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教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 前編

2020.03.26

近年導入が進んでいる「コミュニティ・スクール」をご存知でしょうか。コミュニティ・スクールとは、幼稚園や小学校、中学校、高等学校、特別支援学校などにおいて、保護者や地域とともに学校運営協議会を組織し、そこでの話し合いをもとに運営を進めていく学校を指します。「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」が改正され、2017年度からこの制度がスタートしました。

そのコミュニティ・スクールに、東北地方で初めて指定された高校が、山形県立小国高等学校です。小国高校は、全校生徒が69人(20203月現在)という極めて小規模な高校ながら、生徒が自ら全国の小規模校に呼びかけて2年連続でサミットを開催しているという果敢な高校です。一体どうしてそんなことが実現できるようになったのか? 小国高校の生徒や教員のみなさんは、一体どんな人たちなのか? 

そんな素朴な疑問が浮かび、東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科らが主催するSCHSuper Community High school)シンポジウムで発表する小国高校のみなさんに、お話を伺ってきました。様々な話のなかで、キーワードになっていたのがコミュニケーションにおける「Yes, and」のルール。「Yes, and」とは? ぜひご覧ください。

教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 前編
第6回SCHシンポジウムで発表する小国高校生たち

教員の一言から始まった
着ぐるみ作り

小国高校の変調の始まりは、コミュニティ・スクールへの指定を目指すことが決まった20164月に遡ります。それは、一人の男性教員が発した一言がきっかけでした。

「もうお亡くなりになってしまったんですけれど、当時、生徒指導をされていた岸健司先生が、『とりあえず、着ぐるみつぐんねどだめだ』とポツリと言われたんです。その人は、ゆるキャラなんて別に好きではなく、できればやりたくないみたいだったんですけど、みんなが好きなら新しいことをやってみるべきだと言われて。でもそんなふうにおっしゃるので、まだ赴任して2年目だった私は、『ハイ!』というかんじでいろいろ調べ始めたんです」。

こう話すのは、保健室で生徒たちを見守ってきた養護教諭の阿部千穂先生。岸先生の言葉を素直に受け取った阿部先生は、着ぐるみ制作費用を調べ、最低でも50万円程度が必要なことを知ります。早速それについて報告すると、「ちょっと厳しいな」という乾いた返答が。作れと言っておきながら、「厳しいな」の一言で切り捨ててしまうなんて。逆に火が着いた阿部先生は、その日の帰りにホームセンターで材料を買い集め、着ぐるみのミニチュアを自ら作ってしまいます。

次の日、学校で「こういうふうに布を被せたら、着ぐるみ作れるんじゃないですか?」と教職員に見せたところ、「おお、できそうできそう!」と大盛り上がり。そこからは、美術の先生がミニチュアから型紙を作り、ゆるキャラ好きの英語の先生が適した材料を見つけてくるなど、総動員で試行錯誤の着ぐるみ作りが始まりました。

教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 前編
阿部千穂先生とおぐまん

制作現場と化した保健室には、7月の学校祭までの完成を目指す大人たちの必死さが充満します。

「先生たちも誰も彼もが全力なので、空気を読んだのか、生徒の来室が減ったんですね。実際、私たちにとってはとても大事な時期で。それでも、心を病んでしまったり、問題を抱えていたりして授業に出られない生徒たちが訪ねてきたので、彼らと一緒に作りました。出来たものを事務職員に見せて、『すごいね、職人技だね』と褒められたりすると、生徒もすごくうれしそうで。職員は職員で、すでにはまってしまっていますし、教頭先生も来てくれたり、他の生徒たちも続々保健室をのぞきに来るようになりました」。

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おぐまんの制作風景(小国高校提供)

しかし、残り3週間の時点で、まだすべての型紙が完成していないという事態に危機感を憶えた阿部先生たちは、小国町内のキャンプ施設「健康の森 よこね」で制作合宿を強行することに。

「家庭科の先生がご飯を作ってくれたり、本当にガチの合宿をしました(笑)」。

結果、学校祭では無事に小国高校オリジナルゆるキャラ「おぐまん」の着ぐるみを披露することができ、今も様々なイベントの顔として、生徒と一緒に町内のあちこちで活躍しているそうです。以前は自信がなさそうだった生徒たちも、「できなさそうでも、やってみるとできる」という体験をしたことで、おぐまんと一緒ならば少しずつ前へ出られるようになり、次第におぐまんがいなくても、一人で活動できるようになっていったと言います。

