいと行田は思った。

木に木を描くということ、合板に残る節と描きたい節がぶつかる、毛羽立つ表面に描く画材にも悩んだ。チョークと鉛筆と色鉛筆とアクリル絵具を使ってサンダーで削る、自然素材を使った工業製品に対峙する姿は絵描きであると同時に素材を熟知した大工に他ならない。行田は壁画のために何枚も合板の端切れに習作した。それらの荒削りさや不完全さは行田が常に求めている、はじめて描く過程にこそ現れる面白さ-独創に満ちている。

絵描きであり大工でもあり
制作中の壁画

ところで、行田は、「きれいなところ」にたどり着いたのだろうか。野菜や野草や樹木や動物や森を描けていているここは、少なくとも「きれいなところ」に違いない。

しかし、この言葉にはもうひとつ行田の隠れた願いが含まれている。汚れた川に浮かぶカモの群れを見て「羽があるのに飛んでいけるのに、なぜ、もっときれいなところへ行かないのか、カモも自分も」という閃きからそこを飛び出して絵描きになるという選択をした行田の生き方、そして、描いた作品を通して「みんな羽があって自由だから勇気を持って欲しい」という願いだ。

 

「≧house 井富停留所」にて、2020年3月中旬〜「行田ユタカ/PLYWOOD9」展を開催します。

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備考

「≧house 井富停留所」にて、2020年3月中旬〜「行田ユタカ/PLYWOOD9」展を開催します。

屋号

行田ユタカ