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映画の街に暮らす(9)/「映画の場を拓こう」

地域の連載

2020.12.07

ユネスコ創造都市ネットワークに加盟した山形市は、いまや世界に誇る「映画の街」。その現在があるのは、映画とともに生きる人々がいたから。そして、映画に関わる様々な活動が蓄積されてきたから。連載「映画の街に暮らす」は、そうした記憶や想いや物語を、この街の映画文化に人生ごと深く関わってきた高橋卓也さんが語るシリーズです。

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映画の街に暮らす(9)/「映画の場を拓こう」
山形市、竜山

里山の保育園を借りて上映会を始めてから丸4年になった。「里山で映画を楽しむ会」という何の捻りもないタイトルが付いた上映会。記録を辿ると初回上映は2017年4月23日(日)。作品はドキュメンタリー映画『ふたりの桃源郷』だった。

そもそもこの「里山で映画を楽しむ会」はなぜ始まったのか。
保育園の園長で高齢者福祉施設長でもある阿部啓一さんは、友人と呼んで良いのか、多少人生の先輩なのだが、会う度につい何か一緒に企んでしまう。

阿部さんが園長を務める「はらっぱ里山保育園」は、山形市の竜山の麓、西蔵王高原牧場へ至る上り坂の途中にある。街中の「はらっぱ保育園」に通う子供たちをバスでこの分園まで連れて来れば自然の中で思い切り遊べる。ドキュメンタリー映画『里山っ子たち』(監督 原村正樹、2009年制作)にヒントを得て造られた里山分園だ。

映画の街に暮らす(9)/「映画の場を拓こう」
はらっぱ里山保育園

映画の街に暮らす(9)/「映画の場を拓こう」

 

阿部さんは2016年、分園の隣の敷地に「おやまカフェ」という山小屋風カフェを作ってしまった。西蔵王に子供達の遊び基地としての保育園、その隣に大人達の憩い場 カフェが生まれたことで、様々な人が通うようになった。

映画の街に暮らす(9)/「映画の場を拓こう」

そのころ自分は「山の恵みの映画たち2016」の開催(2016年9月)に取組んでいた。2年に1度、世界中から多様なドキュメンタリー作品を集めて映画と人の交流の場を作るのが「山形国際ドキュメンタリー映画祭」の仕事。その準備年に何か面白いことが出来ないかと始めたプレイベントがこの企画だ。

映画の街に暮らす(9)/「映画の場を拓こう」

自然と人間との関わりを見つめた古今東西の映画を集めて、四周を山に囲まれた山の国ヤマガタで観てみたい。山好きが何人が集まって実行委員会を作り映画祭事務局と一緒に開催に取組んだ。2014年10月に1回目、16年9月に2回目を開催。それぞれ県内外から延べ1,000人を超える参加者を迎え予想外の好評を博した。

「山の恵み2016」上映が終わった頃、阿部さんが「里山保育園やカフェで何かやれないだろうか」と相談してくれた。じゃ、自然に囲まれて観たらジワっとカラダに染み込んでくるような映画を選んで上映しましょうと面白がった。

映画の前後に周りを散策できるし隣にカフェもあり、余韻に浸る別の時間も併せて愉しめる。期間はカフェが空いている無雪期の4月から11月まで。会場は保育園の大広間を使えば大人50人は入れる。2回上映で100人は観れる。参加料は基本無料だが運営のための寄付を募る投げ銭上映会のスタイルでイイだろう。

いろいろ話し合うちにどんどん楽しくなって来る。山や自然の映画を集めて設備の整った映画館で観るのも良いが、逆に山で映画を上映し続けるのも特段に面白い。自分たちと地続きの自然の中に映画を運ぶ。其処に手作りで映画の場を拓く。その自由さがなんともイイじゃないか。作品が場所を選びつつ、場所が映画を選ぶのだ。

