【富山県小矢部市】大きい家は、アイデアを生み出すための“広い紙”。/「MUXX」森永さん夫妻インタビュー【A面】
金沢市のお隣、富山県小矢部市で2024年に誕生した新進気鋭のブランド「MUXX(ムックス)」。「音楽を具現化する」ことをコンセプトに掲げ、ファッションアイテムを中心に展開中。6月1日で1周年を迎えました(1周年記念イベント記事はこちら)。
MUXXのデザイナーである森永悠介さん、万理菜さんご夫妻は、築60年の古民家をアトリエ兼住居としてリノベーション。2025年6月27日(金)~6月29日(土)にはオープンハウス(お申し込みはこちら)を開催するということで、今回は設計を担当した株式会社ENNのスタッフとともに、お二人にお話をうかがってきました。

「ここにしよう」という直感が決め手
ENNスタッフ田屋(以下、田屋):今回ENNで設計を担当させていただきましたが、お家に出会うまでのいきさつを改めてお聞きしたいです。
森永悠介さん(以下、悠介):小矢部市に住んで1、2年目くらいに探し始めたよね。そのときは暇だったのよ(笑)。休日にできることを探していたときで、「家作りたくない?」「古民家とかよくない?」みたいなことを万理菜に提案した気がする。小矢部市に住むか、MUXXやっていくか、となってからは一気に進んだ感じかな。
森永万理菜さん(以下、万理菜):空き家バンクも活用して、4、5軒見たかな。ここに初めて来たときに、めちゃくちゃ夕日が綺麗で、眺めがすごい良くて。

悠介:万理菜が「ここにしよう」って言っていたのをすごく覚えているし、それが決め手だった。家の大きさと納屋をどうしようか、大丈夫かなっていう不安もあったけど、やっぱり直感は大事にしたかもね。


アイデアを描くために、土台は広くしておきたい
万理菜:私は何かちょっと描くにしても広い紙がないと描けないっていうか、土台を広くしておかないとできなくて。それと一緒で、家も大きくないと…。小さいことをやるにしても、大きいところがあった上でやりたい。この家をあんまり大きいとは思っていないし。狭いよりはいいでしょ。
田屋:かっこいいなぁ!創作上では余白があった方がいいと…。やっぱりスケール感が違いますね。
悠介:これを大きいと思っていない…?スケールがデカすぎるわ(笑)。あとは「アトリエをとにかく明るくしたい」と言っていたよね。元の家のリビングがあった場所をアトリエにしましょうっていう案をもらって。
田屋:アトリエとお家をひとつの屋根の下でどう共存させるか考えていて、やっぱり入口側をお店や周りに開いていく場所にしたいなと。上を吹き抜けにして、光が入ってくる明るいアトリエを提案しました。


悠介:結構「こんな事例いい」というのは共有していたよね。
田屋:お二人の間で思い描いていることに大きく差異がなかったですよね。若干のニュアンスの違いはあっても方向性は同じで、お家のイメージの足並みが揃っているなと感じていました。
悠介:それは本当にそうかも。洋服もそうだし。ただ、たまにぶっ飛んでいたときには、「本当にこれする?」って問いかけていたかも(笑)。壁の色を青にしたいとか…。
万理菜:一部ね。パリのお家の人がよく壁の一部だけ青にして、おしゃれなお茶時間を過ごす、みたいな風景に憧れているから。まあいつかやるけど(笑)。
田屋:やるんだ(笑)!
職住一体の“全体感”
悠介:こだわりで言えば、僕は“全体感”を大事にしているかな。
田屋:“全体感”はずっとおっしゃっていましたよね。全体としての統一感というか。
悠介:それはデザイナー的な感性からで、コレクションに差異がないようにというのはいつも意識している。
田屋:お二人の場合、暮らしと商いがひとつながりになっているから、全体が馴染んで調和しているというお家の作り方はすごく良かったんじゃないかな。お二人の暮らしぶりと合っているように感じています。
万理菜:住んでいて全然違和感がないもんね。不自由もないし。
田屋:いやぁ、よかったです。
悠介:これからの時代、こういう家が多くなるんじゃないかなと僕は思ってる。富山でもよく見かけるけど、1階が美容院などの仕事場で、2階が住居とか、手前がお店で奥は住居とか、意識していたわけじゃないけど、自然とそうなっていったのかも。
古民家リノベの魅力
万理菜:あとは新築を建てなくても良くない?という感じはあったよね。
悠介:新築を否定しているわけじゃなくて、自分だったら古民家みたいな味のあるところに住みたいなと思っていたのが実現した。
田屋:結果として、元の良さがいい感じに活きているなと思います。贅沢な柱の太さとか、古いお家ならではの魅力ってありますよね。
万理菜:本当に元のお家が魅力的だった。リノベを考えている人に、「元のお家の良さを見ておくといいですよ」とアドバイスはしたいかもしれないね。直感で選んでいるけど、そういう良さが伝わってきたかな、自然と。
悠介:だからENNさんから、全部変えるのではなくところどころ残してくれている提案をもらえたのは良かったね。元々ここに住まれていた方が、「残してくれているんだ」と言ってくれていて、それはありがたいし、やっぱりよかったなと。うまくバランスを取れたし、妥協も全然ないしね。


