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第5回 クリエイティブ会議「いのちの庭」レポート 2020.9.22/Q1プロジェクト

イベントレポート

2020.10.29

クリエイティブ会議とは、第一小学校旧校舎の「Q1プロジェクト」で展開していく事業の可能性について、クリエーター、アーティスト、企業と共に考えていくレクチャーシリーズ。

Q1プロジェクトが目指すのは、クリエイティブと産業を暮らしで結び、それを山形の持続可能な社会へ還元すること。クリエイティブ会議ではその具体的な方法論を公開型で話し合っていきます。

第5回 クリエイティブ会議「いのちの庭」レポート 2020.9.22/Q1プロジェクト
山形市の中心市街地に位置する、第一小学校旧校舎。山形県下初の鉄筋コンクリート造校舎で、国登録有形文化財となっている。映像、音楽、クラフト、メディアアートなど創作活動の場、学童保育、カフェや食文化、市民活動のスペースなど、多くの要素が混ざり合う地域のクリエイティブ拠点を目指し、2022年以降のオープンに向けて進行中。

第5回クリエイティブ会議のテーマは「いのちの庭」と題し、第一小学校旧校舎(以降:旧一小)の中庭の可能性についてディスカッションが繰り広げられました。今回は山形ビエンナーレ2020と連動しての開催です。

ゲストは“土の建築家”として知られる遠野未来さん。これまで住宅、入浴施設、ビオトープ、子どもの遊び場などをつくるほか、国内外で展示やワークショップを行い、土の可能性を追求するプロジェクトを重ねています。

さらに医学博士であり、山形ビエンナーレ2020の芸術監督をつとめる稲葉俊郎さんが加わり、モデレーターの東北芸術工科大学/クリエイティブディレクターの岩井天志教授と建築家の馬場正尊教授の4名でディスカッションが行われました。

第5回 クリエイティブ会議「いのちの庭」レポート 2020.9.22/Q1プロジェクト
建築家の遠野未来さん。20年以上前、ご自宅の制作をきっかけに土の建築の魅力に出会ったという遠野さん。「土が少し入るだけで空気がしっとりして心地よく、空間の雰囲気が柔らかくなる」と話す。
第5回 クリエイティブ会議「いのちの庭」レポート 2020.9.22/Q1プロジェクト
現役の山形市第一小学校と旧校舎の間に位置する中庭。

今回の題材である旧一小の中庭は、少し特殊な構造をしています。現役の山形市第一小学校と旧校舎が左右対称にあり、その真ん中に中庭がある状態。いわば新校舎と旧校舎が共有する庭であり、四方を建物に囲まれた空間となっています。

この場所を“土の空間”を通して、食・農・子どもたち・地域の人々が出会い、つながる場をつくることができないだろうか?

今回のトークでは、「土」と「いのち」をキーワードに、遠野さんが描いた中庭のイメージ図が共有されました。

第5回 クリエイティブ会議「いのちの庭」レポート 2020.9.22/Q1プロジェクト
遠野未来さんによる「いのちの庭」イメージ図

遠野さんが描いたのは、シンボリックな立体物。『生命のつながりと循環』をテーマに、例えば“人間と動物”、“静と動”、“子どもと社会”など対照的なものが循環し、いのちを表すメビウスの輪がイメージされています。

2つの円形が並び、右側は「食」をテーマにコンポストや畑があり、左側にはイベントや映画が見られる広場になる。中央には東屋があり、みんなが集えるテーブルを置いて会話したり、畑で取れた野菜を食べたりする。子どもだけでなく市民が集えるよう、テントを置いてマーケットをしたり、イベントができる場となります。

第5回 クリエイティブ会議「いのちの庭」レポート 2020.9.22/Q1プロジェクト
遠野未来さんによる「いのちの庭」平面と断面のイメージ図

中庭にある土を生かして起伏をつくることで、立体的な原っぱを子どもたちが登ったり降りたり走り回ったりできます。かつてはお堀があったという土地の記憶とリンクさせながら水の循環をつくったり、植栽をしたり、いろんな生き物が共存させられたら、そして秘密基地のように子どもたちが篭れる土のオブジェを点在させていけたら、と遠野さんは話します。

これらの遠野さんのスケッチをもとに、旧一小の中庭の可能性について、この場所が目指す方向性について議論が展開されていきました。以下に印象的な対話の断片を振り返っていきます。

第5回 クリエイティブ会議「いのちの庭」レポート 2020.9.22/Q1プロジェクト
山形ビエンナーレ2020とのコラボレーションで、「いのちの学校」のスタジオから配信。

遠野 旧一小の中庭の未来について、叩き台として絵を描いてきました。はじめから完成形を目指すのではなく、少しづつ作っていくのがよいと思っています。山形ビエンナーレ2020でも、この中庭を使った企画の構想があったのですよね。

岩井 今年はコロナでオンライン化しましたが、旧一小がビエンナーレのメイン会場のひとつとなる予定でした。開催期間中、あえて完成形を決めずに、中庭の土を使って子どもたちとアーティストが一緒に作品を作りあげていく。いのちの象徴のようなオブジェをつくろうと稲葉先生と考えていたんですよ。

