real local 山形しみじみと、味わい深い「お麩」の世界/鈴木製麩所・鈴木浩一さん - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

しみじみと、味わい深い「お麩」の世界/鈴木製麩所・鈴木浩一さん

インタビュー

2023.01.03

山形の人にとってお麩は、馴染みのある食材のひとつ。煮物や味噌汁のほか、寒い時期の鍋料理にも欠かせません。昔は保存食や貴重なたんぱく源でもあったことから、控えめながらも身近な存在として、私たちの食卓で親しまれてきました。そんなお麩ですが、多くの人が思っている以上にポテンシャルが高い食材なのです。そもそもどのようにして作られ、どんな種類があり、食べ方があるのか。お麩のさまざまな魅力を探るべく、山形市内の老舗である〈鈴木製麩所〉を訪ねました。

山形における麩の歴史と
「まちのお麩屋さん」のはじまり

山形市五日町にある〈鈴木製麩所〉は、「焼き麩」の製造を主力としながら、「生麩」や豊富なラインナップの加工品も製造・販売する明治44年創業の老舗。山形駅ビル内〈エスパル山形〉には直営店があり、県内のスーパーや観光物産会館でも取り扱いがあるので、商品を見かけたことがある人も多いはず。

四代目であり代表取締役社長の鈴木浩一さんは、大学卒業後、食品メーカーに勤務。その後Uターンし家業を引き継いだ。もとはこの地で長く農業経営に携わり、現社長である浩一さんの曾祖父の代からスタートした麩づくり。味噌屋さんや醤油屋さん、豆腐屋さんといったように、昔は「お麩屋さん」もそれぞれのまちに多く存在していたというが、今では麩の製造を行う業者も少なくなってきている。

「山形市出身の詩人、真壁仁さんの作品にもお麩屋さんの話が出てくるように、昔はそれぞれの集落ごとにあったので、まちには数十軒ほどもあったようです。弊社のある旧街道沿いにはお蕎麦屋さんや味噌屋さん、酒蔵などもあるのですが、このあたりは蔵王山系の地下水に恵まれている地域ということもあって、昔から製造業をしているところが多いんですよ。水って、麩づくりにもすごく大事なんです」

室町時代に中国から伝わり、江戸時代から始まったとされる麩づくり。山形県では酒田市の特産品でもある板状の「庄内麩」や、東根市六田地区の「六田麩街道」と呼ばれる区間の事例がある。冬場の貴重なたんぱく源の保存食として一般家庭に広まり、小麦の栽培や製粉技術が進むとともに機械化され、各地域で本格的に製造されるようになった。

しみじみと、味わい深い「お麩」の世界/鈴木製麩所・鈴木浩一さん
機械の音。立ち上る湯気。香ばしい匂い。焼き麩の製造を行う工場では、通常5名前後の職人がそれぞれの持ち場で作業しており、生麩の工場は別の場所にある。

主原料は小麦たんぱく。焼き麩に生麩、
それぞれのお麩ができるまで

「麩は、小麦からつくられる」。鈴木製麩所の看板には、このように書いてある。そうか、なるほどと思う。今までこれといって気に留めることはなかったが、「麩」という漢字は「ふすま」と読み、小麦を粉にするときに出る表皮部分。「麸」という漢字も「麦へん」である。
お麩の原料であるグルテンは、小麦粉に水を入れて練ったあとにデンプンを洗い流して抽出した植物性タンパク質成分のこと。そうやって取り出された小麦たんぱくに、強力粉を加えて混ぜ合わせ、窯で焼いて乾燥させたものが「焼き麩」で、強力粉のかわりにもち粉を加えて混ぜ合わせ、蒸したりゆでたりしたものが「生麩」だ。山形でよく食べられているのは焼き麩。なかでも職人の手で一本一本焼き上げる「くるま麩」は、鈴木製麩所を代表する商品でもある。

