さかいめをなくす、日本ワインの店。鎌倉・藤沢「日本ワイン じゃん」
鎌倉駅東口から大町四ツ角方面へ。7分ほど歩くと、「日本ワイン店 じゃん」があります。7坪ほどの店内に入ると、左手には日本ワインがずらりと並ぶ大きな冷蔵ショーケース、中央には一枚板の大きなテーブルが据えられています。
「角打ち以上、居酒屋未満」という鎌倉本店には、酒屋としてワインを買いに来る方もいれば、夕食を食べにふらりと立ち寄る方もいる。ワインに詳しいかどうかに関わらず、それぞれの目的で集まってくる場所です。生産者を招いたイベントも行っており、その日その日で店の空気が少しずつ変わっていくのも、この店ならではです。
今回はオーナーの加藤曜子さんに、お店に込めた思いと、これから目指していく姿を伺いました。

角打ち以上、居酒屋未満のワイン屋
神奈川県の真ん中に位置する鎌倉で商売を始めたことから、神奈川(横浜~湘南エリアの方言と言われています)の方言である、「じゃん」を店名にしたそう。鎌倉から「日本ワイン、おいしい” じゃん”!」と言う人が増えてほしいという想いが込められています。
店舗は現在2店舗あり、鎌倉駅から徒歩7分の鎌倉大町本店、そして藤沢駅から徒歩4分の藤沢店です。近接した町ですが、それぞれの店舗でいらっしゃるお客様の雰囲気や町の雰囲気が違うのも面白いと言えます。
どちらの店にも大きな冷蔵ショーケースがあり、常時100種以上の日本ワインが並びます。店の中央には一枚板の大きなテーブル。自然と同じテーブルを囲む形になり、そこから会話が始まることも少なくないそうです。


お店のテーマは「さかいめをなくす」こと。オーナーの加藤曜子さんはそう話します。たまたま居合わせたお客さん同士が、一つのワインをきっかけに盛り上がることもあれば、カウンター越しにスタッフが会話の中心になる場面もある。
「偶然出会ったお客さんが、それぞれの出身地のワインを飲みながら、その土地の特徴や思い出を紹介し合うなんて光景も、最近はよく見かけますね」


相席テーブルが生んだ、予想外のコミュニティ
しかし、この大きなテーブルは、最初から“人がつながるため”に意図して設計したものではなかったそう。「正直、お店の大きさを考えるとこの形が一番人が入る形でしたけれど、実際オープンしてみると、その形が“分かち合うお酒”としてのワインの特徴を、生かす形になったなと感じています。いまでは想定以上に、お客さん同士の距離が近づく場面が増えました。店で出会った人たちが仲良くなって、ツーリングや釣りに行くような関係が生まれています」
“飲みに来る”より、“時間を過ごしに来る”
平日はご近所の方が仕事帰りに立ち寄ったり、夕食の前に一杯だけ飲んで帰ったり。そんな使い方が多いそうです。
「“これが飲みたい”より、“ここで飲みたい”のために来ている方が増えてきたように思います。ワインや料理はもちろんですが、ここで“過ごす時間”を求めて来ていただけるのは、これからも目指していきたいです」


仕入れの基準は「そのワインが持つストーリー」
店に並ぶ100種類以上の日本ワインは、加藤曜子さん自身が現地に足を運び、納得して仕入れることが多いそうです。どんな基準で選んでいるのかを聞くと、返ってきたのは「ストーリー」という言葉でした。
「私が大切にしているのは、そのワインが持っているストーリーです。“美味しい”と感じる感覚は人によって違うと思っています。特にワインはそれぞれに特徴があって、ある人はとても美味しいと言う一方で、ある人は苦手と言うこともある。
世間ですごい人気だとか、品評会で高得点をとっているなど、誰かの『美味しい』を基準にしてしまうと、それを美味しいと感じなくてはいけないと変にプレッシャーに思ってしまって、素直に美味しいと言うことが難しくなってしまいます。
だから私は、その地域のどんな人がどんな思いで作っているのか、それを作るのにどんな苦労があったのか。作り手の思いに共感できるかというそのワインが持っているストーリーを大切にしています。もちろん、売り物としての基本的な品質は前提にありますが、正解を求める緊張感があると楽しく飲めない。そういうハードルをなくしたい。自分が美味しいと思えば、それをきっかけに土地や作り手を知って、世界が少し広がればいいなと思っています」
中には、手書きのラベルで瓶詰めしている生産者もいるそうです。そんな話を聞いてからワインを選ぶのも、きっとこの店らしい楽しみ方だなと感じました。


