【堺】南島で“私の生態系”をつくる大家業|株式会社ユノカ・ラボ その2
南海本線「七道」駅から徒歩約10分、堺市堺区南島(みなみじま)町。堺市の極北であるこの地で大家業を営む『株式会社ユノカ・ラボ』花井さんは、イベントの企画運営、さらにはナチュラル石鹸などのコスメやフードの製造販売、という3つの顔をもっています。今回は、不動産の枠ぐみを軽やかに飛び越えた“まち”に対する考え方、そして南島町の未来構想まで、たっぷりとお話しいただきました。

これは“まちづくり”ではない
–イベントの企画運営を行なっている花井さんにとって、まちづくりとは?
私は、自分自身に「まちづくり」という言葉があまりしっくりきていません。まちづくりって、そのまちの課題を解決することを目標にしている感じがしませんか。それはもちろん大事なことですが、まずは自分の半径3メートル以内が楽しく幸せにならないと、遠くのものを良くしようとしても説得力がないと思うんです。「まちをつくっている自分自身は、果たして本当に面白い場所に住めているのかな?」と疑問に思います。
私は、まずは自分の身の回りを快適に、が目標です。だから、まちをつくっている意識はありません。自分の半径3メートルに国内外で見聞きした面白いカルチャーを取り入れて、南島という枠を飛び越えた色々な場所と軽やかに繋がっている、そんな意識で今も動いています。
“私の生態系”をつくる
つまり、私がつくっているのは、いわゆるまちではなく、生態系です。自分で商売をして、自分で消費をして、自分でカルチャーを生む。そうやって自分の生活を豊かにする、小さな小さな生態系をつくっているんです。

–花井さんが企画運営されている「南島バザール-ゑんの市-」とは?
かつて、長屋の一軒で大阪芸術大学の卒業生たちがシェアハウスをしながら、ときどきホームギャラリーを開いていたことがありました。何年かして彼らはそれぞれの土地で暮らし始め、今から13年前、そのうちの2名が彼らの住む岡山県美作から持ってきたものを南島で販売してくれた。これが「南島バザール」の始まりです。
そんな経緯もあるので、このバザールには「堺の人だけで何かをしなければならない」という地域縛りのようなものはありません。出店者も公募ではなく、私が直接会いに行き自分のフィルターを通してお呼びしています。直接お声がけしているからこそ、彼らも参加を楽しみに南島に来てくれるし、私からも彼らに対してこの場所やバザールに込めた想いをたくさん語ることができる。その会話が生まれることで、イベントの重層感が全く違ってきます。「パッと集まって、じゃあ解散!」という一過性の場所にはしたくないんです。
なんでもかんでもガチャガチャと集まって、まちの統一感が崩れてしまうのではなく、それぞれのクオリティが互いに共鳴し、刺激になり合えるような場所でありたい。だってここは、コツコツと育ててきた大切な生態系ですから。


–近頃はいろいろな場所でマルシェが開かれていますが、私も足を運ぶなかで「すごく楽しいマルシェ」と「どこか物足りないマルシェ」の差はどこにあるのだろうと感じていました。今の花井さんのお話を聞いて、その違いは、背景にあるストーリーの密度や、出店者同士のクオリティの共鳴にあるのだと腑に落ちました。
だからあえて「マルシェ」ではなく「バザール」と名付けたんです。もっと土っぽくて、各地から行商の人々が集まってくるような場所にしたかった。私が旅先で影響を受けた、ニューメキシコのファーマーズマーケットや、遊牧民がラクダを連れて集まる回廊型のスパイスバザールのイメージです。

あとは、「バザール」という響きが、ここ「南島」という地名と合わさることで、陸なのか島なのかよくわからない、どこか不思議なワールドのようなイメージを持ってもらえたら面白いな、という遊び心もありました。
そして今の私にとってこのバザールは、ただの一発お祭りのイベントではありません。これから先も、この南島でちいさな生態系がずっと続いていくための、新しい仲間を巻き込むワクワクする仕掛け(呼び水)でもあるんです。そんな「南島バザール」は、次回2026年9月20日で記念すべき50回目を迎えます!