田屋:元のお家の良さを活かすことで、結果として元々住んでいた方にも喜んでいただけたのは嬉しいです。
悠介:達成感があるよね。僕は古き良き家の雰囲気は残したかった。それを田屋ちゃんが汲み取ってくれて、いい感じに進化させてくれたなと思っています。
田屋:一緒に作ってきた感があるなと思っていて、やりとりもいっぱいしたし、打ち合わせも気づいたらすごい時間経っていたとか…。代表にも「もっと打ち合わせをコンパクトにしろ」って言われていたくらい(笑)。
悠介:うちらはね、全然構わない。もう“ぶつかり合いましょう!”って感じだったからね。
万理菜:一緒にいいものづくりをした感覚があるよね。
田屋:そうですね。本当にありがたいなと思っています。DIYの壁塗装とか、楽なことばかりではなかったと思うんですけどね。
悠介:本当にいい思い出だなと。今思うと全然苦じゃないしね。やっているときは果てしなくて、心が折れそうになったけど、終わって空間がいいと忘れているんだよね。いいじゃん、やってよかったわって心から思える。

万理菜:せっかく移住して富山にいるんだから、家を買うんだったら新築じゃなくても良くない?というのはあったね。
田屋:民家ってその土地ごとの形式があったり、歴史の上にあったりするので、新しい土地に移住するとき、地域のことを知る手がかりにもなると思います。
悠介:僕が小矢部市を選んだときにもそういう思いが強かった。最初は金沢市や富山市も候補にあったんだけど、万理菜の実家のある横浜が都会だから、個人的にはとことんギャップを楽しもうぜ、と思っていたかな。多分その頃から新築はないっていうのはあったかもね。
田屋:何事に関しても前向きにやっていくぞ、という森永さんの姿に、こちらが元気をもらえます。

自分たちで手を動かすこと
田屋:今回のお家づくりはDIYの作業もありましたが、やってみていかがでしたか?
万理菜:全部完璧な状態で手に入るようなのもいいけど、自分たちで手を動かすのも楽しかったよね。
悠介:そうだね。壁塗りとかも経験になったしね。やりたいっていう子もいっぱいいるし、「じゃあ一緒にやっちゃおうぜ」って。
万理菜:一個のコンテンツみたいな感じだね。
田屋:お友達と一緒に作業ができるのって、すごくいいですよね。その関係性は、森永さんだからこそあるのかなと思います。
悠介:それはあるのかな。やりたい人見つけるのは上手かも。
万理菜:というか誘ってる、巻き込んじゃう。
悠介:巻き込んでるね。ファーストコンタクトは何事に対しても自分たちからな気がする。
万理菜:それで受け入れてくれる人がいるからね。結構距離近めで行っちゃうけど、仲良くなる人はすぐ仲良くなる。とにかく、リノベとかDIYはおすすめしたいよね。こんなに素敵な空間ができるし。

地域を照らす玄関灯
万理菜:あとは、あそこ(窓から見えるお家を指して)のお家のおばちゃんが、「あの明かり(森永邸の玄関灯)が点くのがすごく嬉しいから、よく見てるの」と言ってくれます。
田屋:そういう声もあったんですね。空き家だったところにまた明かりが灯るようになって、地域の方はやっぱり嬉しいでしょうね。
万理菜:お家見学の時も、「うちから見える電気はこれなのね」と言ってくれて、めちゃかわいいなぁと。
悠介:そういう地域の方の言葉は心にギュンとくるよね。田屋ちゃんが選んだ電球が、廊下だけでなく地域を照らしてくれている。
田屋:えぇ~!嬉しいお言葉…。設計者冥利につきますね。
環境問題に対して、ものを作る自分たちにできること
悠介:あと僕が大切にしたかったのは、日本全体の空き家問題。日本の空き家を一つ減らせたことはよかったかな。ファッションの会社だったら在庫を残さないとかね。あとはファッションって世界第2位の環境汚染産業とみなされているんだけど(※)、そういうことは関わる身として寂しいなと思って。端材を使うとか、自分たちにできることを結構意識している。
(※)「国連貿易開発会議(UNCTAD)」による
田屋:“ものを作るうしろめたさ”みたいなものはあんまり感じたくないですもんね。設計をしているときにも、そんな思いがよぎることがあります。今回森永さんのお家では、元の素材の良さがあったので、それを活かすことができました。
悠介:建築もファッションも同じだよね。
万理菜:スーツもそう。おじいちゃんが着ていたスーツをもう一回仕立て直して、お孫さんが着るということもある。仕立て直しができるように設計しているからね。

暮らしも商いも、全部きっかけにしてほしい
田屋:今回の内覧会では、ぜひいろいろな人に見ていただきたいです。空き家を活かす手がかりとしても、森永邸はきっと誰かのきっかけになると思う。
万理菜:全部きっかけにしてほしいなと思っている。私たちのことや、活動のことを知ってもらったり、移住やリノベに興味を持ってもらったり。
悠介:僕たちが誰かのきっかけになれたら嬉しいね。
ーーーーー
インタビューを振り返って(文:ENN設計スタッフ田屋)
今回のインタビューは、ブランドのことや、地域の人との関わり、日々の生活を「当事者」として、忙しい中でも楽しんで取り組まれる森永さんの暮らしの様子を再発見できた貴重な機会でした。 森永さんの日々の暮らしの中の喜びや発見と、MUXXのものづくりが、一つ屋根の下でそれぞれに相乗効果をもたらす関係を目指して設計しました。お引き渡しから半年ほど経ち森永さんの暮らしぶりが反映されてたことで、生活と生業の関係が体感できるような空間になっていると思います。オープンハウスにもぜひ足を運んでいただければと思います。
▶︎▶︎オープンハウスのお申し込みはこちら
ーーーーー
ブランド「MUXX」のこと、移住の話や今後の展望など、お二人についての詳しいインタビューは後日公開予定です。お楽しみに!
屋号 | MUXX |
---|---|
URL | Instagram|https://www.instagram.com/muxx.official/ |
住所 | 富山県小矢部市五郎丸 |