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【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽7

山形の連載コラム

2021.07.22

「穏やかな休日のための音楽」では、毎回山形に縁のある南米のアーティストとそのアルバムを紹介しています。

今から7−8年前のことだったと思います。サンパウロの音楽シーンで“novos compositores (ノーヴォス・コンポジトーレス)”という新しい流れが注目を浴びました。“novos compositores”とは「新しい作曲家達」という意味で、日本でも人気のあるダニ・グルジェルを中心に、若く個性的な音楽家たちによる、サンパウロの音楽のヴァージョンアップを目指したひとつのムーブメントでした。各々のアーティストの音楽性にはもちろん振れ幅はありましたが、大都会サンパウロらしい自由で洗練された音楽家たちを数多く輩出しました。

参考)ダニ・グルジェルとノーヴォス・コンポジトーレスのアルバム「Agora (試聴リンク)」

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今回紹介するタチアナ・パーハ(Tatiana Parra)もそんな中で注目されたアーティストの一人です。クリスタルとも表現される、透明で伸びやかでフェミニンな歌声に、完璧な音感と高度な技術、そして高い表現力を兼ね備えた、現代のブラジル音楽界において図抜けた実力を持つ女性歌手です。

ブラジルではシコ・ピニェイロ、イヴァン・リンス、トッキーニョ、アンドレ・メマーリ、そしてアントニオ・ロウレイロ、アレシャンドリ・アンドレスなどミナス新世代のアーティスト、キューバではオマーラ・ポルトゥオンドなどと共演し、現在までに30作以上のアルバムに参加しています。またアルゼンチンのネオ・フォルクローレのアーティストたちとの共演も多く、ブラジル音楽とアルゼンチン・ネオ・フォルクローレとの、国境を超えたコラボレーションにも、その架け橋として重要な役割を果たしています。

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タチアーナが山形公演を行ったのは2017年5月、アルメニア出身で現在LAを活動拠点としているピアニスト、ヴァルダン・オブセピアンとのデュオによる公演でした。2014年にはこの二人によるデュオ・アルバム、『Lighthouse(試聴リンク)』をリリース。2016年には続編的な内容のアルバム『Hand In Hand(試聴リンク)』をリリースされています。

どちらの作品もジャズ、ワールドミュージックの枠を超えた幅広い音楽性が話題を呼びました。山形での二人の演奏ももちろん大いに聴衆を魅了しました。ヴァルダンのピアノはクラシック、ジャズの境界のない創造性に満ちた力強い演奏で、この二人でしか成し得ない知的で美しく、時にスリリングですらある演奏でした。

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山形公演のフライヤー。
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文翔館でのライブの様子。

タチアーナ・パーハはヴァルダン・オブセピアンとのデュオ・アルバムを3作リリースしていますが、それ以前に前回の「穏やかな休日のための音楽6」で紹介した、アルゼンチン・ネオ・フォルクローレの最重要アーティスト、アカセカ・トリオのアンドレス・ベエウサエルト(ピアノ、歌)とのデュオによるアルバムがあります。

今回紹介するのはそのアルバムで、『Aqui』という作品です。タチアーナのデビュー・アルバム『Inteira(試聴リンク)』にアンドレスが参加、逆にアンドレスのソロ・アルバム『D’os Rios(試聴リンク)』にタチアーナがゲストで参加、という形で共演を重ねていた二人であるが故に成立した作品です。

アンドレスの極めて立体的で映像的なピアノは、ヴァルダンの硬質なピアノとはまた違ったより審美的なもので、この二人の音楽的相性も非常に良いように感じます。アンドレス・ベエウサエルトの楽曲のほか、ブラジルとアルゼンチン双方の名曲を取り上げて、国境やジャンルを超えた美しい作品を作り上げています。穏やかな休日に相応しい音楽です。ぜひ聴いてみて下さい。

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