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懐かしくも新しい木造建築「水の町屋七日町御殿堰」/ 建築で巡るやまがた(5)

2019.02.25

前回まで「山形まなび館」「紅の蔵」と続いたので、同じく「三つの新名所づくり」に数えられる「水の町屋七日町御殿堰」を今回取り上げたいと思います。

前の二つが公共事業であるのに対し水の町屋は民間主導の開発であること、また二つが古い建物のリノベーションであるのに対し水の町屋は新築とリノベーションが敷地内で共存していることが特徴です。その名の通り、七日町を流れる御殿堰という水路を活かした商業施設として、2010年4月に開業しています。

懐かしくも新しい木造建築「水の町屋七日町御殿堰」/ 建築で巡るやまがた(5)
七日町通りと御殿堰が交差する場所に、町屋風の木造建築が建っている

その時に新築された手前の黒っぽい建物は、東北で初めて木造軸組工法による耐火建築物として防火地域で実現されたもの。奥の二棟の蔵は、それぞれ明治の座敷蔵と大正の荷蔵として元々建っていたものをリノベーションしてお店に変えたものです。

この水の町屋は、2011年のグッドデザイン賞のほか、第32回東北建築賞(作品賞)、第8回木の建築賞(日集協集成材建築賞並びにメンバーズチョイス賞)、2013年度JIA優秀建築選、第25回公共の色彩賞(環境色彩10選)など、多方面で受賞しています。

懐かしくも新しい木造建築「水の町屋七日町御殿堰」/ 建築で巡るやまがた(5)
敷地内に残る二棟の蔵はリノベーションして新たな店舗に

「堰」もまた、前回の「蔵」と並び「山形らしさ」を象徴する景観です。御殿堰は、400年の歴史をもつ農業用水路「山形五堰」の一つであり、市内には他に笹堰、八ヶ郷堰、宮町堰、双月堰が存在します。幅1メートルほどの実に小さな水路ですが、その総延長は115kmにも及び、扇状地の地形を巧みに活かして山形市街を網の目のように流れています。

これらの水路は蔵王連峰から流れる馬見ヶ崎川を水源としていて、水質が悪化した時代もあったようですが、地元住民の清掃活動などによって少しずつ元の綺麗さを取り戻しつつあります。水の町屋では、長い間暗渠化し見えなくなっていた御殿堰を昔ながらの石積み水路として再生することを計画の中心に据えています。

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清流にしか生育しないといわれる梅花藻(バイカモ)が上流で見られるなど、その水は清らか

この建物の外壁は一見板貼りにも見えますが、耐火構造仕様として木目調の窯業系サイディングが使われ、化粧の格子で覆われています。柱や梁といった主要構造部は強化せっこうボードの二重貼りで隠れてしまっているようですが、框戸(かまちど)や格子戸といった木製建具、木の手すりやデッキ床、庇の軒裏といったところでできる限り木を現すような納まりになっていて、木造らしさを演出しています。
また構造となる柱・梁・筋交い等には山形県産のカラマツが使われているほか、その他の梁や間柱、垂木には山形県産のスギが使われているといいます。

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表面の格子は本物の木材、奥の壁材は木目調の窯業系サイディングが使われている
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街なかの商業施設ながら、手すりや階段床、建具などに、木材が多用されている

この水の町屋の敷地も、「紅の蔵」の長谷川家と同様、目の前の羽州街道に対し東西方向に細長い短冊状の形となっています。この場所は元々、七日町商店街の岩淵理事長のお店・岩淵茶舗が明治の創業以来お店と住居を構えてきたところです。敷地奥の座敷蔵は岩淵家の住まいや仏間だったもの、荷蔵は茶舗のお茶詰め場や倉庫として使われていたもので、水路脇の井戸など今もその名残が各所に見られます。

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水の町屋1階に入る岩淵茶舗の店先には、昭和初期のこの場所の写真が残る

