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【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん

インタビュー
2025.06.08

「姶良市蒲生町に、強みを活かせるデイサービスをつくる」をコンセプトに2023年8月より介護デイサービス事業を立ち上げた『ナルホイヤ在宅生活研究所』。料理や野菜づくり、日帰り旅行などを中心に利用者の強みや家族の声に寄り添った過ごし方を提供しています。代表で理学療法士の森山景士郎さんに立ち上げの背景やナルホイヤの目指す介護について話を聞きました。

【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん
ナルホイヤ在宅生活研究所スタッフが自主的に作ったユニフォーム

仕事を“楽しく”するためには?

薩摩川内市で生まれ育ち、県外の大学で建築を学んだ後、県内の企業に就職した森山さん。住宅や金融などの会社で働くも、長くは続かず、自身の将来について不安を感じる日々が続いたといいます。

その中でふと幼い頃の記憶が蘇ったきたそう。小さいながらも、お父様にマッサージを施し、それを褒めてもらったシーンがずっと忘れられなかったのだとか。

「幼い頃に褒められたあの記憶が温かいものとしてずっと残り続けていて…。そこで色々調べると理学療法士がマッサージもできることを知ったんです。」

そこから27歳で会社員を辞め、昼間は病院で助手として勤務しながら夜間専門学校にて勉学という日々を4年間励み、理学療法士の資格を取得。県内の病院にて、志高く理学療法士としての新しい道を歩むことになります。

しかし、初めて飛び込んだ医療の世界は想像していたものと違っていたというのです。

「どんなに自分たち専門職が頑張っても、患者さんの状態が良くならないこともありましたし、良くなったとしても周囲からの評価を得づらい。そして、勤務先の病院に貢献できているかもわからなかった。だからこそ、仕事に対するモチベーションが低くなってしまって。周囲の同僚も同じような雰囲気で、いつしか理学療法士を目指した頃の気持ちを忘れてしまっていたんです…。」

そんなとき、ある出来事が森山さんの心に火をつけるきっかけになったのです。

【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん
ナルホイヤ在宅生活研究所 代表 森山景士郎さん

それは理学療法士になり4年目だった35歳の時のこと。中途採用で一緒に働くことになった理学療法士とのやりとりでした。

“森山さんはどうして一生懸命働こうとしないのですか?仕事が楽しくないなら、楽しくできるように変えればいいじゃないですか!一緒に変えましょう!”

当時の森山さんにとって「仕事=決められたことをこなす」がイメージとしてあり、その理学療法士の言葉は驚きでしかなかったと振り返ります。

「その人とは、そこから“どうしたら仕事が面白くなるか?”を毎日のように対話を続けました。過去の僕について振り返っていると、あることがわかったんです。仕事は楽しく、やりがいがあり、必要とされ、大切に扱われることによって面白くなるんだと。」

「そこで僕らが楽しめるように仕事のやり方や体制、環境を変えることにしたんです。僕らが楽しめていないのに患者さんも楽しめるはずもない。楽しいを伝染させていく必要があると感じました。」

病院という組織の中で「仕事を楽しくする」という挑戦が始まったのです。

【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん
利用者とともに玉ねぎの皮むきをする様子

自由に、そして、今を大切に

病院といっても部署や関わる専門職はさまざま。既にそれぞれのスタイルが確立されている中で「環境を変える」ことは容易ではなかったといいます。定期的に自身の部署も含め、話し合いや意見交換が重ねられ、時にはぶつかり、意気消沈することもあったのだとか。それでも森山さんを信じ、伴走してくれる理学療法士や新たなに加わった仲間と3年程かけて挑戦を続けたそうです。

その中で特に力を入れたのがデイケア(※)利用者のクラブ活動。そこを利用者ではなく、関わるスタッフが何をしたいのか、何に興味があるのかを先に調査し、それをもとに利用者の声をもとにプランを立て、結果を分析という仕組みに。そうすることで感じたのは手応えだったと語ります。

「実際のその仕組みにしたことでスタッフは楽しそうに仕事をしていましたし、それまで挑戦できなかったことも取り組むこともできました。さらに、利用者さんも“地域に出て活動したい”という声も出てきて、3年間で関わってくれたスタッフは誰一人辞めることはありませんでした。むしろ、関わりたいと仲間に加わってくれた同僚が増えて、自分の考えていたことに間違いはなかったと感じました。」

