real local 山形扉をひらいて待っている。/染色作家 林谷美香さん・漆芸作家 菊地那奈さん - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

扉をひらいて待っている。/染色作家 林谷美香さん・漆芸作家 菊地那奈さん

インタビュー

2023.09.23

やまがたクリエイティブシティセンターQ1の3階フロア西側には、いくつかのアーティストスタジオが並ぶ。このエリアの入居者はクリエイターで、それぞれの部屋をアトリエとして創作活動している。けれど、一般来訪者であるわたしたちはそれらの部屋の前の廊下を素通りするのみで、内側で営まれているであろう創作活動が一体どんなものなのかを知るチャンスはそうそうない。と思っていたら、そのうちの一室「3ーJ」は、Q1でマルシェがひらかれるたびそのアトリエの扉をひらいている、という。

その扉の向こうで誰がなにをしているのだろう。なぜその扉は時々ひらかれるのだろう。そんな疑問からその部屋を訪ねてみれば、そこにいたのは染色作家・林谷美香さんと、漆芸作家・菊地那奈さん。ふたりとも東北芸術工科大学大学院生であり、いきいきと躍動する若きアーティストであり、Q1でひらかれるクラフト体験教室「ROOTS & School」の講師でもある。作業中のところにちょっとお邪魔し、すこしだけお話を伺った。

扉をひらいて待っている。/染色作家 林谷美香さん・漆芸作家 菊地那奈さん
やまがたクリエイティブシティセンターQ1の「3-J」の扉から顔を出し、手を振ってくれるふたり。漆芸作家 菊地那奈さん(左)と染色作家 林谷美香さん(右)。「おいで」のようであり、「またね」のようであり。

Q:さて、いま林谷さんと菊地さんはここでそれぞれ何をしているのでしょう?

「私はこの部屋では、茹でたり洗ったり薬剤に浸けたり…と、水場で作業することが案外多くて…。今やっているコレは『型染め』という日本の伝統的な染色技法の『色差し』という作業です。すでに糊を置いた生地にこうして色を差していくと模様が浮かび上がってくるんです」と解説してくれる林谷さん。

扉をひらいて待っている。/染色作家 林谷美香さん・漆芸作家 菊地那奈さん

扉をひらいて待っている。/染色作家 林谷美香さん・漆芸作家 菊地那奈さん

浮き上がって見えてきたのは「ラーメン柄」だ。

「さいきん販売ラインのひとつとしてつくっているのが『山形のおいしい食べ物シリーズ』の手拭いです。ラ・フランス柄とかさくらんぼ柄とか玉こんにゃく柄とか…。その流れを汲んでのラーメン柄なんですよ」とのこと。これは、Q1クラフト体験教室「ROOTS & School/染色体験」のために準備したサンプルなのだそう。ちなみにラーメンスープを表すこの茶色は「あっさり味」のイメージで、林谷さんは周到にもこのほか「焦がしニンニクスープ色」も準備しているという。テキスタイルの世界に山形のラーメン文化の多様性の表現が滲み出ていた。

一方、漆芸作家の菊地さんは、机の上での作業を行っている。

扉をひらいて待っている。/染色作家 林谷美香さん・漆芸作家 菊地那奈さん

扉をひらいて待っている。/染色作家 林谷美香さん・漆芸作家 菊地那奈さん

「今、コレは、お箸を研いでいるところです。『漆』っていうと、みなさん『塗る』イメージを思い浮かべると思いますけど、実際は『研いでいる』作業の方がずっと多くて。塗ったらその塗面を研いで、また塗るんです。研がないと漆が密着しないのでピタッと塗ることができない。重ねることで強度が上がってくるんです。だから、研いでまた研いで、なんですよ」と教えてくれた。

「販売用として私がつくっているのは、こうしたお箸とかスプーンとか器とかといった生活工芸品です。Q1に来てくださる地域のみなさんが興味を持ちやすいようなもの、そういう方たちとお話しするきっかけになるようなものをつくろう、ということを意識してのことです」とのこと。