遠野 とても興味深いですね。そういった土のオブジェも増殖して、組み込まれていく空間になるといいなと思います。

稲葉 これからは対話の時代になると思っています。いまは避難的にオンラインが対話の場となっていますが、今後は「なぜリアルな場で人が集うのか?」という問いが生まれてきます。その答えが対話することだと思うんです。なにか問題があっても、この場所に集まり、土や自然の力を借りながらみんなで対話をして解決していく。ここがそういう場になればいいなと思います。

オブジェをつくることも、各々が提供できるものを出し合って、みんなの意見が反映されて作られていく、そんな対話のプロセスを具現化するものとしてイメージしていました。世代間の分断やいろんな壁が溶ける場として庭が機能するといいですよね。遠野さんの描いたメビウスの輪も、こうした対話の場を象徴しているように感じました。

岩井 この庭は新旧の小学校の中間地点にあるので、子どもも含めて対話が行われて、未来につながるコミュニティができていく気がします。安心してみんなが集うことができて、ここに来ると気持ちが良くなる場所にしたいですね。

馬場 この場所では身体で対話できそうだと思いました。ここは地方都市とはいえ、泥まみれになって土に触れて遊べる場が意外とありません。この空間は四方が建物に囲まれていて、あの庭に立つとすごく安心感があるんですよね。オブジェを作りかけで放置しても、あの空間だったら許される気がします。

遠野 作りかけで雨風にさらされて溶けて、そこからまた作り直して形が変わっていく。まさに“生きている”という感覚ですよね。

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馬場正尊さん(左)と岩井天志さん(右)

馬場 未来さんは過去に仮設の建築物をいくつか作っていて、現存しないものもありますよね。あの感覚がすごくいいなと思っていて、建築はつい完成が目的となりますが、作り続けていずれ消えていくものがあってもいい。人間が生きて死んでいくように、建物も朽ちることを見越したデザインがされてもいい。

岩井 呼吸し続ける建築ですね。未来さんのスケッチもまさにそういったメッセージが込められているように感じます。

遠野 大人やプロだけではなく、子どもたちが主体的に関わって作っていける、その仕組みから作っていけるといいなと思っています。

稲葉 場をつくるときは、初期条件が大事だと思います。僕がいま住んでいる軽井沢では、自然を残すために建蔽率(敷地面積に対する建築面積の割合のこと)が決まっていて、その初期条件のもとで土地を買ったり家が建てられたりする。結果的に人と人、家と家との距離が適度に保たれていくわけです。

この中庭でも「安全」や「いのちを守る」などの初期条件を決めて、あとはできるだけ自由なプロセスに任せていく。そうすることで誰もが予想しなかったようなものが生まれ、なおかつ大切なことはしっかり守られている状況がつくれるのではないかと思います。

馬場 その初期条件を第一小学校の先生たちと決めていけるといいですね。

岩井 その初期条件のもと、できるだけ大人が決めたルールに縛らないよう、子ども達が主役になれる場にしていきたいですね。

稲葉 みんなが主体的に「私もこの庭を育てていきたい」と思えるような初期条件をすることが、大切になってくると思います。

第5回 クリエイティブ会議「いのちの庭」レポート 2020.9.22/Q1プロジェクト
山形ビエンナーレ2020芸術監督の稲葉俊郎さん

馬場 稲葉先生には第3回クリエイティブ会議で山形に来ていただき、改めて本を読んだりして、「全体性」という言葉をもらいました。それにすごく救われたんですよね。

遠野 自分もまったく同じです。全体性というワードにマーカーを引きながら本を読みました。

馬場 ぼくの場合は、建築の専門性で見たとき、雑誌を作ったり広告代理店で働いたり、東京R不動産という不動産事業を始めたりと寄り道をたくさんしていて「なにをやっているかわからない」と言われ続けていたのですが、全体性という言葉をもらって、これでいいんだと思えたんです。

稲葉 人間は完璧さを求めようとしますが、完璧さよりも全体性のほうが大切だと思っています。全体性とは母性的な世界かもしれません。完璧さを追求していくと限られた条件でしか成立しない場合が多いですが、全体性が保たれる場はどこでも作ることができると信じています。

僕もなぜ医者をしながら、能楽など伝統文化を学んだり、こうして芸術祭に携わったりするかというと、医療的な場を追求したとき、病院の中だけでは完結しないことがわかってきたからです。アートや街など全部ひっくるめて取り組んでいかないと、医療や生命に対して敬意を持って立ち向かえないと思ったんです。

「いのちの庭」がオープンプロジェクトとして進んでいき、完璧ではないかもしれないけど、全体性が保たれている場として機能すれば、まったく予想をしていなかった波紋を呼ぶことができる。コロナ以降、また人がリアルな場に集まる意義を考えると、2020年の今、こうやって準備していることにすごく意義があると思っています。

岩井 ここからが再スタートですね。おそらく次回のビエンナーレでは、旧一小で新しいことが発信できるはずです。未来さんと稲葉先生にも引き続きアイディアをいただきながら、この企画を進めていきたいと思います。今日はありがとうございました。

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テキスト:中島彩