「その経験が今の僕にとっての原点なんです。スタッフも利用者さんも生き生きして、普段できないことに挑戦しようとする環境がいかに大事か学びました。たとえ失敗したとしても、否定ではなく肯定し、背中を押して夢を持ってもらうようにフォローしていくこと。それが僕ら医療・介護分野の専門職の役割かなと思っています。」

(※)介護保険サービスの一つで、高齢者が自宅から施設に通い、専門的なリハビリテーションや医療ケア、日常生活上の支援を受けるサービスのこと。

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利用者全員で朝の体操を
【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん
朝の体操を楽しみにしている利用者も多いという
【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん
気持ちが上がり、手を叩く場面も

そんな中、メディアを通して『(株)あおいけあ』代表の加藤忠相氏(※)の取り組みを知ることになります。

お年寄りは地域の知的資産。施設に囲い込んで“世話になるお年寄り”をつくるんじゃなく、役割を持って地域に役立つお年寄りになってもらう。地域とどんどん関わることで地域の力も高まっていきます。

理学療法士になるまで別の業種で働いていた森山さんにとって医療や介護の現場は馴染めないものだったといいます。そんな自身にとって、介護のイメージを払拭させる加藤氏の言葉は次のステップへ進むきっかけを与えたのです。

「その時に初めて利用者さんの強みを生かして一緒に作業したり、一日ボーッとしたり、決められたことではなく、自由に過ごす場所を自分でつくりたい。そう思うようになりました。」

「もちろん先のことを考えるのも大事です。でも、先を考えすぎると過保護になり、利用者さんを拘束してしまうカタチになってしまいます。僕は今を大切にしようという気持ちで現場に臨んでいます。今を楽しく過ごしてもらうことが、結果として、利用者さんの楽しい明日にも繋がり、長く居心地よく過ごしてもらえるようになるのではないか。それを実現するために自分でデイサービス事業所を立ち上げる決意をしました。」

(※)生活に密着した介護支援を行う認知症ケアで知られている。2001年に『株式会社あおいけあ』を設立し、2012年には「かながわ福祉サービス大賞〜福祉の未来を開く先進事例発表会〜」で大賞を受賞、2019年にはで「Ageing Asia Global Influencer 2019」に選ばれた。

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ある男性利用者は梅の収穫を 収穫した梅を使い手仕事を行うという
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収穫した梅のヘタを取り除く作業
【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん
ナルホイヤには本や雑誌、カフェに配置されてそうな家具などが随所に散りばめられている

先の見えないことに身を置き、より良く生きる

37歳で別の介護事業所へ転職し、さらに経験を積み、43歳となった2023年8月のタイミングで『ナルホイヤ在宅生活研究所』(以下:ナルホイヤ)を立ち上げます。

ナルホイヤのある場所は姶良市蒲生エリア。姶良の中でも蒲生エリアは独特な雰囲気があり、武家屋敷など由緒正しき場所というイメージが強くあります。ここにしかない特別な場所となれる場所としてデイサービスを始めたかった。また、姶良市中心部に比べ、デイサービス事業所が少なく、中心部に通うまで時間がかかるため、利用者が選択できるデイサービスが少ないこと。そして、高齢者の数と要介護認定者(※)の数を調べたところ、蒲生エリアで拠点を構えるのが最適だったのだとか。

さらに、森山さんの想いに共感をした空き家の家主との出会いも重なり、デイサービス事業を開始できたそうです。

「イヌイットの言葉でナルホイヤという言葉があり“わからない”を意味しています。単にわからないではなく、彼らはしっかり考えた上でナルホイヤと答えているのです。ナルホイヤはイヌイットの人たちにとって道徳でもあり、よりよく生きるための行動指針となっています。」

「私たち現代の日本人は未来を予期して、リスクを排除することがあらゆる行動の前提となっています。この考え方も大事ですが、それだと目の前で不意に起きるであろう出来事など、偶然に身を置くことが難しくなり、不意の出来事に対応できなくなってしまいます。」

「場当たり的で偶然的な出来事に身を置き、繰り返し乗り越えることで、生きているということを感じる躍動感が得られるようになり、その場その場でしっかり対応し、生きていくことができると思っています。先の見えないことにリスクを排除することばかりにとらわれず、進んでいくことも大事なのではないでしょうか。」