扉をひらいて待っている。/染色作家 林谷美香さん・漆芸作家 菊地那奈さん

扉をひらいて待っている。/染色作家 林谷美香さん・漆芸作家 菊地那奈さん
アトリエ「3-J」に設置された棚には、ふたりの創作活動から生まれた作品が並べられている。写真上は、林谷さんの販売シリーズ「wasshoi」の商品。「それを見て気分が上がるとか、どれにしようかと悩みながらテンションが上がるとか、そんなふうにひとの気持ちに影響するものをつくろう、という想いから『わっしょい!』というシリーズ名を付けました」と林谷さん。写真下は、菊地さんの販売シリーズ。ふだんの生活を彩ってくれるようなモノたちが綺麗に佇んでいる。

Q:林谷さんと菊地さんは、このQ1のアトリエをどんな場所ととらえていますか?

「歴史的な建物のなかのアトリエ、ということ自体がとても魅力的です。なので、すごくいい環境を与えてもらっているなと感じています。地域の人がながく大切にしてきた場所だからこそ、これからさらにもっと地域の人たちと一緒になっていい場所にしていけるような気がします。

私が作品を創作するときのモチーフとして大切にしているのは、地域に語り継がれている民話や、おじいちゃんおばあちゃんが語ってくれるお話です。今まではそれを聞きにいくために自分の足で出かけて行っていたわけですけど、ここQ1には地域のみなさんのほうからやってきてくれますし、いろんな思い出話などもしていってくれます。その意味でとてもありがたい場所なんです」(菊地さん)

「私たちの周りにいる入居者さんはみなさん面白い方ばかりで、コーヒー屋さんも、洋服屋さんも、それぞれに異色のひとたち。なかなかのチャレンジャーばかりが勢揃いしているという印象です。そういう強い魅力を持ったひとたちに日々囲まれているので、いろんな影響を与えてもらったり、コラボの話をもらったりというのがとても嬉しいですね」(林谷さん)

扉をひらいて待っている。/染色作家 林谷美香さん・漆芸作家 菊地那奈さん

Q:講師を務める体験教室「ROOTS&School」やオープンアトリエへの想いを聞かせてください。

「自分の持っている技術を、ひとに伝える、教える、広めていく、というのはすごく新しいチャレンジなので、とてもワクワクしています。けっこう本格的な体験ができる教室にしたいと思っているので、ご参加いただく方たちにはプロが使う道具などにも実際に触れてもらいながら技術的なところも体験してもらって、『自分もつくり手になる』という意識で楽しんでもらいたいな、と思っています。ゆくゆくは、生徒さんが自分でつくったものを販売できるクオリティまで持っていきたいですね」(林谷さん)

「毎月第1日曜のQ市デイマルシェと第4木曜夜のナイトマルシェの時間帯は、このアトリエの扉を開けています。なので、たくさんの地域のみなさんに、私たちのこのオープンアトリエにおいでいただきたいです。私たちのことを知ってほしいという想いもありますし、地域のひとたちのことを私たちがもっと知りたいという想いもあります。ふだんここでやっている実際の作業を見ていただくこともできますし、つくりたてほやほやのモノを買えたりもします。でも、なによりも、ただただおしゃべりがしたいですね。いろんな話をたくさんしてみたいです」(菊地さん)

扉をひらいて待っている。/染色作家 林谷美香さん・漆芸作家 菊地那奈さん
アトリエ「3-J」に展示されているふたりの「作品」は販売ラインとはまたちがう印象を湛えている。林谷さんは「人間の身体と精神」をテーマとしたテキスタイル表現を追求している。菊地さんは、地域に語り継がれる民話をモチーフとした作品の造形を続けている。

 

Q1_ROOTS&School 
林谷美香 instagram 
菊地那奈 instagram   

Text / Nasu Minoru
Photo / Fuse Kaho(strobelight