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旅のはなしvol.3 / 西方智衣子さん「新しい家にて」

地域の連載

2020.05.16

山形で独創して営む人たちに尋ねました。忘れられない旅のこと。歩んできた道のりのこと。そして、今について。ご本人たちの語りで届けるシリーズ「旅のはなし」です。

旅のはなしvol.3 / 西方智衣子さん「新しい家にて」
西方智衣子さん(撮影:志鎌康平)

今年のはじめくらいまでは、ほぼ毎月、制作しているアクセサリーの展示やイベントで県内外のいろいろなところへ出かけていたんです。そうやって、つながりのあるお店の方や、その地域に住む友人や知人たちと日々会っていたんだなあと、今しみじみ思います。

仕事では、出来上がった品物だけを送って完結することも時にはありますが、できるだけ直接お届けしたいなといつも思っています。顔を合わせてしゃべるときが、やっぱり一番、意思疎通ができるなあと感じるので。お店の方には物を託して販売していただくので、私がちゃんと伝えなければ、お客さんにも違うものとして伝わってしまうことになりますし。なので、一緒に仕事をする人とは、会いたいですね。お互いのことというのは、月日が過ぎるなかでだんだんわかってくるものだと思うので、初めて仕事をご一緒するときには特に、そんなふうに思います。私、あまりうまく言葉を尽くせないので、とりあえず行ってみよう、会ってみようと思っているんです。会って話してみて、また会いたいなと思った時に、再び会いに行ってお付き合いにつながっていくものなんじゃないかなあと。何人かのお店の方のお顔が、今も頭に思い浮かびますね。

制作した最初のシリーズのアクセサリーは、金属に泥を塗ってから焼き付けることで、独特の風合いを出しています。温度を上げるための薬品を泥に混ぜているので、全体的に火で炙ると部分的に温度が上がって金属が膜を張り、それが模様になります。金属と温度の違いだけで、様々な表情が生まれるんです。この定番のシリーズでは、真鍮と銅と洋白という3種類の金属を使っています。真鍮は黄色っぽい色で、銅は赤っぽく、洋白はシルバーに近い色。さらに真鍮を錆びさせて緑青も作っているので、色は全部で4色です。

旅のはなしvol.3 / 西方智衣子さん「新しい家にて」
定番シリーズのアクセサリー(西方智衣子さん提供)
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3種類の金属の素材。上から、真鍮、銅、洋白(西方智衣子さん提供)
旅のはなしvol.3 / 西方智衣子さん「新しい家にて」
火で炙り、模様が現れてくるようす(西方智衣子さん提供)

アクセサリーのオリジナルブランドは、2013年にスタートしたのですが、もともとは秋田公立美術工芸短期大学で鋳物を勉強していました。卒業後は、友人と秋田でアトリエを共用しながら鋳物の花器を作っていたんです。そのときの作り方がまさに今の定番シリーズに通じているのですが、焼き付けて模様を出すというものでした。当時よく作品を見てくださっていた方が、あるとき私の花器の模様を見ながら「これ、身につけられたらいいな」とおっしゃって。その一言が、アクセサリーを作るようになったきっかけです。まずはどんな素材でやろうかなと考えてみて、一番慣れていた真鍮で作り始めました。表面に焼き付けているざらざらとした砂も、もともと鋳造時に使っていた砂型からきています。砂型は、砂に粉と水を混ぜて練り、粘土状にした型を、乾燥させて焼いて作るんですね。私の花器は、その型に金属を流し込んで形を作り、表面を磨いてから泥で模様をつけてさらに炭で焼くという制作方法でした。むかし火を扱っていたらドカンと爆発し、本当に危機一髪という恐ろしい経験もしたりしました(笑)

一方、アクセサリーは炭ではなくバーナーで全体的に焼いています。溶ける直前の頃合いで水にぐっとつけることで模様を出すんですね。腕につけるバングルなどですと大きいバーナーが必要になるので、作るもののタイプとサイズに応じて道具の種類も変えています。

2017年からは、シルバーを使ったシリーズに取り組み、4回目の今年は「melt(メルト)」と題して指輪の新作を作りました。

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meltシリーズの指輪(西方智衣子さん提供)