ワインと共に食事も楽しむ
お店ではワインはもちろん、チーズなどおつまみから、締めに楽しむカレーまで食事も楽しめます。湘南エリアのお店とのコラボメニューもあれば、ワインの仕入れで各地を訪ねる中で出会った食材が、そのまま料理に生かされることも多いそうです。全国各地のワインに合わせて、料理も一緒に楽しめるのが、この店の魅力のひとつです。


「藤沢店では、お昼に定食も提供しているのですが、それもワインを仕入れに行った長野で美味しいお味噌に出会ってしまって……そのお味噌汁を楽しんでいただきたくて、ランチで定食を出すことにしました(笑)。やはり同じ土地で育ったワインと食材は相性がいいことが多く、ワインを仕入れに行くたびにメニューも増えていっているような状況ですね」
その味噌やチーズは、店頭でも購入できます。



民泊や生産地ツアーまで可能性は広がっていく
藤沢店もオープンし、可能性を広げている「日本ワインじゃん」。今後は、民泊も準備しているそうです。
「飲んだ後にそのまま泊まれるようにしたり、ここを旅の中心としてもらったり。過ごす時間を長くすることで、さらにこの空間と、まちを楽しんでほしいなと思っています。生産者の方もお呼びした際に泊まってもらえたら、遠方からもゲストが呼べるようになると思います」
最近は、生産者さんから「じゃんで話を聞いた人がこの前来たよ!」と嬉しい報告をもらうことも増えてきたそう。「今後は旅行企画も計画中です。生産者さんにここに来てもらうだけではなく、こちらから実際に生産地を見にいくのも、テーマである『さかいめをなくす』の目標の一つです」

根底にあるのは「美しい風景を守りたい」という思い
民泊や旅行企画など、これからの可能性が、まさに店内でのコミュニケーションから生まれていく。その広がりを聞くほどに、「じゃん」が大切にしている“さかいめをなくす”というテーマは、店の中だけにとどまらないのだと感じます。その根底にあるのは、加藤さん自身の「美しい風景を守りたい」という思いでした。
「私の原体験には、和歌山でみかん農家をやっている祖父母との時間があります。自然と会話する日常があり、当たり前に“その素材のおいしい”がある。大学から上京してから東京の企業で働いていた頃は、毎日満員電車に揺られて、ずっとパソコンに向かう日々。気づいたら外は真っ暗。なのに、部屋も電車も明るい。便利さの中にいながら、自然の手触りから遠ざかっていく感覚がありました。そんな時に祖父母の家で過ごした風景、時間にずっと心惹かれてしまうのでした」

ただ、その風景を残していくには課題もある、と加藤さんは言います。
「実は、祖父母のみかん畑も高齢化で維持が難しくなっています。みかんは日光を当てるために斜面で育てるのですが、高齢になればその場で作業すること自体が困難になります。植え替えができなくなると、山肌の上の方から荒れていく。そうなると獣も出て、さらに人が近づけなくなるという悪循環が生まれてしまいます。美しい風景は、放っておいたら残るものではなく、残したいという人の思いと、手が入って維持されるものです。きっと私の祖父母の家のような場所は日本全国どこにもあるはず。そんな風景を残していきたいと思い起業しました。
いきなり大きなことはできなくても、『今日は日本ワインを買おうか』という小さな選択ならできるかもしれません。その積み重ねが、土地や作り手を残すことにつながっていければいいなと思っています」
鎌倉や藤沢で、ふらっと一杯。
じゃんではその「美味しい出会い」が、人の話につながり、さらには作り手や土地の未来につながっていくのかもしれません。

| 名称 | ①日本ワイン店じゃん 鎌倉 |
|---|---|
| URL | |
| 住所 | ①神奈川県鎌倉市大町2丁目1−10 宮内ビル1階 |
| 営業時間 | ①火〜日 14:00–21:00(LO20:00) |
| 定休日 | ①月曜日 |
| アクセス | ①JR横須賀線「鎌倉」駅 徒歩7分 |