様々なテナントが集まった商業施設なので、内装デザインは店舗ごとに異なりますが、日本茶専門店・呉服店・蕎麦処・日本のライフスタイルショップや織物販売店など、水の町屋のコンセプトに共感・賛同した店舗が集まっていて大きな一体感を醸し出しています。
リノベーションされた二棟の蔵は、かつての小屋組や梁をそのまま現しにしてそれぞれの店づくりにうまく活かされています。

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蔵をリノベーションした「Classic Cafe」の内観。床材はそのまま残された

建物以外では、通りに面した前庭、新旧建物をつなぐ中庭、蔵の奥の小さな坪庭といった敷地内のランドスケープも見どころです。前庭に植えられた二本のシラカシは商店街の街路樹に合わせたもので、昔から「火伏せの木」としても知られています。中庭には同じシラカシのほか、ナツツバキやチャノキ、赤松が植えられ、中心街に貴重な緑陰をつくり出しています。

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中庭の奥には、商売繁盛を祈願して奥山清行氏デザインの御殿堰大黒天が鎮座する

この水の町屋七日町御殿堰を設計したのは、山形市の本間利雄設計事務所+地域環境計画研究室。第一小学校旧校舎を設計した秦・伊藤設計事務所が90年以上の歴史を数えるなか、本間設計は55年余りの歴史と組織体制を一代で築き上げてきた、現代山形の代表的な設計事務所といえます。昨年9月、創業者であり建築家の本間利雄氏が惜しくも他界されました。

水の町屋における再開発では、構想段階から様々な人の手で創り上げられてきました。開発の構想を牽引していくイメージスケッチを、山形五堰を守る活動をしていた建築士・福島茂良氏が手がけたほか、基本計画時には山形市出身の工業デザイナー・奥山清行氏が参画しています。奥山氏はその縁もあって自らのショップ兼ショールームを水の町屋1階に現在も開いています。

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御殿堰の案内板に刻まれた山形五堰のロゴは、福島氏が手がけたもの

本間設計といえば、山形市を代表する建築物として「山形市総合スポーツセンター」(1988年)や「東北芸術工科大学」(1992年)の設計で有名ですが、水の町屋が面する七日町通りだけ見ても、本間氏が独立して間もない30代半ばから手がけた「丸京ゆうき店舗」(1965年)や「八文字屋本店」(1968年)、「旧蜂屋ビル(現プラザビル七日町)」(1970年)をはじめ、50代前半に手がけた「ホテルキャッスル」(1981年)や「山形グランドホテル(増改築)」(1982年)など、事務所の歴史と並行するように多くの現代建築を街なかにも残してきています。

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「八文字屋本店」は街並みや人の暮らしにすっと溶け込むような自然な建築

戦後の数十年にわたって、いわゆる防火地域と呼ばれる大通り沿いの路面店では久しく木造が新規に建てられなくなり、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建物で街並みが埋め尽くされそうになっていました。そういった背景の中で耐火建築物の木造を実現させた「水の町屋」は、これからの時代の一つの可能性を示しているように感じます。

いま「七日町第5ブロック南地区第一種市街地再開発事業」として、水の町屋の南側に当たるセブンプラザ周辺一帯の再開発の工事が2021年春の完成に向けて動き始めています。水の町屋のような木造にはならないようですが(工事看板を見るかぎり、鉄筋コンクリート造または鉄骨造となる予定)、御殿堰の向こう側にどんな新しい風景が築かれるか期待が高まります。

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御殿堰を挟んで向かい側に新たな商業施設が誕生する日が間近に迫っている

 
(参考文献)
・建築士2011年11月号 社団法人日本建築士会連合会発行
・建築画報 No.377「地域とともに生きる 本間利雄設計事務所」建築画報社編集
・建築画報 No.306「未来は過去の中にある 本間利雄設計事務所」建築画報社編集

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七日町御殿堰開発株式会社ホームページはこちら

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