散らかっていることこそ、魅力
現在、私は大家業にイベント業、そして自身の工房「ユノカド」にてコスメとフードの製造販売と、3つの異なる業を行っています。一見すると、かなりとっ散らかった状態です。
これらを持続可能な形で続けていくために、一度事業の方針をきれいに整理しようと思い立ち、58歳になったこの春から、事業構想大学院大学に入学しました。ところが、大学院の先生から言われたのは意外な一言だったんです。「世の中自体がこれだけとっ散らかっている時代に、花井さんがそれらをきれいに整理してしまったら、せっかくの良さが失われてしまうのではないですか。とっ散らかったままでいいじゃないですか。」と。
考えてみれば、新村さんが今こうしてインタビューをして記事を書いてくれていること自体、すでに一般的な「不動産業」の枠を完全に飛び越えていますよね。これまでの日本は、一つの専門性を突き詰める方が世通りの良い社会でしたが、きっと今はもう、そういう時代ではなくなってきていて、みんながそれぞれとっ散らかった生活をするようになっているんでしょう。
そうは言ってももちろん、運営や金銭面といった実務的な部分は、大学院できちんと整理して学んでいくつもりです。ただ、自分ではとっ散らかっているように見える活動も、振り返ればすべて、私の人生の軌跡のなかに必然のきっかけがあって繋がっている。授業を通じてこれまでの歩みを振り返るうちに、そんなふうに少しずつ、頭のなかが整理されてきました。


“私の生態系”南島の未来構想
–では、今後、南島でどのような生態系を築かれる予定ですか?
実は、いま頭の中に3つの具体的な構想があるんです。
まず1つ目は、南島の文化や風景、人を編集して発信するZINE『南島DiGDiG』の制作。ここに暮らす、あるいは関わる人たちの名刺代わりになるような媒体にしたいです。これからの時代ですから、紙という枠に縛られる必要もないと思っています。
2つ目は、『水辺国際映画祭』の開催です。水辺が程近い南島町だからこそ、映像、対話、そしてそこから何かが生まれる共創の場をつくりたい。いま考えているのは、バザールの出店者や出演者たちに水辺をテーマにした短編映像を制作してもらい、上映する試みです。私のパートナーが現代アートの映像部門に携わっているので、その知見も活かせるなと。「国際」と銘打つのは、世界中から人を集めたいという意味ではなく、今の時代、距離の遠さに関係なく同じ時空で繋がれるはず、という思いからです。父から受け継ぐ予定の古民家の一部を、この夏、映画が上映できるスペースへと改装しようと企んでいます。
そして最後が、現在10部屋中6部屋が空室になっている、もう一つの文化住宅のリノベーション「ペット共生型ハイパー文化住宅」プロジェクトです。以前、私は保護犬や保護猫と一緒に暮らしていたのですが、彼らの最後を看取る際、ものすごく苦労した経験があるんです。そのときに、動物の扱いに慣れた病院やトリミング施設、そしてペットホテルが一つになった場所が身近にあれば、どれほど救われただろう、と痛烈に思いました。いま、うちの入居者さんにもペットと暮らしている方が多くいます。彼らが旅行へ行くときに安心して預けられるホテルがあり、すぐに診察してもらえる病院が足元にある。そうなれば、ここで暮らす人たちの人生の豊かさは、間違いなく上がりますよね。
古くなった文化住宅をただ壊して、どこにでもあるありきたりなマンションに変えてしまうより、ここにしかない、誰も競争相手のいない新しい複合施設をつくる。この文化住宅がそんな温かい場所になったら、とても面白いと思いませんか?

–花井さんのさらなる南島構想、どれもわくわくします。今までも、これからも、様々なことにチャレンジしていく花井さん。家業を継ぐことに不安を感じている人や、何か新しい一歩を踏む出したくてうずうずしている人が、花井さんのお話から勇気をもらえるはずです。ありがとうございました!
| 屋号 | 株式会社ユノカ・ラボ |
|---|---|
| URL | https://www.instagram.com/junocado/?hl=ja |
| 住所 | 〒590-0904 大阪府堺市堺区南島町2丁59 |