指輪は、友人夫婦から依頼されたのがきっかけで、フルオーダーメイドの結婚指輪も作っています。今年は2件ほど依頼をいただいて進めており、問い合わせも最近いただくようになりました。

フルオーダーメイドですので一から形を作るんですが、お会いできるようであれば、最初にお会いしてお話を伺うところから始めます。お二人の思い描くこれからといった大きな質問をさせていただいたり、どう知り合ったかだとか、お互いどんな性格で何が好きで何が嫌いかなど、二人の暮らしのディテールについてまず聞かせていただきます。それから、お話していくうちにだんだん見えてきたものをヒントにテーマを絞ってみたり、会話のなかでの印象的な言葉などを手がかりにしたりしながら、形に落とし込んでいく。そういった作り方というのがまず一つですね。もう一つは、お二人からのリクエストに沿って、形やデザインを提案させていただく進め方です。

テーマが決まると立体的なデザインを決めてサンプルを作ります。蝋のリングにスプレーを吹きかけて金属のような色味にし、仕上がりイメージに近いかたちで全体の雰囲気を確認していただきます。

私も実際に物の状態で見極めながら進めたいので、時間はかかりますがそんなスタイルをとっていて。太さや仕上げ方法によってもアクセサリーは雰囲気が大きく変わりますから、そういった細かいところまで見ていただきたいんですね。お客さんにお出しする前の試作も含めると、本当に山ほど作ります(笑) やってみて違うということも結構あるので、実際に作りながら決めていくことを大切にしています。

旅のはなしvol.3 / 西方智衣子さん「新しい家にて」
蝋を素材に作るサンプルの土台(西方智衣子さん提供)
旅のはなしvol.3 / 西方智衣子さん「新しい家にて」
サンプルで、リングの細かな薄さや厚みなどを比較する(西方智衣子さん提供)
旅のはなしvol.3 / 西方智衣子さん「新しい家にて」
フルオーダーメイドで過去に制作した結婚指輪(西方智衣子さん提供)

こんなふうに、工房にこもって仕事をしていることが多いんですが、なんていうか、毎日新鮮な気分にもなるんです。遠くへ行くような大きな旅ももちろん好きですけど、日々のなかでちょっとした旅をしているかんじでしょうか。山形市内の現在の場所に引越して来てまもなく2年半が経ちますが、新しい家になって、身の回りから気になることを見つけて暮らすのは楽しいなあって。

旅のはなしvol.3 / 西方智衣子さん「新しい家にて」
西方さんの自宅の窓辺風景(西方智衣子さん提供)

距離というよりかかわり方の変化によって、以前より行動範囲が広がったような気がします。知らないことも、日々経験できるんだなあと。例えば最近、よく近くの産直やお花屋さんに行って買ってきた花を飾ったりするんですが、気持ちが明るくなりますね。色も種類も、その時々の気分で決めるのがとても楽しい。毎日花瓶の水を換えたり、ちょっとずつ違う花を足していったりすることも好きです。

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散歩のなかで見つけた景色(西方智衣子さん提供)
旅のはなしvol.3 / 西方智衣子さん「新しい家にて」
部屋に生けた花たち(西方智衣子さん提供)

旅と言いながら、とても身近な話になってしまいました。私、いつもこんな調子なので、もうちょっとかっこいい人になりたいなあと思ったりするんですけど。え、変わらないほうがいいですか?そっかあ(笑)

コロナが押し寄せて、年度末あたりから本当に一気にいろいろな仕事がキャンセルになり、どうしようかと最初は落ち込んだのですが、でも、これはもうなるようにしかならないかなと思うようになって。そうしたら、掃除をしたり、いろいろ考える時間ができて、暮らしにゆとりが生まれたというか。ぼんやりする時間って、大切ですね。そういう時間があったから、思っていたよりも今、少し前向きな気持ちなのかな。

<プロフィール>
西方智衣子(にしかた・ちえこ)

1985年鶴岡市生まれ。山形市在住。2007年、秋田公立美術工芸短期大学専攻科鋳金修了。2013年にアクセサリーのオリジナルブランド「nishikata chieko」をはじめる。全国の店舗や百貨店、イベントにて展示販売を行っており、2019年からはオンラインショップも開設している。https://nishikatachieko.com/