real local 山形 » 教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 後編【地域情報】

教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 後編

2020.03.26

東北地方で高校としては初めてコミュニティ・スクールに指定され、地域とともに教育に取り組む山形県立小国高等学校。その小国高校の生徒たちが、全国の小規模校に声をかけ、第1回全国高等学校小規模校サミット(以下、小規模校サミット)を開催するまでのようすを前編でお伝えしました。

20197月には、第2回小規模校サミットも開催され、生徒の主体性はさらに進化。「正直びっくりした」と東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科長の岡崎エミ先生は言います。生徒たちに、今度はどんなことが起きていたのでしょうか。

教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 後編
東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科長の岡崎エミ先生

地域の人から教わる知恵が
気付きと自信につながった

保健室を舞台とする全校挙げての着ぐるみ作りに始まり、第1回小規模校サミットの開催を経て、「大変態」を起こしてしまった小国高校の生徒と教員たち。小国高校の様々な取組みを具体化するために「カリキュラム開発等専門家」の立場で助言してきた岡崎先生に、生徒の変化で最も驚いた場面について尋ねると、第2回小規模校サミット開催前の出来事を語ってくれました。

それは、第2回の開催にあたり、第1回で司会進行を務めたコミュニティデザイン学科卒業生の小野寺真希さんが、プログラムを一通り作成して生徒たちに確認したときのこと。プログラムを受け取った生徒たちは、当日の進行を自分たちが仕切る前提で、細かな進行台本や役割分担を完成させて戻してきたのだそうです。

「ワークショップの全体司会というのは、会場の様々なところに目を向けていなければいけないので、なかなか難しいものなのですね。だから当然、真希ちゃんがやるものと思っていたんですが、生徒たちに『もしかして、やるの?』と尋ねたら、『やる』と。当日は真希ちゃんも私も横で見ているだけで、何もやることがありませんでした」と岡崎先生は笑います。

教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 後編
SCHシンポジウムで小国高校の取り組みについて発表する小国高生たち。左から、舟山未羽さん、舟山未夢さん、伊藤玲奈さん

2回目を自分たちの手で作り上げようと決めた生徒たちですが、しかしその準備の過程では、様々な課題にぶつかっていました。第2回目は、全校生徒で2回のファシリテーション研修を実施しましたが、いざやってみると会話がなかなか深まらず、話し合いがすぐに終わってしまったのです。

同じ高校の生徒同士でこの状態では、他校生とは話し合いすらできないのではないか。そんな不安を憶えた生徒たちは、4つのアクションを共有したと言います。それは、(1)相手の意見を否定せず、相手の意見を踏まえながら自分の意見を述べる「Yes, and」のコミュニケーションを実践すること、(2)話しかけるときに相手の名前を呼ぶこと、(3)話す量を、テーブルのメンバーがみんな同じになるようにすること、(4)テーブルのメンバーが戸惑っている時には、自分から意見を言うこと。これにより、失敗を恐れずに生徒たちが積極的に本音で対話できるようになっていったと2年生の舟山未夢さんは話します。

小規模校サミットにむけて準備するなかで、地域に飛び出し、地域の人との交流を通じて生まれた自身の変化を語ってくれた、2年生の鈴木衣舞さんのお話も印象的でした。

教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 後編
SCHシンポジウムで発表する鈴木衣舞さん

鈴木さんは、第2回サミットの救護係になったものの、初めてのことで戸惑いながら、熱中症対策について調べたそうです。しかし、具体的な方法がわからず、先生に相談して、小国町の消防署を訪れることにしました。

鈴木さんが一番知りたかったことは、「救護係が予防のためにできること」について。西置賜行政組合消防署小国分署の齋藤昭義さんに質問すると、一つひとつ丁寧に答えて教えてくれたそうです。その話を聞いて初めて知った対策方法が、「表情を見る」というもの。

熱中症などで急激に体調が悪くなる場合には、その前触れとして無表情になるため、表情の変化にいち早く気づくことが大事だと教わります。そうして小規模校サミット当日、みんなの表情を見て回っていた鈴木さんは、会場の生徒たちが楽しそうに明るく笑顔でいることに気付き、自信につながったのだそうです。

また、2年生の丹歩さんは、入学後もなぜ小国高校を選んだのかわからずにいましたが、1年次に先輩が第1回小規模校サミットを立ち上げてくれたことが、気付きにつながったと言います。

教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 後編
SCHシンポジウムで発表する丹歩さん

それは、初めてのことにチャレンジできる環境が小国高校にはあるのだと知るきっかけになり、他校生との交流などにも積極的に参加するようになったそうです。こうした体験を通じて、過疎化していく町を元気にする地域コーディネーターになりたいという夢も持つようになったと明るく語りました。

コミュニティデザインで
「土壌」そのものを育む

全国でコミュニティ・スクールを導入する学校は増えているものの、地域との協働・運営のための人材や資金面で課題を抱える学校は少なくありません。

東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科長の岡崎エミ先生は、高校の授業カリキュラムや活動内容に対するノウハウ自体は、様々なところに蓄積されていると言います。

「けれども、生徒が学びを深め続けるために、教員や学校、地域の人たちを含む『土壌』そのものを育むノウハウは、なかなかないのではと思うんです。コミュニティデザイン学科は、そうした視点で、人が変わり、活動が変わり、その活動によってまた人が変わるというループをぐるぐると回していくなかで、地域全体の課題解決に取り組む方法を学ぶところなんですね。小国高校の事例では、『Yes, and』のコミュニケーションをはじめとするコミュニティデザイン学科のノウハウを丁寧に進めていきましたが、そうした手法は教育業界特有の課題に非常にマッチしていたように思います」。

教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 後編
SCHシンポジウムでは、コミュニティデザイン学科の学生たちが司会進行やテーブルワークのファシリテーションといった運営全般を担当
教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 後編
コミュニティデザイン学科提供
教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 後編
発表や議論の内容を図式化し、ファシリテーショングラフィックを作成するコミュニティデザイン学科生。こうしたデザインのスキルも授業のなかで全員が身につけていきます(コミュニティデザイン学科提供)

2年前にコミュニティデザイン学科を訪ねて以来、様々なアドバイスを受けてきた小国高校養護教諭の阿部千穂先生は、初めて相談した際の岡崎先生の姿勢が今も心に残っているそうです。

「まだできるかどうかもわからない私たちに対して、同じ目線で向き合ってくださったんですね。実際にワークショップを運営したり、地域に入って活動をされたりしているので、話したその場で自分たちの考えや悩みに深く共感してくれました。また、本に載っているような知識をそのまま伝えるのではなく、経験も踏まえながら一緒に考えてくださったことが本当にありがたかったです」。

教員同士、教員と生徒、生徒同士のそれぞれのあいだに生まれた、相手を肯定し、自己を肯定するコミュニケーションの連鎖は、今後さらにどのようなことを引き起こしていくのでしょうか。2019年度からは文部科学省による「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」の指定校にもなっている小国高校の、人と地域の「大変態」に一層期待したいと思います。

★なお、第3回の全国高等学校小規模校サミットは、2020年729日(水)の日程での開催が決定しました。詳細がわかり次第、あらためてお知らせしたいと思います。

★小国町では「高校魅力化推進部門」を含む4つの部門で地域おこし協力隊を募集しています。興味のある方はこちら