教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 前編
学校祭でのおぐまんお披露目のようす(小国高校提供)

そんな阿部先生は、そもそもなぜ「着ぐるみを自分たちで作れる」と最初に思うことができたのでしょう。

「私、新庄出身なんですが、新庄市では新庄まつりの山車(山形県内では唯一のユネスコ無形文化遺産)を地域の大人や子どもたちが、町内ごとに夜な夜な集まって話し合いながら作るんですね。別に職人ではなく、地域の素人が作っているんです。そういうのを見てきたこともあって、やり方さえおさえてしまえば、きっと作れるんじゃないかな、と」。

しかし作り方は解決できても、やはりあらゆる費用が発生します。それはどうやって賄ったのでしょうか。

「『着ぐるみだ』と最初におっしゃった岸先生も、その仲間の地域の方々も『お金のことはまかせろ』って、寄付を寄せてくれたんです。本当にたくさんの方々が、一肌脱いでくださいました」。

こうした顛末をさらりと語る阿部先生について、「小国高校で『変態』気質が最も開花した人」だと話すのは、先のゆるキャラ好きの英語教諭、佐藤志野先生。佐藤先生は、阿部先生より一年遅れての20164月に小国高校にやって来ました。着任早々、阿部先生から「着ぐるみ作りたいんです」と声をかけられたそうです。

「『なんで私に言うの?』と思ったんですけど、私、大学時代は軽音サークルにいまして、サブカルやコスプレにも片足を突っ込んでいたので、おぐまんのからだを作るとき、『コスプレの武器はこういうボードで作れますよ』って発言しちゃったんですね。それからは、ことあるごとに巻き込まれるようになりまして」。

佐藤先生をはじめ教職員や生徒たちの好きなことを見逃さず、人の得意を活かして誰もがプロジェクトに参加しやすい工夫をしてしまう。「阿部という人は、そういう人なんです」。佐藤先生が少し諦め顔で笑いました。

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佐藤志野先生

小規模校サミットを通じて
共有された「Yes, and

このように、着ぐるみ作りを通して、図らずもチームビルディングを完了してしまった小国高校の教員の間では、2018年に入ると新たな取組みへの機運が高まっていきます。それが全国の小規模校の生徒や教員が集って交流する全国高等学校小規模校サミット(以下、小規模校サミット)の企画・開催です。

教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 前編
第1回小規模校サミットのようす(小国高校提供)
教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 前編
第1回小規模校サミットで入口に設置した、生徒と教員たちによる手作りのボード(小国高校提供)

小国高校では、201712月に岩手県立花泉高等学校との交流会を開催したことが、生徒に変化をもたらす大きな契機となっていました。その交流会の楽しさを振り返るうちに、体育教諭で生徒指導を担当していた板垣祥和先生と生徒が「小規模校サミットをやりたい」と言い出し、職員室で回覧板を回しアイデアを募り始めます。

阿部先生も早速協力することになったものの、そのような大規模なイベント準備をどのように進めればよいかがわからない。そんなとき、東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科が主催する第4SCHシンポジウムの新聞記事を発見し、「自分たちが考えているようなことを既に実践しているところがある!」と職員室がざわめきました。さらに、前任校で文芸部の顧問をしていた際に、よく東北芸術工科大学に研修会の講師派遣をお願いしていたという佐藤先生から、同学科に相談してみてはどうかとの提案が寄せられたそうです。

それを聞いた校長先生がすぐに板垣先生と阿部先生に「行ってこい!」と指示を出し、会うことになったのが、コミュニティデザイン学科長の岡崎エミ先生。年度末の多忙を極める時期だったため、半ば消極的な気持ちでの面談だったそうですが、「『サミットを自分たちでやりたい』という気持ちが、会って話を聴いてみると、すごくよくわかったんですよね。そのためのファシリテーション技術を習得したいとのことだったので、じゃあ3回でやりましょうと話しました」。1回目は生徒のなかでもやる気のあるコアメンバー7人を対象に、2回目はさらに数を増やしてサミット当日にファシリテーターを担当する約30人で、最後は全校生徒でと、段階的にファシリテーション研修を実施することが決まりました。

実際に最初の2回の研修を東北芸術工科大学にて、コミュニティデザイン学科一期生で現在はワークショップ等を手掛ける小野寺真希さんが講師を務めて実施したところ、コアメンバーの7人の生徒たちは大興奮。