工場に入ると、たちまち香ばしい匂いに包まれる。焼き上がった麩が天井ほどの高さからぶら下げられている様子が新鮮だ。今回は、焼き麩の製造工程を見せていただく。まずは生地の仕込みから。小麦たんぱくと強力粉、水を機械で混ぜ合わせ、ねかせておく。次にミキシングといって生地を練り上げ、ひとかたまりに丸めた状態から一本分ずつ包丁で切り分ける。生地をビョーンと引っ張りながら2m近くある金棒にくるくると巻き付けていき、30分ほどかけて窯で焼き上げ、金棒から外して乾燥させたらできあがり。

「焼き麩の生地には2種類ありまして、内側と外側で違う生地を使っているんです。はじめに小麦粉と水だけの生地を巻き付けて焼き上げたあと、その上から小麦たんぱくが加わった膨らむ生地を巻き付けて焼き上げます。こういった二回巻きの焼き麩(くるま麩)というのが、山形では伝統的に作られています。とくに内陸の地域に多いですね」

ちなみに「板麩」は、焼き上がったくるま麩を再度蒸してから圧縮加工し板状にしたもの。つくりかたを聞いて「そういうことか!」と、思わず膝を打ってしまう。輸送時になるべく嵩張らないようにと考えられたのがこの板麩。コンパクトにすると同時に、保存性も高めている。

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小麦たんぱくと強力粉を混ぜ合わせた生地。焼き麩の生地は2種類あり、内側と外側それぞれに違う生地を使っている。材料はシンプルでありながら、なかなか手間がかかっている食べものなのだと実感。
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生地には弾力があり、チューイングガムのごとくよく伸びる。その日の気温や湿度も生地の状態に影響するそう。絶妙な力加減で引っ張りながら、回転している金棒にきれいに巻き付けていくのは職人の成せる技。

料理の名脇役でありながら
主役以上に「おいしい」存在

お麩は、何かとタッグを組むことによって本領を発揮する。料理の脇役や引き立て役といわれることも多く、そのまま食べてみるとやはり、麩自体の味は淡白でそこまで強くない。裏を返せば、どんな味にでも染まることができる、ということでもある。お麩と相性の良い食材や料理を鈴木社長に訊ねてみた。

「焼き麩であれば、なんといっても出汁の出る食材はおすすめです。だいたい何にでも合うんですけど、きのこ類や肉の脂との相性は抜群に良くておいしいですよ。うちの麩はたんぱく質が多いぶん、煮崩れしにくいしっかりしたお麩なので、最後まで形良く食べられるということで煮物にも適しています。鍋やすき焼きなんかも良いですね。もちろん芋煮にも」

出汁や具材の旨みがすべて染み込んだお麩は、脇役でありながら主役以上に「おいしい」ところを持っていってしまう天性のキャラクター。というよりも、性質上のポジションである。芋煮にお麩を入れたことはなかったが、今度作るときは試してみたい。

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繁忙期ともなると、社長自ら工場に出て作業している。焼き上がったお麩は長いフランスパンのよう。金棒からきれいに外すのにもコツが要りそうだ。吊るして熱を逃がし、乾燥させてできあがり。
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創業時から一番人気の「徳用くるま麩」。山形のくるま麩といえば、この商品を思い浮かべる人も多いのでは。料理で使うぶんだけ水戻ししておき(20分程度)、水気を絞ったあと好みのサイズに切って使う。

健康的なカラダづくりにも有効な
ヘルシー食材としてのお麩

牛丼、唐揚げ、カレーライス。茶色い食べものは、おいしい。しかしながらハイカロリー。その一方、お麩は例外で、実にヘルシー。植物性タンパク質を多く含むので、栄養価が高く低カロリーというのが第一の理由だ。さらには消化吸収に優れ、脳の発育や活性化に有効な「グルタミン酸」を含むので、「健脳食」としての側面も。栄養バランスを考えた健康的な食事でダイエットを行う場合、麩という食材は手軽で効果的だといえる。

たとえば、水戻しした板麩を絞って切っただけの手軽なサラダ。麩が鶏肉のような食感になるので、ドレッシング次第では棒棒鶏のようになるのだとか。野菜と一緒に麩を食べることでボリューム感もアップし、たんぱく質やビタミンを補うことができる。普段、お麩を食べるときに一番多いのは味噌汁だという。

