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【福井県勝山市】恐竜好きが高じて福井に移住したら、もっと古いものに魅了されてしまった/矢原武さん

インタビュー

2022.05.13

福井の地域情報誌URALA編集長が、福井県内を飛び回り、気になる人にインタビューしていく企画です。第4回は、勝山市で恐竜博物館に勤めながら苔とテラリウムのワークショップを行うお店「苔町3丁目」を運営している矢原武さんを紹介します。福井に移住するまでの経緯や、恐竜や苔の魅力についてお話を伺いました。

恐竜は小さいころからの夢

店主の矢原武(やはら たける)さんは、恐竜が好き過ぎて大阪から福井に移住したほど。「ちょうど小さいころに恐竜ブームが起きたんです。『ドラえもん のび太の恐竜』から始まって、おもちゃの『ZOIDS』も誕生して、当時の恐竜図鑑を見ているとワクワクしていたんです」。

しかし、当時恐竜に関連する仕事はほとんどありませんでした。「福井県立恐竜博物館」が開館するのは2000年。矢原さんと福井をつなぐまではまだまだ時間があったのです。そこで、少しでも生物の世界に触れたいと、求めたのは「海」。スイミングスクールのインストラクターからライフセーバーに、そしてダイバーへと転身して、海の世界に飛び込んでいきました。

しかし、ダイバーをしていたフィリピンで毒性のイソギンチャクに刺され、さらにウイルス性の熱病にも冒され、2度の入院を余儀なくされます。「段々モチベーションが下がっていった時期でした」。結局日本に戻ることとなり、転々とした後に発掘調査の仕事に就くことになります。恐竜といえば発掘調査。発掘していたのは弥生時代の土器ですが、それも恐竜へと近づきたかった思いからだったのです。

【福井県勝山市】恐竜好きが高じて福井に移住したら、もっと古いものに魅了されてしまった/矢原武さん
越前大仏の参道の商店街は古き良き街の感覚であふれていて過ごしやすい場所

「そのとき、上司の方が土器を飽きることなく見ているんですよ。ご飯も取らずに。好きなものには没頭するその気持ちは、もしこれが恐竜だった自分も同じだろうな、って。だから恐竜発掘調査の仕事にやっぱり就きたいと思って」。ちょうど恐竜博物館で嘱託職員の応募があり、すぐさま飛びつき、2018年に福井にやってきます。

恐竜よりも古い苔の歴史

もちろんここがゴールではありません。「小さい頃に図鑑で見た恐竜発掘現場は外国の現場でした。そこでは全身骨格が発見されるようなそんなダイナミズムがあって、そういう現場に立ち会いたいのが自分の夢なんです」。しかし小さい頃から夢見ていた恐竜に関する仕事に就いたのは、最終的な夢の第一歩となったのです。

博物館で従事しているとき、親子イベントの担当になり、大阪時代にちょっとだけかじったテラリウム教室を行なったのが、さらなる人生の転機となりました。思いのほか人気コンテンツになったのです。「調べてみたら、恐竜が1億2千万年前だとしたら、苔の原点って4億7千前まで遡れると知って、驚いたのと同時にワクワクしたんです」。

恐竜が好きな理由は、巨大な生物が地球上を我が物顔で生きていたというダイナミズム。その骨格から生態を知り、想像が膨らみワクワクしていたのですが、現存しているのは骨格だけ。しかし苔は、姿かたちを変えても今も生きていて手元で育てられる。古代からの命が続いている、その事実がワクワクするのだそうです。「毎朝その成長を見るだけでもドキドキしますね」。そこで、嘱託職員をしながら苔を販売するほかテラリウムのワークショップも行なう『苔町3丁目』をスタートさせます。場所は「越前大仏」参道と決めていました。「喫茶店の方や、ネジでアートを作る店主と知り合いになり、その縁を大事にしたいのと、この街に恩返しをしたい思いがありました」。

【福井県勝山市】恐竜好きが高じて福井に移住したら、もっと古いものに魅了されてしまった/矢原武さん
店内は砂利が敷き詰められた自然を感じる場所

「越前大仏」は最近Instagramで人気になり始めています。さらに参道の商店も元気に営業をしています。「芸術肌の個性的なお店が多くて、お店の人たちとの横のつながりがあって、小さなコミュニティができている感じです」。確かに、タップダンス教室やネジアートなど、福井市にある「新栄商店街」にも引けを取らない個性的なお店があり、その可能性を感じさせます。

苔に哲学を見た

【福井県勝山市】恐竜好きが高じて福井に移住したら、もっと古いものに魅了されてしまった/矢原武さん
恐竜と苔という、自身の二つの仕事が見事に融合した商品

「植物も人間と同じで、土の中に根を張って、広がろう、大きくなろうと活動しますが、苔はその真逆を行きます。ひっそりと、生きることができるところで最小限の姿で生きようとするんです。たとえ苔内の水が9割乾燥したとしても、次の雨がくるまで残りの1割の水分でたくましく生き延びます。この性格が4億7千万年も生き続けてきた秘訣なんだろうと。これって、人間の発展しすぎて滅ぶような生き方を変えるヒントが隠されているのでは、と感じています」。

【福井県勝山市】恐竜好きが高じて福井に移住したら、もっと古いものに魅了されてしまった/矢原武さん
苔テラリウムは「道の駅・恐竜渓谷勝山」、「道の駅・越前おおの 荒島の郷」、かつやま恐竜の森「ショップ レインボー」、Pottea(福井市)でも販売中

かつて恐竜は生存競争に勝つために自分の体を大きくしていきました。それが結果的に絶滅する一因につながっているかもしれません。このとき生き残ったのは私たちの先祖であり、体を小さくして生きていた哺乳類。今、そこから進化した人間は、やはり地球の上で我が物顔として生きて、広がろうと、大きくなろうと、諍いを起こし、衝突を繰り返してきています。その中で苔はまるでミニマリストのように生命をつないできました。どちらが生命として力が強いのだろうと、矢原さんは小さな瓶の中に哲学を見出しています。

今、お土産にと制作した恐竜と石と苔のテラリウムがすこぶる人気となり、店以外でも県内各地で販売がスタート、一つひとつが手作りで制作が追いつかない状況だとか。「今、宇宙開発で苔を使ったテラフォーミングが話し合われているそうです。自分の苔畑で育てた苔が使われるようになると嬉しいですし、そんな未来がやってくるとしたら、やっぱりワクワクしますね」。

名称

苔町3丁目

住所

福井県勝山市片瀬50字1-1

URL

http://gw-graviton.com