(※)日本の介護保険制度において、被保険者が介護を要する状態であることを保険者が認定するものである。過程においては日常生活動作の評価がなされる。

【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん
ナルホイヤ外観
【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん
縁側より建物の中へ入るという導線 縁側は人気で天気が良い日は縁側で過ごす利用者も多いそう
【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん
梅の収穫後、お茶を一杯しながら休憩する様子

ナルホイヤの活動の軸となっているのが「食と農」。庭では畑を整備し、利用者と職員が一緒になり、土を耕し、種を蒔き、野菜を育て、収穫し、加工や調理まで行っています。

ただし、全員が同じような過ごし方をしないといけない、というわけではありません。何もせず、ゆっくりする、という選択もあり「デイサービス=集団で活動をする」概念に捉われない場づくりに励んでいます。

「地方であれば調理だったり畑作業だったり、皆さん経験してきています。だからこそ、食・農は誰でも楽しめるものなんです。利用者さんの様子や声を踏まえて1日をともに過ごしています。それらに加えて、たとえば、音楽だったり遊びだったり、その日の気分で何をするか決めています。時にはコーヒーの焙煎や魚を焼くなど、手間をかけて作業をことも大事にしています。手間をかけることがとても大切なんです。」

「一日中ボーッと過ごす方もいらっしゃいます。それに対して“いいですね!今日は何もしないでゆっくりしましょう”!と声かけをしたりと、各々が居心地良く過ごして、またナルホイヤに来たいと思える場所にしたいという想いで利用者さんと接しています。」

【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん
昼ごはんに添える山菜をスタッフと一緒に摘む様子
【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん
この日の昼ごはんはカレー
【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん
食事をする空間は森山さんと森山さんの奥さんで一部DIYしたのだとか カフェのような空間を意識したそう

「介護は面白い」を次の世代まで伝染させていく

2024年の春からはナルホイヤの利用者とともに日帰り旅行を行っています。楽しさを伝染するために、スタッフが楽しめないと意味がないのでスタッフが行きたい場所をという想いを大切にし、利用者を連れて行きたい場所を決め、企画するようにしているのだとか。非日常も味わいつつ、スタッフ自身が楽しめ、それを見た利用者も楽しんでいる光景を見て、自身のカタチにしたかった介護に近づけてきていると手応えを感じているといいます。

「自由な雰囲気がとてもいいんです。介護の現場だとスタッフと利用者と立場が分けられがちですが、そういった枠が外れて一緒に雰囲気をつくりながら楽しめているのはナルホイヤを始めたからこそできていると感じています。」

【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん
写真提供:ナルホイヤ在宅生活研究所 日帰り旅行の様子 お酒を楽しむ利用者も
【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん
写真提供:ナルホイヤ在宅生活研究所 日帰り旅行の様子 普段行けない地域での観光を楽しむ

「楽しさがあり、やりがいを感じ、頼りにされたり大切にされたりすることによって仕事の面白さが出てくる。この考え方はずっと変わりません。」

そう力強く話す森山さん。最後に自身の考える介護について聞きました。

「介護は年を重ねたら誰しもが関わってきます。自分はもちろん、僕の子供や孫世代も年を重ねると同じように関わってきます。ただ、介護=ネガティブ、と捉えられがちな今の社会では介護を受ける側もされる側も苦しい状況になっています。今のこのような状態が続いていかないように、自分たちの子供や孫の世代には、介護=ポジティブ、と捉えられる社会となっているように、自分たちの世代で介護を変えていかなければと危惧しています。」

「そのために介護の現場で働く人もですが、学校といった教育の現場で子どもたちの介護に対する見方を変えていかないといけないのではないかと考えています。そうすることで介護の専門職になりたい人が増えるかもしれないですし、家族を介護する人自身が楽しくあれるかもしれない。」

「楽しいをいかに伝染させていくか。中身やカタチが違っても、その楽しいがポツポツと小さく広がり“介護は面白い”と思ってもらえるような社会になれば嬉しいです。」

【鹿児島県姶良市】「強みを活かせるデイサービス」から広がる「介護の面白さ」 / ナルホイヤ在宅生活研究所 森山景士郎さん

屋号

ナルホイヤ在宅生活研究所

URL

https://www.instagram.com/naruhoiya_day/

住所

鹿児島県姶良市蒲生町上久徳2396番地

備考

●公式HP

https://naruhoiyakamou.wixsite.com/naruhoiya

●レンタルスペース利用について

https://www.instagram.com/naruhoiya_space/

●問い合わせ先

メール:naruhoiya.kamou@gmail.com

電話:0995-70-0333