会場に合うスクリーンや音響機器は友人から借りる。阿部さんは保育園のプロジェクターを準備。映写は私が担当し、阿部さんも時々映写技師になる。上映作品は互いに提案しながら決めた。人と寄付が集まらず赤字になったらどうするか。阿部さんが属する福祉団体の文化予算を当てにしつつ、とにかく良い作品を上映し、お客さんから「納得の投げ銭」を頂いて賄っていきたいという志。こうして、移動映写のノウハウを生かし、里山に仮設のミニシアターが出現することになった。

戸外に自然を感じながら4年で上映・鑑賞した作品は次の通り。

映画の街に暮らす(9)/「映画の場を拓こう」

*【2017年】 4/23『ふたりの桃源郷』、5/28『夢は牛のお医者さん』、7/2『人生フルーツ』、8/27『極北のナヌーク』(サイレント、山形在住作曲家 鈴木崇氏のオリジナル曲バイオリン生演奏付き)。10月は山形国際ドキュメンタリー映画祭の開催。

*【2018年】 4/22『カレーライスを一から作る』、5/27『縄文号とパクール号の航海』、7/29『スケッチ・オブ・ミャーク』、9/30『カピウとアパッポ アイヌ姉妹の物語』、11/3『まわる映写機 めぐる人生』。

*【2019年】 4/21『0円キッチン』、5/12『描きたい、が止まらない』、6/16『よあけの焚き火』、7/28『タイマグラばあちゃん』、10/27『人生フルーツ』。

*【2020年】 4・5月は新型コロナ感染予防で自粛。6月以降はマスクと消毒を徹底し、暗幕で暗転しつつ窓や扉は開けたまま上映を開始。6/6『ロングウェイ・ノース』(アニメ)、7/26『山の医療団』と『雪稜に熊を狩る』(サイレント、鈴木崇氏オリジナル曲バイオリン演奏付き)、9/13『モアナ 南海の歓喜』、10/18『津軽のカマリ』。

映画の街に暮らす(9)/「映画の場を拓こう」

以上、全18作品を上映。ほとんどがドキュメンタリー作品だが、ドラマ1本、アニメーション1本。『人生フルーツ』は大好評で2度上映。またサイレント映画は2作品、鈴木崇さんがオリジナル曲を作り生演奏を付けてくれた。

参加者は作品によって約50〜100人(1日2回上映)と幅があるが、いつもお客さんたちのほとんどが、此の作品を此処で観られて良かったという顔で、入口の募金箱にそれぞれ納得の投げ銭をしてくれた。隣の「おやまカフェ」からは出前部隊が現れて美味いコーヒーを淹れてくれる。また、阿部さんの娘さん作の野菜や焼き菓子なども置いてある。この大らかさが、この東の里山の上映会の妙味と言えるだろう。映画も自然の恵みのように感じられたりするのだ。

そして、いよいよ、西の丘の上でも定期的な自主上映会が始まることになった。
「山辺 噺館 眺めのいいコミュニティシアター上映会」、その第1回上映作品は、東海テレビ制作のドキュメンタリー映画『人生フルーツ』。東の里山上映会で2回上映して喜んでいただいた作品を、今度は反対側の西の丘に立つ山辺 噺館(はなしごや)にバトンタッチして通年での上映会の記念すべき第1作目とした。

映画の街に暮らす(9)/「映画の場を拓こう」

上映日は2020年12月6日(日)。この噺館を建てたのは、山辺町在住の峰田順一さん。個人の私財を投じて地域文化交流の拠点を造り、2020年11月1日の開館以来、50席のホールでワークショップ、コンサート、紙芝居など小ぶりだが良質で愉しい企画を重ねている。峰田さんとの付き合いを書くと長くなるので別の機会に譲るが、東の阿部さんとどこか同じ匂いがする。適度に孤立しつつ創造的、そこに、自分はある種の野性を感じて、とても好きなのだ。

映画の街に暮らす(9)/「映画の場を拓こう」
2020/12/6、噺館の上映の様子。

さあ、また新しいことが始ります。ご期待ください。

*「山辺 噺館 眺めのいいコミュニティシアター上映会」の詳細や参加申し込み:https://www.hanashigoya.com/