「味噌汁だったら、自分で使うときに板麩をバリバリって割って。水戻ししなくても千切って入れれば大丈夫です。麩入りの味噌汁と一緒にごはんも食べますが、朝は多めで夜は少なめとか、量はその時々で変えています。筋肉をつけるには炭水化物も必要なので。それと一緒に野菜でビタミンも一緒に摂れれば、よりバランスも良いですよね」

ここ数年で、体調管理や健康にはだいぶ気を遣うようになったという鈴木社長。高校時代は陸上部だったものの、それ以降は運動という運動をほとんどしてこなかったと話す。そこで食生活を見直し、短距離走や筋トレなどの運動をするようになってからは、周囲も驚くほどの大幅な減量に成功。

「コロナ前と比べると、よく別人みたいだといわれます(笑)。カラダづくりといった面も含め、これからやってくる高齢化社会のためにも、いかに健康的に長生きするかというのは大事なテーマですよね。実際に私自身もカラダづくりを始めてみて、PFC(たんぱく質、脂質、炭水化物)のバランスがとれた食事がいかに大切かを実感しました。
たんぱく質が豊富で消化吸収の良い山形独自の焼き麩は、年配の方や胃腸の弱い方でも安心して食べられるので、そういった食品としての価値がもっと見直されても良いのではないかと思っています。科学的根拠とともに、これからもおいしいものを突き詰めていきたいですね」

しみじみと、味わい深い「お麩」の世界/鈴木製麩所・鈴木浩一さん
くるま麩を圧縮してつくられているのが「板麩」。輸送時のことを考えて生み出されたものなので、お土産や贈り物としても。料理には水で戻して使うことも多いが、手で割ったり千切ったりして使ってもいい。
しみじみと、味わい深い「お麩」の世界/鈴木製麩所・鈴木浩一さん
四代目の鈴木浩一社長。ここ数年のステイホームの傾向もあり、自身も健康面には気を配るようになったそう。これからは健康志向の食材としてのお麩の魅力も伝えていきたいと話す。

昔ながらの麩を継承しながら
時代に合った付加価値を見出す

食材や調味料との組み合わせ次第で、和・洋・中にエスニックと、料理の幅がぐんと広がるのもお麩の魅力。ホームページでは、卵と調味料さえあれば作ることができる「くるま麩の巣ごもり」や「揚げ麩の煮付け」といった簡単なものから、社員のみなさんが日頃からよく作っているお麩料理のレシピを紹介している。慣れ親しんだ味と、新しく出会う味。どちらも味わい深い。麩の歴史や魅力を長く伝えていくために、時代のニーズに合うものを生み出す努力は惜しまない。

「先代である私の父親は、さまざまなことに一生懸命取り組んできました。東北で初めて生麩の製造を始めたり、小売業に力を入れたり。お麩料理を提供するお店をやっていたこともあります。麩の付加価値を高めたいという想いでひたむきにやっていた先代の背中を見ているので、私たち自身が感じている麩の魅力を、皆さんに求められる形で提供したいという気持ちで取り組んでいます」

以前にも増して健康志向が高まっている今、麩というものにあらためて目を向けてみてはいかがだろうか。シンプルな材料でつくられる、まだまだ奥深いお麩の世界。いろいろな人とお麩レシピをシェアして、オンラインでの「お麩会(オフ会)」なんていうのも楽しいかもしれない。

しみじみと、味わい深い「お麩」の世界/鈴木製麩所・鈴木浩一さん
手軽に食べられる加工品のラインナップにも力を入れている。食べるぶんだけ自然解凍して使うことができる「揚げ麩の煮付け」や「はちみつふラスク」が根強い人気。
しみじみと、味わい深い「お麩」の世界/鈴木製麩所・鈴木浩一さん
料理を華やかに彩る「生麩」。懐石料理に使われるイメージがあるものの、お吸い物やお雑煮、鍋料理などにも使えるので、年末年始は家庭でも出番が多くなるはず。生麩の食感を生かした「麩まんじゅう」などもある。

INFORMATION
鈴木製麩所
山形県山形市五日町3-24
023-645-0621
https://fu-suzuki.co.jp

写真:渡辺然(Strobelight)
文:井上春香