1日がかりでしたが、ずっとだれずに集中していて。進学校の生徒などはすぐに答えを求めがちで長い作業に耐えられないんですが、彼らは終始楽しそうにやっていた。この子たち、おもしろいなあと思いました」と岡崎先生。

また、テーブルに分かれて話し合いをする際には、相手の意見を否定せず、その意見を受け止めたうえで自分の意見を述べようという「Yes, and」のルールを共有します。

「こういうコミュニケーションのルールというのは、なかなか学校では習わないですよね。でも、ルールを具体的に習うだけで、生徒たちは安心して話せるようになる。そして高校生は大人よりも変わるのが早いんです。いざ理解すると、突然動き始めるんですよ」。

一方で、一緒に研修を受けた教員たちは、そんな生徒たちのようすを見ながら、なるほどこうして生徒と一緒に考えればよいのかと手応えを感じていたと阿部先生は言います。こうした精神医療の現場で実践されているオープンダイアローグのようなかたちで、複数の教員と生徒とが同じ立場で互いの反応を見つめ合いながら開かれた対話を行ったことは、その後に小国高校の教員と生徒の目線のそろった関係性が構築されていくうえで重要な意味を持っていたように思います。また、教員の多様な素質も、ここでは見逃せない点です。

教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 前編
小規模校サミットでは2回連続で装飾係を担当している佐藤志野先生。第1回サミット時には、保護者がおぐまんの焼印をつくってくれたため、サミットでの昼食用かまぼこに一つずつ押して提供したそうです(小国高校提供)

ゆるキャラ好き英語教諭の佐藤志野先生は「物事の中心にいる人というのは、自分のなかでいろいろとストーリーが出来上がっているんですが、仕事や作業を振られる側は、しばしばその全体像がわからないものなんです。教員同士でも生徒に対してでも、まずは全体図を共有することからスタートする必要があるのでは」と、プロジェクトを進める際の課題点を挙げます。

一部のメンバーが団結していく雰囲気のなかでも、こうした教員と生徒の中間地点から客観的に物事を捉える視点があったからこそ、あらゆる生徒をとりこぼすことなく、チームの輪が拡がっていったのではないでしょうか。

こうして、201882日には、第1回目の小規模校サミットが無事開催され、全国9道県から17校約200人の生徒や学校関係者が小国町に集結しました。

教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 前編
第1回小規模校サミットのようす(小国高校提供)

これほどの一大イベントをやってのけてしまう小国高校生は、特別に優秀なのではと想像する人もあるかもしれませんが、もともと小国高校は自ら志望して入学する生徒がほとんどおらず、問題を抱える生徒が多い時期もあったと言います。しかし、小規模校サミットを行うために生徒と教員とがともにファシリテーションの技術を学び、ワークショップ形式での話し合いを学校生活に取り入れたことで、「教員の側にも、『生徒の言うことを聞かなくちゃ』という雰囲気ができて、『生徒ってこんなアイデアが出せるんだ』という純粋な驚きとともに、協働する仲間としての横の関係性ができてきたように思います」と佐藤先生は話します。

では、当の生徒たちは教員や学校に対してどんな印象を持っているのでしょうか。

現在2年生の舟山未羽さんに話を聞くと、「実は先生方が私たちに『生徒より大人のほうが頭が固いんだ』と教えてくれたんですよ。それで、『あなたたちの意見を聴きますよ』と言ってくれるので、『じゃあ私たちも言いますね』というかんじになって。先生たちは、最初にいつも私たちに、『こうして』じゃなく、『どう思う?』って言ってくれるんです」とにこやかに答えてくれました。舟山さんは、高校に入学してから傾聴ボランティアなどにも参加するようになり、そのボランティア活動のなかで、自分が大きい声で話すと相手はどういう反応をするか、笑顔ならどうかなど、一つひとつの行動の意味を考えるようになったのだそうです。

教育現場の「Yes」が変える主体性とは? 前編
SCHシンポジウムでの発表後、参加高校生からの質問に答える舟山未羽さん

「自分が考えるようになると、みんなが考えていることも聴きたいと思うようになるし、活動することによって自分がどんなふうに変わっていくのかということに興味を持ち始めて。聴くことは、とても大事なことだと思います。言いたいことを一方的に言うだけだと、相手の考えがわからないままなので、そこでストップしちゃうんです。そこから先に進めなくなるというか」。舟山さんは、こうした「Yes, and」のルールに基づく対話ができていたから小国高校はここまで変わることができたのではないかと話してくれました。

(後編へ続く)