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【山形/連載】地域密着型スーパー〈エンドー〉へようこそ Vol.2

連載

2023.03.17

山形市長町にある〈エンドー〉は、地域密着型のスーパーである。創業は昭和40年。以来、地元の人々に親しまれ続け、日々、さまざまな顔が集う。そこにある時間と、ここにしかない風景。今日のエンドーでは、どんなことに出会えるだろうか。

【山形/連載】地域密着型スーパー〈エンドー〉へようこそ Vol.2

ちょっとしたご褒美に。
うまい魚が食べたくなったらここへ

エンドーの鮮魚コーナーは、大手チェーンの食料品スーパーとは一味も二味も違う。売り場というよりも、店内の一角に魚屋さんがあるという感覚のほうが近いかもしれない。魚を丸のまま並べているのは、ちょっとした理由がある。

「パック詰めされた商品だと、お客さんが自分で選んで買っていくので会話がないじゃないですか。だから商品の情報をラベルに細かく記載しないといけないんです。それが裸の状態だと、そういったことを伝えないといけないので、いろんなコミュニケーションが生まれるんですよね。いつどこでとれたかとか、おすすめの食べ方とか。まあ、そっちのほうが面倒だっていう人もいるかもしれないですけど。品質表示がないぶん、お客さんとも会話ができるようになるっていうことなんです」

甘海老がキラキラしている。活きのいい貝がまだ元気に動いている。ショーケースに美しく陳列された魚はすべて、店主の遠藤英則さんがさばいたもの。氷を入れた器に笹の葉を敷いて、その上に魚を並べている。この葉っぱを一枚挟むことで滑りにくくなるのだとか。見た目にも美しい。

「魚を見て、きれいですねっていってもらえるとうれしいですね。小さいお子さんもじーっと見てたりして。たしかに珍しいのもあるかもしれないです。切り身になっていることが多いですから。ときどき、本物ですか?っていう人もいるけど、さすがにわざわざ偽物は並べませんよ(笑)」

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【山形/連載】地域密着型スーパー〈エンドー〉へようこそ Vol.2
早朝の市場に同行したのは2月中旬。漆山にある公設地方卸売市場には、ほぼ毎朝仕入れに行くという。6社ほどの仲卸業者があり、乾物や青果などもある。いつも一通り見たあとに、良さそうなものを選んでいる。
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季節の変わり目は魚が少ないそうで、「これから春にかけてはだんだん鯛が良くなってきて、サクラマスなんかも出てきますよ」と遠藤さん。田んぼや畑、山と同じように、海にも季節の移ろいがある。

東京・豊洲市場への仕入れは3ヶ月に1度ぐらいのペース。新幹線で行くこともあれば、車で行くこともある。車のときは、深夜に山形を出発して朝方に東京に到着し、そのまま仕入れに向かう。車内で仮眠をとる場合には、滞在時間よりも往復の移動時間の方が長いこともしばしば。

「うちの魚、安くはないですけど、いいものは揃えているつもりです。魚って、もちろん鮮度が良いのに越したことはないですけど、今日仕入れたものじゃないとダメってことでもないんです。ねかせることで、うまみが出てきたりもしますしね。きちんとした処理をすれば、鮮度をちゃんと保ったままの状態でおいしく保存することもできます」

根強いファンも多い、エンドーの鮮魚クオリティー。ショーケースに並べたとたんに売れていく筋子、大きめにカットしたいかに濃厚な肝が絡んだ自家製塩辛、天然本マグロや刺身の盛り合わせはとくに人気がある。海鮮おつまみを詰め込んだ土曜限定の「宅呑みエンドー」は、週に一度のちょっとしたご褒美にと買い求める人も多いのだとか。旬の魚を使った種類豊富な干物は、店内でほぼ毎日作っている。

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「これはマダイですね。サクの状態にしてお刺身にするので、まずは鱗を落としていきます。必ず買っていかれるお客さんがいるので、身だけでなく魚の頭も並べます」
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「けっこう脂が乗ってますね。厚みがあって、身も良いです。あんまりおいしくないのは身が詰まってないんです。それから魚は、大きければ良いってもんでもないですね」
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「これはタイラガイといって、お寿司屋さんでよくあるかもですね。殻付きっていうのは珍しいかもしれません。ときどき山形にも入ってくるんですけど、これは長崎の方でとれたものです」
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「ちょっとマイナーではあるけど、おいしいですよ。食感はシャキシャキしてる感じ。見た目だけでいうと、うちの子どもたちは気持ち悪い〜っていいますけどね(笑)」

慣れた手つきで黙々と魚をさばいていく遠藤さんに、どうしてそんなに魚について詳しいのかと訊ねた。

「8年ぐらい前になりますかね。もともと魚のことは母がやっていたんですけど、一時体調が良くないことがあって。ほかにできる人がいなかったので、そこから自分がやるようになりました。ちょうどそのタイミングで、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』に鮮魚店〈根津松本〉の松本秀樹さんが出られていたのを見て、すごく影響を受けたんです。そこから少し経って、『すみません。山形からきたんですけど、見せてもらっていいですか』って突撃したんです(笑)。急なお願いにもかかわらず、ありがたいことに受け入れてくださって見せてもらったんですけど、やっぱりすごいんですよね。プロの仕事だなあと思いました」

遠藤さんのフットワークの軽さ、瞬発力や直感力はこのときに限らず、お店のいたるところで、さまざまな場面で発揮されているような気がする。エンドーというお店を形成していくためには、大切なことなのかもしれない。

「自分は本当に素人から見よう見まねで始めたので、ちゃんとした魚の経歴っていうのがないんです。だからこそ、今でもまだまだ気付くことはいっぱいありますよ。切ってみてこういう魚だったんだなとか、これってこういうことだったんだなって。そういうのは自分でさばいたり実際にさわってみないとわかんないっていうか。あとは市場に行って、どういうものが良いかを自分で見聞きしながら。そういうことの積み重ねなんだと思います。
こんなに魚の話ばっかりしてますが、うちの4歳の息子は全然魚を食べないんです。そのときどきで好きなものに偏りがあって。今は肉が好きですね(笑)。まあ、いつか好きになってくれたらうれしいですけど」

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11時ぐらいになると、ショーケースには新鮮な魚がずらりと並んでにぎやかに。雲丹や帆立、甘海老に牡丹海老。大人気の筋子、自家製の塩辛や干物も。怒られるかもしれないが、これもひとつの海の宝石箱……!

INFORMATION
エンドー
住所 山形県山形市長町2-1-33
電話番号 023-681-7711
営業時間 10:00-19:00(日・月曜休)
https://gesoten.jp/

 

写真:伊藤美香子
文:井上春香